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第4章 『王都と成り上がり』

38.3人の後

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「本当にこんなもので効果があるのか?」

 レオはグリードから渡された、香の入った壺を疑わしげに設置した。
 これを炊くことによって魔物――特にドラゴン種をおびき寄せ、興奮状態にすることができると聞いていた。

「さあ? でも、嘘をつく意味がありませんからね。本当なんじゃないですか」

 ルイは内心「そんなの俺が知るか」とは思いつつも、合わせるように適当に答える。

「ふう、まあその時はタダじゃ置かないだけだな」

「そうね、嘘だったら『トランの消滅』をネタに脅しちゃえばいいじゃない」

「ああ、ついでに痛い目にあわせてやればいいさ」

 レオの発言に同調するように、レイラとガストが言い放つ。
 彼らは自分たちの力に自信があるのでなんでもないように言うが、ルイにはウェルシー商会のグリードが一筋縄でいくような簡単な相手には思えなかった。

「まぁとりあえず、今はこれをさっさと設置しちゃいましょう」

 ルイは他の面々を促し、作業を再開する。
 現在は、冒険者ギルドや貴族街に続く道から裏路地に入った場所などに設置していた。
 これはグリードの指示で、今回は貴族に大きなダメージを負わせることで自分たちが儲けるつもりらしい。
 ルイとしても王都の大貴族の勢力図が変われば、自分のグラント家にもチャンスがこぼれてくるかもしれないと、グリードに賛成したのであった。

「さて、次はテオス山に移動しましょう」

「ルイよ、テオス山へは君1人で行ってくれないか?」

「……なぜです?」

 文句を言いたくなる気持ちを抑え、ルイは理由を問いただす。

「あの無能にも1人はついていたほうがいいだろう? それに、君がテオス山で香を炊いたら、我々が王都に仕掛けた香を炊いたほうがいいだろう」

「グリード殿が言うには、香は1日は保つそうですから、王都で炊いてから行っても問題ないと思いますが? それにあの無能はここ最近テオス山で生意気にも依頼をこなしてるそうです。王都にはいませんよ」

「だがこうも言ってたぞ。風の強さや匂いにつられた動物が消してしまう可能性もあると。無能だってテオス山でエンシェントドラゴンが動き出せば王都へ逃げ帰ってくるだろう。であれば、王都で待ち構えていたほうがいいんじゃないか?」

「まぁそうかもしれませんが……」

 レオの言っている意味も理解できるが、ワイバーンやレッサードラゴンのいるテオス山に1人で行くというのは《剣聖》のルイにも少し気が引けた。

「君は《剣聖》だから大丈夫だろう。俺たちも今回のことは確実に決めたいのでな。ワイバーンも1体は討伐しなければいけないから、できれば力も残しておきたい。無能に関しては手を出さないようにしておくから、君が戻ってきたら思う存分痛めつければいいさ」

「そうよ。私たちだってこれでAランク昇格が決まるんですもの。ヘマはしないわ」

「ああ、安心して行ってきてくれ」

 ――なにが『ヘマはしない』『安心して』だ、クズどもめ。どう考えても大変なのは俺じゃないか!

 ルイはレオたちの自分たちの昇格しか考えていないことに腸が煮えくり返るが、ここでゴネて面倒くさいことになるよりは、さっさとケリをつけてしまったほうが早いと、

「……わかりました。ミスをしないでくださいね」

 と、少しいやみったらしく念を押すに留めるのだった。

「ああ、任せるんだ」

 だが、自信満々で言うレオには、どうやら伝わっていないようだった。


 ◆◇◆


「ふっ……ふっ……」

 ルイはテオス山の中腹目指して登っていた。
 麓にはすでに仕掛け終わったので、中腹に設置して香を炊いたら仕掛けは完了だ。

「くそっ……なんで俺がこんなことをしなければいけないんだ!」

 自らアルゼを始末することに志願したとはいえ、冒険者として自分より身分の低い者たちと行動をともにするというものは耐え難いものがあった。

「なにが『勇猛な獅子』だ! この俺がグラント家の当主として王都に進出した暁には、あんな者ども粛清してやる……!」

 ルイはブツブツと恨み言を言いながら、香を設置していく。
 最後の香を設置したところで、

「よし……今度は順に炊いていくか」

 香に火をつけた。

「ふむ、特に匂いはしないな……」

 煙は昇っていくが、ルイにはドラゴン種を惹きつける匂いというものは特にわからなかった。
 次の場所へ移動しては火をつけ、また次の場所へ移動する。これを繰り返していると、

『グオオオォォォォオオオオ――――ッッ!!!』

「――な、なんだ!?」

 突然聞こえた雄叫びに、ルイの全身は硬直する。

「あ、あれがエンシェントドラゴンなのか……?」

 頂上に見えた大きなドラゴン。その大きな羽を広げ、伝説上の災害をルイの瞳が捉えた。

「くそっ……急いで香を炊かないとっ」

 テオス山で異変が起きたら王都でも香を炊く手筈になっている。恐らく、今王都でレオたちがやっているだろう。後は、自分が残りの香に火を入れるだけだと急いで行動を開始した。

『――レティア、ここで分かれよう』

 ルイが山を駆け下りていると、不意に聞き覚えのある声がした。

 ――あの無能、やっぱりテオス山にいたか!

 ルイは身を潜めて聞き耳を立てる。

『ありがとう、レティア。アビも君の家へ連れてってほしい』

『あなたはどうするの? エンシェントドラゴン相手に人はなにもできないわ!』

『だとしても、俺は自分のできることを無理のない範囲でするよ。このままただ見過ごすなんてことはできないからな』

 ――あカッコつけやがって!

 アルゼとレティアのやり取りに、ルイは憎悪の色を濃くしていく。

『――よし、行こう!』

 話はまとまり、アルゼとメルの2人が異常なほどの速度で駆け出した。
 その姿にルイは驚いたものの、

『レティア様』

『ええ、私たちも行きましょう。アビもいいわね』

『もちろんですよー』

 残された3人の後を、そっと追いかけることにしたのだった。
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