7 / 21
2章
3
しおりを挟む
3.ヴィクトール視点
屋敷に着くと、玄関先にはまだ人だかりが出来ていて、その中心には俺の母親がいるのが見えた。
「戻ってきたぞ!」
一人の使用人が声をあげる。俺はベロアに降ろしてくれと肩を叩いて合図すると、彼は優しく俺を地面に降ろした。
「ヴィクター!何をしていたの!」
母親が駆け寄って来て俺の両手を取る。俺は思わず舌打ちをして視線を背けるが、母親はそれを無視して周囲にいた使用人たちに振り返る。
「もう大丈夫みたいです。下がってください」
母親の合図に、使用人たちはぞろぞろと俺たちの方に視線を送りつつも屋敷の中へと戻っていく。顔を背けている俺に、母親はわざわざ覗き込んで目を合わせようとしてくるので、俺はまた逆方向に目を逸らした。
「どうしてあんな出掛け方したの。出掛けるなら普通に言えばいいじゃない。誘拐なのかと心配したわ」
「うるせえな。いいだろ別に」
そっけなく答えて俺は彼女の手を振り払う。
「ベロアはいいやつだし、危害を加えたりしない。ちょっと遊びに行っただけじゃん」
「でも…」
「お前、また父さんにチクっただろ。使用人から聞いた」
俺は顔を上げて母親を睨むと、彼女は少し困惑したようにこちらを見ていた。
「また昔みたいに、ベロアから何か取り上げる気なんだろ。声帯か?それとも別の物?」
「そんなつもりないわ。私はただ、あなたが幸せになって欲しくて…」
彼女の言葉の途中で俺は鼻を鳴らして、歩き出す。それは会話が終わった合図だと思ったのか、彼女は言葉のその先を発することはなかった。
「行くぞ、ベロア」
ベロアは俺と母親を交互に見つめると、少し名残惜しそうに母親を見つめてから俺の後に続いて歩き出した。
「お前の母親に心配かけて悪かったな」
「別にいいよ。本当は大して心配なんかしてないんだ」
後ろから聞こえるベロアの声に、俺は振り返ることなく小さく首を振った。
自室について、俺はベッドに顔面から倒れこむ。なんだか今日は長い一日だな。どっと疲れた気がする。そんなことをやっていたら、ベッドが大きく跳ねる。何事かと視線だけ上に上げると、ベロアが俺の隣で仰向けに大の字で横になっていた。
「広々使ってんな」
「広いからいいだろう、久しぶりにあんなに走ったからへとへとだ」
へとへとだなんていいながら、彼は疲れの見えない顔で無邪気そうに笑う。
そうかと思えば、不意にまた彼は勢いよく起き上がると来ていたシャツを床に脱ぎ捨て、もう一度寝ころんだ。この動きだけで俺はベッドの上で3回も大きく跳ねるので、落ち着いて眠れたもんじゃない。
「…お前そんな服嫌いなの?」
「首元が落ち着かないし、寝るとき着てると蒸れたり引っ張られて気持ち悪いだろ。どちらかと言えば、ない方が好きなだけだ。嫌いなんかじゃないさ」
言わんとしていることは分かるが、それは洋服嫌いみたいなものでは。という言葉を飲み込んで、俺はうつぶせになったままベロアの顔を見つめる。天井を向いている彼は軽く目を閉じていた。
「つまり、今日は俺の隣で全裸で寝るの?」
「嫌か?」
「嫌じゃねえけどさあ…」
こんな尻軽の隣で全裸で寝るなんて、食っていいって言ってるようなもんだぜ。こういう場合は俺があっちのベッドで寝るなんだろべきなんだろうか。朝方に自分が無意識に抜いたオカズがコイツだったんなら、あんまり良くない気もする。
「俺に襲われたらどうすんの?」
「組み手なら負ける気がしないな、飛び道具と数の利無しなら余裕だ」
目を閉じたまま勝ち誇ったような笑みを浮かべるベロアに俺は溜息をつく。コイツには俺がどんだけ下半身だらしないか説明したはずなんだけどな。
少し放っておくと、そのうちベロアから静かな寝息が聞こえ始める。無防備なもんだ。
眠るでもなく俺はその様子をしばらく眺め、彼の胸板を指でつついてみる。まるで目覚める様子がないので、調子に乗って手の平で胸から腹筋にかけてを撫でてみる。
力が抜けているはずなのに、相変わらず硬くてゴツゴツとした手触りだ。普通に考えて、褐色肌で筋骨隆々なんてめちゃくちゃエロいと思うけど、ベロアは何人くらいと寝たことあるんだろうな。野良犬って言っても性欲くらいあるだろうし、これだけ顔とスペックが備わっていたらモテただろう。
俺は身体を起こして彼に寄ると、彼の腹の上に頭を乗せた。ベロアの落ち着いた鼓動がかすかに聞こえた。
頬で彼のぬくもりを感じながら目をつぶると、とても温かくて気持ちがいい。
はあー抱かれてみてえなあ。どんな感じなんだろ。上手いのかな。
今朝方のイライラは子どもたちと遊んだことで大分紛れてはいたが、完全にフラストレーションが下がったかと言われれば全然そんなことはないし、母親とのやりとりで若干戻ってきてしまった感はある。
イライラするとすぐセックスに走るのは悪い癖だとは分かっている。自分でも股がゆるゆるで困ったもんだと思う。でもやっぱり、美味しそうなものが「食ってくれ」と言わんばかりに置かれていたら、腹は減るものだろう。
ベロアは労働用として俺に飼い犬登録させたのだから、きっと性行為なんか望んでいない。それを強いるのも俺のポリシーに反する部分もある。
でも…本人がワンチャン「いいよ」って言ってくれたり…しねえかな…。抱かれるのは俺なわけだし。
不意にドアがノックされる音がした。頭を乗せていたベロアが凄い勢いで身体を起こし、俺はあえなくベッドに墜落する。
「飯か!」
割とさっき食ったばっかな気がするが、目を輝かせている彼を見ると、腹は減っているのだろう。
「はいはい…」
下心満載の思考から離れると、俺はドアを開けてワゴンを受け取る。いつものようにそれをテーブルに乗せて、ベロアに全て明け渡す。
「いつも悪いな、俺ばかり食べて」
そうは言いつつもあまり悪びれない様子で今日のディナーに手を付ける。子供たちがいないからか、すっかり手づかみに戻って俺の分と犬用飯の両方を綺麗に平らげてしまう。どんだけ食ったら満腹になるんだろうこいつは。でも太らないんだから、カロリー消費の方が激しいんだろう。
「あのさあ」
まだ指を舐めている彼に、ソファのひじ掛けに頬杖を付きながら声を掛けると、視線だけでこっちを見た。
「俺のこと抱いてって言ったら抱ける?」
「抱っこか?いいぞ」
そう言うと彼は立ち上がり俺の脇の下に腕を入れて子供の様に抱き上げる。
これはこれで嬉しいのだが、違う。そうか、コイツはパパ歴長いもんな。そうなっちゃうよな。
「いや、違う違う。セックスの方で」
彼の腕に抱かれたまま笑うと、ベロアはスンと真顔で俺を見つめる。
「俺が?どうして?」
「あー…まあ、そうなるわな」
俺がベロアの腕をぽんぽんと叩くと、彼は優しく俺を下に降ろす。
これは何て説明するべきかな。味見したいって言うの最低じゃないか?
「なんて言うんだろうな…お前がカッコイイから?セクシーだから?経験してみたい、みたいな…?」
顎に手を当ててムムムと俺は言葉を振り絞る。
「そうか?そんなの初めて…ああいやカッコイイは言われたことあるな」
カッコイイは多分、颯の事なのかな。不思議そうにこちらを見たままのベロアに俺は苦笑いする。これは脈なしかな。
「そっか。じゃあ、つまり…男は無理だ?それとも俺が無理だ?」
「無理って何がだ。別に男だってお前だって嫌いじゃないさ」
彼は俺の頭をわしゃわしゃと撫でると大きく伸びをして再びベッドへと倒れ込む。
今度はズボンまで脱いで布団を被り始めたから、ガチ寝のつもりなんだろう。
「嫌いじゃないって言いながらめっちゃ寝るつもりじゃん」
どっちかと言うと俺って、ベロアの中で嫌い寄りの人間だと思っていたから、そんなこと言われたら一夜くらい相手してもらえるかなって期待するじゃん。彼がもぐりこんだ布団の中に自分も一緒に入り込む。布団の中から彼の腹の上に乗ると、そこから布団の外に顔を出してベロアを見つめる。
「なんだ今度は?そういう遊びは初めて見るな」
彼は笑顔を見せながら俺の腰を掴んで上体を軽く起こす。
ベロアが立てた膝に寄りかかるような形で俺たちは向かい合って座る。その体勢のまま俺はしばらく考えて、首を傾げた。
「…もしかして、セックスってご存知ない?」
ここまで話題を逸らされるのは、よほどやんわり断っているか、全く知らないかの二択だろう。でも、この好意的な雰囲気では迷惑しているようにあまり見えない。
「ああ、なんか話には聞くけどあまり見たことなくてな…あまり知らない。遊び方を教えてくれ」
相変わらず笑みを崩さないベロアに俺は目を丸くして見つめてしまう。
これはガチの童貞さんだ。こんなに恰好いいのに?こんなにセクシーなのに?誰もお手付きしてないとか、これ凄いことでは。
「えっ、俺でいいならもちろん」
思わず零れる笑みを押さえつつ、俺は再び布団の中に潜り込む。立ち膝をしている彼の足の間に顔を近づけ、手で少し足を開かせてから股の間に手を伸ばす。
前に風呂場で洗ったことがあるので見たことはある。今まで見て来た人間の中ではこの状態でも結構大きいように思うが、俺が遊んで食ったのは大体日本人だった。ベロアは肌の色も体格もどう考えても日本人ではないので、マックスがどんなもんかまだ分からない。
「おい、そんなとこ触るのか?」
不思議そうな声が布団の上から聞こえる。
「主にこれ使うからさ。任せとけって」
まだ硬さを持たないそれを手で優しく撫でて、痛くない程度に両手で包んでみたり、擦ってみる。
「くすぐったいな」
足を閉じる力が少し加わる。俺は足を手で押し返しながら、手の中のそれに唇を落してキスをしてみる。先の方に舌を這わせて口の中に運ぶと、ビクリと驚いたように腰が跳ねて俺の姿を隠していた布団が捲られる。
「な、何してんだ!そんなとこ旨くないだろ」
軽く俺の頭を掴んで引っ張るベロアに、俺は首を振って抵抗する。
「俺が楽しくてやってんの。やらせて」
口を離してそう伝えると、彼の言葉を待たずに続きを再開する。ベロアの表情はひどく困惑していたが、いつも強気な彼がそんな顔をしていると逆にそそられてしまうものがある。
口の中で彼のものを丁寧に舌で舐め、歯が当たらないように上あごと舌で挟んでしごく。次第に硬くなってきたそれはみるみる大きくなって、あっという間に俺の口に入りきらなくなった。
「うわ、すご…でか…」
口から出したものを両手で擦りながら、思わずうっとりと呟いてしまう。
「なんか…変だぞ、それ」
少し目を細めて深く息をつきながら尋ねるベロアは、とても気持ちよさそうに見える。嫌がられていないなら大丈夫だろう。
「変じゃない。すっごいフツー」
両手で根本を持って、ソフトクリームを舐めるように舌で味わう。唇で吸ったり食んだりしながら先端まで戻ると、もう一度口に入れてしごく。唾液にまみれてぬるぬるとした感触が両手に広がる。こんな大きいのは初めてだ。期待しているのか、下腹部がぎゅうぎゅう締まる感覚がした。
「ヴィクトール…本当に任せて…平気かこれ…」
柄にもなく不安そうな彼に、俺は彼のものにキスをしながら笑う。
「大丈夫だって。俺、この遊びはプロ級だから」
俺は一度上体を起こすと、履いていたスキニーのジーンズを脱ぐ。パンツも一緒に脱ぐと、ロング丈のYシャツがワンピースのようになる。
こっちの方が気分が盛り上がると言われるのが、よくこの恰好をしている理由だ。どうせ後ろから見たら女に見えるとか、そんなくだらない理由なんだろうが、ここでベロアに萎えられても凹むので上は脱がない方向でいくことにする。
彼の腹の上に跨り、ベロアに背中を向けた体制で座る。脱いだジーンズのポケットをまさぐり、ゴムを取り出して自分のものにつけた。
ケツ突かれてるとすぐ出ちゃうから、予防策だ。シーツを汚すのは個人的にちょっとなし。
上を向ているベロアのものに俺は自分の尻を落していく。穴の入口に当ててゆっくりと押し込むと、今まで経験したことのない太さで中が開かれて行く感じがした。
「まっ…ヴィクトール!!今度はなんだ!?」
ベロアに後ろから腕を掴まれて止められる。俺は立ち膝をしたまま振り返ると、期待が隠しきれない顔で笑う。
「ここからが遊びの本番」
掴んだまま離さない彼の腕をそのままに、ゆっくりとまた腰を下ろす。
「はあ…すご…」
空洞だった腹がみちみちになっていく。ずっと足りなかった部分が満たされて、だらしない声と共に甘い息が出た。
下へ下へと降りていくと、不意に腹の中に行き止まりのような存在にたどり着く。
「ねえ、ベロア…見てこれ」
3分の2くらい入ったものの、まだ根元までたどり着かない状態で振り返り、彼に向けて声を掛ける。
「お前の…でっかくて俺の中、入りきんないの。すごいね」
ベロアは天井を向いたまま目を閉じて、フーフーと荒い息をこらえていたが俺の声に薄く目を開いてこちらを見る。
「こんなとこに…だめだ…やめた方が…い…」
そう口にしながらも、彼が息づく度に腹の中のものがぴくぴくと脈打つのを感じた。
「本当に?気持ちよくない?」
俺はベロアの股から少し足側にずらして腰を落ち着け、彼の足を抱きしめるように上体を倒す。
そのまま腰を前に引き、そして行き止まりまで押し込んだ。
ベロアのは大きすぎて、腹の中の性感帯が漏れなく全部擦れる。気持ちよすぎて頭が少しずつ白くなっていく。
「あっ…やば…きもち…」
自分で腰を動かしながら、口がどうにも閉まらなくなってくる。いつもセフレからだらしない顔だと言われていたから、ベロアに見えないこの体勢は正解だったかもしれない。
腹の中の行き止まりの先は、多分結腸だ。でも、さすがに入れたことがないので、今回はまだやめておこう。いつか入れてみたい気持ちはもちろんあるが、ベロアのはデカすぎる。
「やめ…本当に…変…」
ベロアは俺を止めようとしているのか俺の腰を掴んでいるが、手を添えられているようで逆に気分が盛り上がってしまう。
コツコツと俺の奥に当たる度、中のものはピクピクからドクドクと生々しい脈に変わり、ますます硬さを持った。
これはそろそろおしまいかな。本当はもうちょい長く楽しみたかったけど、童貞さんに我慢させては可哀想だ。彼の初めてを貰えたと思って、長期戦は諦めよう。
俺は腹の上で再び立ち膝をして、ベロアのものを抜き、今度はベロアと向かい合うように反対を向く。先程と同じようにまた腹の中に迎え入れると、ベロアの胸に自分の胸をくっつけて顔を寄せた。
「ねえ、キスしたらダメ?」
彼は薄く目を開いたまま、少し潤んだ瞳で俺を見る。
何を言われたのか理解出来ていないような顔でぷっくりとした厚い唇から細く息を漏らす。
そんな顔で見つめられたら可愛くて、愛しくなってしまう。
「キスした方がもっと気持ちいいぜ」
そんな理由をつけながら、我慢出来ずに彼の厚い口に自分の唇を重ねる。
彼の唇の隙間から舌を優しく差し込むと、まるで受け入れるかのように口の隙間を開き熱い息を漏らす。
その隙間から舌を侵入させ、彼の歯をなぞり、舌を撫でた。
彼の舌はおずおず迷うように俺の舌に触れる。リードするように絡めとると、誘われるままに絡んで互いの唾液が混ざり合う。
ベロアの思考がほぼ停止していたおかげか、彼の唇には案外緊張感がなく、柔らかかった。柔らかい彼の唇と絡み合う舌は最高に気持ちが良くて、俺は彼の首に腕を回して食べるようにキスを繰り返した。
そのまま腰を再び動かし始める。出入りするたびに中がひっくり返りそうなくらいに、中はベロアを抱きしめて離そうとしなかった。
「ベロア…すご…本当に気持ちい…」
キスの合間に彼の耳元で囁くと、彼はまた薄く目を開く。俺に添えていただけの手を腰に巻き付くように抱いた。回したその腕に少し力が入る。
「もっと…奥は…」
こんな朦朧としていても、奥に入りたいなんてリクエストしてくるのか。俺は腰の動きを緩やかにして微笑む。
「奥は俺もまだ試してないからだめ。大丈夫になったら、また誘うから今度やろう」
ちゃっかり次のチャンスを狙って理由をつける。
結腸のあたりは痛覚がないとは言うが、個人差はあるだろうし、やっぱり固く閉じている部分に無理やり突っ込むのは尻軽な俺だって怖い。今やるのはなしだった。
「…なんだか、モヤモヤする」
俺の答えに彼は不服そうに眉を顰める。全くの未経験、全くの無知でもそんなふうに感じるのは一種の本能の様なものなんだろうか。
腰にまわした彼の腕に徐々に力が入り、ふと俺は動きを止める。
なんだろう。朦朧としている割に力強い気がする。
ベロアは浮かせた俺の腰を自分に引き寄せようと下に向けて押し込んできた。
行き止まりに当たったドクドクと脈を持つ先端が更に奥に押し上げてくる感覚に、俺は今更のように焦る。
「なあ、待てよ。いきなりはダメだって…」
膝に力を入れて抵抗する。もし、ベロアの意思で強行突破するなら、俺の力で適うわけなんかない。あくまで好意的に、笑顔で優しく拒否するがベロアの手にどんどん力が入っていく。
ギリギリと押し上がる感覚に腰が震えた。痛くはないのだが、経験したことのない圧迫感が腹の奥で沸き起こる。
「ま、待って…本当に、ベロア…ねえ」
俺がどんなに話しかけてもベロアから返事はなく、抵抗すればするほど腰をより強い力で引き寄せてくる。
「う…ぁ…」
突き立てられたベロアのもので、中が少しずつ押し開いていく。それは痺れるような甘い刺激で、怖がる気持ちと比例して興味がわいてきてしまう。
どうしよう、受け入れてしまおうか。酸欠にも似たふわふわとした思考でそんなことを考える。
その瞬間、ベロアが不意に一層強い力で俺の腰を下ろさせた。受け入れることを考え始めていた俺のグズグズな抵抗など適うわけもなく、中で辛うじて侵入を塞いでいた壁がバツンと突破される。
「い…っ!?あっ…ベロ…」
身体中に電流が走るような激しい快感に、身体を逸らしてビクビクと痙攣させる。
興奮と快感でYシャツの下でそり立っていた自分のものから精液がゴムの中へ出されるのが分かった。
根元までベロアをくわえこんだ腹が、正真正銘奥までいっぱいに満たされた。それはとても気持ちが良くて、空腹が満たされた時と同じような充足感があった。
「…っ、ベロア…すごい、全部入った…」
腰を少し持ち上げる。ずるりと、中にこんなに入っているのかと自分でもびっくりするほどの太くて長いそれに片手を添え、もう一度自分で腰を下ろす。
「見てよ、こんなにデカいのにさ…全部俺の中にはいるの」
荒い息で俺はベロアにもう一度、根元まで入るところを見せたくて声をかける。
浅黒い彼の肌からでもわかるほど、耳まで真っ赤に染まったベロアがとろんとした瞳で俺の下腹部を見る。
「…痛くないんだな」
そう呟きながら、彼は俺の下腹部を不思議そうにさすった。
そんなことをされたのはセフレばかり募って食った俺には初体験で、胸を鷲掴みにされたみたいに苦しくなる。嬉しいような、愛しいような、不思議な感覚だ。彼が可愛いからかもしれない。
「痛くないよ。すごく気持ちいい」
手に添えられた彼の手に自分の手を重ねて腹に押し付ける。彼を迎え入れるたびに中が押し広がっていくのを、手でも感じてほしいと思った。
別にベロアのが大きいのは自分の手柄でもなんでもないのに、自慢したいような気持ちだったのかもしれない。
しかし、自分で力いっぱい腰を下ろしたが、まだ入るようになったばかりの奥はまた閉ざされていて、思うように入らない。
あの強い刺激を知ってしまうと、こんなものでは物足りなく感じてしまう。1番奥に届かないのが切なくて、また下腹部が切なく疼く。
俺は腰を揺らしながら上体を前に倒し、ベロアにキスをする。舌を絡めて彼の唾液を吸い上げ、口を離す。
「…もう一度、全部入れて?」
彼の耳元で小さく囁いて強請る。
腰に回されたままの彼の腕にまた力が入るのを感じる。
今度は引き寄せるだけでなく、彼の腰も突き上げるような動作で再びそれは俺の最奥へと飛び込んできた。
「あっ、はぁっ…」
突き上げられるのは予想していなかった。全身が小刻みに震え、開いた口から高い喘ぎ声が溢れた。
再び満たされた腹の奥が快感でぎゅうぎゅう締まる。1度イッたばかりの前から漏れ出すように精液が吹き出すのが分かった。
「今の好き…もっとして」
奥から抜いてしまうと、自分では入れられない。彼の首に腕を回して、彼の頬に自分の頬を擦り付け、キスをしながら催促した。
ベロアも随分と興奮したような荒い息使いだけで答える。
腰にまわしただけの手を固定する。しっかりと掴み直して、彼が押し上げるのと同時にぐっと引き寄せられた。
「これっ…かっ」
ベロアは短く息を漏らしながら何度もその動作を繰り返す。
「それ…っ、めっちゃ好き、きもちい…っ!」
彼の動きに合わせて俺も腰を浮かせたり落としたりすると、中が激しく擦れて、身体がビクビクと震えた。
何度か出し入れを繰り返すうちに、奥までの挿入は大分スムーズになってきていた。それでも、あくまで俺1人の力では入らないフリをする。
だって、あわよくばベロアに動いて欲しいじゃん。ネコの醍醐味って奉仕される側ってことにあると思ってる。俺、体力ないし。
「っぅ…ヴィク…トール…っ!」
急にペースを落としたベロアに視線を落とすと、彼は何かを噛みつぶしたように歯を食いしばりながらフーフーと肩で荒い息をする。
うわ、可愛い…イキそうになってるでしょ、これ。
そんなに我慢されては意地悪したくなるというもので、俺はペースを落とさずに腰を揺する。
「どうしたの?気持ちいい?」
「わからない…足も腹の下も、なんか変だし…これ以上それをしてると…漏れる」
そしかしてこれ、イキそうな感覚を尿意だと勘違いしてるやつだろうか。たとえ童貞だろうとイったことくらいあるだろうに、まるで感想が初めて射精を経験する子供みたいだ。どんだけ性と無縁な生活送ってきたんだろう。逆に気になる。
「…中に出していいよ」
興奮で熱くなる吐息をまぜながら、彼の顔に唇を寄せて囁く。
「…!い…やだっ!子供じゃ…あるまいし…」
「それは出して大丈夫なやつだから。本当は俺、あんまり中出し好きじゃないんだけど…お前だけ特別サービスね」
潔癖気味なので、セフレとやる時はよほど精神が参ってなければ基本的にゴムしてもらうし、フェラも最低限しかしていない。だって汚ねえじゃん、同じ場所から排泄物出るしさ。
ベロアは中身も見た目もカッコイイし、こんな初々しい童貞貰えるなら中出しなんか安いもんだ。うんといい思い出にして、俺のこと思い出してムラムラすればいいんだ。
なんだか泣きそうな声で鳴く彼の唇に軽くキスをして、俺は上体を起こす。もう奥まで入れようと思えば入れられるので俺は続けて彼の上で跳ねる。
「はっ…はっ…とまっ…れって…うぐぅ…」
彼のひねり出したような声とともに自分の中で熱く粘度のある液体が勢いよく発射されたのを感じる。抜かなくたってわかるほど、どろどろと溢れだしそうなほど大量に注がれているのを感じる。
大きな彼の体は二回りも小さい俺にすがりつくようにしがみついて、はあはあと深く息をつきながら、何が起きたかわからないといった顔で呆けたように天井を見つめていた。
彼を見下ろしながらその場で立ち膝で立ち上がる。ずるりと中から抜け落ちると、中からベロアが吐き出したものが太ももを伝う。
「…気持ちよかった?」
首を傾げて問いかけると、ベロアはよろよろと上体だけを起こして俺の太ももや余韻のように染み出す自身の物の先端を驚いたような顔で見つめると、慌てた様子で腿を伝う白い体液を指さした。
「な、なんだこれ…俺がやったのか?」
困惑した様子で俺の顔から股まで目を行き来させる彼の下半身は、あんなに大量に出した直後だというのに一切萎えることなく反り立ったままだ。
これはもう1回いけそうだな…。
「そうだよ、お前が出したの」
まだ元気なそれに手を添え、ぬるぬるとベロアの精液を塗り広げる。
「これをいっぱい出せるやつってカッコイイよね。ベロア、もっと出せるんじゃない?」
優しく扱きながら俺はうっとりと目を細めて笑う。
「俺もっとベロアのやつ、中に欲しいなあ?」
彼は気まずそうに目をそらしたがその手は名残惜しそうに俺の腰に触れる。
「もう一回…」
「もちろん」
少しは気に入って貰えたと思ってもいいかな。俺は2つ返事で先ほどと同じように腰を落とす。
これだけ大きくて、可愛い反応を返してくれるなら多少マグロでも全然楽しいし、気持ちいい。
しばらく彼の上で跳ねて楽しんでいたが、あまり体力がない俺の太ももに疲れが出てきた。
「…はっ、ぁ…ねえ、体位、変えない…?」
漏れ出すよう喘ぎ声の合間を塗って話しかけると、ベロアはぼんやりと気持ちよさそうな表情を浮かべたまま首を傾げた。
「体位…?」
「そう。体勢変えるんだ」
俺は彼の上から膝で立ち上がる。横に避けるとそのまま四つん這いになり、彼に下半身を突き出した。
「俺の上に乗って、お前のやつをもっかい入れて?」
上半身を下げて肩で身体を支え、尻を持ち上げて彼を受け入れやすいように体勢を整える。入口に自分の指をいれて開いて見せると、俺は彼に振り返って笑う。
「ここに入れて欲しいんだ」
ベロアは少し戸惑ったように俺の穴に目を向けるが、さすがの彼も性欲には勝てないようでおずおずと俺に覆い被さった。入口を探すように腰を動かす彼のものに両手を添え、それを俺は自分の入り口に宛てがう。
「そのまま押し込んで」
先のほうが恐る恐る差し込まれ、また、ぞくぞくとした快感が俺を襲う。しかし、半分ほど差し込まれたかと思ったその時、突然に勢いよく彼の根元まで一気に押し込まれた。
「うぁっ…!」
そんな緩急をつけてくると思っていなくて、思わず大きな声が出る。あんまり気持ちよかったので、一瞬目の前がちかちかした。たまんねえ。
彼のものが中に全部入り切ったのを確認し、俺は少し息をついてから自分の腰を前後に揺らす。
「こうやって…出し入れすると気持ちいい、だろ?ベロアが好きなように動いたら、もっと気持ちいいよ…?」
ベロアは俺に言われるままにゆっくりと自分の腰を動かすと、喘ぎ声の混ざった吐息が俺の耳をくすぐる。
慣れてないらしいけれど、彼の溢れ出るこの色気はなんなんだろう。耳に息がかかっただけでぞくぞくする。
「…気持ちい」
観念したような声で呟いた彼が、上から抱き込むように俺の腹に手を回す。
「良かった。俺も気持ちいい」
少しだけ振り返って笑う。楽しんでくれてるなら何よりだ。
彼の物が徐々に速く、深く俺の最奥にごりごりと繰り返し重くのしかかってきた。
「はぁ…すごい、これ待ってた…」
1番奥へ押し込まれるたびに全身が泡立つような快感に支配される。
腹に回された彼の片手を取り、俺は自分の胸まで滑らせる。
「触って。やると良く締まるって言われてるから」
タダでさえ肉付きが悪い俺の薄い胸なんか、触る方からすりゃ誰得かもしれないが、俺は気持ちいいし、気持ちいいと締まるらしいから強請ってみる。
ベロアは俺に言われたままに胸のあたりを触るが、まるでどうしていいかわからず迷っているかのようにみぞおちのあたりを行ったり来たり撫でていた。
「ほら、ここ摘んでさ。ちょっと痛くしていいよ」
彼の指を胸の先端に当てて摘ませる。彼の指の平が大きくて暖かい。
遠慮がちにふにふにと指先で押し、力加減を調節するかのように強めたり弱めたりを繰り返す。指先に意識を集中させているのか、彼の腰の動きが止まってしまう。
ああ、これはちょっと難易度が高かったかな。タチって最初の頃は難しいよな。分かる分かる。
「…ありがと、気持ちよかった。でも、これじゃベロアが気持ちよくなれないから、さっきの続きしよっか」
彼の手を俺の腰の位置に戻しながら、上体を逸らしてベロアの頬にキスする。戸惑っているようなベロアを見て、俺は笑ってみせてから再び四つん這いになる。彼が動きたくなるように腰を揺らして、中で彼のものを擦って刺激すると、彼は再び腰を動かし始めた。
闇雲に腰を振る彼の行為は上手いとはいいがたいが、それ以上に規格外のそれによる恩恵は大きい。
中を掻き回すものがあまりに大きくて、突かれて抜いてを繰り返すだけで頭が飽和しそうなくらい気持ちがいい。気持ちいいのは嬉しいが、腰を打ち付けてくる速度と強さが尋常じゃないので、休む暇が全くない。自分の足を支えるのでいっぱいいっぱいだ。
「あっ…はっ…ベロア…っ、待って…」
すでに散々、彼の上で跳ねた後で疲れてきた足腰が立たなくなってくる。休憩が欲しくて声をかけるが、彼は返事もせず夢中で行為を続ける。
「ひっ、ぅ…まっ…」
奥に打ち付けられるたびに思考が停止するほどの強い快感が走る。ベロアに突かれる反動で射精が止まらず、前に付けたゴムが少しずつ重みをましてくるのが、溶けだしていく脳みそでも辛うじて分かった。
「ベロ、ア…」
喘いでいるのか泣いているのか自分でもよく分からない震えた声が出る。足が限界を迎え、腰が下に下がると彼はそれを追うように俺の下腹部がベッドに押し付けられるほど強く腰を打ち付けた。
「う…また…アレだ」
中で脈打つベロアのものが、2度目の限界を迎えようとしているのを感じる。
ベロアとベッドにうつ伏せで挟まれ、一際硬くなったものを上から勢いよく押し込まれる。先程とは違う角度で入ってきたそれは、覚悟していた快感とはまた別物で俺は思わず悲鳴にも似た声を上げる。
ビクビクと全身を痙攣させる俺の中にまた熱いものが大量に流し込まれた。
「ああ…う…」
気持ちよさの余韻で自分の穴がひくついてるのが分かる。脱力して俺はその場に伏せて、シーツに身体を沈めた。
腹の中にはたった2回出されただけとは思えないほどの量の液体が入っているのが分かる。今まであれだけ遊んできて、ここまで腹がタプタプになるなんて乱交パーティー以来だ。
「ヴィクトール…」
ぐったりとシーツに沈んだ俺に、ピッタリと覆い被さるように横たわるベロアの体温がシャツ越し伝わる。
いつもなら行為が終わったら、すぐ着替えて解散だ。でも、その温もりが気持ちよくて、俺は肩で息をしながらうつらうつらと瞼の開閉を繰り返した。
楽しかったなあ。またチャンスがあれば…そんなことを考えている俺と一緒にベロアは横たわっていたが、しばらくするとのそのそと起き上がって俺に声をかけた。
「…もう1回」
彼は俺の肩を掴んで正面を向かせる。
その動作で俺の腹にしまわれたままの彼のものがごり…と奥を刺激した。
あれ?そう言えばベロア、まだまだ萎えてなさそうじゃない?このとんでもない量を2度も出したとは思えない程一切硬さを失わないそれに、興奮で熱が顔に集まってくる。
「いいよ、好きなだけ使ってよ」
ベロアに両手を広げて招くと、彼は俺の身体を見つめて小首を傾げた。
「…服は無い方がいい」
仰向けになった俺を見下ろしたベロアは眉間にシワを寄せた顔でそう言う。俺のシャツの襟をぐっと引っ張って、ブチブチといとも簡単にシャツのボタンをちぎり前を開けた。
「えええ…何も破らんでも…」
身体を覆うものが何もなくなり、俺は貧弱な自分の身体を見下ろす。菓子は食えても一応は拒食症だ。骨と皮に近いこの身体をセックス中に見せたら萎えそうなものだが。
それに、俺は着衣派なんだよね。ベロアみたいな綺麗な筋肉着てるならいいんだろうけどさ。
ベロアは痩せこけた俺の胸やアバラの感触を確かめるように手で撫でる。
「この方がいい」
満足したような笑みを浮かべると、彼は再び腰を振り始めた。
「あっ、あっ!待って!ご、ゴム変え…たい…っ!」
パシパシと俺に被さるベロアの背中を叩くが、恐らくゴムを知らない彼は「後で」と言って腰を振るのをやめようとしない。
短い休憩を入れた後とは言え、もう始めてから1時間は経過していた。ベロアはまだ2回だが、もうすでに何度も絶頂を迎えた後の俺の頭は、あっという間に快感で支配されて真っ白になる。
喘ぎ声を小さくするとか、何かをベロアに教えるとか、小難しいことが思考から消えてなくなり、ベロアの首にしがみついて、ただただ彼が挿入しやすいよう必死で腰を浮かせていた。
「はぁっ…きもち…っ!はらんなかやばぃ、あぅあっ!あ~…あっ!」
中に注がれたままのベロアの精液が突かれる度に腹の中で暴れて、波打った。出し入れのたびに彼と俺が繋がった隙間から漏れだし、下半身が恐ろしく濡れていた。
いつもならシーツが汚れるからと拒否するのだが、そんなことしている余裕はなかった。
もう頭が馬鹿になりつつあって、次にベロアが俺の中で達した時、彼の首に回した腕を離さずに耳元で次を強請った。
「やめないで…もっとして…」
快感が止まるのが切なくて、彼の下でもどかしく腰を揺する。彼は一瞬だけ顔を離して俺を見下ろすとベロアも目を細めて首元に顔を埋める。
「じゃあ…もう一回」
俺のリクエストに答えて、ベロアが再び動き始める。腰を浮かせるのが大変なので、俺は彼の腰に足を巻き付ける。
水気を含んだ音と身体を打ち付け合う音が無遠慮に部屋中に響き渡る。もう気持ちよすぎて何も考えられなかった。
「あ~っ!なか、しゅごいっ!きもちいっ…!べりょあっ、あっ!」
いつも下品だと言われるので口に出さないようにしている言葉が脳みそを介さずに口から次々に出ていく。頭も舌も回らなくて、自分でも何を言っているのか理解できてなかった。
「はぁっ…ヴィクトール…こっち」
ベロアは体に巻き付いた俺の手足を取り払いながら、今度は腕を引っ張って再びうつ伏せの姿勢に戻す。
しかし引かれた腕は離さないまま俺は反り返ったような体勢でベロアに首を食まれた。
「やっぱりこれも邪魔だ」
羽織るだけになっていたシャツを乱暴に取り払って纏う物のなくなった俺の体に彼の肌が重なる。
そのまま容赦なく奥へと押し込まれる圧迫感に、下半身が彼をぎゅうぎゅうと抱きしめて歓迎する。
「ぉっあっ、これしゅきぃ…」
だらしなく開いたまま閉まらない口の端から唾液が伝う。ベロアに腕を引かれた状態で身を任せ、再び激しく打ち付けられる快感に大きな声で喘ぎ続けた。
彼に突かれるごとに少しずつ射精をくり返し、俺の前に付けていたゴムが液体の重みで外れていく。つけ直さなきゃと頭の隅で思うのだが、それよりも今を楽しまないと勿体ない気持ちが勝ってしまう。
もしかしたら、今日のこれが最初で最後なのかもしれない。ベロアはセフレを理解しがたいと言っていた。これからも協力関係を続けるなら、あまり頻繁に誘えたものではないだろう。
腕を一層強く引かれ、彼のものを最奥で受け止める。もうベロアが達するのも何度目か分からない。中でビクビクと動くそれは再び俺の腹の中に精液を注ぎ込んだ。
「うぁ…あ…」
腹の中の快感に小さく震えながら熱くなった息を吐く。自分に付けていたゴムがずり落ちて、シーツに中身をばらまいた。
「…気持ちいな」
後ろから彼の声とまだ萎える気配のない彼の物を感じた。
それから後のことは、もう薄ぼんやりとしか覚えていない。動く力がなくなった俺を、ベロアは何度も転がして体位を変えて続けていたのは覚えてる。俺の腰がもたなくなれば、彼は片腕で軽々と持ち上げて続けたし、正常位も尻をめくられた姿勢で押しつぶされるような形で受け入れた…ような気がする。
シーツは2人の体液でびちゃびちゃになっていて、気を失う寸前にかろうじて「寒い 」と呟くとベロアは俺を包むように抱きしめてくれた。
筋肉で固められた彼の身体は、激しく動いた後でびっくりするほど温かかった。
「…ヴィクトール、おい」
気を失うように寝ていると身体を執拗に揺すられる。重たい瞼をうっすらと開くと彼は何か不満をアピールするかのような顔で俺を見下ろしていた。
「腹が減った」
「…あ~…」
散々喘いだせいでかすかすの声が出た。身体を起こそうと身体に力を入れると、生まれて1度も経験したことがないような恐ろしい痛みが走る。
「い"っ!?」
筋肉痛だ。それも物凄いやつ。とてもじゃないが動ける気がしない。
「どうした!?寝てる間に攻撃でもされたのか!?」
バッと俺の体を庇うように身構えながらベロアは周囲に警戒の目を向ける。
相変わらず考えることがぶっ飛んでる。ていうか、ベロアは全然元気で驚いた。あれだけ動いて筋肉痛にならないんだな。
「バカか…筋肉痛だよ」
俺はふふっと小さく笑う。
「筋肉痛?なんでそんな急に」
「昨日しこたま動いただろ」
そう言いながら時計に目をやると朝の9時を回ろうとしていた。昨日は8時過ぎに始めたような気がするが…一体何時間ぶっ続けでヤってたんだ。
「もうそろ飯来るから、悪いけど自分で受けとってくれ。フルチンで出るなよ」
「飯か!」
彼は軽やかにベッドから飛び降りると言われた通り、その辺のサルエルパンツを拾い上げて足を通す。綺麗な逆三角形を描くその後ろ姿は相変わらずセクシーだ。
ちょうどいいタイミングでコンコンとノックが聞こえるとベロアは「来たな!」と相変わらず上半身はそのままに扉を開ける。
「えっ、あれ?ヴィクトール様は…?」
「昨日しこたま動いたから筋肉痛がすごいらしい。代わりに受け取る」
唖然とする使用人の運んできたワゴンに手を添えながらベロアがありのままに応えるのが聞こえた。
「後で替えのシーツ持って来て~」
訝しげに部屋を覗き込んだ使用人に、俺は布団の中からヒラヒラと手を振った。
使用人は首を傾げながらも「承知しました」とワゴンを置いて去っていった。
「今日は卵だな、俺は肉も好きだけど卵も好きだ」
オムレツを指でふわふわとつつきながら上機嫌でサイドテーブルに飯を運ぶ彼は、昨日あんなことがあったというのに恐ろしくいつも通りに見える。
セフレの意味がわからないとか、セックスまるで興味がないとか、めちゃくちゃ無垢なこと言いながら、あれだけハッスルして何か思うところはないもんだろうか。彼の性格から考えれば、恐らくとりわけ突っ込むような話ではないと思っているような気もする。触れず隠蔽する方法もなくはないだろうけど。
「そういえば」
オムレツに添えられたトマトソースと指でなめとりながらベロアがふと思い出したように顔を上げる。
「結局セックスはどうなったんだ、途中で脱線してどんな遊びだったのかわからなかった」
「へ?」
不思議そうに首をかしげて思わぬ感想を述べる彼に、俺は思わず間抜けた声を出す。
「脱線してねえよ、あれがセックス。お互いが気持ちよくなるための大人のお遊びだよ」
話しながら俺は喉を鳴らすように笑う。この様子じゃ、どうせまた勝負事だと思ってたんだろう。
「あれ遊びだったのか!?よく路地裏でやってるやつは居た気がするけどあれはケンカして負けたやつが組み敷かれて泣きわめくものだと思っていた…そうか、遊びだったのか…」
路地裏で泣きわめく…強姦の事でも言っているのだろうか。コイツの中では強姦とセックスは別物だったらしい。まあ、その認識は間違っていないっちゃいないが。
「お前が見てるそれは、レイプだな。レイプは無理やりセックスを強いるから、あれは遊びじゃなくて虐待だ。俺とお前のは合意だから、遊びのセックス。お互い気持ちよかったし、楽しかったろ?」
「だから、無理やりやったらダメだぞ」と付け加え、俺は彼に口元だけで微笑んだ。
「気持ち次第で呼び名が変わるのか。複雑だな」
オムレツとパンを食べ終え犬飯に目を付け始めながら、ベロアは興味深そうな声を出す。
「でも、あんなに気持ちよくなるものだとは知らなかった。セフレを作ってまでやりたくなる気持ちはわかったよ」
納得したように笑いながらぐちゃぐちゃの犬飯も綺麗に平らげてしまう。コイツが来てからきっとキッチンは残飯が減って助かっているだろう。
「だろ」
飯を完食し終えて満足そうなベロアを見ながら、俺は目を細めた。
セフレの意味が分かるくらい気に入ってくれたんなら、これはワンチャン次回も望めるな。
「ベロアがいいならまたヤろうぜ。お前とすんの、今までで1番気持ちよかったよ」
「あのいけ好かないお前のセフレだって男より俺がいいのか、当然だろうな」
ベロアは「じゃあまたやろう、俺もセックスが好きだ」と勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らした。
これはラッキーだ。あんなセクシーな裸体が今後ずっと隣にあって自慰をしない自信がなかった。ベロアとは生きてる限り、目的が達成されない間はずっと行動を共にするだろうし、それなら目の前で美味しくなってる彼に相手をしてもらいたい。
しかしまあ、あれだけ激しくて長いセックスは初めてだ。ある程度出せば誰にでも賢者タイムはあるだろうが、この賢者タイムは日を跨ぎそうなくらい頭がスッキリしていた。
「…そういや、お前の手術から1週間になるな。目の具合はどう?」
ベッドから起き上がれないので、ソファに座っているベロアを手招きする。彼は言われた通りにのそのそと傍に寄ってくると、ベッドに乗り上げて俺の傍であぐらをかいた。
「そういえば痛くないな、もう治った」
「そいつは何より。目、見せて」
彼の顔に手を添え、こちらに顔を向けさせる。
昨日あれだけキスした後なので、今更顔を近づけるくらい普通は大したことではないはずが、何故か彼だと少し緊張した。
「ガーゼ取るね」
ゆっくりと彼の右目に貼られたガーゼを取る。ちょっと前なら拳が飛んできてもおかしくなかったのに、彼は大人しくガーゼを剥がす俺の顔を見つめていた。
彼の息が顔にかかる。こちらを見るベロアの瞳は本物のルビーみたいで綺麗だった。
「…取れた。目、開けられる?」
ガーゼの下から出てきた右目はまだ空洞なので、瞼に膨らみこそないが、アザも消えて綺麗に治っていた。
ベロアは恐る恐る瞼を動かし、それでも痛まないと空洞の目を細めでニヤリと笑みを浮かべる。
「もう大丈夫。あの医者はすごいな、完全復活だ!」
「そりゃ、俺の信頼してる医者だからな」
俺は不敵な笑みを浮かべているベロアの口の端を指で軽く引っ張って笑う。
今、彼がいたら一緒に喜んでくれたんだろう。ベロアがこんなに元気になったと見せてやりたかった。
「机の引き出しに爺さんが用意したお前の義眼が入ってる。一緒に入ってる手袋とセットで持って来てくれるか。お前の目に入れよう」
そう言うと、ベロアは頷いて俺の机の引き出しを漁る。ごそごそと片手で漁ってから、何を思ったのか引き出しごと引っ張りぬいて床に中身をぶちまけた。
「あったぞ、これだな?」
「乱暴だな…」
思わず苦笑いする。方法はさておき、一応俺がお願いした通り、滅菌ガーゼが敷き詰められたプラスチックケースに入った銀色の義眼と、袋に詰められたゴム手袋を手にベロアが戻ってきた。
「さんきゅ」
差し出されたそれらを受け取り、俺はゴム手袋が汚れないように指先で摘んで自分の手にはめる。プラスチックケースから義眼を取り出して、それを手に取った。
「目を開けて、こっち見て」
「わかった」
再び彼に顔を寄せてもらい、片手で彼の瞼を開いて優しく義眼を入れる。
彼の目の中に作られた義眼用の台座にはまるような手応え。
「…目を動かしてみて」
指示通りにベロアは目玉を左右に動かす。左目と同じように右目の義眼も動くことを確認し、俺は彼の顔から手を話した。
「ばっちりだ。一見するだけならオッドアイだな」
最近の義眼はどうなっているのか、片目と連動してちゃんと動くからすごい。目が潰れていたとは思えないほど自然に馴染んでいる。
いや、しかしカッコイイな。整った顔っていうのはこれを言うんだろう。美術館で作品を鑑賞するのと同じくらい見ていて飽きない。
「鏡見てみ」
部屋に置いている姿見を指さし、ベロアに言うと「本物の目みたいだ」と感心したように鏡に額までつけて凝視していた。
「お前の元々の赤い目の方がずっとカッコイイからな。その色で発注しとくよ」
「色なんて何でもいいだろう、ダメなのか?」
ベロアは首をかしげて今度は俺に額が付きそうなほど顔を寄せて「この色は変なのか?」と問い詰めてきた。
「変じゃねえけど…無色ってつまんないじゃん。やっぱり赤とか派手な方が好きだな」
彼は元がいいから何でも似合うのだろうが、地毛が白髪の俺からすればどうしても何か色がある方が魅力的に見える。
「それに、お前が生まれ持ってきた色がその赤なら、俺はそっちを尊重したいかな。事故で失われるって悲しいじゃん」
「そういうものなのか?でもお前がそう言うなら赤い目はもっと大事にするよ」
「ああ、そうしてくれ」
きょとんと俺を見下ろすベロアに笑いかけると、俺は一息つく。
「…今日はさすがに動けねえから、子供たちには1人で会いに行ってきて欲しいんだけど…変な奴に遭遇しても撒けるか?」
本当は1人で行かせたくないのだが、この状態の俺が一緒に行く方がもっと危ないだろう。
「…そうだな、お前も心配だけど子供たちも心配だ。でも俺はお前以外の誰にも捕まらない、だから心配ないな」
捕まえる人間の中に俺が入ってることに少し笑ってしまう。気にすることでもないだろうに。それでも、心強くはあった。
スッと立ち上がるとベロアは床に投げ捨ててあったゆるゆるのTシャツに袖を通し、いつものリュックを背負った。
「あ、ねえ、待って」
着々と出掛ける準備を進めるベロアに俺は声を掛ける。
「俺の父親、たぶん昨日の騒ぎでお前の顔とかもどっかで見ただろうし、ブチギレてると思うんだよね。お前は俺がお使いに出したって使用人たちには連絡しとくけど、つけられないように」
「分かってる」
「返り討ちにしても、出来れば殺さないで欲しい。俺は父親にお前みたいな犬の存在が正しいって証明したいんだ」
証明できれば、もしかすれば父親も何か考えを変えるかもしれない。可能性は限りなく低いと思うが、最初から0だと思って視野を狭めるのは愚かだ。
「お前が最高にカッコイイ奴だって知らしめてやってくれよ」
俺はニッと笑って見せると、彼も歯を見せて笑った。
「行ってくる」
そう言って彼は窓から軽やかに飛び降りてあっという間に見えなくなった。
屋敷に着くと、玄関先にはまだ人だかりが出来ていて、その中心には俺の母親がいるのが見えた。
「戻ってきたぞ!」
一人の使用人が声をあげる。俺はベロアに降ろしてくれと肩を叩いて合図すると、彼は優しく俺を地面に降ろした。
「ヴィクター!何をしていたの!」
母親が駆け寄って来て俺の両手を取る。俺は思わず舌打ちをして視線を背けるが、母親はそれを無視して周囲にいた使用人たちに振り返る。
「もう大丈夫みたいです。下がってください」
母親の合図に、使用人たちはぞろぞろと俺たちの方に視線を送りつつも屋敷の中へと戻っていく。顔を背けている俺に、母親はわざわざ覗き込んで目を合わせようとしてくるので、俺はまた逆方向に目を逸らした。
「どうしてあんな出掛け方したの。出掛けるなら普通に言えばいいじゃない。誘拐なのかと心配したわ」
「うるせえな。いいだろ別に」
そっけなく答えて俺は彼女の手を振り払う。
「ベロアはいいやつだし、危害を加えたりしない。ちょっと遊びに行っただけじゃん」
「でも…」
「お前、また父さんにチクっただろ。使用人から聞いた」
俺は顔を上げて母親を睨むと、彼女は少し困惑したようにこちらを見ていた。
「また昔みたいに、ベロアから何か取り上げる気なんだろ。声帯か?それとも別の物?」
「そんなつもりないわ。私はただ、あなたが幸せになって欲しくて…」
彼女の言葉の途中で俺は鼻を鳴らして、歩き出す。それは会話が終わった合図だと思ったのか、彼女は言葉のその先を発することはなかった。
「行くぞ、ベロア」
ベロアは俺と母親を交互に見つめると、少し名残惜しそうに母親を見つめてから俺の後に続いて歩き出した。
「お前の母親に心配かけて悪かったな」
「別にいいよ。本当は大して心配なんかしてないんだ」
後ろから聞こえるベロアの声に、俺は振り返ることなく小さく首を振った。
自室について、俺はベッドに顔面から倒れこむ。なんだか今日は長い一日だな。どっと疲れた気がする。そんなことをやっていたら、ベッドが大きく跳ねる。何事かと視線だけ上に上げると、ベロアが俺の隣で仰向けに大の字で横になっていた。
「広々使ってんな」
「広いからいいだろう、久しぶりにあんなに走ったからへとへとだ」
へとへとだなんていいながら、彼は疲れの見えない顔で無邪気そうに笑う。
そうかと思えば、不意にまた彼は勢いよく起き上がると来ていたシャツを床に脱ぎ捨て、もう一度寝ころんだ。この動きだけで俺はベッドの上で3回も大きく跳ねるので、落ち着いて眠れたもんじゃない。
「…お前そんな服嫌いなの?」
「首元が落ち着かないし、寝るとき着てると蒸れたり引っ張られて気持ち悪いだろ。どちらかと言えば、ない方が好きなだけだ。嫌いなんかじゃないさ」
言わんとしていることは分かるが、それは洋服嫌いみたいなものでは。という言葉を飲み込んで、俺はうつぶせになったままベロアの顔を見つめる。天井を向いている彼は軽く目を閉じていた。
「つまり、今日は俺の隣で全裸で寝るの?」
「嫌か?」
「嫌じゃねえけどさあ…」
こんな尻軽の隣で全裸で寝るなんて、食っていいって言ってるようなもんだぜ。こういう場合は俺があっちのベッドで寝るなんだろべきなんだろうか。朝方に自分が無意識に抜いたオカズがコイツだったんなら、あんまり良くない気もする。
「俺に襲われたらどうすんの?」
「組み手なら負ける気がしないな、飛び道具と数の利無しなら余裕だ」
目を閉じたまま勝ち誇ったような笑みを浮かべるベロアに俺は溜息をつく。コイツには俺がどんだけ下半身だらしないか説明したはずなんだけどな。
少し放っておくと、そのうちベロアから静かな寝息が聞こえ始める。無防備なもんだ。
眠るでもなく俺はその様子をしばらく眺め、彼の胸板を指でつついてみる。まるで目覚める様子がないので、調子に乗って手の平で胸から腹筋にかけてを撫でてみる。
力が抜けているはずなのに、相変わらず硬くてゴツゴツとした手触りだ。普通に考えて、褐色肌で筋骨隆々なんてめちゃくちゃエロいと思うけど、ベロアは何人くらいと寝たことあるんだろうな。野良犬って言っても性欲くらいあるだろうし、これだけ顔とスペックが備わっていたらモテただろう。
俺は身体を起こして彼に寄ると、彼の腹の上に頭を乗せた。ベロアの落ち着いた鼓動がかすかに聞こえた。
頬で彼のぬくもりを感じながら目をつぶると、とても温かくて気持ちがいい。
はあー抱かれてみてえなあ。どんな感じなんだろ。上手いのかな。
今朝方のイライラは子どもたちと遊んだことで大分紛れてはいたが、完全にフラストレーションが下がったかと言われれば全然そんなことはないし、母親とのやりとりで若干戻ってきてしまった感はある。
イライラするとすぐセックスに走るのは悪い癖だとは分かっている。自分でも股がゆるゆるで困ったもんだと思う。でもやっぱり、美味しそうなものが「食ってくれ」と言わんばかりに置かれていたら、腹は減るものだろう。
ベロアは労働用として俺に飼い犬登録させたのだから、きっと性行為なんか望んでいない。それを強いるのも俺のポリシーに反する部分もある。
でも…本人がワンチャン「いいよ」って言ってくれたり…しねえかな…。抱かれるのは俺なわけだし。
不意にドアがノックされる音がした。頭を乗せていたベロアが凄い勢いで身体を起こし、俺はあえなくベッドに墜落する。
「飯か!」
割とさっき食ったばっかな気がするが、目を輝かせている彼を見ると、腹は減っているのだろう。
「はいはい…」
下心満載の思考から離れると、俺はドアを開けてワゴンを受け取る。いつものようにそれをテーブルに乗せて、ベロアに全て明け渡す。
「いつも悪いな、俺ばかり食べて」
そうは言いつつもあまり悪びれない様子で今日のディナーに手を付ける。子供たちがいないからか、すっかり手づかみに戻って俺の分と犬用飯の両方を綺麗に平らげてしまう。どんだけ食ったら満腹になるんだろうこいつは。でも太らないんだから、カロリー消費の方が激しいんだろう。
「あのさあ」
まだ指を舐めている彼に、ソファのひじ掛けに頬杖を付きながら声を掛けると、視線だけでこっちを見た。
「俺のこと抱いてって言ったら抱ける?」
「抱っこか?いいぞ」
そう言うと彼は立ち上がり俺の脇の下に腕を入れて子供の様に抱き上げる。
これはこれで嬉しいのだが、違う。そうか、コイツはパパ歴長いもんな。そうなっちゃうよな。
「いや、違う違う。セックスの方で」
彼の腕に抱かれたまま笑うと、ベロアはスンと真顔で俺を見つめる。
「俺が?どうして?」
「あー…まあ、そうなるわな」
俺がベロアの腕をぽんぽんと叩くと、彼は優しく俺を下に降ろす。
これは何て説明するべきかな。味見したいって言うの最低じゃないか?
「なんて言うんだろうな…お前がカッコイイから?セクシーだから?経験してみたい、みたいな…?」
顎に手を当ててムムムと俺は言葉を振り絞る。
「そうか?そんなの初めて…ああいやカッコイイは言われたことあるな」
カッコイイは多分、颯の事なのかな。不思議そうにこちらを見たままのベロアに俺は苦笑いする。これは脈なしかな。
「そっか。じゃあ、つまり…男は無理だ?それとも俺が無理だ?」
「無理って何がだ。別に男だってお前だって嫌いじゃないさ」
彼は俺の頭をわしゃわしゃと撫でると大きく伸びをして再びベッドへと倒れ込む。
今度はズボンまで脱いで布団を被り始めたから、ガチ寝のつもりなんだろう。
「嫌いじゃないって言いながらめっちゃ寝るつもりじゃん」
どっちかと言うと俺って、ベロアの中で嫌い寄りの人間だと思っていたから、そんなこと言われたら一夜くらい相手してもらえるかなって期待するじゃん。彼がもぐりこんだ布団の中に自分も一緒に入り込む。布団の中から彼の腹の上に乗ると、そこから布団の外に顔を出してベロアを見つめる。
「なんだ今度は?そういう遊びは初めて見るな」
彼は笑顔を見せながら俺の腰を掴んで上体を軽く起こす。
ベロアが立てた膝に寄りかかるような形で俺たちは向かい合って座る。その体勢のまま俺はしばらく考えて、首を傾げた。
「…もしかして、セックスってご存知ない?」
ここまで話題を逸らされるのは、よほどやんわり断っているか、全く知らないかの二択だろう。でも、この好意的な雰囲気では迷惑しているようにあまり見えない。
「ああ、なんか話には聞くけどあまり見たことなくてな…あまり知らない。遊び方を教えてくれ」
相変わらず笑みを崩さないベロアに俺は目を丸くして見つめてしまう。
これはガチの童貞さんだ。こんなに恰好いいのに?こんなにセクシーなのに?誰もお手付きしてないとか、これ凄いことでは。
「えっ、俺でいいならもちろん」
思わず零れる笑みを押さえつつ、俺は再び布団の中に潜り込む。立ち膝をしている彼の足の間に顔を近づけ、手で少し足を開かせてから股の間に手を伸ばす。
前に風呂場で洗ったことがあるので見たことはある。今まで見て来た人間の中ではこの状態でも結構大きいように思うが、俺が遊んで食ったのは大体日本人だった。ベロアは肌の色も体格もどう考えても日本人ではないので、マックスがどんなもんかまだ分からない。
「おい、そんなとこ触るのか?」
不思議そうな声が布団の上から聞こえる。
「主にこれ使うからさ。任せとけって」
まだ硬さを持たないそれを手で優しく撫でて、痛くない程度に両手で包んでみたり、擦ってみる。
「くすぐったいな」
足を閉じる力が少し加わる。俺は足を手で押し返しながら、手の中のそれに唇を落してキスをしてみる。先の方に舌を這わせて口の中に運ぶと、ビクリと驚いたように腰が跳ねて俺の姿を隠していた布団が捲られる。
「な、何してんだ!そんなとこ旨くないだろ」
軽く俺の頭を掴んで引っ張るベロアに、俺は首を振って抵抗する。
「俺が楽しくてやってんの。やらせて」
口を離してそう伝えると、彼の言葉を待たずに続きを再開する。ベロアの表情はひどく困惑していたが、いつも強気な彼がそんな顔をしていると逆にそそられてしまうものがある。
口の中で彼のものを丁寧に舌で舐め、歯が当たらないように上あごと舌で挟んでしごく。次第に硬くなってきたそれはみるみる大きくなって、あっという間に俺の口に入りきらなくなった。
「うわ、すご…でか…」
口から出したものを両手で擦りながら、思わずうっとりと呟いてしまう。
「なんか…変だぞ、それ」
少し目を細めて深く息をつきながら尋ねるベロアは、とても気持ちよさそうに見える。嫌がられていないなら大丈夫だろう。
「変じゃない。すっごいフツー」
両手で根本を持って、ソフトクリームを舐めるように舌で味わう。唇で吸ったり食んだりしながら先端まで戻ると、もう一度口に入れてしごく。唾液にまみれてぬるぬるとした感触が両手に広がる。こんな大きいのは初めてだ。期待しているのか、下腹部がぎゅうぎゅう締まる感覚がした。
「ヴィクトール…本当に任せて…平気かこれ…」
柄にもなく不安そうな彼に、俺は彼のものにキスをしながら笑う。
「大丈夫だって。俺、この遊びはプロ級だから」
俺は一度上体を起こすと、履いていたスキニーのジーンズを脱ぐ。パンツも一緒に脱ぐと、ロング丈のYシャツがワンピースのようになる。
こっちの方が気分が盛り上がると言われるのが、よくこの恰好をしている理由だ。どうせ後ろから見たら女に見えるとか、そんなくだらない理由なんだろうが、ここでベロアに萎えられても凹むので上は脱がない方向でいくことにする。
彼の腹の上に跨り、ベロアに背中を向けた体制で座る。脱いだジーンズのポケットをまさぐり、ゴムを取り出して自分のものにつけた。
ケツ突かれてるとすぐ出ちゃうから、予防策だ。シーツを汚すのは個人的にちょっとなし。
上を向ているベロアのものに俺は自分の尻を落していく。穴の入口に当ててゆっくりと押し込むと、今まで経験したことのない太さで中が開かれて行く感じがした。
「まっ…ヴィクトール!!今度はなんだ!?」
ベロアに後ろから腕を掴まれて止められる。俺は立ち膝をしたまま振り返ると、期待が隠しきれない顔で笑う。
「ここからが遊びの本番」
掴んだまま離さない彼の腕をそのままに、ゆっくりとまた腰を下ろす。
「はあ…すご…」
空洞だった腹がみちみちになっていく。ずっと足りなかった部分が満たされて、だらしない声と共に甘い息が出た。
下へ下へと降りていくと、不意に腹の中に行き止まりのような存在にたどり着く。
「ねえ、ベロア…見てこれ」
3分の2くらい入ったものの、まだ根元までたどり着かない状態で振り返り、彼に向けて声を掛ける。
「お前の…でっかくて俺の中、入りきんないの。すごいね」
ベロアは天井を向いたまま目を閉じて、フーフーと荒い息をこらえていたが俺の声に薄く目を開いてこちらを見る。
「こんなとこに…だめだ…やめた方が…い…」
そう口にしながらも、彼が息づく度に腹の中のものがぴくぴくと脈打つのを感じた。
「本当に?気持ちよくない?」
俺はベロアの股から少し足側にずらして腰を落ち着け、彼の足を抱きしめるように上体を倒す。
そのまま腰を前に引き、そして行き止まりまで押し込んだ。
ベロアのは大きすぎて、腹の中の性感帯が漏れなく全部擦れる。気持ちよすぎて頭が少しずつ白くなっていく。
「あっ…やば…きもち…」
自分で腰を動かしながら、口がどうにも閉まらなくなってくる。いつもセフレからだらしない顔だと言われていたから、ベロアに見えないこの体勢は正解だったかもしれない。
腹の中の行き止まりの先は、多分結腸だ。でも、さすがに入れたことがないので、今回はまだやめておこう。いつか入れてみたい気持ちはもちろんあるが、ベロアのはデカすぎる。
「やめ…本当に…変…」
ベロアは俺を止めようとしているのか俺の腰を掴んでいるが、手を添えられているようで逆に気分が盛り上がってしまう。
コツコツと俺の奥に当たる度、中のものはピクピクからドクドクと生々しい脈に変わり、ますます硬さを持った。
これはそろそろおしまいかな。本当はもうちょい長く楽しみたかったけど、童貞さんに我慢させては可哀想だ。彼の初めてを貰えたと思って、長期戦は諦めよう。
俺は腹の上で再び立ち膝をして、ベロアのものを抜き、今度はベロアと向かい合うように反対を向く。先程と同じようにまた腹の中に迎え入れると、ベロアの胸に自分の胸をくっつけて顔を寄せた。
「ねえ、キスしたらダメ?」
彼は薄く目を開いたまま、少し潤んだ瞳で俺を見る。
何を言われたのか理解出来ていないような顔でぷっくりとした厚い唇から細く息を漏らす。
そんな顔で見つめられたら可愛くて、愛しくなってしまう。
「キスした方がもっと気持ちいいぜ」
そんな理由をつけながら、我慢出来ずに彼の厚い口に自分の唇を重ねる。
彼の唇の隙間から舌を優しく差し込むと、まるで受け入れるかのように口の隙間を開き熱い息を漏らす。
その隙間から舌を侵入させ、彼の歯をなぞり、舌を撫でた。
彼の舌はおずおず迷うように俺の舌に触れる。リードするように絡めとると、誘われるままに絡んで互いの唾液が混ざり合う。
ベロアの思考がほぼ停止していたおかげか、彼の唇には案外緊張感がなく、柔らかかった。柔らかい彼の唇と絡み合う舌は最高に気持ちが良くて、俺は彼の首に腕を回して食べるようにキスを繰り返した。
そのまま腰を再び動かし始める。出入りするたびに中がひっくり返りそうなくらいに、中はベロアを抱きしめて離そうとしなかった。
「ベロア…すご…本当に気持ちい…」
キスの合間に彼の耳元で囁くと、彼はまた薄く目を開く。俺に添えていただけの手を腰に巻き付くように抱いた。回したその腕に少し力が入る。
「もっと…奥は…」
こんな朦朧としていても、奥に入りたいなんてリクエストしてくるのか。俺は腰の動きを緩やかにして微笑む。
「奥は俺もまだ試してないからだめ。大丈夫になったら、また誘うから今度やろう」
ちゃっかり次のチャンスを狙って理由をつける。
結腸のあたりは痛覚がないとは言うが、個人差はあるだろうし、やっぱり固く閉じている部分に無理やり突っ込むのは尻軽な俺だって怖い。今やるのはなしだった。
「…なんだか、モヤモヤする」
俺の答えに彼は不服そうに眉を顰める。全くの未経験、全くの無知でもそんなふうに感じるのは一種の本能の様なものなんだろうか。
腰にまわした彼の腕に徐々に力が入り、ふと俺は動きを止める。
なんだろう。朦朧としている割に力強い気がする。
ベロアは浮かせた俺の腰を自分に引き寄せようと下に向けて押し込んできた。
行き止まりに当たったドクドクと脈を持つ先端が更に奥に押し上げてくる感覚に、俺は今更のように焦る。
「なあ、待てよ。いきなりはダメだって…」
膝に力を入れて抵抗する。もし、ベロアの意思で強行突破するなら、俺の力で適うわけなんかない。あくまで好意的に、笑顔で優しく拒否するがベロアの手にどんどん力が入っていく。
ギリギリと押し上がる感覚に腰が震えた。痛くはないのだが、経験したことのない圧迫感が腹の奥で沸き起こる。
「ま、待って…本当に、ベロア…ねえ」
俺がどんなに話しかけてもベロアから返事はなく、抵抗すればするほど腰をより強い力で引き寄せてくる。
「う…ぁ…」
突き立てられたベロアのもので、中が少しずつ押し開いていく。それは痺れるような甘い刺激で、怖がる気持ちと比例して興味がわいてきてしまう。
どうしよう、受け入れてしまおうか。酸欠にも似たふわふわとした思考でそんなことを考える。
その瞬間、ベロアが不意に一層強い力で俺の腰を下ろさせた。受け入れることを考え始めていた俺のグズグズな抵抗など適うわけもなく、中で辛うじて侵入を塞いでいた壁がバツンと突破される。
「い…っ!?あっ…ベロ…」
身体中に電流が走るような激しい快感に、身体を逸らしてビクビクと痙攣させる。
興奮と快感でYシャツの下でそり立っていた自分のものから精液がゴムの中へ出されるのが分かった。
根元までベロアをくわえこんだ腹が、正真正銘奥までいっぱいに満たされた。それはとても気持ちが良くて、空腹が満たされた時と同じような充足感があった。
「…っ、ベロア…すごい、全部入った…」
腰を少し持ち上げる。ずるりと、中にこんなに入っているのかと自分でもびっくりするほどの太くて長いそれに片手を添え、もう一度自分で腰を下ろす。
「見てよ、こんなにデカいのにさ…全部俺の中にはいるの」
荒い息で俺はベロアにもう一度、根元まで入るところを見せたくて声をかける。
浅黒い彼の肌からでもわかるほど、耳まで真っ赤に染まったベロアがとろんとした瞳で俺の下腹部を見る。
「…痛くないんだな」
そう呟きながら、彼は俺の下腹部を不思議そうにさすった。
そんなことをされたのはセフレばかり募って食った俺には初体験で、胸を鷲掴みにされたみたいに苦しくなる。嬉しいような、愛しいような、不思議な感覚だ。彼が可愛いからかもしれない。
「痛くないよ。すごく気持ちいい」
手に添えられた彼の手に自分の手を重ねて腹に押し付ける。彼を迎え入れるたびに中が押し広がっていくのを、手でも感じてほしいと思った。
別にベロアのが大きいのは自分の手柄でもなんでもないのに、自慢したいような気持ちだったのかもしれない。
しかし、自分で力いっぱい腰を下ろしたが、まだ入るようになったばかりの奥はまた閉ざされていて、思うように入らない。
あの強い刺激を知ってしまうと、こんなものでは物足りなく感じてしまう。1番奥に届かないのが切なくて、また下腹部が切なく疼く。
俺は腰を揺らしながら上体を前に倒し、ベロアにキスをする。舌を絡めて彼の唾液を吸い上げ、口を離す。
「…もう一度、全部入れて?」
彼の耳元で小さく囁いて強請る。
腰に回されたままの彼の腕にまた力が入るのを感じる。
今度は引き寄せるだけでなく、彼の腰も突き上げるような動作で再びそれは俺の最奥へと飛び込んできた。
「あっ、はぁっ…」
突き上げられるのは予想していなかった。全身が小刻みに震え、開いた口から高い喘ぎ声が溢れた。
再び満たされた腹の奥が快感でぎゅうぎゅう締まる。1度イッたばかりの前から漏れ出すように精液が吹き出すのが分かった。
「今の好き…もっとして」
奥から抜いてしまうと、自分では入れられない。彼の首に腕を回して、彼の頬に自分の頬を擦り付け、キスをしながら催促した。
ベロアも随分と興奮したような荒い息使いだけで答える。
腰にまわしただけの手を固定する。しっかりと掴み直して、彼が押し上げるのと同時にぐっと引き寄せられた。
「これっ…かっ」
ベロアは短く息を漏らしながら何度もその動作を繰り返す。
「それ…っ、めっちゃ好き、きもちい…っ!」
彼の動きに合わせて俺も腰を浮かせたり落としたりすると、中が激しく擦れて、身体がビクビクと震えた。
何度か出し入れを繰り返すうちに、奥までの挿入は大分スムーズになってきていた。それでも、あくまで俺1人の力では入らないフリをする。
だって、あわよくばベロアに動いて欲しいじゃん。ネコの醍醐味って奉仕される側ってことにあると思ってる。俺、体力ないし。
「っぅ…ヴィク…トール…っ!」
急にペースを落としたベロアに視線を落とすと、彼は何かを噛みつぶしたように歯を食いしばりながらフーフーと肩で荒い息をする。
うわ、可愛い…イキそうになってるでしょ、これ。
そんなに我慢されては意地悪したくなるというもので、俺はペースを落とさずに腰を揺する。
「どうしたの?気持ちいい?」
「わからない…足も腹の下も、なんか変だし…これ以上それをしてると…漏れる」
そしかしてこれ、イキそうな感覚を尿意だと勘違いしてるやつだろうか。たとえ童貞だろうとイったことくらいあるだろうに、まるで感想が初めて射精を経験する子供みたいだ。どんだけ性と無縁な生活送ってきたんだろう。逆に気になる。
「…中に出していいよ」
興奮で熱くなる吐息をまぜながら、彼の顔に唇を寄せて囁く。
「…!い…やだっ!子供じゃ…あるまいし…」
「それは出して大丈夫なやつだから。本当は俺、あんまり中出し好きじゃないんだけど…お前だけ特別サービスね」
潔癖気味なので、セフレとやる時はよほど精神が参ってなければ基本的にゴムしてもらうし、フェラも最低限しかしていない。だって汚ねえじゃん、同じ場所から排泄物出るしさ。
ベロアは中身も見た目もカッコイイし、こんな初々しい童貞貰えるなら中出しなんか安いもんだ。うんといい思い出にして、俺のこと思い出してムラムラすればいいんだ。
なんだか泣きそうな声で鳴く彼の唇に軽くキスをして、俺は上体を起こす。もう奥まで入れようと思えば入れられるので俺は続けて彼の上で跳ねる。
「はっ…はっ…とまっ…れって…うぐぅ…」
彼のひねり出したような声とともに自分の中で熱く粘度のある液体が勢いよく発射されたのを感じる。抜かなくたってわかるほど、どろどろと溢れだしそうなほど大量に注がれているのを感じる。
大きな彼の体は二回りも小さい俺にすがりつくようにしがみついて、はあはあと深く息をつきながら、何が起きたかわからないといった顔で呆けたように天井を見つめていた。
彼を見下ろしながらその場で立ち膝で立ち上がる。ずるりと中から抜け落ちると、中からベロアが吐き出したものが太ももを伝う。
「…気持ちよかった?」
首を傾げて問いかけると、ベロアはよろよろと上体だけを起こして俺の太ももや余韻のように染み出す自身の物の先端を驚いたような顔で見つめると、慌てた様子で腿を伝う白い体液を指さした。
「な、なんだこれ…俺がやったのか?」
困惑した様子で俺の顔から股まで目を行き来させる彼の下半身は、あんなに大量に出した直後だというのに一切萎えることなく反り立ったままだ。
これはもう1回いけそうだな…。
「そうだよ、お前が出したの」
まだ元気なそれに手を添え、ぬるぬるとベロアの精液を塗り広げる。
「これをいっぱい出せるやつってカッコイイよね。ベロア、もっと出せるんじゃない?」
優しく扱きながら俺はうっとりと目を細めて笑う。
「俺もっとベロアのやつ、中に欲しいなあ?」
彼は気まずそうに目をそらしたがその手は名残惜しそうに俺の腰に触れる。
「もう一回…」
「もちろん」
少しは気に入って貰えたと思ってもいいかな。俺は2つ返事で先ほどと同じように腰を落とす。
これだけ大きくて、可愛い反応を返してくれるなら多少マグロでも全然楽しいし、気持ちいい。
しばらく彼の上で跳ねて楽しんでいたが、あまり体力がない俺の太ももに疲れが出てきた。
「…はっ、ぁ…ねえ、体位、変えない…?」
漏れ出すよう喘ぎ声の合間を塗って話しかけると、ベロアはぼんやりと気持ちよさそうな表情を浮かべたまま首を傾げた。
「体位…?」
「そう。体勢変えるんだ」
俺は彼の上から膝で立ち上がる。横に避けるとそのまま四つん這いになり、彼に下半身を突き出した。
「俺の上に乗って、お前のやつをもっかい入れて?」
上半身を下げて肩で身体を支え、尻を持ち上げて彼を受け入れやすいように体勢を整える。入口に自分の指をいれて開いて見せると、俺は彼に振り返って笑う。
「ここに入れて欲しいんだ」
ベロアは少し戸惑ったように俺の穴に目を向けるが、さすがの彼も性欲には勝てないようでおずおずと俺に覆い被さった。入口を探すように腰を動かす彼のものに両手を添え、それを俺は自分の入り口に宛てがう。
「そのまま押し込んで」
先のほうが恐る恐る差し込まれ、また、ぞくぞくとした快感が俺を襲う。しかし、半分ほど差し込まれたかと思ったその時、突然に勢いよく彼の根元まで一気に押し込まれた。
「うぁっ…!」
そんな緩急をつけてくると思っていなくて、思わず大きな声が出る。あんまり気持ちよかったので、一瞬目の前がちかちかした。たまんねえ。
彼のものが中に全部入り切ったのを確認し、俺は少し息をついてから自分の腰を前後に揺らす。
「こうやって…出し入れすると気持ちいい、だろ?ベロアが好きなように動いたら、もっと気持ちいいよ…?」
ベロアは俺に言われるままにゆっくりと自分の腰を動かすと、喘ぎ声の混ざった吐息が俺の耳をくすぐる。
慣れてないらしいけれど、彼の溢れ出るこの色気はなんなんだろう。耳に息がかかっただけでぞくぞくする。
「…気持ちい」
観念したような声で呟いた彼が、上から抱き込むように俺の腹に手を回す。
「良かった。俺も気持ちいい」
少しだけ振り返って笑う。楽しんでくれてるなら何よりだ。
彼の物が徐々に速く、深く俺の最奥にごりごりと繰り返し重くのしかかってきた。
「はぁ…すごい、これ待ってた…」
1番奥へ押し込まれるたびに全身が泡立つような快感に支配される。
腹に回された彼の片手を取り、俺は自分の胸まで滑らせる。
「触って。やると良く締まるって言われてるから」
タダでさえ肉付きが悪い俺の薄い胸なんか、触る方からすりゃ誰得かもしれないが、俺は気持ちいいし、気持ちいいと締まるらしいから強請ってみる。
ベロアは俺に言われたままに胸のあたりを触るが、まるでどうしていいかわからず迷っているかのようにみぞおちのあたりを行ったり来たり撫でていた。
「ほら、ここ摘んでさ。ちょっと痛くしていいよ」
彼の指を胸の先端に当てて摘ませる。彼の指の平が大きくて暖かい。
遠慮がちにふにふにと指先で押し、力加減を調節するかのように強めたり弱めたりを繰り返す。指先に意識を集中させているのか、彼の腰の動きが止まってしまう。
ああ、これはちょっと難易度が高かったかな。タチって最初の頃は難しいよな。分かる分かる。
「…ありがと、気持ちよかった。でも、これじゃベロアが気持ちよくなれないから、さっきの続きしよっか」
彼の手を俺の腰の位置に戻しながら、上体を逸らしてベロアの頬にキスする。戸惑っているようなベロアを見て、俺は笑ってみせてから再び四つん這いになる。彼が動きたくなるように腰を揺らして、中で彼のものを擦って刺激すると、彼は再び腰を動かし始めた。
闇雲に腰を振る彼の行為は上手いとはいいがたいが、それ以上に規格外のそれによる恩恵は大きい。
中を掻き回すものがあまりに大きくて、突かれて抜いてを繰り返すだけで頭が飽和しそうなくらい気持ちがいい。気持ちいいのは嬉しいが、腰を打ち付けてくる速度と強さが尋常じゃないので、休む暇が全くない。自分の足を支えるのでいっぱいいっぱいだ。
「あっ…はっ…ベロア…っ、待って…」
すでに散々、彼の上で跳ねた後で疲れてきた足腰が立たなくなってくる。休憩が欲しくて声をかけるが、彼は返事もせず夢中で行為を続ける。
「ひっ、ぅ…まっ…」
奥に打ち付けられるたびに思考が停止するほどの強い快感が走る。ベロアに突かれる反動で射精が止まらず、前に付けたゴムが少しずつ重みをましてくるのが、溶けだしていく脳みそでも辛うじて分かった。
「ベロ、ア…」
喘いでいるのか泣いているのか自分でもよく分からない震えた声が出る。足が限界を迎え、腰が下に下がると彼はそれを追うように俺の下腹部がベッドに押し付けられるほど強く腰を打ち付けた。
「う…また…アレだ」
中で脈打つベロアのものが、2度目の限界を迎えようとしているのを感じる。
ベロアとベッドにうつ伏せで挟まれ、一際硬くなったものを上から勢いよく押し込まれる。先程とは違う角度で入ってきたそれは、覚悟していた快感とはまた別物で俺は思わず悲鳴にも似た声を上げる。
ビクビクと全身を痙攣させる俺の中にまた熱いものが大量に流し込まれた。
「ああ…う…」
気持ちよさの余韻で自分の穴がひくついてるのが分かる。脱力して俺はその場に伏せて、シーツに身体を沈めた。
腹の中にはたった2回出されただけとは思えないほどの量の液体が入っているのが分かる。今まであれだけ遊んできて、ここまで腹がタプタプになるなんて乱交パーティー以来だ。
「ヴィクトール…」
ぐったりとシーツに沈んだ俺に、ピッタリと覆い被さるように横たわるベロアの体温がシャツ越し伝わる。
いつもなら行為が終わったら、すぐ着替えて解散だ。でも、その温もりが気持ちよくて、俺は肩で息をしながらうつらうつらと瞼の開閉を繰り返した。
楽しかったなあ。またチャンスがあれば…そんなことを考えている俺と一緒にベロアは横たわっていたが、しばらくするとのそのそと起き上がって俺に声をかけた。
「…もう1回」
彼は俺の肩を掴んで正面を向かせる。
その動作で俺の腹にしまわれたままの彼のものがごり…と奥を刺激した。
あれ?そう言えばベロア、まだまだ萎えてなさそうじゃない?このとんでもない量を2度も出したとは思えない程一切硬さを失わないそれに、興奮で熱が顔に集まってくる。
「いいよ、好きなだけ使ってよ」
ベロアに両手を広げて招くと、彼は俺の身体を見つめて小首を傾げた。
「…服は無い方がいい」
仰向けになった俺を見下ろしたベロアは眉間にシワを寄せた顔でそう言う。俺のシャツの襟をぐっと引っ張って、ブチブチといとも簡単にシャツのボタンをちぎり前を開けた。
「えええ…何も破らんでも…」
身体を覆うものが何もなくなり、俺は貧弱な自分の身体を見下ろす。菓子は食えても一応は拒食症だ。骨と皮に近いこの身体をセックス中に見せたら萎えそうなものだが。
それに、俺は着衣派なんだよね。ベロアみたいな綺麗な筋肉着てるならいいんだろうけどさ。
ベロアは痩せこけた俺の胸やアバラの感触を確かめるように手で撫でる。
「この方がいい」
満足したような笑みを浮かべると、彼は再び腰を振り始めた。
「あっ、あっ!待って!ご、ゴム変え…たい…っ!」
パシパシと俺に被さるベロアの背中を叩くが、恐らくゴムを知らない彼は「後で」と言って腰を振るのをやめようとしない。
短い休憩を入れた後とは言え、もう始めてから1時間は経過していた。ベロアはまだ2回だが、もうすでに何度も絶頂を迎えた後の俺の頭は、あっという間に快感で支配されて真っ白になる。
喘ぎ声を小さくするとか、何かをベロアに教えるとか、小難しいことが思考から消えてなくなり、ベロアの首にしがみついて、ただただ彼が挿入しやすいよう必死で腰を浮かせていた。
「はぁっ…きもち…っ!はらんなかやばぃ、あぅあっ!あ~…あっ!」
中に注がれたままのベロアの精液が突かれる度に腹の中で暴れて、波打った。出し入れのたびに彼と俺が繋がった隙間から漏れだし、下半身が恐ろしく濡れていた。
いつもならシーツが汚れるからと拒否するのだが、そんなことしている余裕はなかった。
もう頭が馬鹿になりつつあって、次にベロアが俺の中で達した時、彼の首に回した腕を離さずに耳元で次を強請った。
「やめないで…もっとして…」
快感が止まるのが切なくて、彼の下でもどかしく腰を揺する。彼は一瞬だけ顔を離して俺を見下ろすとベロアも目を細めて首元に顔を埋める。
「じゃあ…もう一回」
俺のリクエストに答えて、ベロアが再び動き始める。腰を浮かせるのが大変なので、俺は彼の腰に足を巻き付ける。
水気を含んだ音と身体を打ち付け合う音が無遠慮に部屋中に響き渡る。もう気持ちよすぎて何も考えられなかった。
「あ~っ!なか、しゅごいっ!きもちいっ…!べりょあっ、あっ!」
いつも下品だと言われるので口に出さないようにしている言葉が脳みそを介さずに口から次々に出ていく。頭も舌も回らなくて、自分でも何を言っているのか理解できてなかった。
「はぁっ…ヴィクトール…こっち」
ベロアは体に巻き付いた俺の手足を取り払いながら、今度は腕を引っ張って再びうつ伏せの姿勢に戻す。
しかし引かれた腕は離さないまま俺は反り返ったような体勢でベロアに首を食まれた。
「やっぱりこれも邪魔だ」
羽織るだけになっていたシャツを乱暴に取り払って纏う物のなくなった俺の体に彼の肌が重なる。
そのまま容赦なく奥へと押し込まれる圧迫感に、下半身が彼をぎゅうぎゅうと抱きしめて歓迎する。
「ぉっあっ、これしゅきぃ…」
だらしなく開いたまま閉まらない口の端から唾液が伝う。ベロアに腕を引かれた状態で身を任せ、再び激しく打ち付けられる快感に大きな声で喘ぎ続けた。
彼に突かれるごとに少しずつ射精をくり返し、俺の前に付けていたゴムが液体の重みで外れていく。つけ直さなきゃと頭の隅で思うのだが、それよりも今を楽しまないと勿体ない気持ちが勝ってしまう。
もしかしたら、今日のこれが最初で最後なのかもしれない。ベロアはセフレを理解しがたいと言っていた。これからも協力関係を続けるなら、あまり頻繁に誘えたものではないだろう。
腕を一層強く引かれ、彼のものを最奥で受け止める。もうベロアが達するのも何度目か分からない。中でビクビクと動くそれは再び俺の腹の中に精液を注ぎ込んだ。
「うぁ…あ…」
腹の中の快感に小さく震えながら熱くなった息を吐く。自分に付けていたゴムがずり落ちて、シーツに中身をばらまいた。
「…気持ちいな」
後ろから彼の声とまだ萎える気配のない彼の物を感じた。
それから後のことは、もう薄ぼんやりとしか覚えていない。動く力がなくなった俺を、ベロアは何度も転がして体位を変えて続けていたのは覚えてる。俺の腰がもたなくなれば、彼は片腕で軽々と持ち上げて続けたし、正常位も尻をめくられた姿勢で押しつぶされるような形で受け入れた…ような気がする。
シーツは2人の体液でびちゃびちゃになっていて、気を失う寸前にかろうじて「寒い 」と呟くとベロアは俺を包むように抱きしめてくれた。
筋肉で固められた彼の身体は、激しく動いた後でびっくりするほど温かかった。
「…ヴィクトール、おい」
気を失うように寝ていると身体を執拗に揺すられる。重たい瞼をうっすらと開くと彼は何か不満をアピールするかのような顔で俺を見下ろしていた。
「腹が減った」
「…あ~…」
散々喘いだせいでかすかすの声が出た。身体を起こそうと身体に力を入れると、生まれて1度も経験したことがないような恐ろしい痛みが走る。
「い"っ!?」
筋肉痛だ。それも物凄いやつ。とてもじゃないが動ける気がしない。
「どうした!?寝てる間に攻撃でもされたのか!?」
バッと俺の体を庇うように身構えながらベロアは周囲に警戒の目を向ける。
相変わらず考えることがぶっ飛んでる。ていうか、ベロアは全然元気で驚いた。あれだけ動いて筋肉痛にならないんだな。
「バカか…筋肉痛だよ」
俺はふふっと小さく笑う。
「筋肉痛?なんでそんな急に」
「昨日しこたま動いただろ」
そう言いながら時計に目をやると朝の9時を回ろうとしていた。昨日は8時過ぎに始めたような気がするが…一体何時間ぶっ続けでヤってたんだ。
「もうそろ飯来るから、悪いけど自分で受けとってくれ。フルチンで出るなよ」
「飯か!」
彼は軽やかにベッドから飛び降りると言われた通り、その辺のサルエルパンツを拾い上げて足を通す。綺麗な逆三角形を描くその後ろ姿は相変わらずセクシーだ。
ちょうどいいタイミングでコンコンとノックが聞こえるとベロアは「来たな!」と相変わらず上半身はそのままに扉を開ける。
「えっ、あれ?ヴィクトール様は…?」
「昨日しこたま動いたから筋肉痛がすごいらしい。代わりに受け取る」
唖然とする使用人の運んできたワゴンに手を添えながらベロアがありのままに応えるのが聞こえた。
「後で替えのシーツ持って来て~」
訝しげに部屋を覗き込んだ使用人に、俺は布団の中からヒラヒラと手を振った。
使用人は首を傾げながらも「承知しました」とワゴンを置いて去っていった。
「今日は卵だな、俺は肉も好きだけど卵も好きだ」
オムレツを指でふわふわとつつきながら上機嫌でサイドテーブルに飯を運ぶ彼は、昨日あんなことがあったというのに恐ろしくいつも通りに見える。
セフレの意味がわからないとか、セックスまるで興味がないとか、めちゃくちゃ無垢なこと言いながら、あれだけハッスルして何か思うところはないもんだろうか。彼の性格から考えれば、恐らくとりわけ突っ込むような話ではないと思っているような気もする。触れず隠蔽する方法もなくはないだろうけど。
「そういえば」
オムレツに添えられたトマトソースと指でなめとりながらベロアがふと思い出したように顔を上げる。
「結局セックスはどうなったんだ、途中で脱線してどんな遊びだったのかわからなかった」
「へ?」
不思議そうに首をかしげて思わぬ感想を述べる彼に、俺は思わず間抜けた声を出す。
「脱線してねえよ、あれがセックス。お互いが気持ちよくなるための大人のお遊びだよ」
話しながら俺は喉を鳴らすように笑う。この様子じゃ、どうせまた勝負事だと思ってたんだろう。
「あれ遊びだったのか!?よく路地裏でやってるやつは居た気がするけどあれはケンカして負けたやつが組み敷かれて泣きわめくものだと思っていた…そうか、遊びだったのか…」
路地裏で泣きわめく…強姦の事でも言っているのだろうか。コイツの中では強姦とセックスは別物だったらしい。まあ、その認識は間違っていないっちゃいないが。
「お前が見てるそれは、レイプだな。レイプは無理やりセックスを強いるから、あれは遊びじゃなくて虐待だ。俺とお前のは合意だから、遊びのセックス。お互い気持ちよかったし、楽しかったろ?」
「だから、無理やりやったらダメだぞ」と付け加え、俺は彼に口元だけで微笑んだ。
「気持ち次第で呼び名が変わるのか。複雑だな」
オムレツとパンを食べ終え犬飯に目を付け始めながら、ベロアは興味深そうな声を出す。
「でも、あんなに気持ちよくなるものだとは知らなかった。セフレを作ってまでやりたくなる気持ちはわかったよ」
納得したように笑いながらぐちゃぐちゃの犬飯も綺麗に平らげてしまう。コイツが来てからきっとキッチンは残飯が減って助かっているだろう。
「だろ」
飯を完食し終えて満足そうなベロアを見ながら、俺は目を細めた。
セフレの意味が分かるくらい気に入ってくれたんなら、これはワンチャン次回も望めるな。
「ベロアがいいならまたヤろうぜ。お前とすんの、今までで1番気持ちよかったよ」
「あのいけ好かないお前のセフレだって男より俺がいいのか、当然だろうな」
ベロアは「じゃあまたやろう、俺もセックスが好きだ」と勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らした。
これはラッキーだ。あんなセクシーな裸体が今後ずっと隣にあって自慰をしない自信がなかった。ベロアとは生きてる限り、目的が達成されない間はずっと行動を共にするだろうし、それなら目の前で美味しくなってる彼に相手をしてもらいたい。
しかしまあ、あれだけ激しくて長いセックスは初めてだ。ある程度出せば誰にでも賢者タイムはあるだろうが、この賢者タイムは日を跨ぎそうなくらい頭がスッキリしていた。
「…そういや、お前の手術から1週間になるな。目の具合はどう?」
ベッドから起き上がれないので、ソファに座っているベロアを手招きする。彼は言われた通りにのそのそと傍に寄ってくると、ベッドに乗り上げて俺の傍であぐらをかいた。
「そういえば痛くないな、もう治った」
「そいつは何より。目、見せて」
彼の顔に手を添え、こちらに顔を向けさせる。
昨日あれだけキスした後なので、今更顔を近づけるくらい普通は大したことではないはずが、何故か彼だと少し緊張した。
「ガーゼ取るね」
ゆっくりと彼の右目に貼られたガーゼを取る。ちょっと前なら拳が飛んできてもおかしくなかったのに、彼は大人しくガーゼを剥がす俺の顔を見つめていた。
彼の息が顔にかかる。こちらを見るベロアの瞳は本物のルビーみたいで綺麗だった。
「…取れた。目、開けられる?」
ガーゼの下から出てきた右目はまだ空洞なので、瞼に膨らみこそないが、アザも消えて綺麗に治っていた。
ベロアは恐る恐る瞼を動かし、それでも痛まないと空洞の目を細めでニヤリと笑みを浮かべる。
「もう大丈夫。あの医者はすごいな、完全復活だ!」
「そりゃ、俺の信頼してる医者だからな」
俺は不敵な笑みを浮かべているベロアの口の端を指で軽く引っ張って笑う。
今、彼がいたら一緒に喜んでくれたんだろう。ベロアがこんなに元気になったと見せてやりたかった。
「机の引き出しに爺さんが用意したお前の義眼が入ってる。一緒に入ってる手袋とセットで持って来てくれるか。お前の目に入れよう」
そう言うと、ベロアは頷いて俺の机の引き出しを漁る。ごそごそと片手で漁ってから、何を思ったのか引き出しごと引っ張りぬいて床に中身をぶちまけた。
「あったぞ、これだな?」
「乱暴だな…」
思わず苦笑いする。方法はさておき、一応俺がお願いした通り、滅菌ガーゼが敷き詰められたプラスチックケースに入った銀色の義眼と、袋に詰められたゴム手袋を手にベロアが戻ってきた。
「さんきゅ」
差し出されたそれらを受け取り、俺はゴム手袋が汚れないように指先で摘んで自分の手にはめる。プラスチックケースから義眼を取り出して、それを手に取った。
「目を開けて、こっち見て」
「わかった」
再び彼に顔を寄せてもらい、片手で彼の瞼を開いて優しく義眼を入れる。
彼の目の中に作られた義眼用の台座にはまるような手応え。
「…目を動かしてみて」
指示通りにベロアは目玉を左右に動かす。左目と同じように右目の義眼も動くことを確認し、俺は彼の顔から手を話した。
「ばっちりだ。一見するだけならオッドアイだな」
最近の義眼はどうなっているのか、片目と連動してちゃんと動くからすごい。目が潰れていたとは思えないほど自然に馴染んでいる。
いや、しかしカッコイイな。整った顔っていうのはこれを言うんだろう。美術館で作品を鑑賞するのと同じくらい見ていて飽きない。
「鏡見てみ」
部屋に置いている姿見を指さし、ベロアに言うと「本物の目みたいだ」と感心したように鏡に額までつけて凝視していた。
「お前の元々の赤い目の方がずっとカッコイイからな。その色で発注しとくよ」
「色なんて何でもいいだろう、ダメなのか?」
ベロアは首をかしげて今度は俺に額が付きそうなほど顔を寄せて「この色は変なのか?」と問い詰めてきた。
「変じゃねえけど…無色ってつまんないじゃん。やっぱり赤とか派手な方が好きだな」
彼は元がいいから何でも似合うのだろうが、地毛が白髪の俺からすればどうしても何か色がある方が魅力的に見える。
「それに、お前が生まれ持ってきた色がその赤なら、俺はそっちを尊重したいかな。事故で失われるって悲しいじゃん」
「そういうものなのか?でもお前がそう言うなら赤い目はもっと大事にするよ」
「ああ、そうしてくれ」
きょとんと俺を見下ろすベロアに笑いかけると、俺は一息つく。
「…今日はさすがに動けねえから、子供たちには1人で会いに行ってきて欲しいんだけど…変な奴に遭遇しても撒けるか?」
本当は1人で行かせたくないのだが、この状態の俺が一緒に行く方がもっと危ないだろう。
「…そうだな、お前も心配だけど子供たちも心配だ。でも俺はお前以外の誰にも捕まらない、だから心配ないな」
捕まえる人間の中に俺が入ってることに少し笑ってしまう。気にすることでもないだろうに。それでも、心強くはあった。
スッと立ち上がるとベロアは床に投げ捨ててあったゆるゆるのTシャツに袖を通し、いつものリュックを背負った。
「あ、ねえ、待って」
着々と出掛ける準備を進めるベロアに俺は声を掛ける。
「俺の父親、たぶん昨日の騒ぎでお前の顔とかもどっかで見ただろうし、ブチギレてると思うんだよね。お前は俺がお使いに出したって使用人たちには連絡しとくけど、つけられないように」
「分かってる」
「返り討ちにしても、出来れば殺さないで欲しい。俺は父親にお前みたいな犬の存在が正しいって証明したいんだ」
証明できれば、もしかすれば父親も何か考えを変えるかもしれない。可能性は限りなく低いと思うが、最初から0だと思って視野を狭めるのは愚かだ。
「お前が最高にカッコイイ奴だって知らしめてやってくれよ」
俺はニッと笑って見せると、彼も歯を見せて笑った。
「行ってくる」
そう言って彼は窓から軽やかに飛び降りてあっという間に見えなくなった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
【BL-R18】変態ドM勇者の淫乱一人旅
ぬお
BL
※ほぼ性的描写です
とある世界に、一人旅をする勇者がいた。
その勇者は気ままな旅をしながら立ち寄った村、町、都市で人々を救っている。
救われた人々は皆、感謝の言葉を口にして勇者を賞賛した。
時には、涙を流して喜ぶ人々もいる。
・・・だが、そんな勇者には秘密の悪癖があったのだった。
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる