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人妻
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「ひろこ、起きて」
「・・・今何時?」
「4時」
「・・・あと1時間寝てもいい?」
俺は全然眠れなくて3時から目が覚めていた。
早く婚姻届を出しに行きたかったからだ。
「・・ひろこー」
寝顔が可愛くてしばらく見つめていた。
もうひろこの帰る家はここ。
そして入籍すればもう一生ひろこの寝顔を見つめていられるんだ。
あんなに、好きで好きで会いたくて。
付き合ってるなんて夢みたいだった頃が嘘のようだった。
朝ご飯も食べずにひろこと家を出て車で役所に向かった。
「朝からずいぶん飛ばしてない?春って走り屋だったの?」
無意識に法定速度よりスピードを出して役所に向かっている自分がいて、我ながら可笑しくなって笑っていた。
朝6時過ぎの港区役所は仕事はじめでも人がまだ出勤した様子はさほどなくて、俺とひろこは区役所裏手にある窓口に2人で婚姻届けを出した。
「小寺春臣さんと紘子さんね。受理しましたらご連絡差し上げますから。不備がありましたら後日訂正になりますが、入籍日は今日になりますので安心してくださいね。」
高齢の男性職員はあっさり受取った。
「なんか、あっけないね」
一瞬の事で俺とひろこはぼさっと突っ立ったままだった。
「受理されたら電話くれるみたいだな。不備とかなかったよな?」
「不備があっても後日修正できて、入籍日はとにかく今日になるんだね。そうなんだ。知らなかったー」
提出したのにまだ受理されないってなんなんだと思ったけど、時間外だからしょうがないと思い、とりあえず届けを出したことに俺は大きく深呼吸をした。出したものは出したのだ。出し終わったのだ。そう、出し終えたのだ。
やっと、終わった。
役所の前のホテルのテラスで朝ご飯を買って帰ろうと2人で店内に入った。ひろこはトングを持ってすぐウィンナーの入ったパンを選んでトレーに並べていた。
「小寺紘子。小寺紘子。はい小寺ですって電話でなきゃね」
「そうだね」
苗字が変わるってどうゆう気持ちなのだろう。俺と同じ苗字。
実感なんて全くなかった。
「フィッシュバーガーあるよ。これにする?」
ひろこはトングをカチャカチャ音をさせながら俺に言った。
「うん。それにして。」
俺の好きな食べ物は知ってるのに自分が肉が好きな事を分かってない。
遊井さんから言われた時から、俺もその感覚はそっとしておこうと思っていた。
それが、ひろこなんだと思って大切にしたいって思ったからだ。
「小寺紘子。うん。いい響き。ひろこも人妻だな」
車に乗ってテイクアウトしたコーヒーを一口飲んだ。
俺は上機嫌だったと思う。
車もスピードを出すどころかノロノロ運転だった。
「本当に入籍しちゃったね」
まだ呆気に取られているようなひろこの頭をポンッと触った。
「よろしくな。奥さん」
今日は朝から忙しくなるんだろうけど1月4日は生涯結婚記念日として心に刻まれるのだろう。
1月4日って数字だけみるとなんでもないけど、俺たち4人の中に1名ひろこが加算されたように見えてそれだけでなぜか嬉しかった。
「毎年、1月4日はお祝いしたいな。地味でいいから」
ひろこはコーヒーを一口飲んで言った。
「しようよ。毎年。旅行行ったりして」
「地味でいいってば。」
ひろこがちょっと目を瞑ったらまつ毛から淡い影が落ちた。
入籍したなんてまだ信じられなくて、気がついたらひろこの手を繋いでいた。
『小寺さんですか?受理されましたので』
9時になると役所から電話があった。これで入籍は完了したんだ。
「ひろこー電話あって受理されたって」
着替えてるひろこのところにいくとワンピースをちょうどかぶって腕を通しているところだった。
「もう、今から小寺紘子だね」
「そう。ひろこは人妻」
「人妻って単語、エロくない?」
もう夫婦なんだ。
俺を見つめてまたイルカみたいな顔をして笑った。
インターフォンが鳴って扉を開けに行くと遊井さんがひろこを迎えに来た。
「遊井さんあけましておめでとうございます。」
「おー春くんおめでとう。今年もよろしくね。」
遊井さんを部屋に通すとリビングを見てビックリしていた。
「春くんのリビングすごい広いねー!これ、野球できるんじゃない?」
「オーバーですよ遊井さん!」
やっぱりコメントがおかしくて俺は笑ってしまったけど先に言わなきゃいけない事がある。
「遊井さん、それより急でお騒がせしてすいません。さっき役所行って入籍してきました。」
「あまりの速さにびっくりしたよ。本当瞬足だね。おめでとう。ひろこ、いつまでも大切にしてあげてよ」
そう遊井さんに言われ2人で握手をした。俺の愛する人のマネージャー。父親みたいな人。
この人だけは敵にまわしたくなかった。これからもこの関係は続くんだ。
すると化粧が終わったのかひろこがコートと鞄を持って奥の部屋からでてきた。
「遊井さん、今日から小寺紘子です。よろしくお願いします」
「おー春くん小寺って名前だったの?」
「そうです。小寺なんですよ。」
そんな話をしているとバタバタと音がしてアッキーが入ってきた。
「おはようございます!あれ、遊井さんも9時待ち合わせとは」
両手に衣装の紙袋を持って大荷物。またいろいろ昨日で動いたのか正月なのに決して顔色が爽やかではないアッキー。
よく見ると遊井さんもげっそりとクマが前より濃くなり顔も前よりこけた気がした。
「ひろこちゃん、あけましておめでとう!あと、結婚おめでとう。春と仲良くね」
ひろこは笑顔でありがとうございますと言った。
俺はアッキーの持って来た衣装であるスーツに着替えた。するとひろこが慣れない手つきでネクタイを結いてくれた。
「あれ、どうやんの?うまくできない」
「そこ通して、あー違うよひろこ、ここ」
新婚ごっこさながらで両マネージャーはピリピリするけど、きっとずっとこんなかんじなんだろうなと思った。
「ひろこ、10時ぴったりね。」
「うん」
10時ぴったり、お互いがお互い同じ気持ちで社長に言おうと約束した。
「遊井さん、これ渡しておきます。」
ひろこと2人だけの生活だけど、アッキーはもちろん以前から持っていた。それにひろこが加わった事で必然と遊井さんにも持ってもらう部屋の鍵を渡した。
「秋元さんも持ってるんだって。これでこの部屋に入れる人は4人目」
家族が増えたような気分だった。
ひろこが遊井さんに言うとどこか嬉しそうな顔をしていた。
10時ちょうどに社長に報告した。
「本当、よく結婚できたよね。今も信じられないよ。春はよっぽど好きなんだね。彼女のこと。」
社長は結婚できないと思っていたのが手に取るように分かった。でも喜んでくれていた。
「SOULの人気も安定してきた矢先での結婚だけど他の3人も固定ファンはついてるし、何より4人が好きっていうファンはありがたいよ。その感謝の気持ちは忘れないでくれよ。」
社長の言葉に頷いた。
「・・・今何時?」
「4時」
「・・・あと1時間寝てもいい?」
俺は全然眠れなくて3時から目が覚めていた。
早く婚姻届を出しに行きたかったからだ。
「・・ひろこー」
寝顔が可愛くてしばらく見つめていた。
もうひろこの帰る家はここ。
そして入籍すればもう一生ひろこの寝顔を見つめていられるんだ。
あんなに、好きで好きで会いたくて。
付き合ってるなんて夢みたいだった頃が嘘のようだった。
朝ご飯も食べずにひろこと家を出て車で役所に向かった。
「朝からずいぶん飛ばしてない?春って走り屋だったの?」
無意識に法定速度よりスピードを出して役所に向かっている自分がいて、我ながら可笑しくなって笑っていた。
朝6時過ぎの港区役所は仕事はじめでも人がまだ出勤した様子はさほどなくて、俺とひろこは区役所裏手にある窓口に2人で婚姻届けを出した。
「小寺春臣さんと紘子さんね。受理しましたらご連絡差し上げますから。不備がありましたら後日訂正になりますが、入籍日は今日になりますので安心してくださいね。」
高齢の男性職員はあっさり受取った。
「なんか、あっけないね」
一瞬の事で俺とひろこはぼさっと突っ立ったままだった。
「受理されたら電話くれるみたいだな。不備とかなかったよな?」
「不備があっても後日修正できて、入籍日はとにかく今日になるんだね。そうなんだ。知らなかったー」
提出したのにまだ受理されないってなんなんだと思ったけど、時間外だからしょうがないと思い、とりあえず届けを出したことに俺は大きく深呼吸をした。出したものは出したのだ。出し終わったのだ。そう、出し終えたのだ。
やっと、終わった。
役所の前のホテルのテラスで朝ご飯を買って帰ろうと2人で店内に入った。ひろこはトングを持ってすぐウィンナーの入ったパンを選んでトレーに並べていた。
「小寺紘子。小寺紘子。はい小寺ですって電話でなきゃね」
「そうだね」
苗字が変わるってどうゆう気持ちなのだろう。俺と同じ苗字。
実感なんて全くなかった。
「フィッシュバーガーあるよ。これにする?」
ひろこはトングをカチャカチャ音をさせながら俺に言った。
「うん。それにして。」
俺の好きな食べ物は知ってるのに自分が肉が好きな事を分かってない。
遊井さんから言われた時から、俺もその感覚はそっとしておこうと思っていた。
それが、ひろこなんだと思って大切にしたいって思ったからだ。
「小寺紘子。うん。いい響き。ひろこも人妻だな」
車に乗ってテイクアウトしたコーヒーを一口飲んだ。
俺は上機嫌だったと思う。
車もスピードを出すどころかノロノロ運転だった。
「本当に入籍しちゃったね」
まだ呆気に取られているようなひろこの頭をポンッと触った。
「よろしくな。奥さん」
今日は朝から忙しくなるんだろうけど1月4日は生涯結婚記念日として心に刻まれるのだろう。
1月4日って数字だけみるとなんでもないけど、俺たち4人の中に1名ひろこが加算されたように見えてそれだけでなぜか嬉しかった。
「毎年、1月4日はお祝いしたいな。地味でいいから」
ひろこはコーヒーを一口飲んで言った。
「しようよ。毎年。旅行行ったりして」
「地味でいいってば。」
ひろこがちょっと目を瞑ったらまつ毛から淡い影が落ちた。
入籍したなんてまだ信じられなくて、気がついたらひろこの手を繋いでいた。
『小寺さんですか?受理されましたので』
9時になると役所から電話があった。これで入籍は完了したんだ。
「ひろこー電話あって受理されたって」
着替えてるひろこのところにいくとワンピースをちょうどかぶって腕を通しているところだった。
「もう、今から小寺紘子だね」
「そう。ひろこは人妻」
「人妻って単語、エロくない?」
もう夫婦なんだ。
俺を見つめてまたイルカみたいな顔をして笑った。
インターフォンが鳴って扉を開けに行くと遊井さんがひろこを迎えに来た。
「遊井さんあけましておめでとうございます。」
「おー春くんおめでとう。今年もよろしくね。」
遊井さんを部屋に通すとリビングを見てビックリしていた。
「春くんのリビングすごい広いねー!これ、野球できるんじゃない?」
「オーバーですよ遊井さん!」
やっぱりコメントがおかしくて俺は笑ってしまったけど先に言わなきゃいけない事がある。
「遊井さん、それより急でお騒がせしてすいません。さっき役所行って入籍してきました。」
「あまりの速さにびっくりしたよ。本当瞬足だね。おめでとう。ひろこ、いつまでも大切にしてあげてよ」
そう遊井さんに言われ2人で握手をした。俺の愛する人のマネージャー。父親みたいな人。
この人だけは敵にまわしたくなかった。これからもこの関係は続くんだ。
すると化粧が終わったのかひろこがコートと鞄を持って奥の部屋からでてきた。
「遊井さん、今日から小寺紘子です。よろしくお願いします」
「おー春くん小寺って名前だったの?」
「そうです。小寺なんですよ。」
そんな話をしているとバタバタと音がしてアッキーが入ってきた。
「おはようございます!あれ、遊井さんも9時待ち合わせとは」
両手に衣装の紙袋を持って大荷物。またいろいろ昨日で動いたのか正月なのに決して顔色が爽やかではないアッキー。
よく見ると遊井さんもげっそりとクマが前より濃くなり顔も前よりこけた気がした。
「ひろこちゃん、あけましておめでとう!あと、結婚おめでとう。春と仲良くね」
ひろこは笑顔でありがとうございますと言った。
俺はアッキーの持って来た衣装であるスーツに着替えた。するとひろこが慣れない手つきでネクタイを結いてくれた。
「あれ、どうやんの?うまくできない」
「そこ通して、あー違うよひろこ、ここ」
新婚ごっこさながらで両マネージャーはピリピリするけど、きっとずっとこんなかんじなんだろうなと思った。
「ひろこ、10時ぴったりね。」
「うん」
10時ぴったり、お互いがお互い同じ気持ちで社長に言おうと約束した。
「遊井さん、これ渡しておきます。」
ひろこと2人だけの生活だけど、アッキーはもちろん以前から持っていた。それにひろこが加わった事で必然と遊井さんにも持ってもらう部屋の鍵を渡した。
「秋元さんも持ってるんだって。これでこの部屋に入れる人は4人目」
家族が増えたような気分だった。
ひろこが遊井さんに言うとどこか嬉しそうな顔をしていた。
10時ちょうどに社長に報告した。
「本当、よく結婚できたよね。今も信じられないよ。春はよっぽど好きなんだね。彼女のこと。」
社長は結婚できないと思っていたのが手に取るように分かった。でも喜んでくれていた。
「SOULの人気も安定してきた矢先での結婚だけど他の3人も固定ファンはついてるし、何より4人が好きっていうファンはありがたいよ。その感謝の気持ちは忘れないでくれよ。」
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