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第1章
20.模擬戦
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「さて、どうするか……」
あの後、フィーレに聞かれた勇馬は拒否したが、押しの強いレオンに迫られて最終的には1度だけという条件で受け入れてしまった。
(あんなイケメン顔で迫られたら、断るものも断れないだろ……)
勇馬が断り切れないことに軽く自己嫌悪に陥っていると、
「ユウマ様、兄が申し訳ありません。私がなんとか説得いたしますので、少々お待ちください」
「ティステさん……いや、でもここまできてしまったらしょうがないですよ。断らない自分が悪いですし。とりあえず、胸を借りるつもりでやるだけやってみます」
「ユウマ様……」
責任を感じているのか、ティステの表情は暗い。
「大丈夫ですよ。きっとお兄さんも本気は出さないでしょうし。それに、ちょっと気になることというか試してみたいこともあるんで」
「試してみたいこと、ですか……?」
「ええ、なのでちょっと待っててくださいね」
そう言って、勇馬は頭の中で『ミリマート』を呼び出した。
(さーて、何を買うかな……)
模擬戦では、主に木剣が使用される。当然、レオンもそうだ。
だが、勇馬はこれまでの人生で剣を振ったことはないし、精々中学生の体育であった剣道の時に竹刀を振ったくらいだ。それにしたって、素人レベルは抜け出せていない。
まさか実銃を使うわけにもいかないし、それならばと『ミリマート』で模擬戦で使えそうなものを買うことにしたのだ。
「うーん、物は試しだ。そんな高くないし買ってみるか」
勇馬はある物を購入し、周りにバレないように手元に召喚させた。
「あー……やっぱしっくりくるこの感覚、これもきっと能力の1つなんだろうな」
ぎゅっと握ったものは、昔のサバゲーでよく使われた「ゴムナイフ」だった。
これは刃の部分がゴム製になっているので、殺傷能力がないため模擬戦にはぴったりだった。
近年ではトラブルの元になるということもあり、ほとんどのゲームフィールドへの持ち込み自体が禁止されているゴムナイフだが、以前は「ナイフアタック」と呼ばれる戦法があったりしたくらいに人気だったものだ。
もちろん、勇馬は持っていなかったし扱ったこともない。
だが、手に持つそれをどうやって扱えばいいか、今の勇馬には自然と理解ってしまうのだった。
「どうりで、それほど罪悪感がなかったわけだ」
思い返せば、サバゲーしかしてこなかった一般人が実銃で正確に狙撃をしたり、それで人を殺めても罪悪感を抱かないほうがおかしいのだ。
勇馬は、自身が『武器に関するものをなんでも扱える』という能力を持っていることを確信した。さらに言うと、それを扱っている間は精神的に安定しているということだ。
「こりゃなんでもありだなぁ……」
「どうかしましたか?」
勇馬があまりのぶっ壊れっぷりのチート能力に呆れていると、不意に横からフィーレが問いかけてきた。
「あ、いえ、武器はこれを使おうと思うのですが……」
勇馬が手に持ったゴムナイフを見せると、
「え!?」
「ユウマ様……それは……」
「なになに、どうしたの――って、さすがにボクでもそれはちょっと……」
3人は明らかに引き攣った表情で勇馬の手元を見た。
「あっ、大丈夫ですよ。本物に見えるけど、ちゃんと刃は潰れてるので、ほら」
勇馬はゴムナイフの刃を触って、ちゃんと危険がないことをアピールする。
「っそうではなくて――し、失礼しました。その短剣で兄の木剣を相手にするのはさすがに無理があるかと……」
「ボクもそう思うなぁ。レオンは滅法強いらしいし、ティステも1度も勝ったことないって言ってたもん」
「はい、恥ずかしながら……」
2人の意見に、能力持ちとはいえ、さすがに勇馬も心配になってきた。
武器をもう1度選択し直したほうがいいかと考えると、
「――でも、ユウマさんはそれで戦えると思っているんですよね?」
と、フィーレは真剣な表情で勇馬に問いかけた。
「……ええ、恐らくはですが」
「私は信じます。ユウマさんがそう思うのでしたら、そうしたほうが絶対いいと思います。私も是非ユウマさんの短剣を扱う姿を拝見したいです」
「フィーレさん……わかりました。これでやりましょう」
ティステとルティーナが不安な表情を浮かべる中、勇馬はゴムナイフを手に持ってレオンと対峙した。
レオンは、明らかに自分の得物と長さの違う武器を見て、
「ユウマ様……もしや、それで戦われるのではありませんね?」
「いえ、これで戦います」
勇馬の返答にレオンは眉を顰めたが、すぐに元の表情に戻す。
恐らく、レオンの実力を知らずに多少腕の覚えがあるためにそんな武器を選択したのだろう、と。
「自慢ではありませんが、今ここにいる者の中では私に敵うものはおりません。そんな私ですが、短剣を使えばここにいる者の半分には負けてしまうでしょう。それほど短剣と長剣の差があります」
「もちろんそれはわかっていますが……多分、なんとかなるかなと」
「なんとかなる……?」
勇馬は、レオンのこめかみがピクリと反応したのを見て、「あ、やば」と、自分が失言したことに気づいた。
「あ、いえ、そうではなくてですね――」
「――わかりました。ユウマ様がよろしいのであれば、私も受け入れましょう。ティステ、合図を頼む」
戦闘態勢を整えたレオンに、完全にやらかしてしまったと後悔する勇馬だったが、既に後の祭りだった。
「ユウマ様、本当によろしいですか?」
「はい……」
ティステの最終確認に、後に引けなくなった勇馬は、ゴムナイフを逆手に持って構えた。
「では、模擬戦を始めます。危険だと判断すればすぐに止めますので、くれぐれも魔法を使うなどやりすぎないようにしてください」
(魔法……フィーレさんみたいな治癒魔法だけじゃなくて、やっぱり攻撃魔法もあるのか)
後半の部分は、レオンを見ながらティステは忠告したが、彼の意識は既に勇馬に向いており聞こえてはなさそうだった。
ティステは、いざとなれば自分が2人の間に飛び込んででも止めようと心に決めた。
「では、いきます。――始め!!」
その開始の合図とともに、レオンは勇馬との距離を一気に詰める。そして、相手を気遣う気などない鋭い一振りが勇馬を襲うが――、
「な――っ!?」
それを勇馬はほんの少しゴムナイフを木剣に滑らすだけで軌道を変えた。
虚しく空を切ったレオンだったが、
「――ぉお!」
強引に剣を斬り上げて、勇馬の体を追いかける。
「――!?!」
が、勇馬はそれすらも軽々と弾いたのだった。
「うっそ……」
ルティーナは、その光景にぽかんと口を開けて驚いた。それはティステも同じで、レオンの剣撃をあっさりといなしてしまう勇馬に目を奪われるのだった。
そして――、
「う……」
「勝負あり、ですね?」
勇馬はがら空きとなったレオンの首元に、ゴムナイフの先端を突き立てるように寸止めした。
「あれ?」
だが、誰も何も言わず、ティステからの終了する声も掛からない。
まさか、まだ続けるのかと勇馬がティステを見ると、
「う、嘘……兄様が……」
口をパクパクさせて目を見開いていた。
そんなティステにフィーレが近寄り、
「これはユウマさんの勝ちですね。ね、ティステ?」
「――ハッ! し、失礼しました! 勝負あり、ユウマ様の勝利です!」
「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――っっ!!」」
その瞬間、怒号にも似た歓声が上がるのだった。
「すごいすごい!! ユウマ、本当に強かったんだね! ……ボク、見惚れちゃったよ?」
「ぶっ、見惚れるってお前……」
「そ、そうですよ、ルティ! 失礼だから離れなさい! 私なんて最初からユウマさんのことを信じてましたからねっ!」
腕を勇馬に絡ませるルティーナに、フィーレは顔を真っ赤に染め上げて引き離そうとする。
「短剣で隊長を圧倒するとかすごすぎる……」
「俺、レオン隊長が敗れるの初めて見たぞ……?」
兵士達は口々に勇馬を褒め、
「ユウマ様、非礼をお詫びさせてください。あなたほどの方に私が偉そうに講釈を垂れるなど……本当に申し訳ありませんでした」
レオンは感謝を述べた時のように、深く頭を下げた。
「いえ、そんなことまったく気にしていないので……お願いですから頭を上げてください!」
「おぉ……! なんと心が広いお方だ! 是非、今度我がフルーレ家でおもてなしを――」
すっかり勇馬を1人の戦士として認めたレオンは、おもてなし攻勢を勇馬に仕掛け始めた。
「ユウマ様……」
これまで模擬戦において、ティステはレオンに1度も勝ったことがない。それどころか、レオンが負けている姿を見たことすら記憶にはあまりない。
そんな自分とは次元の違う相手にあっさりと勝ってしまった勇馬を、ティステは頬を朱に染めて、どこか夢心地でぽーっと眺めるのだった。
あの後、フィーレに聞かれた勇馬は拒否したが、押しの強いレオンに迫られて最終的には1度だけという条件で受け入れてしまった。
(あんなイケメン顔で迫られたら、断るものも断れないだろ……)
勇馬が断り切れないことに軽く自己嫌悪に陥っていると、
「ユウマ様、兄が申し訳ありません。私がなんとか説得いたしますので、少々お待ちください」
「ティステさん……いや、でもここまできてしまったらしょうがないですよ。断らない自分が悪いですし。とりあえず、胸を借りるつもりでやるだけやってみます」
「ユウマ様……」
責任を感じているのか、ティステの表情は暗い。
「大丈夫ですよ。きっとお兄さんも本気は出さないでしょうし。それに、ちょっと気になることというか試してみたいこともあるんで」
「試してみたいこと、ですか……?」
「ええ、なのでちょっと待っててくださいね」
そう言って、勇馬は頭の中で『ミリマート』を呼び出した。
(さーて、何を買うかな……)
模擬戦では、主に木剣が使用される。当然、レオンもそうだ。
だが、勇馬はこれまでの人生で剣を振ったことはないし、精々中学生の体育であった剣道の時に竹刀を振ったくらいだ。それにしたって、素人レベルは抜け出せていない。
まさか実銃を使うわけにもいかないし、それならばと『ミリマート』で模擬戦で使えそうなものを買うことにしたのだ。
「うーん、物は試しだ。そんな高くないし買ってみるか」
勇馬はある物を購入し、周りにバレないように手元に召喚させた。
「あー……やっぱしっくりくるこの感覚、これもきっと能力の1つなんだろうな」
ぎゅっと握ったものは、昔のサバゲーでよく使われた「ゴムナイフ」だった。
これは刃の部分がゴム製になっているので、殺傷能力がないため模擬戦にはぴったりだった。
近年ではトラブルの元になるということもあり、ほとんどのゲームフィールドへの持ち込み自体が禁止されているゴムナイフだが、以前は「ナイフアタック」と呼ばれる戦法があったりしたくらいに人気だったものだ。
もちろん、勇馬は持っていなかったし扱ったこともない。
だが、手に持つそれをどうやって扱えばいいか、今の勇馬には自然と理解ってしまうのだった。
「どうりで、それほど罪悪感がなかったわけだ」
思い返せば、サバゲーしかしてこなかった一般人が実銃で正確に狙撃をしたり、それで人を殺めても罪悪感を抱かないほうがおかしいのだ。
勇馬は、自身が『武器に関するものをなんでも扱える』という能力を持っていることを確信した。さらに言うと、それを扱っている間は精神的に安定しているということだ。
「こりゃなんでもありだなぁ……」
「どうかしましたか?」
勇馬があまりのぶっ壊れっぷりのチート能力に呆れていると、不意に横からフィーレが問いかけてきた。
「あ、いえ、武器はこれを使おうと思うのですが……」
勇馬が手に持ったゴムナイフを見せると、
「え!?」
「ユウマ様……それは……」
「なになに、どうしたの――って、さすがにボクでもそれはちょっと……」
3人は明らかに引き攣った表情で勇馬の手元を見た。
「あっ、大丈夫ですよ。本物に見えるけど、ちゃんと刃は潰れてるので、ほら」
勇馬はゴムナイフの刃を触って、ちゃんと危険がないことをアピールする。
「っそうではなくて――し、失礼しました。その短剣で兄の木剣を相手にするのはさすがに無理があるかと……」
「ボクもそう思うなぁ。レオンは滅法強いらしいし、ティステも1度も勝ったことないって言ってたもん」
「はい、恥ずかしながら……」
2人の意見に、能力持ちとはいえ、さすがに勇馬も心配になってきた。
武器をもう1度選択し直したほうがいいかと考えると、
「――でも、ユウマさんはそれで戦えると思っているんですよね?」
と、フィーレは真剣な表情で勇馬に問いかけた。
「……ええ、恐らくはですが」
「私は信じます。ユウマさんがそう思うのでしたら、そうしたほうが絶対いいと思います。私も是非ユウマさんの短剣を扱う姿を拝見したいです」
「フィーレさん……わかりました。これでやりましょう」
ティステとルティーナが不安な表情を浮かべる中、勇馬はゴムナイフを手に持ってレオンと対峙した。
レオンは、明らかに自分の得物と長さの違う武器を見て、
「ユウマ様……もしや、それで戦われるのではありませんね?」
「いえ、これで戦います」
勇馬の返答にレオンは眉を顰めたが、すぐに元の表情に戻す。
恐らく、レオンの実力を知らずに多少腕の覚えがあるためにそんな武器を選択したのだろう、と。
「自慢ではありませんが、今ここにいる者の中では私に敵うものはおりません。そんな私ですが、短剣を使えばここにいる者の半分には負けてしまうでしょう。それほど短剣と長剣の差があります」
「もちろんそれはわかっていますが……多分、なんとかなるかなと」
「なんとかなる……?」
勇馬は、レオンのこめかみがピクリと反応したのを見て、「あ、やば」と、自分が失言したことに気づいた。
「あ、いえ、そうではなくてですね――」
「――わかりました。ユウマ様がよろしいのであれば、私も受け入れましょう。ティステ、合図を頼む」
戦闘態勢を整えたレオンに、完全にやらかしてしまったと後悔する勇馬だったが、既に後の祭りだった。
「ユウマ様、本当によろしいですか?」
「はい……」
ティステの最終確認に、後に引けなくなった勇馬は、ゴムナイフを逆手に持って構えた。
「では、模擬戦を始めます。危険だと判断すればすぐに止めますので、くれぐれも魔法を使うなどやりすぎないようにしてください」
(魔法……フィーレさんみたいな治癒魔法だけじゃなくて、やっぱり攻撃魔法もあるのか)
後半の部分は、レオンを見ながらティステは忠告したが、彼の意識は既に勇馬に向いており聞こえてはなさそうだった。
ティステは、いざとなれば自分が2人の間に飛び込んででも止めようと心に決めた。
「では、いきます。――始め!!」
その開始の合図とともに、レオンは勇馬との距離を一気に詰める。そして、相手を気遣う気などない鋭い一振りが勇馬を襲うが――、
「な――っ!?」
それを勇馬はほんの少しゴムナイフを木剣に滑らすだけで軌道を変えた。
虚しく空を切ったレオンだったが、
「――ぉお!」
強引に剣を斬り上げて、勇馬の体を追いかける。
「――!?!」
が、勇馬はそれすらも軽々と弾いたのだった。
「うっそ……」
ルティーナは、その光景にぽかんと口を開けて驚いた。それはティステも同じで、レオンの剣撃をあっさりといなしてしまう勇馬に目を奪われるのだった。
そして――、
「う……」
「勝負あり、ですね?」
勇馬はがら空きとなったレオンの首元に、ゴムナイフの先端を突き立てるように寸止めした。
「あれ?」
だが、誰も何も言わず、ティステからの終了する声も掛からない。
まさか、まだ続けるのかと勇馬がティステを見ると、
「う、嘘……兄様が……」
口をパクパクさせて目を見開いていた。
そんなティステにフィーレが近寄り、
「これはユウマさんの勝ちですね。ね、ティステ?」
「――ハッ! し、失礼しました! 勝負あり、ユウマ様の勝利です!」
「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――っっ!!」」
その瞬間、怒号にも似た歓声が上がるのだった。
「すごいすごい!! ユウマ、本当に強かったんだね! ……ボク、見惚れちゃったよ?」
「ぶっ、見惚れるってお前……」
「そ、そうですよ、ルティ! 失礼だから離れなさい! 私なんて最初からユウマさんのことを信じてましたからねっ!」
腕を勇馬に絡ませるルティーナに、フィーレは顔を真っ赤に染め上げて引き離そうとする。
「短剣で隊長を圧倒するとかすごすぎる……」
「俺、レオン隊長が敗れるの初めて見たぞ……?」
兵士達は口々に勇馬を褒め、
「ユウマ様、非礼をお詫びさせてください。あなたほどの方に私が偉そうに講釈を垂れるなど……本当に申し訳ありませんでした」
レオンは感謝を述べた時のように、深く頭を下げた。
「いえ、そんなことまったく気にしていないので……お願いですから頭を上げてください!」
「おぉ……! なんと心が広いお方だ! 是非、今度我がフルーレ家でおもてなしを――」
すっかり勇馬を1人の戦士として認めたレオンは、おもてなし攻勢を勇馬に仕掛け始めた。
「ユウマ様……」
これまで模擬戦において、ティステはレオンに1度も勝ったことがない。それどころか、レオンが負けている姿を見たことすら記憶にはあまりない。
そんな自分とは次元の違う相手にあっさりと勝ってしまった勇馬を、ティステは頬を朱に染めて、どこか夢心地でぽーっと眺めるのだった。
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