2 / 33
1章
2 三月兎の集落
しおりを挟む
2.
ジャッジに言われたように、彼の家を出てひたすらに真っ直ぐに歩いた。幸いなことに、あれからアマネに遭遇することもなく、無事に目的地へと近づけているようだった。雨が綺麗に止んだのが、それだけジャッジから離れた何よりの証だ。
「ねえねえ、お兄さん!どこ行くの?シュラーに会いに行くの?」
「なあなあ、お姉さん!どこ行くんだ?フロージィに会いに行くの?」
突然、子供の声が重なって背中を叩いた。振り返ると、そこにはまだ中学生くらいの子供が2人。2人とも黒い髪に軍帽のような帽子を被り、ドイツの軍服を思わせる赤い色の制服を身にまとっていた。
2人ともつり目がちで大きな目をしており、鼻から下もそっくりだ。いわゆる双子なのかもしれないが、声の高さが男女のそれだ。髪の長い方が女の子、短い方が男の子なのかもしれない。
「ちがうよドゥエル!この人はお兄さんだよ!」
「ちげーよメベーラ!この人はお姉さんだぞ!」
2人は僕の手を片手ずつ掴んだまま喧嘩を始める。
これは困った。情報過多だし、置いてけぼりすぎる。しかも、男か女かと自分の状態を尋ねられると、僕も分からないし、僕も知りたい。
そこから二人は火が付いたようにわーわーとお互いを罵倒し合い、男の子は女の子の髪や服を掴んでひっぱり、女の子は男の子を拳でポカポカと殴る。迫力のない争いを始める子供たちに2人に僕は苦笑いした。
「あ、あの、ごめんね?シュラーとフロージィ?って誰のことだろう?」
「えっ!知らないの!?シュラーフロージィだよ!」
「そんなことも知らねーの!?眠り鼠の女王だよ!」
いちいち声が重なって返ってくるので音量2倍、なんなら微妙に2人が言っていることが違うので非常に聞き取りずらいし分かりずらい。
推測するならば、シュラーとフロージィは同一人物で、シュラーフロージィがそのまま正式名称。ジャッジが言っていた世界を治めている眠り鼠なのだろう。
「ああ、ええっと…ごめんね。僕はこれから三月兎に会いに行こうと思ってて」
僕の言葉に不意に二人がピタっと動きを止めると、きょとんとした目で二人は僕を見上げた。
「なんであんな変態のところに会いに行くの?」
「なんであんな悪党の場所にわざわざ行くの?」
相変わらずの二重奏だが、先ほどから打って変わって静かな物言いだ。それが妙に威圧的で、僕は思わず後ずさる。
「えっ…夢から目覚める方法を知っていると聞いたから…」
「なーんだ!三月兎の仲間じゃないのか!仲間だったら殺してやろうと思った!」
男の子がニカッと歯を見せて笑う。当然のように出てきた「殺す」というワードに一瞬、脳が追いつかなかったが、それが酷く物騒で、それでいてアマネからの襲撃を考えると現実味を帯びていて恐ろしい。
あくまで無邪気に話す彼に、女の子が腕を組んで鼻を鳴らした。
「あんな変態に会いに行くのやめなよ!アイツは年中ハツジョーキってやつで危ないんだってシュラーが言ってた!シュラーはいつだって正しいから間違いないよ!夢から覚める必要なんかないし!」
「発情期?」
三月兎の名称は確かに発情期の兎が狂ったように見えるからと、馬鹿にされる意味でついた名前ではあるはずだ。本当に彼が年中発情期ならば、それは危ないような気もした。レイプ魔とかだったら困る。
しかし、彼らの話を聞く限りでは、彼らはどうやら眠り鼠に心酔しているようだ。本当に正しいのかと言われれば、怪しいような気もする。
それに、どこまでも公平でいようとしていたジャッジが僕に会うのも手だと勧めてくれた相手が、そこまで危険人物だとはあまり思えなかった。ジャッジとは短い時間しか話していないが、彼はとてもじゃないが嘘を吐くタイプには見えない。
「そーだそーだ!メベーラの言う通りだ!お姉さん、一緒にフロージィに会いに行こうよ!ハツジョウ兎に会いになんて行くのやめよーぜ!」
男の子は僕の手を引いて歩き出す。その力はアマネほどではないが、子供にしては強い。不意に湧き上がる恐怖に僕は思わずその手を振り払う。
「あっ…」
振り払ってから、僕は慌てて二人の顔を見る。
二人は何故、僕が手を振り払ったのかまるで理解できないと言うようにこちらをじっと見つめている。
その視線は、僕が現実で経験したものによく似ている。学校で大多数の意見に反発したときのクラスメイトの視線。「お前なんかが意見していいと思ってるの?」と言われているような冷ややかな瞳。
その視線を受けた時、自分の意見を通すことは悪だ。次の日からクラスに自分の居場所は消えてなくなる。異端者として、そのコミュニティからの離脱を無言で促される。徹底的な存在無視が始まるのだ。
「これは…その…」
僕は慌てて言い訳を頭の中で必死にかき集める。どうすれば二人の機嫌を損なわないで済むだろうか。そうだ、もし逆らったら殺されてしまうかもしれない。それなら自分の意見なんて言わずに、ただ黙って彼らについて行けばいい。
もしかしたら、その眠り鼠だって本当に優しい人なのかもしれない。夢から覚める方法を知っているかもしれない。
「お前はアマネが殺すって決まってんだからさあ、逃げるだけ無駄」
頭の中で蘇るアマネの声と姿。悪意だけで構成された彼が、僕を殺すと宣言していた。
眠り鼠はアマネの雇い主。そんな人と接触して、本当に安全か?村人の役割はジャバウォックを殺すことなのに?もし、それがこの世界のルールなのだとしたら、本当に安全か?
怖かった。二人に逆らうことも、眠り鼠に会うことも。
「…またお前らは人の悪口を吹聴して回って」
不意に少し離れた場所から低い男性の声がした。その声に反応するように双子が顔を上げた。その視線の先には茶色の垂れた兎耳をした黒いスーツ姿の男性が立っていた。
眼鏡にスポーツ刈りの濃い茶髪、浅黒い肌。草木をかき分けながら近づいてくる彼は、眉間に深い皺を刻んだ垂れ目気味の瞳で双子を睨む。
「うわっ、出た!変態だ!」
「げーっ!悪の親玉だ!」
双子たちは口々に悪態をつくと、彼を睨みつけて唸る。
眼鏡の男性は僕を見やると、ふうと溜息を吐いた。
「この双子の配役はディートルダムとディートルディーだ。攪乱するのが目的だ、騙されるな」
彼の言葉が早いか、ほぼ同時に男の子が懐から銃剣を取り出す。その切っ先を向けて眼鏡の男性に向けて射撃するが、男は手に持っていた分厚い本でそれを薙ぐ。ただの本なのに、それはカンッと甲高い音を立てて銃弾をはじき返した。
「殺す!」
女の子がベルトに下げていた鎖を手にとって、男の子と同じように男へと投げつける。その先には鎌のような刃がついてるが、男もまるで動じずに同じように本で防ぐと、もう片手で鎖を掴んで引き寄せる。
相手は子供だというのに、彼は容赦なく鎖と一緒に女の子を引き寄せると、彼女の胸倉を掴んで投げ飛ばす。投げられた女の子は傍の木の幹に強かに身体を打ち付け、痛みに呻いた。
「メベーラ!」
慌てて男の子が銃剣を片手に彼女の元へと駆け寄るが、男はその男の子に足を引っかけて転ばせる。ゴロゴロと地面を転がるように勢いよく倒れた彼は、女の子の上に重なるようにぶつかった。
「いたぁい!何すんのよ!」
「くそ…」
折り重なって倒れている二人を見下ろして、男性は神経質そうにスーツの埃を手で払う。首から下げてきた大きな十字架のネックレスを手に取ると、彼はツカツカと革靴を踏み鳴らして子供たちに近づく。
「前々から目障りだと思っていた。良い機会だから埋葬してやろう。殺された仲間の敵だ」
その小さな十字架は、よく見ると先が刃物になっている。短剣の一種だ。
こんな小さな子供たちを殺すということだろうか。仲間の敵らしいが、傍から見るそれはあまりにも惨く、一方的なように見えた。
僕は思わず三人の間に入り込むと、傘を両手で握りしめて男性の前に立った。
「や、やめて下さい!可哀想じゃありませんか!」
「可哀想?」
男は首を傾げると、不愉快そうに眉をしかめた。
「コイツらはいつもいつも俺のありもしない悪評を周囲に広め、大勢の人間を眠り鼠の指示で殺している。そいつらが殺されるのは当たり前の話じゃないか?自業自得、因果応報。自分がやってきたことが今ここで裁かれるだけだろう。現実の法があれば、とっくに死刑になっててもおかしくないぞ」
彼の言葉に僕は唾を飲み込む。
ここに来たばかりで、僕にはここの常識も情報もあまりに知識が足りない。どれが正しくて、何が正解かなんて分からない。
彼らはそんなに沢山の人を殺しているのか?でも、彼は自分の悪評を彼らのせいにするように、子供たちの悪評も噂とかだったりするんじゃないか?
世間の正解はなんだ?周囲が求める答えはなんだ?どうすれば自分の身が守れる?
そう思った瞬間に、ジャッジの顔が浮かんだ。自分の好きなようにしたらいい。自分が選んだ選択が、自分の正解だと、彼は言っていた。
僕の正解はなんだ?
「…それでも、嫌です」
絞り出す声が震えた。どう考えたって、この三人の戦力を見れば男性の方が強い。彼に任せて、彼が二人を殺めるのを見ていたって僕の手は汚れない。彼を敵に回した方がよほど怖い。
それでも、きっと彼らが殺される様を見ていながら、何もしなかったら、その時の自分をずっと後悔し続けるのは他でもない自分だ。
「お兄さん…」
後ろで身体を起こした女の子が呟く。僕はそれを振り返らずに声を張り上げる。
「逃げて!」
僕の言葉に背後の二人が立ち上がって走り出す。バタバタと騒がしく走っていく足音が遠のいていく間、男性はそれを追うでもなく僕の顔を見つめていた。
足音が消えてなくなり、彼らが遠くまで逃げたのが分かる。傘を握る自分の両手が震えていた。それでも必死に目の前の男性を睨みつけて威嚇していると、彼は眉間に皺を刻んだまま大きくため息を吐いて首を横に振った。
「…愚かだな」
片手に握っていた十字架を再び首に下げ、彼は僕から背を向けて歩き出す。
見逃してくれるのか?構えていた傘を下げると、彼は少し離れた場所で立ち止まって振り返った。
「お前は俺に会いに来たんじゃないのか?」
「えっ」
「三月兎を探していると聞いたような気がしたが」
垂れ目がちな青い瞳に見つめられ、僕はハッとする。
茶色の兎耳と言えば、確かに不思議の国のアリスの登場人物と合致する。そうか、彼は僕が探していた三月兎だったのか。
「さ、探してました…」
「話があるなら聞いてやる。ついて来い」
再び歩き出す彼に、僕は慌てて後ろからついていく。
近くまで寄って初めて気が付いたが、彼は随分と背が高いようで、190cmはありそうなその背丈とガッチリとした体格に圧倒されてしまう。
よく見ればスーツの上から羽織った細い布は西洋の神父を連想させる格好だ。
「お前に配役はあるのか?名前は?」
「ええっと、ジャバウォックらしいです。名前はアスカって言います」
「ジャバウォックか。つい最近、埋葬したばかりだと思ったが、もう補充されたのか。気の毒な配役だ、同情する」
淡々とした口調だが、ジャッジよりも高圧的な喋り方だ。彼は森の中を歩きながら、こちらを見もせずに話を続けた。
「俺は知っての通りの三月兎だ。名前はイディオット」
「イディオット…」
イディオットと言えば、英語なら「間抜け」「馬鹿」という意味がある。それを名前として呼ぶのは、なんだか侮蔑するようで申し訳ないような気がする。
そんなことを考えていると、イディオットは僕が口にするより先にため息を吐いた。
「皆は俺に気を遣ってオットーと呼ぶが、別に好きに呼んだらいい。俺は自分の名前など、どうでもいい。元はさっきの双子から呼ばれた名称だから、侮蔑とは分かっているが、自分で自分の名前を考えるのも面倒だからそのまま使っている」
由来を聞けば納得だが、自分の名前にここまで頓着しない人がいるだろうか。それも目障りだから殺そうとした双子が名付け親とは、僕には理解しがたい感覚だ。僕は苦笑いする。
「じゃあ、オットーさんで…ちなみに、現実の名前を使おうと思わなかったんですか?夢から目覚めたいと伺ってるんですが、目覚めたいなら現実の名前を使えばいいのでは?」
僕がアスカという名前を現実から持ってきているように、名前が思いつかないなら現実の名前を使えば話は早いような気がした。
ジャッジは果たして現実に存在する人間なのか分からないが、イディオットは現実にいるはずだ。それなら、わざわざ現実離れした名前を使う必要もないだろう。
僕の問いにイディオットは険しい表情を更に険しくさせた。
「…俺は思い出せないんだ、現実の名前が」
先程まで威圧感すら感じる口調に、悩んでいるようなニュアンスが如実に混ざる。
「最初は覚えていたはずなんだ。それがそのうち朧気になっていって、気付いたら全く思い出せない。驚いたことに、周囲の人間に俺の名前を聞いても、その全員が俺の名前を忘れていた。だから、双子たちに呼ばれた名前をそのまま使った」
明るかった森の日が傾き、空が少しだけオレンジがかっていた。その日に彼は目を細め、肩を竦める。
「思い出したいんだ、自分の本当の名前。だから、別にここでの名前なんてどうでもいい。むしろ、自分の名前に頓着しない程度の方が愛着が湧かなくていい。俺の居場所は現実だ。お前も自分の名前を忘れる前に、早く夢から覚める方法を探した方がいいぞ」
イディオットが言うことが本当なのであれば、僕も僕の名前を忘れるのか。それは寂しいようで、逆に彼ほどは惜しいものではないような気もした。
僕は自分の名前は嫌いではない。ありふれてはいるが、キラキラネームでもなければ古風すぎない。語感だけで言えば、こうして男女どちらの名前ともとれて便利だが、それを漢字に起こした時に違和感があった。
香という字は日本では女性名として使われるのが一般的だ。僕は女性として扱われて、あまり良い思い出がない。良い思い出がないだけで、悪い思い出も詳しく覚えてるわけでもないが。
「オットーさんも夢から覚める方法は分からないんですか?」
「分かっていたら、もう現実に帰っている」
「ああ、まあ確かに言われてみれば…」
ぐうの音も出ないイディオットの返答に僕は思わず乾いた笑いを返す。しかし、こんなずっと怒っているような話し方をされると、どうにも萎縮してしまう。話しづらかった。
「あ!オットーさん!お帰りなさい!」
森を抜けると、どこかの崖下に出た。崖下に作られた巨大な穴の傍に立っていた数人の人間たちは僕らの姿を見ると、パッと顔を明るくして声を上げる。
この近辺の人々だろうか…ジャッジからは穴倉に三月兎が住んでいるとしか聞いていなかったから、こんなに人数がいるとは思わなかった。どう挨拶するべきか悩んでいると、先に隣のイディオットが口を開いた。
「ただいま。隣の彼は新しいジャバウォックだ。どこか今日一日泊まれる場所を貸してやってくれ。もう日が暮れる」
思ってもいなかったイディオットの答えに僕は思わず彼を見上げる。イディオットは相変わらず眉間に皺を刻んでいるものの、先ほどよりも柔らかい眼差しで、口元には微笑すら浮かべている。
「いいんですか?」
「いいも何も日が暮れた森は真っ暗だぞ。そんな場所でアマネに…お前の宿敵の村人に遭遇したらどうする気だ。それとも、まだ自分の配役の意味を分かっていないのか?」
思わず尋ねると、イディオットは再び表情を険しくして組み、ふんと鼻を鳴らす。
口調は怒られているように感じるが、言葉の内容は僕の身を案じているようではある。それに真っ暗闇でアマネに遭遇したら、次こそ殺されるのは間違いない。彼の言っていることは最もだった。
「すみません…」
「謝るな、気を付ければいい」
彼はトンと僕の背中を押すと、洞窟の中へ入るよう促す。傍にいた人間たちのうちの優し気な女性が僕の傍に寄ってくると、ニコニコと微笑みながら僕を案内するように背中に手を添えた。
「後で時間が出来たら部屋に顔を出す。ゆっくり休んでろ」
背後から追撃を掛けるようにイディオットが言葉を投げかける。それに僕は振り返って会釈を返すと、彼はまた大きな溜息を吐いてから他の人々へと視線を移した。
「オットーさん、ちょっと怖いでしょう?でも、いい人なのよ。怖がらないであげてね」
身を縮こませていた僕に、隣の女性が困ったように笑いながら言った。現実では有り得ない、彼女の美しい桜色の髪からは優しい花の香りがした。
彼女の表情を見て、それだけ僕が萎縮していることが見てわかるのだと気付く。
「すみません…」
「謝るのが癖なのかしら?人間、謝罪は美徳とされがちだけど、感謝の気持ちを先に伝えるようにした方が人生お得よ」
優しく諭すように彼女は僕の頭を撫でる。僕もとうに成人しているはずだが、もしかすると彼女は僕より年上なのかもしれなかった。
「オットーさんは嫌いな人間を自分の集落に連れてきたりはしないわ。もっと自信を持って、顔を上げて歩いてもいいのよ」
彼女はクスクスと笑いながら歩く。自信…そんなものを僕は持っているだろうか。僕は特筆することもない、ただの一般人だ。どこに自信を持てというのだろう。
彼女に連れられて歩く洞窟の中は光る水晶や宝石、ランタンであふれていて、まるでテーマパークの夜のように暗いけど、視界には困らなかった。点々と先々で光って見える明かりが、まるでイルミネーションのように美しい。
よく見れば、足元や壁に生えるコケやキノコも発光している。是非とも食べたくはないキノコだ。一体、どんな成分で光っているんだろう…。
「今日の晩御飯はこの洞窟でとれるキノコのスープよ!楽しみにしてて!」
「えっ、あっ…ありがとうございます」
まるで僕の心を読んだかのように彼女が発光するキノコを指さして笑う。
伏線回収早くない?これ本当に食べられるの?ちょっと怖いな…。
洞窟の通路を抜けると、開けた場所に出る。そこには屋台やテントのようなものが点在しており、なかなかの人数がここに住んでいることが伺えた。
「ここの集落って、みんなオットーさんの仲間の人なんですか?」
「そんな感じかしら?彼の考えに共感して、一緒に夢から目覚めたいって人が集まっているの。彼はとても人望のある人よ。オットーさんはリーダーに相応しいと思うわ」
僕の質問に女性は周囲の人々を眺めながら頷く。その表情は明るく、本当にイディオットのことを慕っていることが伺えた。
「お?新入り?」
「新入りになるかは分からないけど、オットーさんが連れてきた子よ。今日はここに泊っていくらしいわ」
通りかかった屋台の人に声を掛けられ、女性が簡潔に答える。挨拶をするべきかと視線を泳がせていると、屋台の男性はニッと笑って僕にオレンジのようなフルーツを差し出す。
「じゃ、兄ちゃんこれ持ってけよ!オレンジに見えるだろうが、皮向いたらブドウの実が出てくるぞ!美味いから食ってみ!」
手渡されたオレンジ色の実を受け取る。オレンジなのにブドウってどういうことだ。矛盾だらけの解説に僕はとりあえず笑顔を作った。
「ありがとうございます…」
「この子、こんなにおどおどしているのにジャバウォックらしいの」
上手く話に入っていけない僕の傍で女性が会話を続ける。それを聞いた男性は僕を見て目を丸くした。
「ジャバウォック!それはまた随分レアな配役貰ったなあ!俺なら願い下げだけどな!」
「配役ってみんなにあるものじゃないんですか?」
恐る恐る会話に混ざってみると、彼らは僕の言葉に一緒になって首を横に振った。
「ないない!俺なんかただの一般市民Aだよ!」
「私もそれなら、市民Bといったとこかしら?童話に出てくるような配役は欠員がいないと補充されないもの。でも配役があるからって必ず得するとは限らないけど…」
途中まで饒舌に話していた女性が困ったように笑って口を噤む。屋台の男性も肩を竦めると、彼女の代わりに言葉を続けた。
「ほら、現実でもあるだろ?天才が必ずしも得したり、認められるわけじゃないって。死ぬまで貧しかった天才画家がいたり、革命を起こした政治家が暗殺されたりさ。才能や肩書ってそれだけの苦悩があったり、目立つだけの代償がある。俺は一般市民で良かったと思うよ。適当に暮らして、適当に遊ぶ。自分が幸せだから、それだけで満たされるのさ」
彼の話は少しばかり納得いくようで、いまいち腑に落ちない気持ちもあった。
才能や能力は生まれ持ったら絶対に得になると思っていたのだ。伝記に描かれる天才たちはいつだって輝いていて、みんなから愛され、認められている。
愛はいくらあっても困らないだろう。承認されることは嬉しいことだろう。生まれつきそんなステータスがあるなら、それを欲さないわけがないのではないのか?
だけど、彼の言うことも一理あるのも頭では理解できるのだ。自分の場合はこの世界に限った話だが、生まれついてのジャバウォックという配役を与えられている。最強と謡われる配役でありながら、村人のアマネに連敗している誰かの補欠。そんなのは最強とは呼べないし、自分だってアマネに殺されかけたばかりだ。なんなら、ジャバウォックだからとアマネに狙われている。損しかないのは明白だった。
考え込む僕に、女性も一緒に考えるように唇に手を当てた。
「でも、私は思うのよね。天才っていないんじゃないかって」
彼女の言葉に僕と男性が振り返る。僕らの顔を見ると、彼女は照れたようにはにかんだ。
「あくまで私の考えでしかないけどね。でも、天才たちも生まれてすぐに何でも出来たわけじゃないでしょう?みんな同じ、ハイハイから頑張って立ち上がって、一生懸命歩き方を覚えた人間よ。その人たちがどうして凄いことが出来たのかって、努力したからじゃない?」
「努力だけで天才が生まれるかあ?99%は努力にしろ、1%は才能だろ?」
「そうかしら?アインシュタインは確かに1+1は2じゃないって答えたけど、それは着眼点がちょっと違っただけじゃないかしら?その考え方を肯定してくれて、バックアップしてくれる両親や環境があったのは幸運よ。もし彼があの場で否定されて、誰からもバックアップを受けなかったら、もう少し変わっていたかもしれないわ」
確かに世紀の大発見をしたところで、それを周囲が認めなかったら「発見」とは言われなかっただろう。環境や運が左右するというのは頷けた。
「じゃあ、あの環境がなかったらアインシュタインは今頃天才と言われてなかったってことですか?」
僕が尋ねると、女性は目を閉じて首を傾げた。
「…どうかしらね。天才と呼ばれる人の中には『地球は平たい』と言い張る周囲に『地球は丸い』と意地でも言い張り続けて、裁判にかけられたあげくに死ぬまで認められなかった人もいるわ。でも、今では『地球は丸い』って言われているのは、彼が自分を信じて証拠を集めて、頑張って頑張って自分を貫いた努力の成果じゃないかしら。アインシュタインもその場で否定されたとして、自分の主張を死ぬまで貫き通したら、きっと未来は同じよ」
そこまで話すと、女性はハッと思い出したように目を大きくした。
「いけないわ!炊事の準備もあるのにこんな油売って!ごめんなさいね、私この子を宿泊所に案内して、晩御飯作らないといけないの」
「ああ、そうだったのか!悪いな、引き留めて」
彼女の言葉に男性も目を丸くすると、またニッと歯を見せて笑った。
「んじゃ、またな!兄ちゃんもよく寝るんだぞ!」
手を振る彼に僕は会釈を返し、女性も朗らかに笑って歩き出した。
「…さっきの話じゃないけど」
歩きながら女性が小さく呟いた。
「貴方ももっと自分の考えたこと、素直に話したって大丈夫よ。貴方が自分の味方になってあげられたら、きっと未来は明るいわ」
彼女の言葉に僕は顔を上げる。彼女はずっと進行方向を見たままだったが、その表情は優しかった。
開けた場所を抜け、再び狭い通路へと入る。その先をしばらく歩いて、右に曲がった場所にある六畳程度の広すぎないスペースに通されると、彼女は僕の背中を軽く叩いた。
「ここが貴方のお部屋よ。オットーさんにも伝えておくわ。ご飯が出来たら持ってくるし、なんなら集落を見て回ってもいいからね。囚人扱いとかじゃないから、安心して。私は炊事当番だから、もう行くわね!」
女性が背を向けて歩き出す。
あっ、今言わないといけない。僕は咄嗟に口を開く。
「あの!」
「ん?」
「ありがとうございました。凄く、勉強になりました」
立ち止まって振り返る彼女に僕はぺこりと頭を下げる。彼女は驚いたように僕を見つめていたが、目を細めて笑った。
「お勉強できる子は育つ子!大丈夫よ!自信もって!」
彼女は満面の笑みでそう言うと片手で拳を作って、応援するように掲げた。それに僕も笑みを返すと、彼女は手を振って来た道を帰って行った。
彼女がいなくなったその場を見回す。この部屋には簡易的な、何かを袋詰めにしただけのベッドと毛布。木製の粗末な椅子と机が置かれている。廊下の発光する水晶が明るくてあまり視界には困らないが、机の上にはランタンが置かれており、もっと明るく出来るよう設備が整えられていた。
僕はジャッジから貰った傘を壁に立てかけ、屋台の男性から貰ったオレンジのような何かを机に置いてから、ランタンに手を伸ばす。ランタンにつけられたダイヤルを回すと、中に入った水晶のようなものが大きく光りだし、現実のランタンと遜色ない明かりを放った。
それを机に置きなおし、僕はベッドに寝転がる。
なんだか脳みそが疲れている感じがした。この世界にきてまだ一日だが、うちの半分以上をジャッジと過ごしていた。ジャッジの周囲の時間は止まっている。もしかしたら、もっと長い時間をここで過ごしているのかもしれなかった。
「自分の話をもっとする…自分が自分の味方になる…」
女性に言われたことを思い返しながら僕は呟く。
自分の話をするのは苦手だった。自分が思っていること、感じていること、それらに周囲の人間が興味があるとは思えなかったし、周囲の時間を自分の話に費やすことに罪悪感があった。
僕の母はよく自分の話をする人だった。僕が何を話しても、大して関心を持たなかった。僕が話している間に、気付くと母の話にすり替わって、いつの間にか聞いているのは僕になっていた。
だから、彼女は僕に興味がないんだろうと思うようになった。母親である彼女が僕に興味を持たないのであれば、他に誰が僕に興味を持つだろう。そう考えると、人に何かを伝えるのは意味がないような気がしたのだ。
小学校の時に、初めて周囲の意見に逆らったことがあった。クラスメイトが隣のクラスメイトの悪口を言ったので、僕は「あなたも悪いんじゃないか」と言った。その子は僕の言葉に泣いてしまった。
僕は喋らない子供だったし、あまり女の子らしくなかった。だから、元から友達があまりいなくて、僕がそのクラスメイトを泣かせたことで周囲は僕が酷いことを言ったのだと誤解した。
誤解だと言った。言葉がきつかったかもしれないが、僕は間違っていないのではないかと話した。それでも、複数人に囲まれて「なんで泣かせたんだ」と詰め寄られると、怖くなって僕は謝ってしまった。
誰も僕の話など興味がない。話したって意味がない。そう強く思ったことを鮮明に覚えている。僕がどう感じたか、どうしたかなんて、大多数が信じないなら意味がない。多数決で正義は決まる。
地球が丸いと言い始めた人は誰だっけ…ピタゴラス?ガリレオ?コペルニクス?よく分からないが、裁判に掛けられるほど否定されても貫いたのだと思うと確かに凄い。
でも、それはそれだけ自分を信じられるから、それだけのものを持っていたからではないのか?僕に出来るわけなんてない。成し遂げたのは偉人なのだから。
僕は自分の味方をしてあげる気にはなれない。
「…おい、飯いるか?」
急に飛び込んできた言葉に僕はバッと身体を起こす。部屋の入り口にイディオットが器を2つ持って立っていた。
「あっ、すみません…」
「なんで謝る」
「いや、だって持ってきて貰ってしまって…」
ベッドに座ったまま口ごもる僕に、イディオットはふうとため息を吐く。持って来た器のうちの一つを机の上に置くと、彼は相変わらず険しい顔で僕を見下ろした。
「勝手が分からないんだから、最初は誰かに習うのは当然だろ。お前は誰にも飯のありかを聞いていないし、配給されるタイミングも方法も分からない。なら、誰かが持ってきてやるべきだ。それとも、お前はそうされなくとも、この集落の勝手が分かるエスパーか?」
彼はそこまで言うと、顎でしゃくって机の傍の椅子を示す。
「そっちに座るといい。机がある方が食べやすいだろう」
「…ありがとうございます…」
表情は怖いが、その口調は優しい。僕は静かにベッドから立ち上がると、言われるがままに椅子に座る。イディオットはそれを見届けると、恐らく彼の分と思われる器を持って、僕と向かい合うようにベッドに座った。
この人、僕にはベッドから椅子に移るように言ったのに、自分はベッドに座って食べるんだ。それはとても細かな気遣いのように感じられた。
机に置かれた器の中には見たことも無いような水色のスープが入っていた。浮かび上がる具材のキノコはやはり明るい水色の光を発しており、なんなら水面はよく見ると七色に光る。
まずそう。その一言に尽きる。
「この世界で飯を食うのは初めてか?見た目はなかなかグロテスクだが、トゥルーの作る飯は美味いぞ」
気持ちが表情に出ていたのか、僕が言葉を発するより先にイディオットが言う。
彼はスプーンも使わずに器に口を付けると、豪快に一口飲み込む。彼の喉仏が上下するのと同時に、彼の喉が内側から薄ら水色に光り、それはそのまま胴体へと流れて消える。
絶対あのキノコの光だ…食べたらお腹光ったりしないのかな…。
「トゥルーって…?」
「お前をここに案内した女性の名前だ。現実の名前は、俺を含めた全員が忘れてしまったけどな」
あの優しげな女性か。
僕は器の傍に置かれた木製のスプーンを手に取り、恐る恐る器の中身をすくって口に含む。
こんな見た目なのに、味はちょっとクラムチャウダーみたいで美味しい。まったりとした舌触りに、絶妙な甘さと塩味に思わず目を開く。
「…美味いだろ」
イディオットが僕を見つめて言う。相変わらず眉間に皺を寄せているが、どこか嬉しそうに彼は口元をほころばせる。
「彼女は料理上手なんだ。この集落では料理長みたいなことをさせてしまっているが、彼女も快く引き受けてくれている。おかげでQOLが上がったよ」
「QOL?」
「クオリティオブライフだ」
そんな言い方する人、初めて見た。などと思いつつ、それは僕の周囲の話だ。うっかり無知を披露してしまったので、ちょっと恥ずかしい。
「美味しいです。未知の食材なのに、凄い」
「努力家なのさ。だから、叶うようにって名前をつけた。この単語だけでは真実ってのが正しいが…俺の気持ちではその意味だ」
トゥルー…確かにドリームカムトゥルーで夢は叶うという意味だ。正確にはカムトゥルーなのだろうが、確かに名前にするなら語呂が悪い。
「名前ってオットーさんが考えたんですか?」
「そうだ。何か変か?」
尋ねると、イディオットは何か文句でもあるのかと言いたげに片眉を上げる。
自分はイディオットなんて酷い名前なのに、他人の名前を気にするなんて変以外の何ものでもないだろう。
「自分の名前は気にしないって言ってたから…」
おずおずと理由を述べると、彼は珍しく驚いたような表情を浮かべた。
「…確かにそう考えると、変な話か。だが、自分が信頼して大事にしている人間には良い名前を与えたいものだろう。仮初のものでも」
「まんま貴方に言えるじゃないですか」
「…」
言い返すと、彼は口を曲げて黙り込む。妙な沈黙。言ってはいけないことだっただろうか。いや、でも本当のことだ。
イディオットは少し照れたように顔を赤くすると、咳払いをしてから一気にスープを飲み干した。
「いや、だから俺は愛着がないくらいが…まあ、もうこの際、名前の話はどうでもいい。お前がしたい話は、現実に帰る方法についてだろ」
露骨に話を逸らされたが、彼の言う通りだ。僕が聞きに来たのはスープのレシピでも名前の由来でもなく、夢から目覚める方法だ。
飲み干した器を持ったまま、彼は僕に向き直る。
「まだ方法が確立されているわけではないが、可能性として現実味を帯びてきている。調査中と言うのが正しいか」
彼の言葉に僕も身を乗り出す。
帰るために自分が出来ることがあるならと耳を傾けた。
「この世界から逃れるには、アリスに門の扉を開いてもらう必要がある。そもそも、何故彼女が門の扉を閉めてしまったのかも分からないが、怪しいのはその当日からこの世界にいる住民たちだ。不思議の国のアリスの中でも、当時はお茶会のメンバーしかいなかったことは、古い手記や聞き込みで分かっている」
「古い手記?どれくらい古いんですか?」
僕はこの世界は長く見積もって数年程度だと思っているが、彼の口ぶりは、まるで古い歴史を探る学者のようだ。
イディオットは片眉だけ上げると、自分の顎を指で撫でた。
「これはあくまで俺たちが立てた仮説だが、恐らく現実と夢の中で時間の流れが違う。恐らく、こっちの方が時間経過が早いんだ。現実のアリスが何らかの病や外傷で植物状態と仮定しても、人間をベッドの上で生かすにもかなりの金がかかるはずだ。一般サラリーマンがその代金を払うとしたら、そんなに長く生かせるとも思えない。せいぜい現実では数年…だが、こっちでは短く見積もって5年以上の時間が経過している。俺がすでに4年ここで暮らしてるからな」
想像よりも長い年月に僕は言葉を失う。
イディオットはすでに4年もここで?それなら、僕だってそうなり得る。1ヶ月も経てば、何となく帰れるような気がしていた。
甘かった。これだけ必死に現実に帰ろうと、集落まで作ってしまう人が4年も帰れないのに、僕なんかが帰れるわけがない。
「当時いたのはアリス、帽子屋、三月兎、眠り鼠…白兎については、いたのかどうか分からない。むしろ、今もいるのか分からない。見たことがあるのがアリスと帽子屋だけだからな」
白兎と聞いて僕は顔を上げる。ジャッジなら会ったばかりだ。確かに彼は今話せるのは僕と帽子屋だけと言った。
しかし、ふと思い至る。彼はアリスと話せるとは言っていなかった。
何故、彼はアリスの名を告げなかった?
「現在、代替わりが確認されているのは俺が今やっている三月兎の配役のみだ。アリスはこの夢を作った本人なのだから、代替わりはしていなくて当然。帽子屋は殺されたという証言がそろっているが、代替わりは確認されていない。つまりは補充されずに欠番のままだろう。残るは眠り鼠だが…彼女は代替わりしていないことが分かっている」
最初に4人しかいなかったと仮定すると、最初期にいるうちの二人は何らかの理由で死んでおり、生きているのがアリスと眠り鼠だけ…そう考えると、僕にも三月兎が言いたいことはなんとなく予想できた。
「アリスを騙し、帰りの門を封鎖して、アリスを幽閉できるのはどう考えても眠り鼠しかいないんだ。恐らく、帽子屋を殺したのも眠り鼠だ」
「それは何か証拠が?」
「ああ。彼女が帽子屋を殺したと話しているのを実際に自分の耳で聞いた。鼠が話していた相手はあの双子たちだ。そのことについて詳しく聞き出そうとしたが…仲間が殺されてしまったから、それ以上の話は出来なかった」
そこまで話すと、イディオットは悔しそうに目を閉じて俯いた。膝の上で彼は拳を作り、固くそれを握りしめる。ここから見ても分かるほどに震えるそれは、恐らく悔しさから来るものだろう。
この人は言葉や表情が怖いけど、本当に仲間思いの人なのだろう。自分よりも仲間にされた仕打ちに怒って、悲しめる人だ。考えてみれば、僕が謝るたびに彼はいつも「謝るな」と言っていた。きっとあれは怒っていなかったのだ。僕が勝手に萎縮していただけ。
そんな人が過去を悔やむ姿に、僕はなんと声を掛けたらいいか分からずに一緒に下を向く。テーブルに乗った光るスープは少しばかり冷めていた。
「…すまない、話が少し脱線した。つまり、俺たちは眠り鼠がいる城にアリスは幽閉されていると踏んでいる。この世界はアリスの夢、アリスを殺してしまっては乗っ取ることすら出来ないはずだからな」
イディオットは溜息を吐くと、畳みかけるように話をまとめた。何となく彼らのしていることは分かったし、イディオットがあれだけ双子に敵意を向けたのも分かった。
仲間を殺した敵の身内だから、目障りなのだ。そんなこと、当たり前すぎる感情だろう。それなのに、彼は双子を庇った僕をこうして集落に招き入れ、眠る場所とご飯まで用意してくれている。とても器が大きいのだろう。
「だから、夢から目覚めたいなら俺たちと行動を共にすればいい。仲間になってくれるなら、衣食住の保証はしよう」
「…ありがとうございます。でも、僕がいればアマネがいずれ襲ってくるのでは…?」
匿ってもらえるなら、それに越した話はない。僕だってアマネに殺されたいわけではない。だけど、こうして仲間を殺されて辛い思いをしている彼の傍に、アマネを呼んでいいわけがないだろう。
アマネがどれほど強いのかは分からない。イディオットだって恐らく強い。それでも、ジャッジはアマネに物理的に敵う者はいないと言っていたんだ。それはアマネがこの世界で群を抜いた強敵であると言っていることに違いないだろう。
僕の言葉にイディオットは顔を上げると、口の端を片側だけ上げた。
「アマネの正確な戦闘力はまだ把握できていないのは確かだが、武器の生産も出来るようになって、集落も人が随分と増えた。俺もこの4年間で何も学ばなかったわけではない。多少の応戦は出来ると踏んでいる」
「オットーさんが強いのは分かってます、見ましたから。でも、ジャッジさんが…白兎がアマネには近寄るなって言ってたんです」
「白兎?」
僕の言葉にイディオットが目を見開く。彼はベッドから立ち上がると、僕の肩を掴んだ。
「白兎に会ったのか!?いつ、どこで!何を話した!?」
「あ、え、今日会ったばっかりです…」
あまりに凄い剣幕に気圧されて、僕は思わず目線を逸らす。どこを見ていいのか分からずに視線をさまよわせていると、イディオットは我に返ったように優しく僕の肩から手を取り払い、その場に静かに膝をついて座った。
「…悪かった、ちょっと興奮してしまった」
ふうと大きく息を付き、彼は眉間に寄った自分の皺を自分の中指で押して広げる。どうやら自分の眉間にいつも皺が寄っている自覚はあるようだ。
イディオットの背が高すぎるからか、僕の体格が女性ベースで小さいからか分からないが、膝をついて地面にしゃがむ彼と椅子に座る僕の視線は大体同じくらいだった。なんだか複雑だ。
「いえ、僕なんかでも役に立つ情報があるなら、いくらでも話します」
匿ってくれるとまで言ってくれている相手に何もしないのは申し訳ない。頬を掻きながらはにかむと、イディオットも少しだけ口元を緩めて笑う。
「白兎と対話できる者はいないからとても助かる…が…」
ふと、再び彼は顔を険しくさせた。
「アリスと帽子屋が白兎と対話できるのは何となく理解出来るんだ。この世界の要だからな。だが、三月兎と眠り鼠とは対話できないのに、何故ジャバウォックが…?お前を疑うわけではないが、変な話じゃないか?」
彼に言われて、僕は目を見開く。確かにおかしな話だ。何故、お茶会に招かれた最初の4人ではなく、たかが物語の一部…それも詩に登場するだけの存在で、もはやアリスに直接的な関係すらないジャバウォックが話せるんだ?
「その白兎は本当に白兎だったのか?騙されたとかではなく?」
眉間に深い皺を刻んで、イディオットが僕を覗き込む。それは疑っていると言えば、確かに疑っているのだろうが、どちらかと言えば子供を心配する父親のような不安を含んだ口調だ。
イディオットの反応は最もだ。僕がイディオットで、逆の立場だったら同じように信じない。この世界に来て1日目の新参者で、世界のルールすら知らない人間が、今までみんなが会いたくとも会えなかった存在に会ったと言うのだ。幼い子供がお化けを見たと、何もいない空間を指さして話すくらい信憑性がない。
そうやって疑われると、自分すら疑いたくなる。夢を見ていただけなんじゃないか、何か勘違いしただけなんじゃないかと。
自分が見てきたものが正しいなんて言い切れるか?ジャッジが本当に白兎だったなんて、誰が言い切れる?彼が善人だった証はあるのか?自分が聞いた言葉が、自分の中でねじ曲がってしまっていないか?
自分の言動に急激に自信がなくなる。血の気が失せるように頭が冷えていく。その瞬間、ふと目の端に黒い傘が映った。
ジャッジは僕が選ぶ正解を見たいと言ってくれた。この服装を肯定してくれた。誰の事も否定しない、冷めているようで優しい公平な人だった。
僕が彼を白兎だと信じているなら、それでいいんじゃないか?他に誰も見ていなくても、僕は確かに彼に出会った。土砂降りの中で彼に命を救われた。
彼は僕の命の恩人で、白兎で、僕にとっては善人だ。僕が口に出せるのはその事実だけじゃないか。
「…僕は彼は白兎だと僕は思っています。どうしてジャバウォックの僕が話せるのかは分かりませんけど、今の彼はジャバウォックと帽子屋としか話せないと言っていました」
言葉の一つ一つを噛みしめるようにイディオットに伝える。じっと僕を見据える青い目に僕は笑って見せる。
「僕はこの世界では生後1日目なので、確証はないです。でも、僕は彼がいたおかげで生き延びて、彼は良い人だったと思っています。人を騙すような人じゃないと思います」
イディオットは僕の言葉に耳を傾けていたが、目を閉じてクツクツと喉を鳴らすように笑った。
「…そういうスタンスは嫌いじゃない。俺も、俺が見て感じたものを一番に信じるタチだ。そんなに信じてるなら、その白兎について詳しい話を聞かせて欲しい。俺もお前が見たものを信じる努力をしたい」
あの恐ろしく見えていた青い瞳の中心に僕が映り込む。不思議と恐怖はもうなかった。
それから僕はこの世界に来てすぐにアマネに襲われたことも、ジャッジに救われたことも、ジャッジが話してくれたことも事細かに彼に伝えた。イディオットはずっと険しい顔をしていたが、時折感心したように目を丸くしたり、深く頷いてくれたりした。
「一緒にいると雨が降って、自分たち以外の時間が止まる存在…面白いな。確かにその特徴なら白兎と話せた者がやけに少ない理由も頷ける」
僕の話を全て聞き終えたイディオットは自分の顎を撫でながら小さく笑う。
「お前が白兎と話せるなら都合がいい。何の通信機器もない世界だから難しいかもしれないが、可能ならまた白兎を見つけて話をしてくれないか?最初の4人に何が起きたのかを知りたい。その情報を得られるなら、アマネが来るリスクを負う価値はある」
途中から僕のベッドに腰かけて話を聞いていたイディオットが自分の組んだ膝に腕をついて身を乗り出す。
見つけてくれ、ということは少なからず僕のことを信じてくれているのだろう。これから衣食住のお世話になるなら、その分の働きはしたい。それに、今なら彼を慕う集落の人たちの気持ちが分かる。
彼はちょっと怖いけど、いい人だ。仲間思いで、ちょっと心配性な厳しいお父さんみたいな人だ。
「わかりました!やってみます!」
僕は笑って頷く。この世界で初めて任された仕事は、白兎のジャッジがいることを証明して、イディオットからの疑問を伝達をすることだ。
白兎がいると分かっているのは自分だけ。自分の信じているものは、自分が証明しなくては誰にも証明できない。
イディオットが言う通り、こればっかりは僕しかいないのだ。
ジャッジに言われたように、彼の家を出てひたすらに真っ直ぐに歩いた。幸いなことに、あれからアマネに遭遇することもなく、無事に目的地へと近づけているようだった。雨が綺麗に止んだのが、それだけジャッジから離れた何よりの証だ。
「ねえねえ、お兄さん!どこ行くの?シュラーに会いに行くの?」
「なあなあ、お姉さん!どこ行くんだ?フロージィに会いに行くの?」
突然、子供の声が重なって背中を叩いた。振り返ると、そこにはまだ中学生くらいの子供が2人。2人とも黒い髪に軍帽のような帽子を被り、ドイツの軍服を思わせる赤い色の制服を身にまとっていた。
2人ともつり目がちで大きな目をしており、鼻から下もそっくりだ。いわゆる双子なのかもしれないが、声の高さが男女のそれだ。髪の長い方が女の子、短い方が男の子なのかもしれない。
「ちがうよドゥエル!この人はお兄さんだよ!」
「ちげーよメベーラ!この人はお姉さんだぞ!」
2人は僕の手を片手ずつ掴んだまま喧嘩を始める。
これは困った。情報過多だし、置いてけぼりすぎる。しかも、男か女かと自分の状態を尋ねられると、僕も分からないし、僕も知りたい。
そこから二人は火が付いたようにわーわーとお互いを罵倒し合い、男の子は女の子の髪や服を掴んでひっぱり、女の子は男の子を拳でポカポカと殴る。迫力のない争いを始める子供たちに2人に僕は苦笑いした。
「あ、あの、ごめんね?シュラーとフロージィ?って誰のことだろう?」
「えっ!知らないの!?シュラーフロージィだよ!」
「そんなことも知らねーの!?眠り鼠の女王だよ!」
いちいち声が重なって返ってくるので音量2倍、なんなら微妙に2人が言っていることが違うので非常に聞き取りずらいし分かりずらい。
推測するならば、シュラーとフロージィは同一人物で、シュラーフロージィがそのまま正式名称。ジャッジが言っていた世界を治めている眠り鼠なのだろう。
「ああ、ええっと…ごめんね。僕はこれから三月兎に会いに行こうと思ってて」
僕の言葉に不意に二人がピタっと動きを止めると、きょとんとした目で二人は僕を見上げた。
「なんであんな変態のところに会いに行くの?」
「なんであんな悪党の場所にわざわざ行くの?」
相変わらずの二重奏だが、先ほどから打って変わって静かな物言いだ。それが妙に威圧的で、僕は思わず後ずさる。
「えっ…夢から目覚める方法を知っていると聞いたから…」
「なーんだ!三月兎の仲間じゃないのか!仲間だったら殺してやろうと思った!」
男の子がニカッと歯を見せて笑う。当然のように出てきた「殺す」というワードに一瞬、脳が追いつかなかったが、それが酷く物騒で、それでいてアマネからの襲撃を考えると現実味を帯びていて恐ろしい。
あくまで無邪気に話す彼に、女の子が腕を組んで鼻を鳴らした。
「あんな変態に会いに行くのやめなよ!アイツは年中ハツジョーキってやつで危ないんだってシュラーが言ってた!シュラーはいつだって正しいから間違いないよ!夢から覚める必要なんかないし!」
「発情期?」
三月兎の名称は確かに発情期の兎が狂ったように見えるからと、馬鹿にされる意味でついた名前ではあるはずだ。本当に彼が年中発情期ならば、それは危ないような気もした。レイプ魔とかだったら困る。
しかし、彼らの話を聞く限りでは、彼らはどうやら眠り鼠に心酔しているようだ。本当に正しいのかと言われれば、怪しいような気もする。
それに、どこまでも公平でいようとしていたジャッジが僕に会うのも手だと勧めてくれた相手が、そこまで危険人物だとはあまり思えなかった。ジャッジとは短い時間しか話していないが、彼はとてもじゃないが嘘を吐くタイプには見えない。
「そーだそーだ!メベーラの言う通りだ!お姉さん、一緒にフロージィに会いに行こうよ!ハツジョウ兎に会いになんて行くのやめよーぜ!」
男の子は僕の手を引いて歩き出す。その力はアマネほどではないが、子供にしては強い。不意に湧き上がる恐怖に僕は思わずその手を振り払う。
「あっ…」
振り払ってから、僕は慌てて二人の顔を見る。
二人は何故、僕が手を振り払ったのかまるで理解できないと言うようにこちらをじっと見つめている。
その視線は、僕が現実で経験したものによく似ている。学校で大多数の意見に反発したときのクラスメイトの視線。「お前なんかが意見していいと思ってるの?」と言われているような冷ややかな瞳。
その視線を受けた時、自分の意見を通すことは悪だ。次の日からクラスに自分の居場所は消えてなくなる。異端者として、そのコミュニティからの離脱を無言で促される。徹底的な存在無視が始まるのだ。
「これは…その…」
僕は慌てて言い訳を頭の中で必死にかき集める。どうすれば二人の機嫌を損なわないで済むだろうか。そうだ、もし逆らったら殺されてしまうかもしれない。それなら自分の意見なんて言わずに、ただ黙って彼らについて行けばいい。
もしかしたら、その眠り鼠だって本当に優しい人なのかもしれない。夢から覚める方法を知っているかもしれない。
「お前はアマネが殺すって決まってんだからさあ、逃げるだけ無駄」
頭の中で蘇るアマネの声と姿。悪意だけで構成された彼が、僕を殺すと宣言していた。
眠り鼠はアマネの雇い主。そんな人と接触して、本当に安全か?村人の役割はジャバウォックを殺すことなのに?もし、それがこの世界のルールなのだとしたら、本当に安全か?
怖かった。二人に逆らうことも、眠り鼠に会うことも。
「…またお前らは人の悪口を吹聴して回って」
不意に少し離れた場所から低い男性の声がした。その声に反応するように双子が顔を上げた。その視線の先には茶色の垂れた兎耳をした黒いスーツ姿の男性が立っていた。
眼鏡にスポーツ刈りの濃い茶髪、浅黒い肌。草木をかき分けながら近づいてくる彼は、眉間に深い皺を刻んだ垂れ目気味の瞳で双子を睨む。
「うわっ、出た!変態だ!」
「げーっ!悪の親玉だ!」
双子たちは口々に悪態をつくと、彼を睨みつけて唸る。
眼鏡の男性は僕を見やると、ふうと溜息を吐いた。
「この双子の配役はディートルダムとディートルディーだ。攪乱するのが目的だ、騙されるな」
彼の言葉が早いか、ほぼ同時に男の子が懐から銃剣を取り出す。その切っ先を向けて眼鏡の男性に向けて射撃するが、男は手に持っていた分厚い本でそれを薙ぐ。ただの本なのに、それはカンッと甲高い音を立てて銃弾をはじき返した。
「殺す!」
女の子がベルトに下げていた鎖を手にとって、男の子と同じように男へと投げつける。その先には鎌のような刃がついてるが、男もまるで動じずに同じように本で防ぐと、もう片手で鎖を掴んで引き寄せる。
相手は子供だというのに、彼は容赦なく鎖と一緒に女の子を引き寄せると、彼女の胸倉を掴んで投げ飛ばす。投げられた女の子は傍の木の幹に強かに身体を打ち付け、痛みに呻いた。
「メベーラ!」
慌てて男の子が銃剣を片手に彼女の元へと駆け寄るが、男はその男の子に足を引っかけて転ばせる。ゴロゴロと地面を転がるように勢いよく倒れた彼は、女の子の上に重なるようにぶつかった。
「いたぁい!何すんのよ!」
「くそ…」
折り重なって倒れている二人を見下ろして、男性は神経質そうにスーツの埃を手で払う。首から下げてきた大きな十字架のネックレスを手に取ると、彼はツカツカと革靴を踏み鳴らして子供たちに近づく。
「前々から目障りだと思っていた。良い機会だから埋葬してやろう。殺された仲間の敵だ」
その小さな十字架は、よく見ると先が刃物になっている。短剣の一種だ。
こんな小さな子供たちを殺すということだろうか。仲間の敵らしいが、傍から見るそれはあまりにも惨く、一方的なように見えた。
僕は思わず三人の間に入り込むと、傘を両手で握りしめて男性の前に立った。
「や、やめて下さい!可哀想じゃありませんか!」
「可哀想?」
男は首を傾げると、不愉快そうに眉をしかめた。
「コイツらはいつもいつも俺のありもしない悪評を周囲に広め、大勢の人間を眠り鼠の指示で殺している。そいつらが殺されるのは当たり前の話じゃないか?自業自得、因果応報。自分がやってきたことが今ここで裁かれるだけだろう。現実の法があれば、とっくに死刑になっててもおかしくないぞ」
彼の言葉に僕は唾を飲み込む。
ここに来たばかりで、僕にはここの常識も情報もあまりに知識が足りない。どれが正しくて、何が正解かなんて分からない。
彼らはそんなに沢山の人を殺しているのか?でも、彼は自分の悪評を彼らのせいにするように、子供たちの悪評も噂とかだったりするんじゃないか?
世間の正解はなんだ?周囲が求める答えはなんだ?どうすれば自分の身が守れる?
そう思った瞬間に、ジャッジの顔が浮かんだ。自分の好きなようにしたらいい。自分が選んだ選択が、自分の正解だと、彼は言っていた。
僕の正解はなんだ?
「…それでも、嫌です」
絞り出す声が震えた。どう考えたって、この三人の戦力を見れば男性の方が強い。彼に任せて、彼が二人を殺めるのを見ていたって僕の手は汚れない。彼を敵に回した方がよほど怖い。
それでも、きっと彼らが殺される様を見ていながら、何もしなかったら、その時の自分をずっと後悔し続けるのは他でもない自分だ。
「お兄さん…」
後ろで身体を起こした女の子が呟く。僕はそれを振り返らずに声を張り上げる。
「逃げて!」
僕の言葉に背後の二人が立ち上がって走り出す。バタバタと騒がしく走っていく足音が遠のいていく間、男性はそれを追うでもなく僕の顔を見つめていた。
足音が消えてなくなり、彼らが遠くまで逃げたのが分かる。傘を握る自分の両手が震えていた。それでも必死に目の前の男性を睨みつけて威嚇していると、彼は眉間に皺を刻んだまま大きくため息を吐いて首を横に振った。
「…愚かだな」
片手に握っていた十字架を再び首に下げ、彼は僕から背を向けて歩き出す。
見逃してくれるのか?構えていた傘を下げると、彼は少し離れた場所で立ち止まって振り返った。
「お前は俺に会いに来たんじゃないのか?」
「えっ」
「三月兎を探していると聞いたような気がしたが」
垂れ目がちな青い瞳に見つめられ、僕はハッとする。
茶色の兎耳と言えば、確かに不思議の国のアリスの登場人物と合致する。そうか、彼は僕が探していた三月兎だったのか。
「さ、探してました…」
「話があるなら聞いてやる。ついて来い」
再び歩き出す彼に、僕は慌てて後ろからついていく。
近くまで寄って初めて気が付いたが、彼は随分と背が高いようで、190cmはありそうなその背丈とガッチリとした体格に圧倒されてしまう。
よく見ればスーツの上から羽織った細い布は西洋の神父を連想させる格好だ。
「お前に配役はあるのか?名前は?」
「ええっと、ジャバウォックらしいです。名前はアスカって言います」
「ジャバウォックか。つい最近、埋葬したばかりだと思ったが、もう補充されたのか。気の毒な配役だ、同情する」
淡々とした口調だが、ジャッジよりも高圧的な喋り方だ。彼は森の中を歩きながら、こちらを見もせずに話を続けた。
「俺は知っての通りの三月兎だ。名前はイディオット」
「イディオット…」
イディオットと言えば、英語なら「間抜け」「馬鹿」という意味がある。それを名前として呼ぶのは、なんだか侮蔑するようで申し訳ないような気がする。
そんなことを考えていると、イディオットは僕が口にするより先にため息を吐いた。
「皆は俺に気を遣ってオットーと呼ぶが、別に好きに呼んだらいい。俺は自分の名前など、どうでもいい。元はさっきの双子から呼ばれた名称だから、侮蔑とは分かっているが、自分で自分の名前を考えるのも面倒だからそのまま使っている」
由来を聞けば納得だが、自分の名前にここまで頓着しない人がいるだろうか。それも目障りだから殺そうとした双子が名付け親とは、僕には理解しがたい感覚だ。僕は苦笑いする。
「じゃあ、オットーさんで…ちなみに、現実の名前を使おうと思わなかったんですか?夢から目覚めたいと伺ってるんですが、目覚めたいなら現実の名前を使えばいいのでは?」
僕がアスカという名前を現実から持ってきているように、名前が思いつかないなら現実の名前を使えば話は早いような気がした。
ジャッジは果たして現実に存在する人間なのか分からないが、イディオットは現実にいるはずだ。それなら、わざわざ現実離れした名前を使う必要もないだろう。
僕の問いにイディオットは険しい表情を更に険しくさせた。
「…俺は思い出せないんだ、現実の名前が」
先程まで威圧感すら感じる口調に、悩んでいるようなニュアンスが如実に混ざる。
「最初は覚えていたはずなんだ。それがそのうち朧気になっていって、気付いたら全く思い出せない。驚いたことに、周囲の人間に俺の名前を聞いても、その全員が俺の名前を忘れていた。だから、双子たちに呼ばれた名前をそのまま使った」
明るかった森の日が傾き、空が少しだけオレンジがかっていた。その日に彼は目を細め、肩を竦める。
「思い出したいんだ、自分の本当の名前。だから、別にここでの名前なんてどうでもいい。むしろ、自分の名前に頓着しない程度の方が愛着が湧かなくていい。俺の居場所は現実だ。お前も自分の名前を忘れる前に、早く夢から覚める方法を探した方がいいぞ」
イディオットが言うことが本当なのであれば、僕も僕の名前を忘れるのか。それは寂しいようで、逆に彼ほどは惜しいものではないような気もした。
僕は自分の名前は嫌いではない。ありふれてはいるが、キラキラネームでもなければ古風すぎない。語感だけで言えば、こうして男女どちらの名前ともとれて便利だが、それを漢字に起こした時に違和感があった。
香という字は日本では女性名として使われるのが一般的だ。僕は女性として扱われて、あまり良い思い出がない。良い思い出がないだけで、悪い思い出も詳しく覚えてるわけでもないが。
「オットーさんも夢から覚める方法は分からないんですか?」
「分かっていたら、もう現実に帰っている」
「ああ、まあ確かに言われてみれば…」
ぐうの音も出ないイディオットの返答に僕は思わず乾いた笑いを返す。しかし、こんなずっと怒っているような話し方をされると、どうにも萎縮してしまう。話しづらかった。
「あ!オットーさん!お帰りなさい!」
森を抜けると、どこかの崖下に出た。崖下に作られた巨大な穴の傍に立っていた数人の人間たちは僕らの姿を見ると、パッと顔を明るくして声を上げる。
この近辺の人々だろうか…ジャッジからは穴倉に三月兎が住んでいるとしか聞いていなかったから、こんなに人数がいるとは思わなかった。どう挨拶するべきか悩んでいると、先に隣のイディオットが口を開いた。
「ただいま。隣の彼は新しいジャバウォックだ。どこか今日一日泊まれる場所を貸してやってくれ。もう日が暮れる」
思ってもいなかったイディオットの答えに僕は思わず彼を見上げる。イディオットは相変わらず眉間に皺を刻んでいるものの、先ほどよりも柔らかい眼差しで、口元には微笑すら浮かべている。
「いいんですか?」
「いいも何も日が暮れた森は真っ暗だぞ。そんな場所でアマネに…お前の宿敵の村人に遭遇したらどうする気だ。それとも、まだ自分の配役の意味を分かっていないのか?」
思わず尋ねると、イディオットは再び表情を険しくして組み、ふんと鼻を鳴らす。
口調は怒られているように感じるが、言葉の内容は僕の身を案じているようではある。それに真っ暗闇でアマネに遭遇したら、次こそ殺されるのは間違いない。彼の言っていることは最もだった。
「すみません…」
「謝るな、気を付ければいい」
彼はトンと僕の背中を押すと、洞窟の中へ入るよう促す。傍にいた人間たちのうちの優し気な女性が僕の傍に寄ってくると、ニコニコと微笑みながら僕を案内するように背中に手を添えた。
「後で時間が出来たら部屋に顔を出す。ゆっくり休んでろ」
背後から追撃を掛けるようにイディオットが言葉を投げかける。それに僕は振り返って会釈を返すと、彼はまた大きな溜息を吐いてから他の人々へと視線を移した。
「オットーさん、ちょっと怖いでしょう?でも、いい人なのよ。怖がらないであげてね」
身を縮こませていた僕に、隣の女性が困ったように笑いながら言った。現実では有り得ない、彼女の美しい桜色の髪からは優しい花の香りがした。
彼女の表情を見て、それだけ僕が萎縮していることが見てわかるのだと気付く。
「すみません…」
「謝るのが癖なのかしら?人間、謝罪は美徳とされがちだけど、感謝の気持ちを先に伝えるようにした方が人生お得よ」
優しく諭すように彼女は僕の頭を撫でる。僕もとうに成人しているはずだが、もしかすると彼女は僕より年上なのかもしれなかった。
「オットーさんは嫌いな人間を自分の集落に連れてきたりはしないわ。もっと自信を持って、顔を上げて歩いてもいいのよ」
彼女はクスクスと笑いながら歩く。自信…そんなものを僕は持っているだろうか。僕は特筆することもない、ただの一般人だ。どこに自信を持てというのだろう。
彼女に連れられて歩く洞窟の中は光る水晶や宝石、ランタンであふれていて、まるでテーマパークの夜のように暗いけど、視界には困らなかった。点々と先々で光って見える明かりが、まるでイルミネーションのように美しい。
よく見れば、足元や壁に生えるコケやキノコも発光している。是非とも食べたくはないキノコだ。一体、どんな成分で光っているんだろう…。
「今日の晩御飯はこの洞窟でとれるキノコのスープよ!楽しみにしてて!」
「えっ、あっ…ありがとうございます」
まるで僕の心を読んだかのように彼女が発光するキノコを指さして笑う。
伏線回収早くない?これ本当に食べられるの?ちょっと怖いな…。
洞窟の通路を抜けると、開けた場所に出る。そこには屋台やテントのようなものが点在しており、なかなかの人数がここに住んでいることが伺えた。
「ここの集落って、みんなオットーさんの仲間の人なんですか?」
「そんな感じかしら?彼の考えに共感して、一緒に夢から目覚めたいって人が集まっているの。彼はとても人望のある人よ。オットーさんはリーダーに相応しいと思うわ」
僕の質問に女性は周囲の人々を眺めながら頷く。その表情は明るく、本当にイディオットのことを慕っていることが伺えた。
「お?新入り?」
「新入りになるかは分からないけど、オットーさんが連れてきた子よ。今日はここに泊っていくらしいわ」
通りかかった屋台の人に声を掛けられ、女性が簡潔に答える。挨拶をするべきかと視線を泳がせていると、屋台の男性はニッと笑って僕にオレンジのようなフルーツを差し出す。
「じゃ、兄ちゃんこれ持ってけよ!オレンジに見えるだろうが、皮向いたらブドウの実が出てくるぞ!美味いから食ってみ!」
手渡されたオレンジ色の実を受け取る。オレンジなのにブドウってどういうことだ。矛盾だらけの解説に僕はとりあえず笑顔を作った。
「ありがとうございます…」
「この子、こんなにおどおどしているのにジャバウォックらしいの」
上手く話に入っていけない僕の傍で女性が会話を続ける。それを聞いた男性は僕を見て目を丸くした。
「ジャバウォック!それはまた随分レアな配役貰ったなあ!俺なら願い下げだけどな!」
「配役ってみんなにあるものじゃないんですか?」
恐る恐る会話に混ざってみると、彼らは僕の言葉に一緒になって首を横に振った。
「ないない!俺なんかただの一般市民Aだよ!」
「私もそれなら、市民Bといったとこかしら?童話に出てくるような配役は欠員がいないと補充されないもの。でも配役があるからって必ず得するとは限らないけど…」
途中まで饒舌に話していた女性が困ったように笑って口を噤む。屋台の男性も肩を竦めると、彼女の代わりに言葉を続けた。
「ほら、現実でもあるだろ?天才が必ずしも得したり、認められるわけじゃないって。死ぬまで貧しかった天才画家がいたり、革命を起こした政治家が暗殺されたりさ。才能や肩書ってそれだけの苦悩があったり、目立つだけの代償がある。俺は一般市民で良かったと思うよ。適当に暮らして、適当に遊ぶ。自分が幸せだから、それだけで満たされるのさ」
彼の話は少しばかり納得いくようで、いまいち腑に落ちない気持ちもあった。
才能や能力は生まれ持ったら絶対に得になると思っていたのだ。伝記に描かれる天才たちはいつだって輝いていて、みんなから愛され、認められている。
愛はいくらあっても困らないだろう。承認されることは嬉しいことだろう。生まれつきそんなステータスがあるなら、それを欲さないわけがないのではないのか?
だけど、彼の言うことも一理あるのも頭では理解できるのだ。自分の場合はこの世界に限った話だが、生まれついてのジャバウォックという配役を与えられている。最強と謡われる配役でありながら、村人のアマネに連敗している誰かの補欠。そんなのは最強とは呼べないし、自分だってアマネに殺されかけたばかりだ。なんなら、ジャバウォックだからとアマネに狙われている。損しかないのは明白だった。
考え込む僕に、女性も一緒に考えるように唇に手を当てた。
「でも、私は思うのよね。天才っていないんじゃないかって」
彼女の言葉に僕と男性が振り返る。僕らの顔を見ると、彼女は照れたようにはにかんだ。
「あくまで私の考えでしかないけどね。でも、天才たちも生まれてすぐに何でも出来たわけじゃないでしょう?みんな同じ、ハイハイから頑張って立ち上がって、一生懸命歩き方を覚えた人間よ。その人たちがどうして凄いことが出来たのかって、努力したからじゃない?」
「努力だけで天才が生まれるかあ?99%は努力にしろ、1%は才能だろ?」
「そうかしら?アインシュタインは確かに1+1は2じゃないって答えたけど、それは着眼点がちょっと違っただけじゃないかしら?その考え方を肯定してくれて、バックアップしてくれる両親や環境があったのは幸運よ。もし彼があの場で否定されて、誰からもバックアップを受けなかったら、もう少し変わっていたかもしれないわ」
確かに世紀の大発見をしたところで、それを周囲が認めなかったら「発見」とは言われなかっただろう。環境や運が左右するというのは頷けた。
「じゃあ、あの環境がなかったらアインシュタインは今頃天才と言われてなかったってことですか?」
僕が尋ねると、女性は目を閉じて首を傾げた。
「…どうかしらね。天才と呼ばれる人の中には『地球は平たい』と言い張る周囲に『地球は丸い』と意地でも言い張り続けて、裁判にかけられたあげくに死ぬまで認められなかった人もいるわ。でも、今では『地球は丸い』って言われているのは、彼が自分を信じて証拠を集めて、頑張って頑張って自分を貫いた努力の成果じゃないかしら。アインシュタインもその場で否定されたとして、自分の主張を死ぬまで貫き通したら、きっと未来は同じよ」
そこまで話すと、女性はハッと思い出したように目を大きくした。
「いけないわ!炊事の準備もあるのにこんな油売って!ごめんなさいね、私この子を宿泊所に案内して、晩御飯作らないといけないの」
「ああ、そうだったのか!悪いな、引き留めて」
彼女の言葉に男性も目を丸くすると、またニッと歯を見せて笑った。
「んじゃ、またな!兄ちゃんもよく寝るんだぞ!」
手を振る彼に僕は会釈を返し、女性も朗らかに笑って歩き出した。
「…さっきの話じゃないけど」
歩きながら女性が小さく呟いた。
「貴方ももっと自分の考えたこと、素直に話したって大丈夫よ。貴方が自分の味方になってあげられたら、きっと未来は明るいわ」
彼女の言葉に僕は顔を上げる。彼女はずっと進行方向を見たままだったが、その表情は優しかった。
開けた場所を抜け、再び狭い通路へと入る。その先をしばらく歩いて、右に曲がった場所にある六畳程度の広すぎないスペースに通されると、彼女は僕の背中を軽く叩いた。
「ここが貴方のお部屋よ。オットーさんにも伝えておくわ。ご飯が出来たら持ってくるし、なんなら集落を見て回ってもいいからね。囚人扱いとかじゃないから、安心して。私は炊事当番だから、もう行くわね!」
女性が背を向けて歩き出す。
あっ、今言わないといけない。僕は咄嗟に口を開く。
「あの!」
「ん?」
「ありがとうございました。凄く、勉強になりました」
立ち止まって振り返る彼女に僕はぺこりと頭を下げる。彼女は驚いたように僕を見つめていたが、目を細めて笑った。
「お勉強できる子は育つ子!大丈夫よ!自信もって!」
彼女は満面の笑みでそう言うと片手で拳を作って、応援するように掲げた。それに僕も笑みを返すと、彼女は手を振って来た道を帰って行った。
彼女がいなくなったその場を見回す。この部屋には簡易的な、何かを袋詰めにしただけのベッドと毛布。木製の粗末な椅子と机が置かれている。廊下の発光する水晶が明るくてあまり視界には困らないが、机の上にはランタンが置かれており、もっと明るく出来るよう設備が整えられていた。
僕はジャッジから貰った傘を壁に立てかけ、屋台の男性から貰ったオレンジのような何かを机に置いてから、ランタンに手を伸ばす。ランタンにつけられたダイヤルを回すと、中に入った水晶のようなものが大きく光りだし、現実のランタンと遜色ない明かりを放った。
それを机に置きなおし、僕はベッドに寝転がる。
なんだか脳みそが疲れている感じがした。この世界にきてまだ一日だが、うちの半分以上をジャッジと過ごしていた。ジャッジの周囲の時間は止まっている。もしかしたら、もっと長い時間をここで過ごしているのかもしれなかった。
「自分の話をもっとする…自分が自分の味方になる…」
女性に言われたことを思い返しながら僕は呟く。
自分の話をするのは苦手だった。自分が思っていること、感じていること、それらに周囲の人間が興味があるとは思えなかったし、周囲の時間を自分の話に費やすことに罪悪感があった。
僕の母はよく自分の話をする人だった。僕が何を話しても、大して関心を持たなかった。僕が話している間に、気付くと母の話にすり替わって、いつの間にか聞いているのは僕になっていた。
だから、彼女は僕に興味がないんだろうと思うようになった。母親である彼女が僕に興味を持たないのであれば、他に誰が僕に興味を持つだろう。そう考えると、人に何かを伝えるのは意味がないような気がしたのだ。
小学校の時に、初めて周囲の意見に逆らったことがあった。クラスメイトが隣のクラスメイトの悪口を言ったので、僕は「あなたも悪いんじゃないか」と言った。その子は僕の言葉に泣いてしまった。
僕は喋らない子供だったし、あまり女の子らしくなかった。だから、元から友達があまりいなくて、僕がそのクラスメイトを泣かせたことで周囲は僕が酷いことを言ったのだと誤解した。
誤解だと言った。言葉がきつかったかもしれないが、僕は間違っていないのではないかと話した。それでも、複数人に囲まれて「なんで泣かせたんだ」と詰め寄られると、怖くなって僕は謝ってしまった。
誰も僕の話など興味がない。話したって意味がない。そう強く思ったことを鮮明に覚えている。僕がどう感じたか、どうしたかなんて、大多数が信じないなら意味がない。多数決で正義は決まる。
地球が丸いと言い始めた人は誰だっけ…ピタゴラス?ガリレオ?コペルニクス?よく分からないが、裁判に掛けられるほど否定されても貫いたのだと思うと確かに凄い。
でも、それはそれだけ自分を信じられるから、それだけのものを持っていたからではないのか?僕に出来るわけなんてない。成し遂げたのは偉人なのだから。
僕は自分の味方をしてあげる気にはなれない。
「…おい、飯いるか?」
急に飛び込んできた言葉に僕はバッと身体を起こす。部屋の入り口にイディオットが器を2つ持って立っていた。
「あっ、すみません…」
「なんで謝る」
「いや、だって持ってきて貰ってしまって…」
ベッドに座ったまま口ごもる僕に、イディオットはふうとため息を吐く。持って来た器のうちの一つを机の上に置くと、彼は相変わらず険しい顔で僕を見下ろした。
「勝手が分からないんだから、最初は誰かに習うのは当然だろ。お前は誰にも飯のありかを聞いていないし、配給されるタイミングも方法も分からない。なら、誰かが持ってきてやるべきだ。それとも、お前はそうされなくとも、この集落の勝手が分かるエスパーか?」
彼はそこまで言うと、顎でしゃくって机の傍の椅子を示す。
「そっちに座るといい。机がある方が食べやすいだろう」
「…ありがとうございます…」
表情は怖いが、その口調は優しい。僕は静かにベッドから立ち上がると、言われるがままに椅子に座る。イディオットはそれを見届けると、恐らく彼の分と思われる器を持って、僕と向かい合うようにベッドに座った。
この人、僕にはベッドから椅子に移るように言ったのに、自分はベッドに座って食べるんだ。それはとても細かな気遣いのように感じられた。
机に置かれた器の中には見たことも無いような水色のスープが入っていた。浮かび上がる具材のキノコはやはり明るい水色の光を発しており、なんなら水面はよく見ると七色に光る。
まずそう。その一言に尽きる。
「この世界で飯を食うのは初めてか?見た目はなかなかグロテスクだが、トゥルーの作る飯は美味いぞ」
気持ちが表情に出ていたのか、僕が言葉を発するより先にイディオットが言う。
彼はスプーンも使わずに器に口を付けると、豪快に一口飲み込む。彼の喉仏が上下するのと同時に、彼の喉が内側から薄ら水色に光り、それはそのまま胴体へと流れて消える。
絶対あのキノコの光だ…食べたらお腹光ったりしないのかな…。
「トゥルーって…?」
「お前をここに案内した女性の名前だ。現実の名前は、俺を含めた全員が忘れてしまったけどな」
あの優しげな女性か。
僕は器の傍に置かれた木製のスプーンを手に取り、恐る恐る器の中身をすくって口に含む。
こんな見た目なのに、味はちょっとクラムチャウダーみたいで美味しい。まったりとした舌触りに、絶妙な甘さと塩味に思わず目を開く。
「…美味いだろ」
イディオットが僕を見つめて言う。相変わらず眉間に皺を寄せているが、どこか嬉しそうに彼は口元をほころばせる。
「彼女は料理上手なんだ。この集落では料理長みたいなことをさせてしまっているが、彼女も快く引き受けてくれている。おかげでQOLが上がったよ」
「QOL?」
「クオリティオブライフだ」
そんな言い方する人、初めて見た。などと思いつつ、それは僕の周囲の話だ。うっかり無知を披露してしまったので、ちょっと恥ずかしい。
「美味しいです。未知の食材なのに、凄い」
「努力家なのさ。だから、叶うようにって名前をつけた。この単語だけでは真実ってのが正しいが…俺の気持ちではその意味だ」
トゥルー…確かにドリームカムトゥルーで夢は叶うという意味だ。正確にはカムトゥルーなのだろうが、確かに名前にするなら語呂が悪い。
「名前ってオットーさんが考えたんですか?」
「そうだ。何か変か?」
尋ねると、イディオットは何か文句でもあるのかと言いたげに片眉を上げる。
自分はイディオットなんて酷い名前なのに、他人の名前を気にするなんて変以外の何ものでもないだろう。
「自分の名前は気にしないって言ってたから…」
おずおずと理由を述べると、彼は珍しく驚いたような表情を浮かべた。
「…確かにそう考えると、変な話か。だが、自分が信頼して大事にしている人間には良い名前を与えたいものだろう。仮初のものでも」
「まんま貴方に言えるじゃないですか」
「…」
言い返すと、彼は口を曲げて黙り込む。妙な沈黙。言ってはいけないことだっただろうか。いや、でも本当のことだ。
イディオットは少し照れたように顔を赤くすると、咳払いをしてから一気にスープを飲み干した。
「いや、だから俺は愛着がないくらいが…まあ、もうこの際、名前の話はどうでもいい。お前がしたい話は、現実に帰る方法についてだろ」
露骨に話を逸らされたが、彼の言う通りだ。僕が聞きに来たのはスープのレシピでも名前の由来でもなく、夢から目覚める方法だ。
飲み干した器を持ったまま、彼は僕に向き直る。
「まだ方法が確立されているわけではないが、可能性として現実味を帯びてきている。調査中と言うのが正しいか」
彼の言葉に僕も身を乗り出す。
帰るために自分が出来ることがあるならと耳を傾けた。
「この世界から逃れるには、アリスに門の扉を開いてもらう必要がある。そもそも、何故彼女が門の扉を閉めてしまったのかも分からないが、怪しいのはその当日からこの世界にいる住民たちだ。不思議の国のアリスの中でも、当時はお茶会のメンバーしかいなかったことは、古い手記や聞き込みで分かっている」
「古い手記?どれくらい古いんですか?」
僕はこの世界は長く見積もって数年程度だと思っているが、彼の口ぶりは、まるで古い歴史を探る学者のようだ。
イディオットは片眉だけ上げると、自分の顎を指で撫でた。
「これはあくまで俺たちが立てた仮説だが、恐らく現実と夢の中で時間の流れが違う。恐らく、こっちの方が時間経過が早いんだ。現実のアリスが何らかの病や外傷で植物状態と仮定しても、人間をベッドの上で生かすにもかなりの金がかかるはずだ。一般サラリーマンがその代金を払うとしたら、そんなに長く生かせるとも思えない。せいぜい現実では数年…だが、こっちでは短く見積もって5年以上の時間が経過している。俺がすでに4年ここで暮らしてるからな」
想像よりも長い年月に僕は言葉を失う。
イディオットはすでに4年もここで?それなら、僕だってそうなり得る。1ヶ月も経てば、何となく帰れるような気がしていた。
甘かった。これだけ必死に現実に帰ろうと、集落まで作ってしまう人が4年も帰れないのに、僕なんかが帰れるわけがない。
「当時いたのはアリス、帽子屋、三月兎、眠り鼠…白兎については、いたのかどうか分からない。むしろ、今もいるのか分からない。見たことがあるのがアリスと帽子屋だけだからな」
白兎と聞いて僕は顔を上げる。ジャッジなら会ったばかりだ。確かに彼は今話せるのは僕と帽子屋だけと言った。
しかし、ふと思い至る。彼はアリスと話せるとは言っていなかった。
何故、彼はアリスの名を告げなかった?
「現在、代替わりが確認されているのは俺が今やっている三月兎の配役のみだ。アリスはこの夢を作った本人なのだから、代替わりはしていなくて当然。帽子屋は殺されたという証言がそろっているが、代替わりは確認されていない。つまりは補充されずに欠番のままだろう。残るは眠り鼠だが…彼女は代替わりしていないことが分かっている」
最初に4人しかいなかったと仮定すると、最初期にいるうちの二人は何らかの理由で死んでおり、生きているのがアリスと眠り鼠だけ…そう考えると、僕にも三月兎が言いたいことはなんとなく予想できた。
「アリスを騙し、帰りの門を封鎖して、アリスを幽閉できるのはどう考えても眠り鼠しかいないんだ。恐らく、帽子屋を殺したのも眠り鼠だ」
「それは何か証拠が?」
「ああ。彼女が帽子屋を殺したと話しているのを実際に自分の耳で聞いた。鼠が話していた相手はあの双子たちだ。そのことについて詳しく聞き出そうとしたが…仲間が殺されてしまったから、それ以上の話は出来なかった」
そこまで話すと、イディオットは悔しそうに目を閉じて俯いた。膝の上で彼は拳を作り、固くそれを握りしめる。ここから見ても分かるほどに震えるそれは、恐らく悔しさから来るものだろう。
この人は言葉や表情が怖いけど、本当に仲間思いの人なのだろう。自分よりも仲間にされた仕打ちに怒って、悲しめる人だ。考えてみれば、僕が謝るたびに彼はいつも「謝るな」と言っていた。きっとあれは怒っていなかったのだ。僕が勝手に萎縮していただけ。
そんな人が過去を悔やむ姿に、僕はなんと声を掛けたらいいか分からずに一緒に下を向く。テーブルに乗った光るスープは少しばかり冷めていた。
「…すまない、話が少し脱線した。つまり、俺たちは眠り鼠がいる城にアリスは幽閉されていると踏んでいる。この世界はアリスの夢、アリスを殺してしまっては乗っ取ることすら出来ないはずだからな」
イディオットは溜息を吐くと、畳みかけるように話をまとめた。何となく彼らのしていることは分かったし、イディオットがあれだけ双子に敵意を向けたのも分かった。
仲間を殺した敵の身内だから、目障りなのだ。そんなこと、当たり前すぎる感情だろう。それなのに、彼は双子を庇った僕をこうして集落に招き入れ、眠る場所とご飯まで用意してくれている。とても器が大きいのだろう。
「だから、夢から目覚めたいなら俺たちと行動を共にすればいい。仲間になってくれるなら、衣食住の保証はしよう」
「…ありがとうございます。でも、僕がいればアマネがいずれ襲ってくるのでは…?」
匿ってもらえるなら、それに越した話はない。僕だってアマネに殺されたいわけではない。だけど、こうして仲間を殺されて辛い思いをしている彼の傍に、アマネを呼んでいいわけがないだろう。
アマネがどれほど強いのかは分からない。イディオットだって恐らく強い。それでも、ジャッジはアマネに物理的に敵う者はいないと言っていたんだ。それはアマネがこの世界で群を抜いた強敵であると言っていることに違いないだろう。
僕の言葉にイディオットは顔を上げると、口の端を片側だけ上げた。
「アマネの正確な戦闘力はまだ把握できていないのは確かだが、武器の生産も出来るようになって、集落も人が随分と増えた。俺もこの4年間で何も学ばなかったわけではない。多少の応戦は出来ると踏んでいる」
「オットーさんが強いのは分かってます、見ましたから。でも、ジャッジさんが…白兎がアマネには近寄るなって言ってたんです」
「白兎?」
僕の言葉にイディオットが目を見開く。彼はベッドから立ち上がると、僕の肩を掴んだ。
「白兎に会ったのか!?いつ、どこで!何を話した!?」
「あ、え、今日会ったばっかりです…」
あまりに凄い剣幕に気圧されて、僕は思わず目線を逸らす。どこを見ていいのか分からずに視線をさまよわせていると、イディオットは我に返ったように優しく僕の肩から手を取り払い、その場に静かに膝をついて座った。
「…悪かった、ちょっと興奮してしまった」
ふうと大きく息を付き、彼は眉間に寄った自分の皺を自分の中指で押して広げる。どうやら自分の眉間にいつも皺が寄っている自覚はあるようだ。
イディオットの背が高すぎるからか、僕の体格が女性ベースで小さいからか分からないが、膝をついて地面にしゃがむ彼と椅子に座る僕の視線は大体同じくらいだった。なんだか複雑だ。
「いえ、僕なんかでも役に立つ情報があるなら、いくらでも話します」
匿ってくれるとまで言ってくれている相手に何もしないのは申し訳ない。頬を掻きながらはにかむと、イディオットも少しだけ口元を緩めて笑う。
「白兎と対話できる者はいないからとても助かる…が…」
ふと、再び彼は顔を険しくさせた。
「アリスと帽子屋が白兎と対話できるのは何となく理解出来るんだ。この世界の要だからな。だが、三月兎と眠り鼠とは対話できないのに、何故ジャバウォックが…?お前を疑うわけではないが、変な話じゃないか?」
彼に言われて、僕は目を見開く。確かにおかしな話だ。何故、お茶会に招かれた最初の4人ではなく、たかが物語の一部…それも詩に登場するだけの存在で、もはやアリスに直接的な関係すらないジャバウォックが話せるんだ?
「その白兎は本当に白兎だったのか?騙されたとかではなく?」
眉間に深い皺を刻んで、イディオットが僕を覗き込む。それは疑っていると言えば、確かに疑っているのだろうが、どちらかと言えば子供を心配する父親のような不安を含んだ口調だ。
イディオットの反応は最もだ。僕がイディオットで、逆の立場だったら同じように信じない。この世界に来て1日目の新参者で、世界のルールすら知らない人間が、今までみんなが会いたくとも会えなかった存在に会ったと言うのだ。幼い子供がお化けを見たと、何もいない空間を指さして話すくらい信憑性がない。
そうやって疑われると、自分すら疑いたくなる。夢を見ていただけなんじゃないか、何か勘違いしただけなんじゃないかと。
自分が見てきたものが正しいなんて言い切れるか?ジャッジが本当に白兎だったなんて、誰が言い切れる?彼が善人だった証はあるのか?自分が聞いた言葉が、自分の中でねじ曲がってしまっていないか?
自分の言動に急激に自信がなくなる。血の気が失せるように頭が冷えていく。その瞬間、ふと目の端に黒い傘が映った。
ジャッジは僕が選ぶ正解を見たいと言ってくれた。この服装を肯定してくれた。誰の事も否定しない、冷めているようで優しい公平な人だった。
僕が彼を白兎だと信じているなら、それでいいんじゃないか?他に誰も見ていなくても、僕は確かに彼に出会った。土砂降りの中で彼に命を救われた。
彼は僕の命の恩人で、白兎で、僕にとっては善人だ。僕が口に出せるのはその事実だけじゃないか。
「…僕は彼は白兎だと僕は思っています。どうしてジャバウォックの僕が話せるのかは分かりませんけど、今の彼はジャバウォックと帽子屋としか話せないと言っていました」
言葉の一つ一つを噛みしめるようにイディオットに伝える。じっと僕を見据える青い目に僕は笑って見せる。
「僕はこの世界では生後1日目なので、確証はないです。でも、僕は彼がいたおかげで生き延びて、彼は良い人だったと思っています。人を騙すような人じゃないと思います」
イディオットは僕の言葉に耳を傾けていたが、目を閉じてクツクツと喉を鳴らすように笑った。
「…そういうスタンスは嫌いじゃない。俺も、俺が見て感じたものを一番に信じるタチだ。そんなに信じてるなら、その白兎について詳しい話を聞かせて欲しい。俺もお前が見たものを信じる努力をしたい」
あの恐ろしく見えていた青い瞳の中心に僕が映り込む。不思議と恐怖はもうなかった。
それから僕はこの世界に来てすぐにアマネに襲われたことも、ジャッジに救われたことも、ジャッジが話してくれたことも事細かに彼に伝えた。イディオットはずっと険しい顔をしていたが、時折感心したように目を丸くしたり、深く頷いてくれたりした。
「一緒にいると雨が降って、自分たち以外の時間が止まる存在…面白いな。確かにその特徴なら白兎と話せた者がやけに少ない理由も頷ける」
僕の話を全て聞き終えたイディオットは自分の顎を撫でながら小さく笑う。
「お前が白兎と話せるなら都合がいい。何の通信機器もない世界だから難しいかもしれないが、可能ならまた白兎を見つけて話をしてくれないか?最初の4人に何が起きたのかを知りたい。その情報を得られるなら、アマネが来るリスクを負う価値はある」
途中から僕のベッドに腰かけて話を聞いていたイディオットが自分の組んだ膝に腕をついて身を乗り出す。
見つけてくれ、ということは少なからず僕のことを信じてくれているのだろう。これから衣食住のお世話になるなら、その分の働きはしたい。それに、今なら彼を慕う集落の人たちの気持ちが分かる。
彼はちょっと怖いけど、いい人だ。仲間思いで、ちょっと心配性な厳しいお父さんみたいな人だ。
「わかりました!やってみます!」
僕は笑って頷く。この世界で初めて任された仕事は、白兎のジャッジがいることを証明して、イディオットからの疑問を伝達をすることだ。
白兎がいると分かっているのは自分だけ。自分の信じているものは、自分が証明しなくては誰にも証明できない。
イディオットが言う通り、こればっかりは僕しかいないのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる