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第1章
21.悪い報せ
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軍事施設を勇馬が訪問した日から数日が経ち、ルティーナがクレデール砦に行く日がやってきた。
あの日は、あれから時間が許す限り軍内部を見て回った。
驚いたことに、本当に隠すことなく勇馬にすべてを見せてくれたのだった。事前に『どこを見ていただいても大丈夫です』と聞いてはいたが、軍事機密があるような場所でも構わず見せてくれたのだった。
兵士の中には勇馬の姿を見て若干訝しむ者もいたが、フィーレとルティーナが一緒にいるため、特になにか言われることもなかった。
「ユウマ、行ってくるねっ!」
「ああ、気を付けるんだぞ?」
「うん!」
出発までの数日間、勇馬はフィーレとともに行動し、ルティーナは準備で別行動をとることが多かった。とはいえ、彼女も息抜きのたびに顔を出していたのでそれほど離れていたわけではないが。
「おっと、そうだ。ちょっと待っててくれな」
「?」
勇馬はそう言って、『ミリマート』を開いた。
せっかくだから、道中何かおやつ的なものを持たせてあげようと考えたのだ。
(うーん、ミリ飯――はさすがに口に合うかわからんな。……そうだ!)
勇馬はルティーナに背を向けて、コソコソとウィンドウのタップを繰り返す。
(ついでにポーチでも買ってそれに入れておくか)
そうして勇馬は全部で2000リアほどで購入したものを手元に召喚し、
「はい、ルティ。俺も好きな甘い食べ物なんだけと、小腹が空いたときにでも食べてみてくれ。きっと気に入ると思うぞ?」
「わぁ、ありがとう、ユウマ!」
「お、おい――!」
ルティーナは抱きつくようにユウマの耳に顔を近づけ、
「――フィーちゃんと2人だからって、変なことしちゃダメだよ?」
「ぶっ――お前な……」
ニヤニヤとした表情で勇馬をからかった。
今度はそのままフィーレのほうに行き、勇馬を見ながら耳元で何かを囁き、
「――ふぇ!?」
フィーレは顔を一瞬にして赤く染め上げ、その様子にルティーナは口元をニヤつかせていた。
(いったい何を言ったんだか……)
それを見ていた勇馬は、ルティーナがまた何か余計な事を言ったのだろうと思うのだった。
「もうっ、ルティったら……」
「何を言われたんですか?」
「ひゃっ!? ユ、ユウマさん……」
勇馬が声を掛けると、フィーレは肩をビクンッと跳ねさせて驚いた。
「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。ルティが変なことを言うからちょっと……」
「あー……私もルティに言われましたねぇ」
「そうなんですか? 勇馬さんは何てルティに言われたんですか?」
「え? いや、その……大したことでもないですよ、うん。フィーレさんこそ何て言われたんですか?」
「ぅ……いえ、私も大したことじゃ……」
「そ、そうですか……」
「はい……」
勇馬は、ルティが勇馬に言ったようなことをフィーレにも言ってるかもしれないと思い、彼女から目を逸らしてしまう。フィーレも勇馬と同じ気持ちだったのか、下を向いて黙ってしまった。
お互いになんだか少し気まずい時間が流れるのだった。
「それでは――ルティーナ、しっかりとお務めを果たしてきます!」
「うむ、道中気をつけて行きなさい。問題ないと思うが、無論、グラバル王国にもだ。レオンがいるから、何かあればあいつの指示に従うんだぞ?」
「はい!」
レオンは、普段大隊長として兵を率いているが、今回はルティーナのクレデール訪問の隊を任されることとなった。
「では、行ってきます!」
そうして、ルティーナを乗せた馬車は、クレデール砦に向かって出発したのだった。
◆◇◆
「では、今日もお勉強といきますか」
「はい、ユウマさん」
ルティーナがクレイオール邸を発って数日、勇馬はフィーレにこの国の歴史や成り立ち、文化や技術の程度について教わっていた。文字の読み書きも同時に教わってはいたが、話すことはなぜか最初からできていても、読み書きできるまでにはまだ至っていなかった。
「そういえば素朴な疑問なんですけど、攻撃魔法ってあるんですよね?」
「攻撃魔法ですか?」
「はい。この間の模擬戦で、ティステさんが『攻撃魔法は使わないように』ってお兄さんに釘を刺していたので気になって……」
出会った頃に、勇馬の89式小銃による銃撃を魔法と勘違いされたことから存在するだろうと予想はしていた。ただ、今のところそういったファンタジー要素はフィーレの治癒魔法と、ソフィのエルフ、そしてララとルルの猫獣人くらいなもので、ずっと気になってはいたのだ。
それに、「もし使えるのなら是非自分も!」というのは、異世界に飛ばされた者の考えとしては当然の帰結ともいえる。
「はい、ありますよ」
「おおっ」
「ただ――」
「お?」
「残念ながら、限られた者しか扱うことができません。血筋によってしまうので……。それに関してはフルーレ家の人間――それこそ、レオンは魔法の扱いに関してはかなり秀でているかと思います」
「そう、ですか……」
勇馬はがっくりと肩を落とした。
血筋によるものでは、異世界からやって来た自分にはノーチャンスだと突き付けられたのも同然なのだから。
「あ、でも、ユウマさんはもっと優れた魔法のような能力を持っていますし、そんな落ち込まなくてもレオンに勝っちゃうくらい強いんですから全然大丈夫ですよ!」
勇馬としては、弱くてもいいから手から火を出すなど、いつかのアニメで見たような経験をしてみたかっただけにショックであることは間違いない。とはいえ、あわあわしながらフォローしてくれるフィーレを前にないものねだりをしてもしょうがないので、話題を変えることにした。
「まあ、魔法は諦めるしかなさそうですね。そういえば、そろそろルティは着いた頃ですかね?」
「あ、はい、そうですね。クレデール砦まではここから2日あれば十分着きますので。今頃はあの子も頑張って兵士を労っていると思います」
「そういえば、今回ルティに同行してくれたのはレオンさんなんですね」
出発の際、レオンは訓練の時よりもより煌びやかな鎧を身に纏って指揮を執っていた。その時に勇馬はレオンから今回の隊の隊長を務めると聞かされていた。
「ええ、そうですね。実力は申し分ないですし、クレイオール家とフルーレ家は勝手知ったる仲ですので、父が任命したそうです」
「そうだったんですね。初めて会った時にすごいイケメンだったので驚きましたよ」
「『いけめん』ってなんですか?」
フィーレは聞き慣れない単語に、小首を傾げて勇馬に質問した。
「ああ、えっと、私の世界の言葉で……要するに『カッコイイ顔をしている』っていう意味です」
「そんな意味があるんですね。レオンのことは子供の頃から見慣れてますし、私にとってはフルーレ家の人間は家族のようなものですから、気にしたこともなかったです。そんなに整った容姿をしていましたか?」
「ええ、それはもう。というか、フィーレさんももちろんそうですが、出会う人皆さん美男美女ばかりで驚いてますよ。自分なんて全然容姿が優れているわけではないので、なんだか非常に浮いてる気が……」
「ふぇっ!? い、いえ、私なんてそんな……それにユウマさんこそ、こちらではあまりいない黒い髪と瞳でキリッとした男性らしい容姿で……その、素敵だと思います!」
「えぇ!? いえ、そんなこと……」
この世界にきて感じてたことを何気なしに勇馬は言ってしまったが、面と向かって『あなたの容姿は綺麗です』なんて、まるで口説いているようになってしまった。そのせいかフィーレは顔を赤らめながら下を向いてしまい、2人の間に気まずい沈黙が流れてしまった。
「……えーと、それでレオンさんの話でしたね。確か普段は大隊長を務めて――」
気まずい空気を打ち消そうと、話の続きを勇馬が再開し出した途端、ドンドンと慌てた様子で扉を叩く音が聞こえた。
「――フィーレ様っ! いらっしゃいますか!?」
「フラン?」
次に聞こえたのは、慌てた様子で扉の外から聞こえるフランの声だった。
いつもは小さくノックした後、こちらから返事するまで呼びかける声もしなかっただけに、フィーレは少し怪訝な顔をして聞き返した。
「フィ、フィーレ様っ! 大変です!」
「ど、どうしたの、フラン? そんなに慌てて……」
大きな音を立てながら扉を開けたフランは、肩で息をしており、その様子にフィーレは目を丸くして驚いた。
だが、フランからもたらされた悪い報せに、フィーレはさらなる驚愕の表情を浮かべるのだった。
「ク、クレデール砦が――グラバル王国の攻撃を受けましたっ!!」
あの日は、あれから時間が許す限り軍内部を見て回った。
驚いたことに、本当に隠すことなく勇馬にすべてを見せてくれたのだった。事前に『どこを見ていただいても大丈夫です』と聞いてはいたが、軍事機密があるような場所でも構わず見せてくれたのだった。
兵士の中には勇馬の姿を見て若干訝しむ者もいたが、フィーレとルティーナが一緒にいるため、特になにか言われることもなかった。
「ユウマ、行ってくるねっ!」
「ああ、気を付けるんだぞ?」
「うん!」
出発までの数日間、勇馬はフィーレとともに行動し、ルティーナは準備で別行動をとることが多かった。とはいえ、彼女も息抜きのたびに顔を出していたのでそれほど離れていたわけではないが。
「おっと、そうだ。ちょっと待っててくれな」
「?」
勇馬はそう言って、『ミリマート』を開いた。
せっかくだから、道中何かおやつ的なものを持たせてあげようと考えたのだ。
(うーん、ミリ飯――はさすがに口に合うかわからんな。……そうだ!)
勇馬はルティーナに背を向けて、コソコソとウィンドウのタップを繰り返す。
(ついでにポーチでも買ってそれに入れておくか)
そうして勇馬は全部で2000リアほどで購入したものを手元に召喚し、
「はい、ルティ。俺も好きな甘い食べ物なんだけと、小腹が空いたときにでも食べてみてくれ。きっと気に入ると思うぞ?」
「わぁ、ありがとう、ユウマ!」
「お、おい――!」
ルティーナは抱きつくようにユウマの耳に顔を近づけ、
「――フィーちゃんと2人だからって、変なことしちゃダメだよ?」
「ぶっ――お前な……」
ニヤニヤとした表情で勇馬をからかった。
今度はそのままフィーレのほうに行き、勇馬を見ながら耳元で何かを囁き、
「――ふぇ!?」
フィーレは顔を一瞬にして赤く染め上げ、その様子にルティーナは口元をニヤつかせていた。
(いったい何を言ったんだか……)
それを見ていた勇馬は、ルティーナがまた何か余計な事を言ったのだろうと思うのだった。
「もうっ、ルティったら……」
「何を言われたんですか?」
「ひゃっ!? ユ、ユウマさん……」
勇馬が声を掛けると、フィーレは肩をビクンッと跳ねさせて驚いた。
「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
「い、いえ、大丈夫です。ルティが変なことを言うからちょっと……」
「あー……私もルティに言われましたねぇ」
「そうなんですか? 勇馬さんは何てルティに言われたんですか?」
「え? いや、その……大したことでもないですよ、うん。フィーレさんこそ何て言われたんですか?」
「ぅ……いえ、私も大したことじゃ……」
「そ、そうですか……」
「はい……」
勇馬は、ルティが勇馬に言ったようなことをフィーレにも言ってるかもしれないと思い、彼女から目を逸らしてしまう。フィーレも勇馬と同じ気持ちだったのか、下を向いて黙ってしまった。
お互いになんだか少し気まずい時間が流れるのだった。
「それでは――ルティーナ、しっかりとお務めを果たしてきます!」
「うむ、道中気をつけて行きなさい。問題ないと思うが、無論、グラバル王国にもだ。レオンがいるから、何かあればあいつの指示に従うんだぞ?」
「はい!」
レオンは、普段大隊長として兵を率いているが、今回はルティーナのクレデール訪問の隊を任されることとなった。
「では、行ってきます!」
そうして、ルティーナを乗せた馬車は、クレデール砦に向かって出発したのだった。
◆◇◆
「では、今日もお勉強といきますか」
「はい、ユウマさん」
ルティーナがクレイオール邸を発って数日、勇馬はフィーレにこの国の歴史や成り立ち、文化や技術の程度について教わっていた。文字の読み書きも同時に教わってはいたが、話すことはなぜか最初からできていても、読み書きできるまでにはまだ至っていなかった。
「そういえば素朴な疑問なんですけど、攻撃魔法ってあるんですよね?」
「攻撃魔法ですか?」
「はい。この間の模擬戦で、ティステさんが『攻撃魔法は使わないように』ってお兄さんに釘を刺していたので気になって……」
出会った頃に、勇馬の89式小銃による銃撃を魔法と勘違いされたことから存在するだろうと予想はしていた。ただ、今のところそういったファンタジー要素はフィーレの治癒魔法と、ソフィのエルフ、そしてララとルルの猫獣人くらいなもので、ずっと気になってはいたのだ。
それに、「もし使えるのなら是非自分も!」というのは、異世界に飛ばされた者の考えとしては当然の帰結ともいえる。
「はい、ありますよ」
「おおっ」
「ただ――」
「お?」
「残念ながら、限られた者しか扱うことができません。血筋によってしまうので……。それに関してはフルーレ家の人間――それこそ、レオンは魔法の扱いに関してはかなり秀でているかと思います」
「そう、ですか……」
勇馬はがっくりと肩を落とした。
血筋によるものでは、異世界からやって来た自分にはノーチャンスだと突き付けられたのも同然なのだから。
「あ、でも、ユウマさんはもっと優れた魔法のような能力を持っていますし、そんな落ち込まなくてもレオンに勝っちゃうくらい強いんですから全然大丈夫ですよ!」
勇馬としては、弱くてもいいから手から火を出すなど、いつかのアニメで見たような経験をしてみたかっただけにショックであることは間違いない。とはいえ、あわあわしながらフォローしてくれるフィーレを前にないものねだりをしてもしょうがないので、話題を変えることにした。
「まあ、魔法は諦めるしかなさそうですね。そういえば、そろそろルティは着いた頃ですかね?」
「あ、はい、そうですね。クレデール砦まではここから2日あれば十分着きますので。今頃はあの子も頑張って兵士を労っていると思います」
「そういえば、今回ルティに同行してくれたのはレオンさんなんですね」
出発の際、レオンは訓練の時よりもより煌びやかな鎧を身に纏って指揮を執っていた。その時に勇馬はレオンから今回の隊の隊長を務めると聞かされていた。
「ええ、そうですね。実力は申し分ないですし、クレイオール家とフルーレ家は勝手知ったる仲ですので、父が任命したそうです」
「そうだったんですね。初めて会った時にすごいイケメンだったので驚きましたよ」
「『いけめん』ってなんですか?」
フィーレは聞き慣れない単語に、小首を傾げて勇馬に質問した。
「ああ、えっと、私の世界の言葉で……要するに『カッコイイ顔をしている』っていう意味です」
「そんな意味があるんですね。レオンのことは子供の頃から見慣れてますし、私にとってはフルーレ家の人間は家族のようなものですから、気にしたこともなかったです。そんなに整った容姿をしていましたか?」
「ええ、それはもう。というか、フィーレさんももちろんそうですが、出会う人皆さん美男美女ばかりで驚いてますよ。自分なんて全然容姿が優れているわけではないので、なんだか非常に浮いてる気が……」
「ふぇっ!? い、いえ、私なんてそんな……それにユウマさんこそ、こちらではあまりいない黒い髪と瞳でキリッとした男性らしい容姿で……その、素敵だと思います!」
「えぇ!? いえ、そんなこと……」
この世界にきて感じてたことを何気なしに勇馬は言ってしまったが、面と向かって『あなたの容姿は綺麗です』なんて、まるで口説いているようになってしまった。そのせいかフィーレは顔を赤らめながら下を向いてしまい、2人の間に気まずい沈黙が流れてしまった。
「……えーと、それでレオンさんの話でしたね。確か普段は大隊長を務めて――」
気まずい空気を打ち消そうと、話の続きを勇馬が再開し出した途端、ドンドンと慌てた様子で扉を叩く音が聞こえた。
「――フィーレ様っ! いらっしゃいますか!?」
「フラン?」
次に聞こえたのは、慌てた様子で扉の外から聞こえるフランの声だった。
いつもは小さくノックした後、こちらから返事するまで呼びかける声もしなかっただけに、フィーレは少し怪訝な顔をして聞き返した。
「フィ、フィーレ様っ! 大変です!」
「ど、どうしたの、フラン? そんなに慌てて……」
大きな音を立てながら扉を開けたフランは、肩で息をしており、その様子にフィーレは目を丸くして驚いた。
だが、フランからもたらされた悪い報せに、フィーレはさらなる驚愕の表情を浮かべるのだった。
「ク、クレデール砦が――グラバル王国の攻撃を受けましたっ!!」
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