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第4章 『王都と成り上がり』

44.決別

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 俺はルイの言葉を頭の中で反芻させた。

『この事態を引き起こした』

 ――ルイのいうこの事態というものは、今のこの王都の惨状を言っているのか?

 もしそれが事実だとしたら――。
 俺はそれが間違った予想であると願いながら、ルイに聞き返した。

「なぁ、お前の言っている『この事態』っていうのは、今のこの王都のことを言ってるのか……? 違う……よな?」

「はぁ……こんな馬鹿な奴と血が繋がってると考えると頭がおかしくなりそうだ」

「じゃ、じゃあやっぱり違って――」

「――それ以外になにがあるっていうんだよ、無能」

 ルイが冷たく放った言葉は、一瞬間違いだと思って安心した俺に、冷水をかけられたようだった。

「そ、そんな……お前、なんてことを……」

 俺はその場に膝から崩れ落ちた。
 今の王都の上空を見上げれば、弟のルイがとんでもないことをしでかしたことがすぐに理解できる。

「こんなことしたらどうなるか、お前だってわかるだろ……?」

「別にお前に心配されなくてもよく理解しているさ。というか、追放されたお前には関係ないけど、むしろこれが家のためになるんだよ」

「ッそんなわけないだろ! こんなの反逆罪で死刑に決まってるだろ!!」

「バレればそうかもしれないな。だけど、俺はそんなつもりないし、そもそもこの国に反逆するつもりなんてない」

「どういうことだ……?」

 俺が聞くと、ルイは鼻で笑って話を続けた。

「そもそもこの計画は、俺とウェルシー商会、そしてお前もよく知る『勇猛な獅子』の3つが関わってるんだよ」

「な!? レオたちも関わってるのか!?」

 まさかここで俺が追放されたパーティー名を聞くとは思わなかった。彼らとはあれから会っていなかったが、まさかこんな大それたことに関わっていただなんて……。

「奴らはAランクを目指してたからな。これを機にAランクとなり、王家との繋がりを持とうとしてるのさ。ウェルシー商会は『トランの消滅』の時のように、これをきっかけにさらに稼ごうと企んでるんだろう。そして俺も……王都の貴族連中が減り、グラント家にも脚光が浴びるだろう」

「お前ら……そんな自分勝手なことでこんなことしでかしたっていうのか……!?」

 俺はその自分勝手なルイの物言いに、ここに来るまでに見た光景を思い起こす。
 建物は破壊され、子供は泣き、血を流している人たちがいた。目に見える人だけでも全員助けたかったが、それは無理だった。
 それがこんな馬鹿げた目的のために行われたということが、俺には信じられなかった。

「別に。なんとも思わないな」

 ブチッと、自分の中で何かが切れるような音がしたと感じた。

「【エアカッター】!!」

 俺が放った《風魔法》に一瞬ルイは目を見開いたが、

「ハアッ!」

 キンッという甲高い音とともに、【エアカッター】を切り伏せた。

「……《風魔法》だと? おい、どういうことだ。なんでお前が魔法を使える?」

 ルイは兄である俺に攻撃されたということよりも、俺が《風魔法》を使ったということのほうが気になるようだった。

「これがお前たちに無能と言われた《大喰らい》の力だよ。俺はこうやって色々なスキルを使えるようになったんだ。昔とは違う」

「はっ、たかだか《風魔法》を使えたところで《剣聖》の俺に敵うとでも思ってるのか?」

「もうやめろ、ルイ! この事態を解決する方法を教えるんだ。……その後、俺もついてってやるから、罪をしっかり償うんだ」

「フ……フフ」

「? ……なにがおかしい」

「ハハハハハハハッ!」

 ルイが狂ったように笑いだした。

「なにがおかしいだって? お前のその頭に決まってるだろうがクソ無能ッ! なにが『ついてってやる』だ、なにが『罪を償え』だ。お前みたいな能無し野郎が、この俺様に偉そうに講釈垂れてんじゃねぇ!!」

「……家は追い出されたが、お前の兄であることは変わらないしな。それに、これが公になれば家も取り潰されるし、俺もただじゃすまないだろう」

「アルゼ様、そんな……!」

「すまない、メル。きっとこれからは一緒にいれないだろう」

 悲痛な顔を浮かべるメルに、俺は申し訳なくなる。

「チッ、ほんと鬱陶しい奴だな、お前。俺をイラつかせることに関しては、世界一だよ本当に。なんで俺がお前にここまで話したのか忘れたのか?」

「なに?」

「ここでお前を殺すとさっき言っただろう。死人は口を開かんからな」

 ルイは明確な殺意を持った目を俺に向けた。

「お前、実の兄に向って……」

「今更だろ、そんなもの。元々、俺はお前を消すことを父上に言われてるしな」

「父上はそんなことまで……」

 どこまでも俺のことをグラント家から消し去りたいその意志に、俺はいい加減辟易する。

「だからお前を殺してしまえばそれで口封じ完了ってことだ。ついでに、その奴隷も一緒に始末してやるから安心しろよ。あ、レティアは俺が面倒みるから気にする必要はないからな、無能兄上

 ルイは馬鹿にしたように俺にそう告げた。

「そんなことはさせません。アルゼ様は、命に代えてもメルがお守りします」

「メル……」

 俺の前に出たメルは、剣を抜いてルイを見据えた。

「ハッ、雌奴隷のほうがお前より根性がありそうだな!」

 それに応えるように、ルイは剣を構えた。
 ルイは《剣聖》だ。いくらメルでも、これまでの相手のようにはいかないだろう。
 俺は剣を抜き、

「――ルイ、これ以上お前の好き勝手にはさせない」

 ルイと決別する覚悟を決めた。
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