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第1章
12.秘密の部屋
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食事を終えた後、一行はクレイオール邸の廊下をキール案内の元、歩いていた。
その中にはフィーレとルティーナの姉妹と、銀髪の男――ヴァトラもいた。
部屋を移動する際、キールがヴァトラも知っておいたほうが良いだろうと、勇馬に軽く紹介して連れてきた。
これから見るものは代々クレイオール家に受け継がれてきたもので、外部には秘密にしていた。
広い邸内を歩き、1階にある一室の前でキールは立ち止まった。
厳重に鍵と錠前で管理されており、キールは取り出したいくつもの鍵を使って外していた。
「こちらの部屋にあるものをユウマ殿に見ていただきたいのです。ルティーナも初めてだったか。くれぐれもこの部屋で見たものは、誰にも漏らさないように頼むぞ」
「もちろんです!」
「かしこまりました。命にかえましても秘密は守り通します」
キールがルティーナとヴァトラを見て厳命すると、ルティーナはハキハキと返事をし、ヴァトラは恭しく頭を下げた。
それを確認したキールは軽く頷き、「では」と言って扉を開けた。
「――は?」
勇馬は、扉が開いてすぐ目に飛び込んできたものに、思わず呆けた声が出てしまった。
「これって……ゼロ戦……?」
それは、この世界で見られる光景とは掛け離れた異物、映像や写真でしか見たことのない生の戦闘機だった。
「何でゼロ戦がこんなとこに……」
それは部屋のど真ん中に鎮座しており、広さはかなりあると思われる部屋が狭く感じるほどの圧迫感があった。
それもそのはず、型式によってサイズは違えどこれが本当に零式艦上戦闘機であるならば大きいもので全長9mもあり、翼を広げた全幅は12mもある。高さに至っては3.5mにも上る。
「――やはりこれが何なのか、おわかりになるのですね」
そう声を掛けてくるフィーレを見ると、感動した様子で勇馬を見つめていた。
キールも同様に、「おお……」と感慨深そうにしており、ルティーナとヴァトラは勇馬と同じ様に驚いていた。
「これは太陽神様の使徒様がお使いになられていたものを、我がクレイオール家にて保管させていただいているのです。先ほどユウマ様が仰られていたように、『家伝』にも『ゼロ戦』と呼ばれていたと書いてあります」
「『家伝』、ですか……」
キールの言う『家伝』に一体どんなことが書かれているのか、勇馬は興味を惹かれた。
『太陽神様の使徒様』と『ゼロ戦』という前者はよくわからないが、後者は明らかに勇馬の住む世界のものだ。
気にならないはずがない。
「はい。伝わっている内容は端的にですが――」
キールが『家伝』の内容を教えてくれた。
そこには、勇馬と同じ様にこの世界に混じってしまった人物の逸話が書かれている。
その名前は『スズキ サブロウ』といい、勇馬と同じく『ニホン』から来た。
数百年前、このゼロ戦に乗って――。
サブロウは、かつてのクレイオール領主に手厚く保護された。
当時のエリアス王国は、現在のグラバル王国の位置にある国と戦時下にあった。
最前線の位置にあるクレイオール領は、相手の兵力の差に苦戦を強いられていた。
そこで恩義を感じたサブロウは、ゼロ戦を伴って戦に協力したのだ。
サブロウが操るゼロ戦の強さは圧倒的で、瞬く間に敵の砦を攻略していった。
また、サブロウが兵士に与えた武器も強力で、1ヵ月後には相手国の降伏という形で勝利を収めたのだった。
「――という話が代々伝わっております。また、このお話を簡易的にしたものがおとぎ話としてこの地では知られております。その後、『ニホン』という太陽神様のおられる国から来られたサブロウ様は、『使徒様』として崇められていました。ですから、ユウマ様もかつてのサブロウ様のように、使徒様としてクレイオールの地に留まっていただければ幸いに存じます。使徒様、どうか我らをお救いください」
なんだかとんでもない話になってきて、勇馬は困り果てた。
彼らは勇馬のことを使徒様だというのだが、色々訂正したい気持ちと聞きたいことでいっぱいだ。
まずもって使徒様ではない。
恐らく太陽神とは『天照大神』のことを言っているのだろうと予測はできた。
サブロウという人物は、第二次世界大戦中にこちらに来てしまったのかもしれない。
彼はプロであるかもしれないが、勇馬は別にそうじゃない。ただのサバゲー好きの一般人がこの国の力になれるとは思えなかった。
それに、彼らに力を貸すことが正しいかもわからないのだから。
とても素直に、「はい、わかりました」と言える気分ではなかった。
「ええと、何から訂正すればいいかな……まず、私は『使徒様』ではないです。サブロウさんという方がどう言ったのかはわからないですけど、日本という国から来たただの人間です。恐らくサブロウさんは軍人だったとは思いますが、私にはゼロ戦を使いこなすことはできません」
きっぱりと、キールの目を見て言う勇馬。
食事の時に感じていた違和感はこれだったのか、とようやく気付いた。
どうにも言葉遣いが丁寧過ぎたのだ。
普通、いくら恩人といえど、領主があそこまでへりくだった態度は取らないだろう。
フィーレが様付けで呼ばれた時にも感じていたが、どうやら彼らは本気で勇馬を、『太陽神の使徒』と思っているみたいだ。
「太陽神様のおられる国『ニホン』、そこから来られたユウマ様、そして伝承にあるような服装や武器、全てが一致しております。現在の我が国は戦時下ではありませんが、近いうちに戦争が起きると確信しております。どうかお力をお貸しいただけないでしょうか」
「ユウマ様、突然のお話で申し訳ございません。お礼をというお話であったのに、騙すような真似をしてしまいお詫びの言葉もありません……。ですが……民は戦に怯え、領の予算は軍事に割かざるをえなくなり、内政は非常に苦しい状態となっています。今は飢えるほどではありませんが、今後どうなるかまではわかりません。そんな時にユウマ様に出会いました。もはや運命としか……いえ、運命であったと思いたいのです! どうか、民を、国をお救いください!」
「いや、ですから……」
そう拝み倒すように、2人は頭を下げたまま上げようとしない。ルティーナとヴァトラも完全に理解していないながらも、空気を読んで頭を下げた。
ちょっとした縁でここまで付いてきてしまったが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。
勇馬は、とりあえず皆の頭を上げさせるために口を開く。
「頭を上げてください。色々聞きたいこととかありますけど……とりあえず、『保留』ってことにしてもらえませんか? 私には、この国のこともよくわかってないですし、まずはしっかりと現状を把握したいです。その上で協力できることを考えていきたいです」
簡単に決めることはできないと、努めて真摯な気持ちが伝わるように勇馬は話した。
キール達は頭を上げ、勇馬に視線を戻す。
「承知しました。では、ユウマ様には今後領内で様々なものを見聞きしていただき、その上でご判断していただきたく思います。つきましては、それまでの間でも屋敷にご滞在いただければと思うのですが……」
キールは勇馬の言葉を受け止めて頷き、屋敷での滞在を打診された。
勇馬にしては悪くない提案だった。
「ありがとうございます。正直なところ、お金も持っていないので助かります」
「そうでしたか。それでしたら、身の回りのことは全てクレイオール家にお任せください」
苦笑いして白状する勇馬にキールは嫌な顔一つせず、至れり尽くせりのサービスだ。
無論、心象を良くする下心はあるだろうが、助かることは事実だ。
勇馬はキールに向かって頭を下げる。
「重ね重ねすみません、助かります」
「気になさらないでください。これくらい当然のことですので。お疲れでしょうし、今日はここまでにいたしましょう。明日、また具体的にお話するということでいかがでしょうか?」
そうキールに言われて、今日1日のことを思い出す。
この世界に転移して、獣を倒しフィーレ達を助け、盗賊を倒しルルを助けて長時間の馬車移動の末、『太陽神の使徒』がどうこうである。
思い出したら疲労がどっと出てきた気がする。
「そうですね、そうさせていただきます」
勇馬もそれに同意し、続きの話は明日となった。
その中にはフィーレとルティーナの姉妹と、銀髪の男――ヴァトラもいた。
部屋を移動する際、キールがヴァトラも知っておいたほうが良いだろうと、勇馬に軽く紹介して連れてきた。
これから見るものは代々クレイオール家に受け継がれてきたもので、外部には秘密にしていた。
広い邸内を歩き、1階にある一室の前でキールは立ち止まった。
厳重に鍵と錠前で管理されており、キールは取り出したいくつもの鍵を使って外していた。
「こちらの部屋にあるものをユウマ殿に見ていただきたいのです。ルティーナも初めてだったか。くれぐれもこの部屋で見たものは、誰にも漏らさないように頼むぞ」
「もちろんです!」
「かしこまりました。命にかえましても秘密は守り通します」
キールがルティーナとヴァトラを見て厳命すると、ルティーナはハキハキと返事をし、ヴァトラは恭しく頭を下げた。
それを確認したキールは軽く頷き、「では」と言って扉を開けた。
「――は?」
勇馬は、扉が開いてすぐ目に飛び込んできたものに、思わず呆けた声が出てしまった。
「これって……ゼロ戦……?」
それは、この世界で見られる光景とは掛け離れた異物、映像や写真でしか見たことのない生の戦闘機だった。
「何でゼロ戦がこんなとこに……」
それは部屋のど真ん中に鎮座しており、広さはかなりあると思われる部屋が狭く感じるほどの圧迫感があった。
それもそのはず、型式によってサイズは違えどこれが本当に零式艦上戦闘機であるならば大きいもので全長9mもあり、翼を広げた全幅は12mもある。高さに至っては3.5mにも上る。
「――やはりこれが何なのか、おわかりになるのですね」
そう声を掛けてくるフィーレを見ると、感動した様子で勇馬を見つめていた。
キールも同様に、「おお……」と感慨深そうにしており、ルティーナとヴァトラは勇馬と同じ様に驚いていた。
「これは太陽神様の使徒様がお使いになられていたものを、我がクレイオール家にて保管させていただいているのです。先ほどユウマ様が仰られていたように、『家伝』にも『ゼロ戦』と呼ばれていたと書いてあります」
「『家伝』、ですか……」
キールの言う『家伝』に一体どんなことが書かれているのか、勇馬は興味を惹かれた。
『太陽神様の使徒様』と『ゼロ戦』という前者はよくわからないが、後者は明らかに勇馬の住む世界のものだ。
気にならないはずがない。
「はい。伝わっている内容は端的にですが――」
キールが『家伝』の内容を教えてくれた。
そこには、勇馬と同じ様にこの世界に混じってしまった人物の逸話が書かれている。
その名前は『スズキ サブロウ』といい、勇馬と同じく『ニホン』から来た。
数百年前、このゼロ戦に乗って――。
サブロウは、かつてのクレイオール領主に手厚く保護された。
当時のエリアス王国は、現在のグラバル王国の位置にある国と戦時下にあった。
最前線の位置にあるクレイオール領は、相手の兵力の差に苦戦を強いられていた。
そこで恩義を感じたサブロウは、ゼロ戦を伴って戦に協力したのだ。
サブロウが操るゼロ戦の強さは圧倒的で、瞬く間に敵の砦を攻略していった。
また、サブロウが兵士に与えた武器も強力で、1ヵ月後には相手国の降伏という形で勝利を収めたのだった。
「――という話が代々伝わっております。また、このお話を簡易的にしたものがおとぎ話としてこの地では知られております。その後、『ニホン』という太陽神様のおられる国から来られたサブロウ様は、『使徒様』として崇められていました。ですから、ユウマ様もかつてのサブロウ様のように、使徒様としてクレイオールの地に留まっていただければ幸いに存じます。使徒様、どうか我らをお救いください」
なんだかとんでもない話になってきて、勇馬は困り果てた。
彼らは勇馬のことを使徒様だというのだが、色々訂正したい気持ちと聞きたいことでいっぱいだ。
まずもって使徒様ではない。
恐らく太陽神とは『天照大神』のことを言っているのだろうと予測はできた。
サブロウという人物は、第二次世界大戦中にこちらに来てしまったのかもしれない。
彼はプロであるかもしれないが、勇馬は別にそうじゃない。ただのサバゲー好きの一般人がこの国の力になれるとは思えなかった。
それに、彼らに力を貸すことが正しいかもわからないのだから。
とても素直に、「はい、わかりました」と言える気分ではなかった。
「ええと、何から訂正すればいいかな……まず、私は『使徒様』ではないです。サブロウさんという方がどう言ったのかはわからないですけど、日本という国から来たただの人間です。恐らくサブロウさんは軍人だったとは思いますが、私にはゼロ戦を使いこなすことはできません」
きっぱりと、キールの目を見て言う勇馬。
食事の時に感じていた違和感はこれだったのか、とようやく気付いた。
どうにも言葉遣いが丁寧過ぎたのだ。
普通、いくら恩人といえど、領主があそこまでへりくだった態度は取らないだろう。
フィーレが様付けで呼ばれた時にも感じていたが、どうやら彼らは本気で勇馬を、『太陽神の使徒』と思っているみたいだ。
「太陽神様のおられる国『ニホン』、そこから来られたユウマ様、そして伝承にあるような服装や武器、全てが一致しております。現在の我が国は戦時下ではありませんが、近いうちに戦争が起きると確信しております。どうかお力をお貸しいただけないでしょうか」
「ユウマ様、突然のお話で申し訳ございません。お礼をというお話であったのに、騙すような真似をしてしまいお詫びの言葉もありません……。ですが……民は戦に怯え、領の予算は軍事に割かざるをえなくなり、内政は非常に苦しい状態となっています。今は飢えるほどではありませんが、今後どうなるかまではわかりません。そんな時にユウマ様に出会いました。もはや運命としか……いえ、運命であったと思いたいのです! どうか、民を、国をお救いください!」
「いや、ですから……」
そう拝み倒すように、2人は頭を下げたまま上げようとしない。ルティーナとヴァトラも完全に理解していないながらも、空気を読んで頭を下げた。
ちょっとした縁でここまで付いてきてしまったが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。
勇馬は、とりあえず皆の頭を上げさせるために口を開く。
「頭を上げてください。色々聞きたいこととかありますけど……とりあえず、『保留』ってことにしてもらえませんか? 私には、この国のこともよくわかってないですし、まずはしっかりと現状を把握したいです。その上で協力できることを考えていきたいです」
簡単に決めることはできないと、努めて真摯な気持ちが伝わるように勇馬は話した。
キール達は頭を上げ、勇馬に視線を戻す。
「承知しました。では、ユウマ様には今後領内で様々なものを見聞きしていただき、その上でご判断していただきたく思います。つきましては、それまでの間でも屋敷にご滞在いただければと思うのですが……」
キールは勇馬の言葉を受け止めて頷き、屋敷での滞在を打診された。
勇馬にしては悪くない提案だった。
「ありがとうございます。正直なところ、お金も持っていないので助かります」
「そうでしたか。それでしたら、身の回りのことは全てクレイオール家にお任せください」
苦笑いして白状する勇馬にキールは嫌な顔一つせず、至れり尽くせりのサービスだ。
無論、心象を良くする下心はあるだろうが、助かることは事実だ。
勇馬はキールに向かって頭を下げる。
「重ね重ねすみません、助かります」
「気になさらないでください。これくらい当然のことですので。お疲れでしょうし、今日はここまでにいたしましょう。明日、また具体的にお話するということでいかがでしょうか?」
そうキールに言われて、今日1日のことを思い出す。
この世界に転移して、獣を倒しフィーレ達を助け、盗賊を倒しルルを助けて長時間の馬車移動の末、『太陽神の使徒』がどうこうである。
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