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ラブソング
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飛行機が空港に殴りつけるような険しい音を立てて着陸した。この音を聞くと帰国したなーと思う。空港で携帯の電源を入れたら剛くんからメールが来ていた。
『メリークリスマス!うち、寄れる?』
今日はクリスマスイブ。
東京はイルミネーションにカップル達が行き交い出国前と全然違う景色に長いことニューヨークにいたんだな、なんて思わされた。
「お、結婚したんだ。田中剛って春と同じマンションなんだよな?」
車内のTVでは夕方のニュースに剛くんと菊田恵の画像が半分ずつ映っていた。女子アナが微笑みながら結婚のニュースにFAXの文面を読み上げていた。
画面の中で2人だけ並ぶ画像に、結婚する2人だけの空間を感じとれるかのように。
画像を並べる事は簡単なのだろうけど、2人はどれだけ2人の力で歩み寄ってここまでゴールできたのだろうか。
それは結局2人しか知らない事なんだ。だから結婚できるんだ。
また自宅の冷蔵庫から缶ビールを10本スーパーのビニール袋に詰め込んで階段を降りて剛くんの部屋に向かった。
「春くん!メリークリスマス!!」
扉を開けた途端、サンタの帽子を被った剛くんが勢いよく出て来た。
「これ、お土産。あとメグメグとの結婚祝い。」
お土産に空港で買ったワインと結婚祝いに金を御祝儀袋に入れて渡した。
「あ、」
剛くんの後ろには菊田恵が立っていた。少し茶髪の巻き髪で、剛くんの影に隠れてたけど俺を見てニコリと愛想よく笑っていた。
「あ、初めまして。すいません。剛くんがメグメグ言うからついメグメグって言っちゃった。」
俺は急に焦ってしどろもどろに言った。
菊田恵は笑っていた。
「メグメグでいいですよ。春くんどうぞ入ってください。」
部屋の中に入るとケーキとケンタッキーが置かれていて、届いたばかりなのかピザが袋に入ったまま重ねて置いてあった。夫婦になって初のクリスマスなのに邪魔するようで申し訳ない気もした。
「剛くん、メグメグ、結婚おめでとうございます!」
「メリークリスマス!」
俺達は3人で乾杯した。
俺と剛くんは缶ビールで一気に呑んだ。
その横でメグメグはグレープジュースでワインのつもりになると言ってワイングラスに入れて飲んでいた。
「報道、さっき見たよ。本当に結婚しちゃったね。おめでとう」
「いやーもう。大変だったよ。でもあっという間に報道も終わったしけっこう落ちついたよね。」
「そうだね。でも会見しなかったからFAXだけで済んだし気楽だったよね」
メグメグは安堵の表情だった。
「剛ちゃんから聞いたよ。春くんすごいね。あの安藤ひろこちゃんと、でしょ?」
「・・うん。」
「メグメグとも話してたんだけどさ、迎えに行ってあげるんだよ。分かってるよね?」
「うん。決めた。もう決めてるんだ。」
「あぁ。ならよかった。」
すると剛くんの隣でメグメグは途端に泣き出した。
「泣かないでよ!メグメグ、どうしたの?」
「今さ、妊娠中でメンタルバランスとれてなくてよく泣くんだよ。メグメグ、ほら泣かないで!」
メグメグはティッシュで涙を拭きながら絞り出すかのような声で言った。
「春くん、つらいよね。結婚したくてもあの子じゃできないもんね。でもね、もうこんなの双方の気持ちの問題じゃない。双方同意があって何が悪いの?」
味方になってくれてるようでその言葉がありがたかった。メグメグは泣き止む事をせずまだ涙声だった。
「いいじゃない!もう、春くんが結婚したいなら殴られたって土下座してお願いすればできるわよ!殺されかけて顔に傷作っても勲章じゃない。戦ってくるしかないのよ」
「メグメグ、殺されはしないと思うけどな。」
剛くんは熱くなるメグメグを抑えるように言ったけど、メグメグは熱かった。
「好き同士なら一緒にいるのが幸せよ。どんなに困難があったって、2人でいるのが幸せなんだから」
メグメグはひたすら泣いていた。
こんな他人の恋愛に泣いてくれて、妊娠中のメンタルが弱くなったというのを聞いても、妙にその言葉は刺さった。
ピリリリリリリリ
「ちょっと待って」
俺は携帯を見たら唯からの着信だった。
この状況ででたくないなと思ったけど、でなかったらまたかかってくるだろうからすぐに出た。
『おい変態!もう帰国したか?今西麻布の焼肉にメンバーといるんだけど今から来ーい!』
でた、と思った。
「クリスマスイブに電話してこないでよ。今クリスマス会中なんだよ。」
『ひろことクリスマス会か?じゃそろそろセックスに持ち込む時間か?』
「今日は会ってないよ」
別れただの事の経緯を話すのがこの唯に対してはかなり面倒で俺は適当に相槌を打った。
「あれ?唯ってひろこと友達じゃないよね?」
突如ひろこと名前で呼んでいたのに気がついた。2人で会った話なんて聞いた事がなかったからだ。
『ひろこの番組ゲスト行ったから、それからマブだから。』
「マブってもう死語じゃないか?」
唯がひろこの番組に出た事も知らなかった。
『ひろこ、ちょーかわいいよな。収録で支倉と春どっちが好きか聞いたら真剣に春って言ってんの。涙目で。あれ、ちょーかわいかった。』
「・・・」
『春、変なの。私はそんなに人を簡単に好きになったり、簡単に忘れられたりしないよ。』
ひろこはそうゆう女、なんだ。
「春くん、頑張ってね。絶対絶対頑張ってね。応援してるから。もしひろこちゃんの社長に殴られて怪我したりしたらすぐうちに来て。包帯もあるし」
剛くんの言葉に笑った。
「私達は、応援してるからね。」
メグメグも隣で言った。
まるで戦場に送るかのように玄関先で手を振ってくれた。
「生きて帰ってこいよー!」
剛くんと俺はまた酔っ払っていた。
自分の部屋に向かってまた階段を登った。
「タンタンタララン タンタンタララン」
また、鼻歌を歌っていた。
こないだもこの階段を登りながら、この歌を口ずさんでいた。
「結婚 絶対 するよね 絶対」
階段を登りながら、自分の気持ちがあふれて自然と言葉が出ていた。
「僕と 結婚 絶対 結婚 絶対」
家に帰ってギターをすぐに取り出した。
久々に1人でギターを弾いて歌った。
俺とひろこのラブソングだ。
『メリークリスマス!うち、寄れる?』
今日はクリスマスイブ。
東京はイルミネーションにカップル達が行き交い出国前と全然違う景色に長いことニューヨークにいたんだな、なんて思わされた。
「お、結婚したんだ。田中剛って春と同じマンションなんだよな?」
車内のTVでは夕方のニュースに剛くんと菊田恵の画像が半分ずつ映っていた。女子アナが微笑みながら結婚のニュースにFAXの文面を読み上げていた。
画面の中で2人だけ並ぶ画像に、結婚する2人だけの空間を感じとれるかのように。
画像を並べる事は簡単なのだろうけど、2人はどれだけ2人の力で歩み寄ってここまでゴールできたのだろうか。
それは結局2人しか知らない事なんだ。だから結婚できるんだ。
また自宅の冷蔵庫から缶ビールを10本スーパーのビニール袋に詰め込んで階段を降りて剛くんの部屋に向かった。
「春くん!メリークリスマス!!」
扉を開けた途端、サンタの帽子を被った剛くんが勢いよく出て来た。
「これ、お土産。あとメグメグとの結婚祝い。」
お土産に空港で買ったワインと結婚祝いに金を御祝儀袋に入れて渡した。
「あ、」
剛くんの後ろには菊田恵が立っていた。少し茶髪の巻き髪で、剛くんの影に隠れてたけど俺を見てニコリと愛想よく笑っていた。
「あ、初めまして。すいません。剛くんがメグメグ言うからついメグメグって言っちゃった。」
俺は急に焦ってしどろもどろに言った。
菊田恵は笑っていた。
「メグメグでいいですよ。春くんどうぞ入ってください。」
部屋の中に入るとケーキとケンタッキーが置かれていて、届いたばかりなのかピザが袋に入ったまま重ねて置いてあった。夫婦になって初のクリスマスなのに邪魔するようで申し訳ない気もした。
「剛くん、メグメグ、結婚おめでとうございます!」
「メリークリスマス!」
俺達は3人で乾杯した。
俺と剛くんは缶ビールで一気に呑んだ。
その横でメグメグはグレープジュースでワインのつもりになると言ってワイングラスに入れて飲んでいた。
「報道、さっき見たよ。本当に結婚しちゃったね。おめでとう」
「いやーもう。大変だったよ。でもあっという間に報道も終わったしけっこう落ちついたよね。」
「そうだね。でも会見しなかったからFAXだけで済んだし気楽だったよね」
メグメグは安堵の表情だった。
「剛ちゃんから聞いたよ。春くんすごいね。あの安藤ひろこちゃんと、でしょ?」
「・・うん。」
「メグメグとも話してたんだけどさ、迎えに行ってあげるんだよ。分かってるよね?」
「うん。決めた。もう決めてるんだ。」
「あぁ。ならよかった。」
すると剛くんの隣でメグメグは途端に泣き出した。
「泣かないでよ!メグメグ、どうしたの?」
「今さ、妊娠中でメンタルバランスとれてなくてよく泣くんだよ。メグメグ、ほら泣かないで!」
メグメグはティッシュで涙を拭きながら絞り出すかのような声で言った。
「春くん、つらいよね。結婚したくてもあの子じゃできないもんね。でもね、もうこんなの双方の気持ちの問題じゃない。双方同意があって何が悪いの?」
味方になってくれてるようでその言葉がありがたかった。メグメグは泣き止む事をせずまだ涙声だった。
「いいじゃない!もう、春くんが結婚したいなら殴られたって土下座してお願いすればできるわよ!殺されかけて顔に傷作っても勲章じゃない。戦ってくるしかないのよ」
「メグメグ、殺されはしないと思うけどな。」
剛くんは熱くなるメグメグを抑えるように言ったけど、メグメグは熱かった。
「好き同士なら一緒にいるのが幸せよ。どんなに困難があったって、2人でいるのが幸せなんだから」
メグメグはひたすら泣いていた。
こんな他人の恋愛に泣いてくれて、妊娠中のメンタルが弱くなったというのを聞いても、妙にその言葉は刺さった。
ピリリリリリリリ
「ちょっと待って」
俺は携帯を見たら唯からの着信だった。
この状況ででたくないなと思ったけど、でなかったらまたかかってくるだろうからすぐに出た。
『おい変態!もう帰国したか?今西麻布の焼肉にメンバーといるんだけど今から来ーい!』
でた、と思った。
「クリスマスイブに電話してこないでよ。今クリスマス会中なんだよ。」
『ひろことクリスマス会か?じゃそろそろセックスに持ち込む時間か?』
「今日は会ってないよ」
別れただの事の経緯を話すのがこの唯に対してはかなり面倒で俺は適当に相槌を打った。
「あれ?唯ってひろこと友達じゃないよね?」
突如ひろこと名前で呼んでいたのに気がついた。2人で会った話なんて聞いた事がなかったからだ。
『ひろこの番組ゲスト行ったから、それからマブだから。』
「マブってもう死語じゃないか?」
唯がひろこの番組に出た事も知らなかった。
『ひろこ、ちょーかわいいよな。収録で支倉と春どっちが好きか聞いたら真剣に春って言ってんの。涙目で。あれ、ちょーかわいかった。』
「・・・」
『春、変なの。私はそんなに人を簡単に好きになったり、簡単に忘れられたりしないよ。』
ひろこはそうゆう女、なんだ。
「春くん、頑張ってね。絶対絶対頑張ってね。応援してるから。もしひろこちゃんの社長に殴られて怪我したりしたらすぐうちに来て。包帯もあるし」
剛くんの言葉に笑った。
「私達は、応援してるからね。」
メグメグも隣で言った。
まるで戦場に送るかのように玄関先で手を振ってくれた。
「生きて帰ってこいよー!」
剛くんと俺はまた酔っ払っていた。
自分の部屋に向かってまた階段を登った。
「タンタンタララン タンタンタララン」
また、鼻歌を歌っていた。
こないだもこの階段を登りながら、この歌を口ずさんでいた。
「結婚 絶対 するよね 絶対」
階段を登りながら、自分の気持ちがあふれて自然と言葉が出ていた。
「僕と 結婚 絶対 結婚 絶対」
家に帰ってギターをすぐに取り出した。
久々に1人でギターを弾いて歌った。
俺とひろこのラブソングだ。
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