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アリシアの重い気持ちとは裏腹に、時間はいつもより早いんじゃないかというくらいに進んでいき、とうとう特別授業の日が来てしまった。

「・・休みたい・・・」

朝、屋敷の玄関でそう呟くも、全ての加護の授業を休むのは不可能だということもちゃんとわかってる。
アリシアはトボトボと馬車に乗り込み、売られていく仔牛のような気持ちで学園へと向かった。


「おはよう、アリシア!・・って何て顔してるのよ。」
「おはよう、ヴァイオレット・・。大丈夫よ・・。」

そんなわけないでしょう鏡を見てみなさいとヴァイオレットに指摘され手鏡を取ると、目の下にはすごいクマが。
昨日の夜は、授業に出るのが嫌でよく眠れなかったのだ。

「私の白粉をつけてあげるわ。」

ヴァイオレットはそう言って美しく細工彫りの施された小さなケースを開くと、パタパタと薔薇の良い香りのする白粉を顔にはたいてくれた。ヘレフォード家の販売する人気の化粧品だ。

薔薇は、ヘレフォード領では商品にするほどの量ではないがそこそこ育つ花だった。
しかしこの1年の間に、何故かはわからないけれど、季節を問わずハーブのように大量にそして美しく咲くようになったのだ。それに目をつけたヴァイオレットは、早々にこの薔薇を使ったオイルや化粧品など女性向けの商品をプロデュースし、いまや貴族の奥方から庶民のおカミさんまで、広く話題の商品として王都で販売されるまでに至った。

「あら、これは・・まあっ。」

ヴァイオレットは白粉と、ほんのり色のついたリップをつけたアリシアを見て驚きの声を上げる。

「アリシア、今日はここまでだけど、次はフルメイクしてみましょうよ。」

どうやらメイク映えするらしいアリシアの薄化粧姿はヴァイオレットの何かに火をつけたようだ。
最高のおもちゃを見つけたような顔をしてその日は始終上機嫌だった。



加護の授業は今日の最後。

午前の授業は楽しかったけれど、午後一の授業になるとだんだんソワソワしてきて。
そしてとうとう次は加護持ちの授業。

「アリシア!教室を移動しましょう。」

ヴァイオレットが張り切ってるのがわかる。
もうここまで来たら授業に出るより仕方ない。アリシアはのろのろと席を立った。


教室には、すでに3人の学生が席についていた。
アリシアたちを見ると互いに目配せして何か喋っている。

アリシアは私のことかなと少し不安になりながらヴァイオレットの隣の席に腰かけた。

あの3人組はといえば、本鈴と同時くらいに教室に滑り込んで来て先に来ていた3人に席を譲るよう迫っていた。本当に困ったやつらだ。



「それでは、授業を始めます。」

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