俺のカノジョに手をだすな!

みのりみの

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逢瀬

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「ひろこは先にタクシーで中目に帰ってて。俺、車置いてから行くから」

俺は財布から1万円札を出してひろこに渡した。

「後から、来るの?」

ひろこは瞬きをした。

「あ、週刊誌対策?」

俺は頷いてすぐ来たタクシーにひろこを乗せて見送った。

俺は俺で自分の車を走らせた。
昨日もひろこと会い今日もひろこと会い。
なんだか夢のようだった。
あんなに会えずに辛かった大阪との遠距離恋愛が嘘のようだった。

駐車場に着いて車を置くと走ってエレベーターに乗った。一度部屋に戻ってパスポートを明日アッキーに渡すのを覚えていたからだ。
あとはタクシーでひろこのマンションに行くと思うと足取りは軽やかだった。

「あ、」

エレベーターに乗るとひとつ下の階で止まって田中剛が乗って来た。お風呂上がりなのか、まだ濡れた髪にスウェットにTシャツ、足元はビーチサンダルだった。

お互い軽く会釈をした。

「・・僕、ファンなんですよ。応援してます。」

田中剛は感じよく俺に笑顔で言った。

「ありがとうございます」

また会釈をすると10階で降りた。
菊田恵が10階に住んでるんだ、と思った。


「本当に来た」

マンションのドアを開けるとひろこが目を丸くして俺の事を見つめていた。すぐにその目は細くなってイタズラそうに笑った。
車に置きっぱなしだった水風船とリンゴ飴をすぐ渡すと水風船の中の水の音がパシャンと弾いた。

「りんご飴食べようかな」

ソファーに座ってひろこがりんご飴をかじりだしながらテレビのリモコンを変えた。
改変前だからか音楽番組の特集でちょうど俺たちの映像だった。

「珍しいねー!この曲、テレビで見たの初めて!アルバムの曲だよね?」

りんご飴に吸い付く唇が艶を帯びて光る。ひろこの唇はなんでこんなに色気があるんだろう。でも今日聖司に微笑んでいた笑い顔は唇が妙に可愛くて。可愛いすぎて。

今日、聖司と恋人同士みたいで嫉妬した。なんて言わないけどまたあの光景を思い出した。

「歯、折れない?」

「うん。折れそうだから舐める」

りんご飴をキスするかのように舐める仕草が可愛くて見つめていた。

ずっと2人でいたい。

俺が何も話さなすぎたのか、顔が無表情だったのかひろこは俺の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」

このまま、時間が止まればいいのにって思った。


ひろこが片手にリンゴ飴を持ったままキスをした。ベタベタの唇にキスをしたら止まらなくなった。
ゴトンと音がしてリンゴ飴が床に落ちた。

「今日も、するの?」

長いキスに少し息を切らしてひろこは俺を見つめた。

「ダメ?」

返事も聞かずに首と胸元にキスをした。

「あっ」

感じる声で俺も惑わされる。

「・・ダメじゃないよ」

ひろこの言葉に俺はTシャツを脱ぎ捨ててワンピースのファスナーを下げた。

「ひろこは、セックス好きなの?」

唇にキスする直前に聞いた。
また、伏し目がちな色っぽい顔をした。

「春と、するのは好きだよ」

「俺だけ?」

「うん」

まるで俺の不安を埋めるかのような言葉に安堵して俺はひろこを抱いた。




「そういえば収録楽しかったってひろこが言ってたよ」

楽屋でリハーサルを終え収録の準備をしている時聖司に言った。

「あの、祭りの後2人でなにしてたの?」
「うちから車取りに行ってドライブ!」
「ドライブ!?」

ケンと聖司は食いつくように話を聞いた。

「お台場まで行ってさ。うちに連れて帰れないからどうしようか考えて、ひろこを途中でタクシーで家に帰して、俺は車で家まで戻ってその後またタクシーでひろこんち行ったの。完璧でしょ?」

聖司もケンも口を開けて聞いていた。

最近はレコーディングも入ってきてるけど、12時を過ぎなければひろこのマンションに通っている。

田中剛が菊田恵の部屋に行ってるのを見て正直羨ましいな、と思っていたけどこうなったらひろこのマンションに毎日通いたい。
いっそのこと俺がひろこのマンションに1室借りようかと今朝はスマホでひろこのマンションの空き部屋を調べながら来た。1室も空室なんてなくて、掲載されてた不動産会社に空きがでたらすぐ契約させてください、とまでメールで送っていた。

「春、ひろこちゃんご懐妊ってウソだよな」

突如アッキーに言われ俺は吹き出した。


「おつかれー!」
「おー大ちゃん!」

メッシュだからけのチャラい髪型にこれから本当に歌番組に出るの?ってかんじのラフな衣装を着て支倉大介が俺達の楽屋に入ってきた。


「楽屋向かい側だったから遊びきたら聞き耳たてちった。春!ご懐妊?!俺もこないだデビューしたばかりの子腹ませちゃってお金払って終わりにしたから反省中。これでも」

「大ちゃんまじかよー」

大ちゃんの遊び人伝説は理解してる俺たちはおいおいと思いながらもいつもの遊び方にビックリはしなかった。

「で、春はご懐妊!?安藤ひろこちゃんとできちゃったの?!さっき見かけたけどまだ腹はでてなかったな」

「ああ、今局内にいるんだよな。今日愛車紹介の収録初日でしょ?」

大ちゃんはお腹を膨らます仕草でしつこく俺に問い詰める。

「確認だが、できるような事はしてんだよな?」
「してるよ。男と女だもん」
「でも避妊してねーだろ!」
「・・・」  

笑いながら黙る俺に大ちゃんは抱きしめてきた。

「いーなー春は安藤ひろこちゃんと×××」

抱きついたままぐにゃぐにゃ言っている。

「大ちゃん、早い者勝ちだから」

大ちゃんはため息をつきながらソファーになだれ込み近くにある優希のド派手なピンクのベースを持ち出した。

「大ちゃん女に疲れたか?音楽に疲れたか?」

聖司が向かいに座ると「音楽は疲れない。触っていい?」と優希に確認してベースをいじりだした。

「俺も安藤ひろこを自分のPVに出て欲しいんだよなぁ。でも今だしたら俊のパクリっぽいしな」

「大ちゃんもひろこ使いたいの?それは困ったな」

「こないだ俊と話したけど安藤ひろこが春と付き合ってるなら別れてほしいって言いに行くとか言ってたぞ。あいつ本気だぞ。春、彼女に首輪つけとけよ」
「首輪つけなくても俊にはあげないから大丈夫」
「でも彼女手錠はしてるよな?あれ、春とお揃いでしょ?」
「え?手錠?」
「高そうなROLEX!」
「え、そうなの?」

またみんながビックリする。

「さっきひろこちゃんすげー短いスカート履いてたな。あの番組、プロデューサーエロくて有名じゃん。ひろこちゃんなんか食われそうじゃない?」

「ひろこはいつもスカート短いよ」

「違うよ!もっとこう!パンツ見えそうなくらい!」

大ちゃんが自分の脚でスカート丈を表現するがそれがなんとも可笑しくてみんなで大笑いした。

「あれはねーすれ違い様に誰にでもパンツの中手入れられるぞ!」

「・・・」

俺はその時すごい胸騒ぎがした。

衣装なんだから仕方ない。プロデューサーの意向か?プロデューサーはひろこに前からオファーを出していた奴だ。

気持ち悪くなった。

「楽屋、下の階だよな?」

「ひろこんとこ行くのかよ?」

俺は何も言わず楽屋を出た。
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