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第1章

18.お買い物日和

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 商店街は大通りに面した店が両脇にズラッと並んでおり、こういった光景は日本の観光地の土産屋のようにも感じられた。
 ルティーナが物色中の店は雑貨屋のようで、外には大小様々な木の置き物などが多くあった。
 店の中に入ると、木のコップや籠、動物を象った小さな置き物など種類を問わず様々な物が所狭しと並べられている。

「おーい、ルティ。何かいいのはあった?」

 ルティーナは、手に持った木彫りの小さな猫を勇馬に見せる。

「こういうかわいいのいいよね。ボク、猫好きなんだー。だから、ユウマがあの子達を助けてくれてほんと良かったよ!」

「俺1人の力じゃないけどね。護衛隊……あの時は親衛隊か。彼女達の力があってこそだよ」

 あの時のティステ達の姿を思い浮かべる。
 剣を持って勇猛果敢に突撃するだなんて、自分にはとても真似できない、と尊敬の念を抱く。

「私はその場にはいませんでしたが、その後報告で聞いています。ユウマさんが遠くから敵をバッタバッタと倒して、最後にはルルを人質にした盗賊の頭を一撃で倒したって」

「そうだったんだ! ユウマって強いんだねっ」

「いや俺自身が強いんじゃなくて、武器が強かっただけだよ。俺なんかより親衛隊のがよっぽど勇敢で凄かったよ」

「へえ、さすがフルーレ家の人間だね」

 ルティーナの口から聞き慣れない家名が出る。

「フルーレ家?」

「ティステ・フルーレ――ティステの家名です。フルーレ家は軍人の家系でして、代々軍の要職に就いています。彼女の父はエリアス軍第1軍団の副軍団長を任されていますし、2人の兄も各隊をまとめる要職を任されています」

「それは凄いですね。ティステさんも親衛隊の副隊長でしたもんね」

 ティステの強さと勇敢さは一族の血ということかと、勇馬は納得する。

「はい。彼女もまた期待されてるからこそ、ユウマさんの護衛隊の長となることができました。公にはできませんが、使徒様の護衛隊長を任されるなんてとても名誉なことなので、ティステも内心すごく喜んでいると思います」

「そ、そんなにですか……」

「考えようによっては、軍の要職に就くことよりも誇らしいことかもしれませんね」

 フィーレはそう言って、少し後方でリズベットと周囲を警戒しているティステをチラリと見た。
 言われてみれば、どことなく誇らしげな顔で職務を全うしているように勇馬には見えた。

「ねぇねぇ、次はあそこのお店に行ってみようよ!」

「はいはい」

「ちょっと――もう、ルティったら……すみません、ユウマさん」

 ルティーナは言うやいなや、お目当ての店に向かってすぐに走り出してしまった。
 外に何も出していない店構えなので何の店かはわからないが、ルティーナの瞳がキラキラとしていたことから、彼女行きつけの店なのかもしれない。

「いえいえ、気にしないでください。フィーレさんもルティも、普段はなかなかこういったところに来れないんじゃないですか?」

「ええ、そうなんです。ルティはいろいろ理由をつけて週に1回は来ているみたいですけど、私は少ないと月に1回程度しか来れない時もあるので、実は今日も久しぶりなんです」

 フィーレ達は、貴族であるが故に気軽に出掛けることすらできなかった。そう考えると、ルティーナがはしゃぐ気持ちも勇馬にはよく理解できた。

「でしたら、フィーレさんも今日くらいはゆっくり楽しみましょう。せっかくこうして街に来れたんですし、私を案内するということで、普段よりもいろいろ見て回りましょう!」

「えっ、そんな申し訳ないです! ユウマさんが興味ありそうなお店がありましたら、そこへお連れするのが私達の役目ですし……」

「私はこの街のことをよく知りませんから、フィーレさんが普段行っているところにぜひ連れてってください。そのほうがこの街のことをよく知れるでしょうし」

 正直この世界の文明レベルは高くないと感じていた勇馬は、街にどんなものがあるのかよくわからなかった。なので勇馬が希望した店に連れて行ってもらうより、フィーレやルティーナが普段どのようにこの街で過ごしているのかを知りたかったのだ。

「ふふ、わかりました。それでは気になっていたお店とかにも行ってみますね」

「ええ、どんなお店があるか楽しみにしています」

 勇馬達は、1人先に行ってしまったルティーナがいる店に行き、彼女達の案内で街中を歩き回るのだった。


 ◆◇◆


「んん~、今日はいつもよりいっぱいお買い物できて満足満足!」

「ふふっ、本当ね。私もいつも以上に楽しかったわ」

 大きく伸びをするルティーナに同調したフィーレは、実にご機嫌な様子だった。
 買い物好きの女の子という、日本となんら変わらないよく見る光景を眺めながら、

(……疲っかれたああぁぁぁ――!)

 勇馬は2人の後ろで心の中で大きく叫んでいた。
 あれからというもの、2人はほとんど休むことなく歩き続け、本当に街を1周するのではないかというほどだった。
 勇馬はフィーレに大見得を切った手前、彼女たちを引き留めるわけにもいかず、足を棒のように引きずってついていったのだった。

(やはり女性は買い物となると、疲れ知らずになるのはこっちの世界でも一緒なんだなぁ……)

 勇馬は、かつて姉に荷物持ちとしてアウトレットモールを端から端まで歩かされたことを思い出していた。今回は荷物を持つ必要がないだけ、まだマシなほうではあったが。

「すみません、ユウマさん。歩き疲れちゃいましたよね?」

「えー、ユウマってば、これくらいで疲れちゃったのー?」

「うっ……いやいや、山の中を主戦場としているサバゲーマーにとって、これくらいは大したことなんてないな、うん」

「さばげま?」

 実際のところは、早く馬車に乗って帰ってベッドに横になりたい気分だったが、勇馬からするとまだ年端も行かぬ少女にそんな情けないところを見せたくないので、つい余裕ぶってしまった。

「サバゲーマーだよ。なんていうか……ちょっと説明が難しいな。いわゆる大人がやる戦争ごっこの遊びをサバイバルゲームって言うんだけど、それをする人のことをサバイバルゲーマー――略してサバゲーマーって言うんだ」

「じゃあ、ユウマはそのさばいばるげーむ? っていうごっこ遊びが好きなの?」

「まぁ、そういうことかな。ごっこ遊びっていっても結構本格的なもんで、若い時にハマって歳いってからも続ける人が多いんだよ。俺もその内の1人なんだけど」

「へぇ~、ユウマの世界には変わったものがあるんだね!」

 感心するルティーナとは対照的に、「なるほど……それでユウマさんは本当の戦士のような動きで戦っていたのですね。実に興味深いです」と、フィーレは顎に手を当てて何か思案していた。
 もしかしたら、『サバゲー』を取り入れた訓練でも考えているのかもしれない。

「ねぇ、フィーちゃん、そろそろ戻ろうよー」

「え? あ、そうね。ユウマさん、今日はありがとうございました。案内するといったのに、なんだか私達の買い物に付き合わせるだけになっちゃって……」

「いえ、自分も楽しかったですし、勉強になりました。それに、ルティも素を見せてくれるくらいには仲良くなれたみたいですし……もちろん、フィーレさんもですね」

 そう言って、勇馬はにこっとフィーレに優しく微笑んだ。

 圧倒的な強さを誇示することなく、物腰も柔らかく、他人を気遣えるその姿勢――。
 フィーレが、これまで見てきたこの世界の男性とまったく違う姿に、胸がトクンと跳ねた気がしたのだった。
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