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第1章

16.検証

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「そのサブロウさんの最期というか、その後の話はないんですかね。おとぎ話でもいいんで」

 どんな些細な事でも元の世界に戻ることへ繋がるかもしれない、そんな気持ちで勇馬は問い掛けた。

「『家伝』はこれで全てですね。もしかしたら続きが失われてしまったという可能性もありますが、現存するのはこれだけです」

「そういえば、おとぎ話もこの先のお話は聞いたことがありませんね……」

 勇馬の質問に、キールと少し困惑した顔のフィーレが答えた。
 普通こういったおとぎ話の最後はその後の話エピローグがつきものだが、この『太陽神の使徒』という物語にはそれがなかった。
 フィーレは自分で話しながら少し疑問に思った。

「そうですか……」

「あっでも、もしかしたらどこか別の場所では、その続きの話が言い伝えられているかもしれません。おとぎ話は、その土地によって内容が変化していくこともありますから」

 若干気落ちした勇馬を見て、フィーレは慌てて励ますようにフォローを入れた。

「そうなんですね。では、今後はそこら辺の情報も集めていただいてもいいですか?」

「はい、もちろんですっ」

 フィーレの気遣いに、勇馬は笑顔を浮かべ礼を言う。

「ありがとうございます」

「いえ……あ、そういえばまだお伝えしておりませんでしたが、今後は私が案内役を務めさせていただきますね。ご遠慮なさらず何でも仰ってください」

「ありがとうございます。フィーレさんなら安心ですね。頼りにしてます」

「へ!? い、いえ、私なんてそんな……ふふっ」

 勇馬が素直な気持ちを伝えると、フィーレはほんのりと赤く染めた頬に手を当てた。

 専属メイドから始まり、護衛に案内人まで付いて至れり尽くせりだ。しかも美少女揃いときている。男も2人いるが。
 これも1つのハーレムなのかなと考えていると、横から声が入る。

「姉様、ぼ……私も案内人だよ!」

 顔を向けると、フィーレの妹――ルティーナが頬を可愛らしく膨らませていた。

「でもルティーナは、講義があったり学ぶことが多くて時間を取れないでしょう? 心配しなくても私1人で問題ないわ」

 フィーレは諭すように優しく語り掛けるが、ルティーナはなおも食い下がる。

「大丈夫! 勉学ならちゃんとやってるし、私も一緒に行くんだから!」

「はぁ……協力的なのはいいけど、他に支障をきたさないようにね? 約束よ?」

 ルティーナは、フィーレの言葉にぱっと花が咲いたように笑顔になった。

「うん、約束っ!」

 その後は勇馬の今後のスケジュールについて話し合い、とりあえずは、今のクレイオール領を知るために街へ繰り出して視察することとなった。
 話し合いの後、フィーレとルティーナが街へ出るために支度をするというので、勇馬も一旦部屋に戻ってきた。
 彼女達が支度をしている間、どうしても試しておきたいことがあったのだ。
 朝はいなかったが、部屋までの廊下には所々に兵士がおり、部屋の前にも1人立っていた。
 どうやら、勇馬を警護するために手配したようだ。
 勇馬は椅子に腰掛け、を発動する。

「――『ミリマート』」

 勇馬が声に出して呼び掛けると、ようやく見慣れてきたウィンドウが目の前に浮かび上がった。
 昨晩は疲れてすぐ眠ってしまったので、街に出る前に1度しっかりと調べておきたかったのだ。
 ちなみに、よくある『ステータス』と呼ばれるゲームではお馴染みのものは、何度か色々な名前で呼び掛けたが反応はなかった。

「うーん、やっぱりミリマートよりも商品の数が多いなあ。レベルは……まだ1のままか。どうやったらレベル上がるんだろう、コレ」

『ミリマート』で購入したりはしたが、今のところ特に変化はない。
 勇馬は腕を組んで考えてみるも、答えが思い浮かばず唸る。
 獲得した経験値などの表示などもないので、条件もわからず一旦放置することにした。

 次に、勇馬は『収納ボックス』のタブを押し、収納されている一覧を表示させた。
 その中には89式小銃や9mm拳銃など、勇馬が装備していたものが入っている。
 89式小銃を手元に『召喚』すると、一覧にある89式小銃の文字がグレーアウトされた。
 白文字のものは『収納ボックス』内にあり、『召喚』するとグレーアウトされるようだ。
 つまり、ここに表示されたものだけ出し入れできるということだ。

「この収納する能力だけでも凄いよなあ。収納量は……この一覧が埋まるくらい収納できるとしても相当な量だし」

『収納ボックス』タブ内のスクロールを下まで動かすと、空きがかなりあった。
 これなら購入したものは十分保管できそうだ。

「さて、次は収納できる条件だな」

 勇馬は89式小銃を部屋の隅に置き、その対角の隅へと移動した。
 部屋は広いため、89式小銃と勇馬の距離は10mほどもある。

「出来るかな~……っと」

『収納ボックス』にある89式小銃をタップし、収納ボタンを押した。

「お、成功だ」

 89式小銃は音もなく消えて、『収納ボックス』に入った。少なくとも、10m程度の距離ならば離れていても問題ないようだ。
 もっと遠くで試してみたいところだが、今は別の条件で検証してみることにする。

「ここでいいかな」

 89式小銃をベッドの裏に隠すように置き、勇馬はそれが見えない位置に離れた。
 今度は、目に見えない位置でも収納が可能かどうかだ。
 これが可能ならば、距離次第ではかなり有用になると思えた。

「今度はどうかなー」

『収納ボックス』から89式小銃を選んで、収納ボタンを押す。
 すると、ウィンドウ上にある89式小銃の文字が白くなった。

「お、これはいけたかな? どれどれ……」

 ベッドの裏を覗き込んでみると、そこには先ほど置いた89式小銃はなくなっていた。

「おぉー。これなら収納したいものが見えない状態でもいけるってことかな。――いや待てよ……」

 勇馬はふと思った。
 今は勇馬が自分で隠したため、そこに収納したいものがあるとわかっていたわけだ。
 もしこれが位置のわからないものだったらどうなるのか、他にも『ミリマート』で購入したもの以外は収納できるのかなど、検証の必要はまだまだありそうだった。
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