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第2章
39.害獣駆除
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「それじゃ、行こうか」
食事の後、莉奈をキールに紹介した勇馬は、今この世界で自分が何をしていようとしているかを彼女に伝えた。
それが、冒険者だった。
クレイオール邸の面々は勇馬と莉奈を保護してくれる意思を示してくれるが、だからといってそれに甘えているだけではいけないと思っていた。
勇馬が莉奈にその考えを伝えると、やはり同じ日本人同士ということもあってか、今後の身の振り方について概ね賛同してもらえた。
「ティステさん、すみませんがまたお願いしますね」
「おまかせを。私はユウマ様とリナ様の護衛隊長となりますので、気になさらないでください。リナ様、改めて自己紹介いたします。ティステ・フルーレと申します。今後はそこの隊員たちとともに、お2人の身を守ってまいりますので、何かあれば申し付けください。お2人が分かれた時のために、私がユウマ様を、このリズベットをリナ様にお付けいたします。今回から同行させますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「リズベットです! よろしくお願いします、リナ様!」
「あ、水瀬莉奈です! よろしくお願いします!」
護衛の対象が2人になるため、ティステはリズベットも今後は参加するように命じたのだった。
ちなみに、フィーレとルティーナの2人は、今日も予定があるらしく泣く泣く見送るのみだった。
「でも、様付けされるような者じゃないんですけど……なんだか変な感じですね」
「でしょ? やっぱそうだよなぁ。俺も未だにむずがゆいし……ティステさん達も、いっそフィーレやルティみたいにもっと普通に接してくれません?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「えー、隊長、私的にはそれでもいいんだけどなぁー」
「お、おい、リズっ! それは失礼だぞ!」
「いえ、自分もそのほうがいいですよ。莉奈もそうだよな?」
「はい、私なんかそんな様付けされるような高貴な人間じゃないですし、全然気にしないです」
「ほらぁ、隊長いいって言ってますよー?」
「リ~ズ~ベッ~ト~!」
「……隊長が怖いのでこれまで通りにします!」
ティステの低く呼びかける声に、リズベットはピシッと背筋を伸ばして敬礼した。
「そんな気にしなくていいのに……」
「いえ、これは規律もありますので。他の者の手前、そういうわけにはいきません」
「でもそれって、プライベート……誰も見ていないようなところではいいてことじゃないです?」
「確かに、裏を返せば莉奈の言う通りかもな」
「そ、それは……」
勇馬と莉奈の指摘に、ティステはたじたじになってしまう。
「で、では、他の者がいないときだけ、ユウマ殿、リナとお呼びします……」
「なんで俺だけ殿!?」
「それはっ……さすがに男の方を呼び捨てにするのは……は、恥ずかしい……」
恥ずかしがるティステを見て、
「じゃあ敬語も禁止、ね?」
さらなる追い打ちをしたくなってしまった。
「うぅ……わか、った……」
「……勇馬さんって、意外とイジワルなんですね」
「うんうん、温厚そうに見えてその実は俺様タイプかもしれないね、これは」
「いや、全然違うけど!」
莉奈とリズベットが勝手に変なイメージを持ち始めたため、勇馬は即座に声を大きくして否定した。
ともあれ、勇馬達は街にある冒険者組合に向かって出発するのだった。
◆◇◆
「ここが冒険者組合だよ。――莉奈、大丈夫か?」
馬から降りた莉奈は、バランスを崩して少しふらついていた。
莉奈はリズベットの後ろに乗せてもらっており、勇馬は今回もティステの後ろに乗っていた。
「だ、大丈夫です! ちょっと慣れない感覚で……でも、こんな経験日本じゃなかなかできないから、ちょっと楽しかったです」
「確かにそれは言えるかも。これからも、ここでは新鮮なことがたくさんあると思うよ」
いいことも、そして悪いことも……と教えたほうがいいのか迷ったが、勇馬はあえて変な先入観を与えないように黙っていることにした。
組合の中に入った勇馬達は、前回と同じように受付に並んだ。
「次の方どうぞ――あ、こんにちは」
「こんにちは、アリエッタさん。今日は前回討伐した依頼の報告と、彼女の冒険者登録をお願いしたいんです」
「こんにちは! 水瀬莉奈といいます、よろしくお願いします!」
「ふふっ、こんにちは。アリエッタといいます。わからないことがあれば何でも相談してくださいね」
「は、はい!」
アリエッタが前回と同じように羊皮紙と羽ペンを取り出すと、「あ、リナちゃんのは私が代筆しますね!」と、リズベットは文字をまったく読み書きできない莉奈に代わって羽ペンを受け取った。
「はい、お預かりしますね。それでは冒険者証を作成してきますが、ユウマさんの時と同じように説明は省きますか?」
「えーと、どうしようかな。ティステさんやリズさんに聞いてもいいだろうけど、自分で聞く?」
「そうですね、大事なことですし今後のために1度しっかり聞かせてください」
「わかりました。では、こちらを渡してきますので少々お待ちください」
莉奈は真面目な性格をしていたため、間違いを起こさないためにも、説明を受けてわからないことがあったらここですぐに聞き返せるようにしたかった。勇馬はそんな彼女を見て「俺も1度ちゃんと説明を聞いとこうかな……」と、莉奈の冒険者証が出来るまでの間全員でアリエッタの話を聞くことにした。
「――と、このような感じです。何かわからないところはありましたか?」
アリエッタから聞かされたことは、勇馬がティステから説明してもらったこととほとんど同じで、特に目新しいものはなかった。
「自分は大丈夫です。莉奈は何かある?」
「特にないですけど、しいて言うのなら等級はどのようにして上がるんですか?」
「そこに関しては明確に冒険者の方々に提示はしていないんです。ただ、組合のほうで功績はしっかり管理しているので、然るべき時にお声がけさせていただいてますね。ちょっとあやふやな答えになっちゃいましたけど……」
「いえ、ありがとうございます。少し気になっただけですので……それに、今はそれよりも冒険者としてやってけるかが大事ですし」
「それは確かにそうかもしれないな。俺もまだ登録してから初めて討伐したくらいだけど、大変なことをいっぱいありそうだしなぁ。まぁ、お互いフォローし合いながら無理しないようにやってこう」
「はい、わかりました!」
先輩というには経験が少なすぎるが、それでも年齢的にも、そしてこの世界に一足先に来た身としても、勇馬は若い彼女の手本となれるようにしようと心に決めた。
「それでは討伐部位の確認をしますね。こちらに載るようでしたら出してください――」
ティステが討伐した際に回収したグレートウルフの牙をカウンターに出し、アリエッタがそれを後ろへ査定するために持って行った。しばらくして戻ってくると、依頼報酬として3万リア、素材の買い取りとして5万リアの計8万リアを提示された。
もちろんその金額で問題ないため大銀貨8枚を受け取り、ティステにその半分の4枚を渡そうとしたが、
「わ、私は何もしてないから、ユウマ殿が受け取ってくれ!」
「いやいや、そうでもないでしょ。こういうのはきっちり分けといたほうがいいんだよ?」
そう言って、彼女に無理やり握らせた。
ここにいる面子はないかもしれないが、こういう報酬の分配というのは揉める原因になりやすいので、最初から折半にしといたほうが都合がいいだろうと勇馬は思った。
「さて、それじゃさっそく莉奈の初依頼を選ぼうか」
「お、お手柔らかにお願いします!」
依頼が貼りだされている掲示板に移動し、彼女の初依頼にちょうどよさそうなものをよく吟味する。
「うーん、せっかく4人いるんだし、俺の時とは違うものを受けたいところだなぁ」
「私は別にもっと簡単なものでも……あのおっきな――グレートウルフ? っていうのも十分怖かったですし……」
「フッフッフ、これなんていいんじゃないですか!?」
リズベットが1つの依頼書を指差し、その内容を教えてくれる。
「近くにある村の作物が荒らされてるようです。魔物かただの獣かわかりませんが、それを解決して欲しいっていう依頼ですね!」
「だが、この村だと1泊必要になるんじゃないか?」
「だからいいんじゃないですかぁ! これで訓練も休める――あいたぁ!? 何するんですか隊長っ!」
ティステがリズベットの頭をチョップして黙らせた。
「お前こそ何を言ってるんだ……まったく、すぐそうやって訓練をさぼろうとして。この依頼を受けるのはいいが、戻ってきたら訓練の量を倍に増やしてやらないとな」
「そ、そんなぁ……っ!」
がっくりと肩を落とすリズベットを見て、勇馬と莉奈は笑い合う。
「ははっ、じゃあ、リズさんのためにも早く終わらせて戻ってこなきゃいけないな」
「そうですね。私も頑張りますので、いろいろ教えてくださいねっ、リズさん!」
「はぅ……」
こうして勇馬達はアリエッタから依頼を受け、1度屋敷に戻って外泊することを伝えたのち、害獣に困っている村に向かって出発するのだった。
食事の後、莉奈をキールに紹介した勇馬は、今この世界で自分が何をしていようとしているかを彼女に伝えた。
それが、冒険者だった。
クレイオール邸の面々は勇馬と莉奈を保護してくれる意思を示してくれるが、だからといってそれに甘えているだけではいけないと思っていた。
勇馬が莉奈にその考えを伝えると、やはり同じ日本人同士ということもあってか、今後の身の振り方について概ね賛同してもらえた。
「ティステさん、すみませんがまたお願いしますね」
「おまかせを。私はユウマ様とリナ様の護衛隊長となりますので、気になさらないでください。リナ様、改めて自己紹介いたします。ティステ・フルーレと申します。今後はそこの隊員たちとともに、お2人の身を守ってまいりますので、何かあれば申し付けください。お2人が分かれた時のために、私がユウマ様を、このリズベットをリナ様にお付けいたします。今回から同行させますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「リズベットです! よろしくお願いします、リナ様!」
「あ、水瀬莉奈です! よろしくお願いします!」
護衛の対象が2人になるため、ティステはリズベットも今後は参加するように命じたのだった。
ちなみに、フィーレとルティーナの2人は、今日も予定があるらしく泣く泣く見送るのみだった。
「でも、様付けされるような者じゃないんですけど……なんだか変な感じですね」
「でしょ? やっぱそうだよなぁ。俺も未だにむずがゆいし……ティステさん達も、いっそフィーレやルティみたいにもっと普通に接してくれません?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「えー、隊長、私的にはそれでもいいんだけどなぁー」
「お、おい、リズっ! それは失礼だぞ!」
「いえ、自分もそのほうがいいですよ。莉奈もそうだよな?」
「はい、私なんかそんな様付けされるような高貴な人間じゃないですし、全然気にしないです」
「ほらぁ、隊長いいって言ってますよー?」
「リ~ズ~ベッ~ト~!」
「……隊長が怖いのでこれまで通りにします!」
ティステの低く呼びかける声に、リズベットはピシッと背筋を伸ばして敬礼した。
「そんな気にしなくていいのに……」
「いえ、これは規律もありますので。他の者の手前、そういうわけにはいきません」
「でもそれって、プライベート……誰も見ていないようなところではいいてことじゃないです?」
「確かに、裏を返せば莉奈の言う通りかもな」
「そ、それは……」
勇馬と莉奈の指摘に、ティステはたじたじになってしまう。
「で、では、他の者がいないときだけ、ユウマ殿、リナとお呼びします……」
「なんで俺だけ殿!?」
「それはっ……さすがに男の方を呼び捨てにするのは……は、恥ずかしい……」
恥ずかしがるティステを見て、
「じゃあ敬語も禁止、ね?」
さらなる追い打ちをしたくなってしまった。
「うぅ……わか、った……」
「……勇馬さんって、意外とイジワルなんですね」
「うんうん、温厚そうに見えてその実は俺様タイプかもしれないね、これは」
「いや、全然違うけど!」
莉奈とリズベットが勝手に変なイメージを持ち始めたため、勇馬は即座に声を大きくして否定した。
ともあれ、勇馬達は街にある冒険者組合に向かって出発するのだった。
◆◇◆
「ここが冒険者組合だよ。――莉奈、大丈夫か?」
馬から降りた莉奈は、バランスを崩して少しふらついていた。
莉奈はリズベットの後ろに乗せてもらっており、勇馬は今回もティステの後ろに乗っていた。
「だ、大丈夫です! ちょっと慣れない感覚で……でも、こんな経験日本じゃなかなかできないから、ちょっと楽しかったです」
「確かにそれは言えるかも。これからも、ここでは新鮮なことがたくさんあると思うよ」
いいことも、そして悪いことも……と教えたほうがいいのか迷ったが、勇馬はあえて変な先入観を与えないように黙っていることにした。
組合の中に入った勇馬達は、前回と同じように受付に並んだ。
「次の方どうぞ――あ、こんにちは」
「こんにちは、アリエッタさん。今日は前回討伐した依頼の報告と、彼女の冒険者登録をお願いしたいんです」
「こんにちは! 水瀬莉奈といいます、よろしくお願いします!」
「ふふっ、こんにちは。アリエッタといいます。わからないことがあれば何でも相談してくださいね」
「は、はい!」
アリエッタが前回と同じように羊皮紙と羽ペンを取り出すと、「あ、リナちゃんのは私が代筆しますね!」と、リズベットは文字をまったく読み書きできない莉奈に代わって羽ペンを受け取った。
「はい、お預かりしますね。それでは冒険者証を作成してきますが、ユウマさんの時と同じように説明は省きますか?」
「えーと、どうしようかな。ティステさんやリズさんに聞いてもいいだろうけど、自分で聞く?」
「そうですね、大事なことですし今後のために1度しっかり聞かせてください」
「わかりました。では、こちらを渡してきますので少々お待ちください」
莉奈は真面目な性格をしていたため、間違いを起こさないためにも、説明を受けてわからないことがあったらここですぐに聞き返せるようにしたかった。勇馬はそんな彼女を見て「俺も1度ちゃんと説明を聞いとこうかな……」と、莉奈の冒険者証が出来るまでの間全員でアリエッタの話を聞くことにした。
「――と、このような感じです。何かわからないところはありましたか?」
アリエッタから聞かされたことは、勇馬がティステから説明してもらったこととほとんど同じで、特に目新しいものはなかった。
「自分は大丈夫です。莉奈は何かある?」
「特にないですけど、しいて言うのなら等級はどのようにして上がるんですか?」
「そこに関しては明確に冒険者の方々に提示はしていないんです。ただ、組合のほうで功績はしっかり管理しているので、然るべき時にお声がけさせていただいてますね。ちょっとあやふやな答えになっちゃいましたけど……」
「いえ、ありがとうございます。少し気になっただけですので……それに、今はそれよりも冒険者としてやってけるかが大事ですし」
「それは確かにそうかもしれないな。俺もまだ登録してから初めて討伐したくらいだけど、大変なことをいっぱいありそうだしなぁ。まぁ、お互いフォローし合いながら無理しないようにやってこう」
「はい、わかりました!」
先輩というには経験が少なすぎるが、それでも年齢的にも、そしてこの世界に一足先に来た身としても、勇馬は若い彼女の手本となれるようにしようと心に決めた。
「それでは討伐部位の確認をしますね。こちらに載るようでしたら出してください――」
ティステが討伐した際に回収したグレートウルフの牙をカウンターに出し、アリエッタがそれを後ろへ査定するために持って行った。しばらくして戻ってくると、依頼報酬として3万リア、素材の買い取りとして5万リアの計8万リアを提示された。
もちろんその金額で問題ないため大銀貨8枚を受け取り、ティステにその半分の4枚を渡そうとしたが、
「わ、私は何もしてないから、ユウマ殿が受け取ってくれ!」
「いやいや、そうでもないでしょ。こういうのはきっちり分けといたほうがいいんだよ?」
そう言って、彼女に無理やり握らせた。
ここにいる面子はないかもしれないが、こういう報酬の分配というのは揉める原因になりやすいので、最初から折半にしといたほうが都合がいいだろうと勇馬は思った。
「さて、それじゃさっそく莉奈の初依頼を選ぼうか」
「お、お手柔らかにお願いします!」
依頼が貼りだされている掲示板に移動し、彼女の初依頼にちょうどよさそうなものをよく吟味する。
「うーん、せっかく4人いるんだし、俺の時とは違うものを受けたいところだなぁ」
「私は別にもっと簡単なものでも……あのおっきな――グレートウルフ? っていうのも十分怖かったですし……」
「フッフッフ、これなんていいんじゃないですか!?」
リズベットが1つの依頼書を指差し、その内容を教えてくれる。
「近くにある村の作物が荒らされてるようです。魔物かただの獣かわかりませんが、それを解決して欲しいっていう依頼ですね!」
「だが、この村だと1泊必要になるんじゃないか?」
「だからいいんじゃないですかぁ! これで訓練も休める――あいたぁ!? 何するんですか隊長っ!」
ティステがリズベットの頭をチョップして黙らせた。
「お前こそ何を言ってるんだ……まったく、すぐそうやって訓練をさぼろうとして。この依頼を受けるのはいいが、戻ってきたら訓練の量を倍に増やしてやらないとな」
「そ、そんなぁ……っ!」
がっくりと肩を落とすリズベットを見て、勇馬と莉奈は笑い合う。
「ははっ、じゃあ、リズさんのためにも早く終わらせて戻ってこなきゃいけないな」
「そうですね。私も頑張りますので、いろいろ教えてくださいねっ、リズさん!」
「はぅ……」
こうして勇馬達はアリエッタから依頼を受け、1度屋敷に戻って外泊することを伝えたのち、害獣に困っている村に向かって出発するのだった。
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