47 / 62
第4章 『王都と成り上がり』
44.決別
しおりを挟む
俺はルイの言葉を頭の中で反芻させた。
『この事態を引き起こした』
――ルイのいうこの事態というものは、今のこの王都の惨状を言っているのか?
もしそれが事実だとしたら――。
俺はそれが間違った予想であると願いながら、ルイに聞き返した。
「なぁ、お前の言っている『この事態』っていうのは、今のこの王都のことを言ってるのか……? 違う……よな?」
「はぁ……こんな馬鹿な奴と血が繋がってると考えると頭がおかしくなりそうだ」
「じゃ、じゃあやっぱり違って――」
「――それ以外になにがあるっていうんだよ、無能」
ルイが冷たく放った言葉は、一瞬間違いだと思って安心した俺に、冷水をかけられたようだった。
「そ、そんな……お前、なんてことを……」
俺はその場に膝から崩れ落ちた。
今の王都の上空を見上げれば、弟のルイがとんでもないことをしでかしたことがすぐに理解できる。
「こんなことしたらどうなるか、お前だってわかるだろ……?」
「別にお前に心配されなくてもよく理解しているさ。というか、追放されたお前には関係ないけど、むしろこれが家のためになるんだよ」
「ッそんなわけないだろ! こんなの反逆罪で死刑に決まってるだろ!!」
「バレればそうかもしれないな。だけど、俺はそんなつもりないし、そもそもこの国に反逆するつもりなんてない」
「どういうことだ……?」
俺が聞くと、ルイは鼻で笑って話を続けた。
「そもそもこの計画は、俺とウェルシー商会、そしてお前もよく知る『勇猛な獅子』の3つが関わってるんだよ」
「な!? レオたちも関わってるのか!?」
まさかここで俺が追放されたパーティー名を聞くとは思わなかった。彼らとはあれから会っていなかったが、まさかこんな大それたことに関わっていただなんて……。
「奴らはAランクを目指してたからな。これを機にAランクとなり、王家との繋がりを持とうとしてるのさ。ウェルシー商会は『トランの消滅』の時のように、これをきっかけにさらに稼ごうと企んでるんだろう。そして俺も……王都の貴族連中が減り、グラント家にも脚光が浴びるだろう」
「お前ら……そんな自分勝手なことでこんなことしでかしたっていうのか……!?」
俺はその自分勝手なルイの物言いに、ここに来るまでに見た光景を思い起こす。
建物は破壊され、子供は泣き、血を流している人たちがいた。目に見える人だけでも全員助けたかったが、それは無理だった。
それがこんな馬鹿げた目的のために行われたということが、俺には信じられなかった。
「別に。なんとも思わないな」
ブチッと、自分の中で何かが切れるような音がしたと感じた。
「【エアカッター】!!」
俺が放った《風魔法》に一瞬ルイは目を見開いたが、
「ハアッ!」
キンッという甲高い音とともに、【エアカッター】を切り伏せた。
「……《風魔法》だと? おい、どういうことだ。なんでお前が魔法を使える?」
ルイは兄である俺に攻撃されたということよりも、俺が《風魔法》を使ったということのほうが気になるようだった。
「これがお前たちに無能と言われた《大喰らい》の力だよ。俺はこうやって色々なスキルを使えるようになったんだ。昔とは違う」
「はっ、たかだか《風魔法》を使えたところで《剣聖》の俺に敵うとでも思ってるのか?」
「もうやめろ、ルイ! この事態を解決する方法を教えるんだ。……その後、俺もついてってやるから、罪をしっかり償うんだ」
「フ……フフ」
「? ……なにがおかしい」
「ハハハハハハハッ!」
ルイが狂ったように笑いだした。
「なにがおかしいだって? お前のその頭に決まってるだろうがクソ無能ッ! なにが『ついてってやる』だ、なにが『罪を償え』だ。お前みたいな能無し野郎が、この俺様に偉そうに講釈垂れてんじゃねぇ!!」
「……家は追い出されたが、お前の兄であることは変わらないしな。それに、これが公になれば家も取り潰されるし、俺もただじゃすまないだろう」
「アルゼ様、そんな……!」
「すまない、メル。きっとこれからは一緒にいれないだろう」
悲痛な顔を浮かべるメルに、俺は申し訳なくなる。
「チッ、ほんと鬱陶しい奴だな、お前。俺をイラつかせることに関しては、世界一だよ本当に。なんで俺がお前にここまで話したのか忘れたのか?」
「なに?」
「ここでお前を殺すとさっき言っただろう。死人は口を開かんからな」
ルイは明確な殺意を持った目を俺に向けた。
「お前、実の兄に向って……」
「今更だろ、そんなもの。元々、俺はお前を消すことを父上に言われてるしな」
「父上はそんなことまで……」
どこまでも俺のことをグラント家から消し去りたいその意志に、俺はいい加減辟易する。
「だからお前を殺してしまえばそれで口封じ完了ってことだ。ついでに、その奴隷も一緒に始末してやるから安心しろよ。あ、レティアは俺が面倒みるから気にする必要はないからな、無能」
ルイは馬鹿にしたように俺にそう告げた。
「そんなことはさせません。アルゼ様は、命に代えてもメルがお守りします」
「メル……」
俺の前に出たメルは、剣を抜いてルイを見据えた。
「ハッ、雌奴隷のほうがお前より根性がありそうだな!」
それに応えるように、ルイは剣を構えた。
ルイは《剣聖》だ。いくらメルでも、これまでの相手のようにはいかないだろう。
俺は剣を抜き、
「――ルイ、これ以上お前の好き勝手にはさせない」
ルイと決別する覚悟を決めた。
『この事態を引き起こした』
――ルイのいうこの事態というものは、今のこの王都の惨状を言っているのか?
もしそれが事実だとしたら――。
俺はそれが間違った予想であると願いながら、ルイに聞き返した。
「なぁ、お前の言っている『この事態』っていうのは、今のこの王都のことを言ってるのか……? 違う……よな?」
「はぁ……こんな馬鹿な奴と血が繋がってると考えると頭がおかしくなりそうだ」
「じゃ、じゃあやっぱり違って――」
「――それ以外になにがあるっていうんだよ、無能」
ルイが冷たく放った言葉は、一瞬間違いだと思って安心した俺に、冷水をかけられたようだった。
「そ、そんな……お前、なんてことを……」
俺はその場に膝から崩れ落ちた。
今の王都の上空を見上げれば、弟のルイがとんでもないことをしでかしたことがすぐに理解できる。
「こんなことしたらどうなるか、お前だってわかるだろ……?」
「別にお前に心配されなくてもよく理解しているさ。というか、追放されたお前には関係ないけど、むしろこれが家のためになるんだよ」
「ッそんなわけないだろ! こんなの反逆罪で死刑に決まってるだろ!!」
「バレればそうかもしれないな。だけど、俺はそんなつもりないし、そもそもこの国に反逆するつもりなんてない」
「どういうことだ……?」
俺が聞くと、ルイは鼻で笑って話を続けた。
「そもそもこの計画は、俺とウェルシー商会、そしてお前もよく知る『勇猛な獅子』の3つが関わってるんだよ」
「な!? レオたちも関わってるのか!?」
まさかここで俺が追放されたパーティー名を聞くとは思わなかった。彼らとはあれから会っていなかったが、まさかこんな大それたことに関わっていただなんて……。
「奴らはAランクを目指してたからな。これを機にAランクとなり、王家との繋がりを持とうとしてるのさ。ウェルシー商会は『トランの消滅』の時のように、これをきっかけにさらに稼ごうと企んでるんだろう。そして俺も……王都の貴族連中が減り、グラント家にも脚光が浴びるだろう」
「お前ら……そんな自分勝手なことでこんなことしでかしたっていうのか……!?」
俺はその自分勝手なルイの物言いに、ここに来るまでに見た光景を思い起こす。
建物は破壊され、子供は泣き、血を流している人たちがいた。目に見える人だけでも全員助けたかったが、それは無理だった。
それがこんな馬鹿げた目的のために行われたということが、俺には信じられなかった。
「別に。なんとも思わないな」
ブチッと、自分の中で何かが切れるような音がしたと感じた。
「【エアカッター】!!」
俺が放った《風魔法》に一瞬ルイは目を見開いたが、
「ハアッ!」
キンッという甲高い音とともに、【エアカッター】を切り伏せた。
「……《風魔法》だと? おい、どういうことだ。なんでお前が魔法を使える?」
ルイは兄である俺に攻撃されたということよりも、俺が《風魔法》を使ったということのほうが気になるようだった。
「これがお前たちに無能と言われた《大喰らい》の力だよ。俺はこうやって色々なスキルを使えるようになったんだ。昔とは違う」
「はっ、たかだか《風魔法》を使えたところで《剣聖》の俺に敵うとでも思ってるのか?」
「もうやめろ、ルイ! この事態を解決する方法を教えるんだ。……その後、俺もついてってやるから、罪をしっかり償うんだ」
「フ……フフ」
「? ……なにがおかしい」
「ハハハハハハハッ!」
ルイが狂ったように笑いだした。
「なにがおかしいだって? お前のその頭に決まってるだろうがクソ無能ッ! なにが『ついてってやる』だ、なにが『罪を償え』だ。お前みたいな能無し野郎が、この俺様に偉そうに講釈垂れてんじゃねぇ!!」
「……家は追い出されたが、お前の兄であることは変わらないしな。それに、これが公になれば家も取り潰されるし、俺もただじゃすまないだろう」
「アルゼ様、そんな……!」
「すまない、メル。きっとこれからは一緒にいれないだろう」
悲痛な顔を浮かべるメルに、俺は申し訳なくなる。
「チッ、ほんと鬱陶しい奴だな、お前。俺をイラつかせることに関しては、世界一だよ本当に。なんで俺がお前にここまで話したのか忘れたのか?」
「なに?」
「ここでお前を殺すとさっき言っただろう。死人は口を開かんからな」
ルイは明確な殺意を持った目を俺に向けた。
「お前、実の兄に向って……」
「今更だろ、そんなもの。元々、俺はお前を消すことを父上に言われてるしな」
「父上はそんなことまで……」
どこまでも俺のことをグラント家から消し去りたいその意志に、俺はいい加減辟易する。
「だからお前を殺してしまえばそれで口封じ完了ってことだ。ついでに、その奴隷も一緒に始末してやるから安心しろよ。あ、レティアは俺が面倒みるから気にする必要はないからな、無能」
ルイは馬鹿にしたように俺にそう告げた。
「そんなことはさせません。アルゼ様は、命に代えてもメルがお守りします」
「メル……」
俺の前に出たメルは、剣を抜いてルイを見据えた。
「ハッ、雌奴隷のほうがお前より根性がありそうだな!」
それに応えるように、ルイは剣を構えた。
ルイは《剣聖》だ。いくらメルでも、これまでの相手のようにはいかないだろう。
俺は剣を抜き、
「――ルイ、これ以上お前の好き勝手にはさせない」
ルイと決別する覚悟を決めた。
1
お気に入りに追加
1,251
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる