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言っちゃったーー。

アリシアは瞬時に馬鹿なことをしたと後悔して目を瞑った。
けど、王族だからって皆の守ってるルールを破っても良いなんて変よ。

図書館に1人2人残っていた学生が遠巻きにアリシアたちの様子を伺っているが、王族と下手に関わるのが恐ろしいのかアリシアが視線を左右へ彷徨わせても決して目を合わせようとしない。

「お前たちの見せ物ではないぞ。」

イザークのよく響く声に残っていた学生が慌てて図書館の扉をキィと開け出て行く。


あ、詰んだ。これ結構ヤバいやつかも。


アリシアは図書館にイザークと2人きりになってしまったことに気づいて焦った。1人になっちゃダメよというヴァイオレットのアドバイスが先程から頭の中をぐるぐると巡っている。
ふと視線を感じ目を上げるとイザークが美しい翡翠色の目でぐっとアリシアを睨んでいた。

「どうしても貸さぬと言うのか。」
「・・そ、それが、ルールです。例え、王族でも。」

アリシアはつい反射的に返事をしてしまった。しかも本音で。
あちゃ~またやってしまった。けど、例え相手が誰であっても大好きな本に関わることでは意見を曲げたくないと、いつになくアリシアの図書館愛が熱く燃えてしまったのだ。
イザークはアリシアの言葉にいっそう目を見開いてその澄んだ水色の瞳を見据えた。

天敵同士の睨み合いの様な状態で、見えない火花を散らしながらしばし固まっていたら、扉の方からパンパンっと手を叩く音がした。



「はいは~い。それまでですよ~~。」

緩い口調で現れたのはヨハネス先生だった。
この前見た時は黒に近い紫色だったけど、今の顔色は少し青いくらいで随分ましな感じになっている。まだ本調子ではなさそうだけど。
ヨハネス先生はそれまでの緊張感などまるで存在していなかったかの様に、マイペースな感じで話し出した。


「アリシア君、ルール遵守は図書委員の良き手本で大変素晴らしいけど、もう少し借り手の気持ちを思い遣ってね~。王子は、せっかくの学生生活なんですから一度思いっきり学園のルールに染まってみたらいかがです?存外、新しい発見があるかもしれないですよ。郷に入ったら郷に従えって言うでしょう?」

ヨハネスはそう言うと、2人の間を割る様にアリシアとイザークの肩に手を乗せた。イザークが何か言いた気にしていたが、そんなことお構いなしにヨハネスが宣言した。

「はい、じゃあ~今日はこれでお開きで~す。王子は明日までに借りたい本に優先順位をつけてまた来てくださ~い。それではお2人とも、また明日~。」



それでピタリと場が収まったのでアリシアは図書館の扉の鍵を閉めてヨハネス先生について帰ることにした。

去り際にイザークがボソッと何か言っていたけど良く聞こえなかった。
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