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残酷な恋愛

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『ひろこちゃんのマンションの1室より広々としたホテルのがいいんじゃないの?』

聖司に出かけに言われたけど、普通の恋人みたく極力彼女の部屋で過ごしたかった。
それ以前にひろこの彼氏として家に泊まるという事を大事にしたかった。

時計は12時になる頃ひろこのマンションに着いた。

「おかえりー!」

ひろこは俺がハワイで買った時計とダイヤのピアスとmiumiuのワンピースを着ていて、前よりも高級感があった。
その高級感は俺が作りあげたものだと思うと余計嬉しかった。

いつもの最高に可愛いイルカみたいな笑顔に、この笑顔が嘘でないなら、世の中の事全てが嘘であってもいいとさえ思える。

やっと会えた嬉しさと、今日ここまで辿り着けた奇跡に会うなりまた玄関の扉を即座に閉めて鍵をかけて抱きしめた。
2人でハワイに行ってから距離が縮まったような気が勝手にしていて抱きしめた感触であぁひろこに会えたんだと思った。

「あーやっとひろこだ。癒してもらわなきゃ」
「あ、声がカスカスだ。大丈夫?」
「ひろこで充電するから」 
「充電?」
ひろこがふっと笑う。

「充電ってどうやってするの?」

意味深な顔をして俺を見る。そしてちょっと笑う。
可愛くて可愛いくて、たまらない気持ちになってその場でキスをした。
付き合ってる彼女って感覚がなかった。まだ俺だけが恋をしているようだった。
もっと言うと始めて恋愛をしているかのような気持ちだった。


机の上にはハワイの写真がたくさん置いてあった。

「写真、2人で映ってるのすくないね。」

写真を1枚1枚見ながら、ひろこのかわいい写真を数枚選んではジャケットにしまった。前にポラロイドで撮った2人のツーショットを俺が自分の部屋に大事に飾ってある事もひろこは知らないだろうけど、ハワイの写真はどうしても欲しかった。
写真を見てたら楽しかった記憶がどんどん蘇ってきて俺は目を細めて写真を見つめた。

「また行きたいね」
「行きたーい!」

ひろこがビールとグラスを笑顔で持ってきてくれた。
ひろことなら地球の果てまでもどこまでも行くよと言いかけたけど、気持ちはあるけど今この立場で行けるはずはない。
次の連休なんていつになるかも分からない。

「また同じホテルがいいな。ご飯も美味しかったし、すごい見晴らしも良かったし。雰囲気も良かったよね。」

笑顔で俺に言っているけど、次はいつ行けるのかという明確な時期を聞いてこない。彼女は俺が次行ける時を知らないし、俺自身が分からない事も見抜いていると思った。

普通の恋愛。

普通になんてできてる訳がない。

彼女は年頃の20歳。
普通の20歳なら彼氏とデートやお泊まりなんて日常茶飯事だろう。
急にひろこが不憫に思えてきて、ビールをあけてグラスにうつすひろこを見つめていた。

「ねぇ、春。」

ひろこがいつになく神妙な顔をした。

「遊井さんに、春の事を話したの」
「え?本当に?」

俺はあのチンピラマネージャーユウイさんが頭に浮かんだ。
ラスボス社長は置いておいて、まず最初のハードルだ。

「なんて話したの?」
「話すつもりはなかったんだけど、ハワイで買ってくれたもの、たくさん身につけてたから男できたのかって。」

男ができた。イコール俺。

もうその構図だけでお腹いっぱいな訳だが、もうひろこの父親に結婚のお願いをするよりも高いハードルだろうと感じていた。
でもここまで来たらぶつからなきゃいけない。遅かれ早かれ通る道なんだ。

「・・なんて言ってた?」
「それがビックリしてそのまま帰っちゃったよ」

コメントなし。

それがいかにも恐怖を感じたけど、これは誠実な対応をしないといけない。
ユウイさんにとっては大切な商品。
俺にとっては大切な彼女。
対象の目線は違えど大切なものは同じ事だ。

「それ、持ち帰っていい?アッキーと話してみるよ。」

社長まで出すのは大袈裟だけど、マネージャー同士くらいは会わせておいた方が得策なのかもしれないと俺は考えていた。
ここは慎重に踏みたいところだった。
最悪大人の事情で別れさせられる事もあるかもしれないからだ。

ひろこと付き合いだして早半年。
普通半年も経てば男女交際もマンネリ感も入ってきてやっぱり合わないから別れようとか出てくる頃合いだったりもする。

なのに半年も経てば落ち着くだろうと思っていたこの恋心は全くと言っていいほど落ち着かなかった。



「ひろこの将来の夢はなに?」

お風呂上がりに髪を拭いているひろこに聞いた。

「ナイショ」

「いーじゃんおしえてよ」

「じゃあ春は?」

「音楽史に残るバンドになること」

「ミュージシャンっぽーい」

濡れた髪が色っぽくて風邪ひくよって声をかけてもドライヤーでなかなか乾かさないからドライヤーを奪ってひろこの髪を乾かしてあげながら。

「で、夢は?」
「○♫△×」

ドライヤーの音で聞こえない。

「聞こえないよ」
「☆○♫ー△☆☆彡」
「聞こえなーいー」

髪が乾いてドライヤーの音を消すとふふふと笑っている。

「東京で仕事をすること」

やっぱり。
東京に戻りたいんだ。

「お嫁さん、かと思った」

「いつかは結婚したいよ。」

「じゃあ俺と結婚して庭付き一戸建てに住んで東京でタレントの仕事すればいいじゃん。両方夢が叶って万々歳だな!今でもいいよ」

「結婚なんて早いじゃん。今結婚したら売名になっちゃう」

今の俺の状況で結婚できないことを分かっている。それを見越して笑って返して俺に負担をかけないようにしているのが分かった。

その時、こんな残酷な恋愛ってないんじゃないかと思った。
会えない。休みの日が分からない。写真誌に撮られたくないから普通のデートができない。チンピラマネージャーはひろこが商品。結婚はできない。ヤバイ社長もバックにいる。

気がついたらひろこを抱きしめていた。

「どうしたの?」

ひろこが俺の背中に片手でそっと手をおいた。

「ね、約束して。俺から絶対離れないで。」

「離れる事って、ありそうなの?」

「俺は離れないよ。だからひろこもそれだけは分かっていてよ。」

大人の事情。
そんな事はあっても俺は断固としてひろこを離さない。
もうこんなにも愛せる人はこの世に現れない。自分で確信があった。

重なる唇の音が部屋中に響いた。

「ん、はる、」
「なに?」

ひろこの身体にキスをしながらうわ言のような声を出す。

「ハワイで、中で、出したでしょう。今日は出さないでよ」
「・・・分かってる」

ひろこのパジャマのワンピースを脱がした。

「なんであんな事したの?ヒヤヒヤしてたんだから。生理きたからよかったけど」

俺は服を脱いでベットの下に置いた。

「ひろこが好きだからだよ」

子供ができたらそれでいい。それで離れていかないのなら本当にそれでいい。






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