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ーーよく晴れた日の王立図書館大樹の下。

「・・・・・(それで君はどう思ったの?)」
「うーん、本当にものすごくめちゃくちゃ嫌な人、から、すごくめちゃくちゃ嫌な人くらいに変わったかもしれません。・・・たぶん。」

モサモサ頭に向かってアリシアはそう喋りかけた。
先日の図書館の一件で、イザークと図らずも話すことになったアリシアの率直な感想だ。

「なんだか、その人は、私から見たら高慢で、我儘で、婚約者には不誠実だし、何でも持ってるくせに私のことを僻んでる性格の悪い人なんですけど、話してみると、その人はその人なりに不自由さがあって、何かにもがいてる感じがしたんです。少しだけ本音を聞いたような気がして。それにルールは守らないし態度も言動も酷いけど、本を借りたいってことは学ぼうって気持ちがあるのかなって。」

「・・・・・(その人の立場や気持ちを考えられて素晴らしいね。)」

君は優しいね、そう告げるマックスさんの口元が柔らかく綻んだのを見た瞬間、アリシアは自分の頬が急に熱くなるのを感じて、その場所を両の手のひらで隠すように横を向いた。

「そ、そ、そんなことないですっ。私も、人任せだってその人に言われて、その時は怒れてきたけど、もしかしたら本当にそうかもしれないって思ったし。けど、あの人、本当に何かにすごく焦ってる気がする。」
 
そうなんだねと優しく頷く瓶底眼鏡にじっと視線を向けられるのに耐え切れなくなったアリシアは、慌てて立ち上がるとまた来ますと短く挨拶をして出口へと歩き出した。

火照る顔をぱたぱたと両手で冷やしながら、ふと、イザークに加護のことを聞けず終いだったことが頭の片隅をよぎったけど、家に着く頃には忘れていた。


そして、事件は起こった。

「今日の授業は、自分の持つ加護を実際に使いながら分析をしていきます。2人1組になってくださ~い。」

アリシアは当然のごとくヴァイオレットと組む。
イザーク達は3人。そして残りのメンバーも3人組なので誰がイザーク達のうちの1人と組むのかコソコソと話し合っている。
うーん、すごく嫌そう。当たり前よね。

そうこうしてるうちに何とイザークが前に出てきた。

「お前たちのうちの誰か、俺と組め。」

これにはアリシアやヴァイオレットだけでなく、ボールやゴッグまでも驚いた。

「えっ王子、それはっ。」
「そうです。私どもがっ。」

「俺が良いと言っているのだ。誰か居らぬのか。」

な、なに?あの不遜な態度。ちょっとイラッとする。けれど、もしかしたらもしかして、アレは歩みよりのつもりなのかしら?

そんなことを考えているアリシアの近くでまだペアの決まらない3人組が尚もヒソヒソと話していた。

(あんなプライドだけ高いと授業でも関わるのマイナスじゃね?)
(だよな~。俺も嫌だ。)
(どうするよ、誰か行かないとダメなの?)

嫌なのはわかるけど、ただの授業なのにプラスとかマイナスとか。それも違う気がする。アリシアはモヤモヤが止まらない。
 
しばらくしても誰も名乗りを上げず、教室内はシーンとして気まずい空気が流れた。
イザークは、そんな教室内を見回してクルリと背を向けた。

「ーーそんなに俺と組むのは嫌か。・・ならば良い。」
 
その声が少し震えていた気がして、さっきから感じていたモヤモヤもあって気づいたら思わず手を挙げていた。

「わ、私が組みます!」

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