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第2章

40.村

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「フィーレちゃんとルティちゃん、すごい悲しそうにしてましたね」

「あー、最近忙しいみたいで息抜きできてないのかも。一緒に来れればよかったんだけど」

「ララちゃんとルルちゃんの2人もショックを受けた顔をしてましたよ? 勇馬さん、いったい異世界で何をしてるんですかねぇ……」

「……言っとくけど、やましいことはしてないからな?」

 ジトッと疑わし気な目を向けてくる莉奈に、勇馬はハーレム的なものはないとしっかりと否定した。
 勇馬達が1度屋敷に戻って内容を彼女達に伝えた時、相当ショックを受けた顔をしていた。特にルルはこの世の終わりのような顔をしており、最後までついていきたいと駄々をこねていたが、ソフィに怒られ渋々諦めていた。

「それにしては、やけにみんな勇馬さんのことを慕っているようでしたけど……」

「リナ、それはユウマ殿が我々のために命を懸けて尽くしてくれたからだ。もちろん、私もユウマ殿を、け、敬愛しているぞ」

「……なんで顔が赤くなってるんですかね」

「確かに、リナちゃんの言う通り真っ赤になってますねぇ。隊長、どうかしたんですかぁ?」

 莉奈が冷静に指摘すると、その前に座っているリズベットもニヤニヤと面白半分に口を出す。
 ティステの後ろに座る勇馬にも、表情は見えないが耳まで赤くなっているのが見えた。

「う、うるさいっ! 余計なこと言ってないで、さっさと依頼のある村に行くぞ!」

「……逃げた」

「逃げましたね」

 莉奈とリズベットとの会話を強引に打ち切り、ティステは馬の足を速めた。

「あ、ちょっと、置いてかないでくださいよーっ!」

 その後ろを追いかけるように、リズベットも速度を上げるのだった。


 ◆◇◆


 街を出て休憩を繰り返しながら半日、ようやく勇馬の目にも遠くにある村が見えてきた。
 この短い期間でここまで馬に乗る機会があると、勇馬も少しだけ慣れてきた気がした。だが。やはりというか莉奈は慣れない乗馬にかなり疲れているようだった。

「莉奈、大丈夫か?」

「大丈夫……ではないかもしれません……」

「もうあそこに見えるのが目的の村みたいだから、そのうちに日も暮れるだろうし、今日はゆっくり休ませてもらおう」

「うぅ……すみません……」

 勇馬の目に映る莉奈は、疲労困憊といった様子で、今にも倒れそうに思えた。

(しまったな、馬での移動も考慮するべきだったか。村に着いたら『ミリマート』で何か甘いものでも買ってあげよう)

 勇馬がそんなことを考えていると、あと少しという距離まで村に近づいていた。
 クレイオールの街とは全然違い、簡素であまり意味のないようにも見える門と、兵士というよりはただの農民といった見た目の者が門番として入口に立っていた。

「やっと着いた。思ったよりも時間がかかってしまったな」

「休憩いっぱいしてましもんね。それでもリナちゃんはちょっと辛そうだけど」

 リズベットが莉奈の頭を優しく撫でた。

「あ、門番の人がこっち見てるからとりあえず挨拶しとこうか。――すみませーん、冒険者組合で依頼を受けてきましたー!」

 勇馬が少し離れた位置から声を掛けると、

「おぉっ、冒険者の方でしたか! こんなところあまり旅人が来ることもないので、いったい何しに来たかと思っていたとこです。依頼を受けてくださりありがとうございます! 村長の家まで案内しますので、付いてきてもらってもいいですか?」

 門番の男は最初こそ警戒した表情で様子を見ていたが、勇馬達が冒険者だとわかると、すぐにほっとしたように笑顔を見せた。

「ええ、お願いします」

「ではこちらへ」

 村に入ると、門番が言っていたように普段は誰も訪れないせいか、馬を連れて歩く勇馬達をじろじろと村人達は見ていた。決して居心地のいいものではなかったが、彼らは彼らで心配なのだろうと勇馬は気にしないことにした。

「この家です。おーい、村長! 冒険者組合から冒険者の方が来てくれたぞ!」

 男は大きな声で家の中にいるであろう村長を呼んだ。
 村長の家は周りよりも少し大きいが、クレイオールの街ではまず見ることがないような貧相な佇まいだった。とはいえ、領主街だから発展しているだけで、普通はこれぐらいなのかもしれないが。

「おーい、いるかー!?」

「すまんすまん、待たせたな」

 家の扉が開くと、中からはキールと同じ歳くらいの男が現れた。
 村長は勇馬達を見ると、「おぉ、よく来てくださいましたな。ささっ、詳しいことは中でお話しますので、こちらへどうぞ」と、家の中に招き入れてくれた。

(なんか、子供の時に社会科見学で見たことあるような家だな……)

 現代日本で育った勇馬にとって、村長の家は非常に古風な家だと思えた。それは莉奈も同じだったようで「なんだか小学生の頃を思い出します」と言っていた。

「どうぞどうぞ、こんな何もない村まで来てくださり、本当にありがとうございます」

「いえ、実は私や彼女は冒険者になったばかりということもあって、『害獣駆除』という依頼がちょうどいい経験になりそうだったんです。あ、でも安心してくださいね。そこにいるティステさんとリズベットさんはしっかりとした訓練を受けている方達ですし、冒険者としても優秀だと思うので。ね、2人とも」

「冒険者、としては確かにユウマ殿の言う通りかもしれないな。村長、これでも一応私は『2級』の冒険者だし、このリズベットは『3級』だ。それに、ユウマ殿とリナの2人は新人とは思えない力を有しているから、是非安心してほしい」

「おぉ! それはなんと頼もしいことです。こんな街から離れた村のために、ありがとうございます」

 村長は感激したように深く頭を下げた。
 この依頼の報酬はそれほど高くはないため、冒険者がなかなか来なかったのかもしれない。そう考えれば、勇馬達が新人とはいえ来てくれただけでもありがたいことなのかもしれない。

「それで、具体的なお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」

「はい。ここ1か月ほどのことなのですが、畑の作物がよく食い荒らされるようになったのです。警戒心が高いのか昼に姿を見せることはなく、特にここ数日は酷くなっていまして、このままでは我々は冬を越すことも難しくなってしまいます。なので、どうか皆様に2度と畑荒らしがないようにしてほしいのです!」

「なるほど……」

 その内容は冒険者組合で聞いたものとほとんど同じだった。ただ、実際に話を聞くほうが、よりこの村に壊滅的な被害を与えているかを知ることができた。彼らにとって死活問題となる作物を、なんとしてでも守ってもらいたいという気持ちは十分に伝わてくるのだった。

「つまり、魔物かどうかも今のところはわからないわけですね。ティステさん、リズさん、こういうときってどうするのがいいんだろう?」

 勇馬はベテラン冒険者の2人に話を振った。

「ふむ、警戒心が強いと言うのなら、やはり夜が狙われやすいということだろう。なら、それはもう夜通し見張るしかないな」

「うぇ、ここまで来てもそんな訓練みたいなことしなきゃいけないんですかぁ……」

 リズベットは悲しみに満ちた声を上げた。
 正直、勇馬としてもそんな耐久戦みたいなことになるとは思ってなかっただけに、想像以上に冒険者とは過酷かもしれない。

「うーん、ではどうします? 今日の夜から始めますか?」

 ちらりと勇馬が莉奈を見ると、

「……」

 何もしゃべりはしないが、涙目でぷるぷると震えていたので、言いたいことは理解できた。

「お疲れでしょうし、今夜はゆっくりしてくだされ。食事や寝る場所はご用意しますので、何卒よろしくお願いいたします」

「わかりました、お気遣いいただきありがとうございます。今日は休ませていただいて、さっそく明日から調べてみます」

 その後、村長が言ったように食事を提供してもらい、寝床まで用意してもらって勇馬達はゆっくり休むことができた。
 だが翌日――、

「うわっ、これは酷いな……」

 勇馬達が畑の様子を見に行くと、そこにあったのは土がぐちゃぐちゃに荒らされ、作物がボロボロに食い散らされた後の姿であった。
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