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第2章 『村と夜』

7.初めての……

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 俺はさっそくステータスを見て、スキルを確認する。

【名前】アルゼ
【レベル】10
【一般スキル】《突進》、《威圧》、《爪撃》、《頑丈》
【特殊スキル】《大喰らい》、《聖なる癒しホーリーヒール
【派生スキル】《追い剥ぎ》

「お、確かに新しく『派生スキル』ってのが増えてるな。……って、《追い剥ぎ》って酷い名前だな。これじゃまるで山賊みたいだ。なあ、メル、《追い剥ぎ》って『派生スキル』知って――ん? どうかしたか?」 

「いえ……なんでもありません」

 メルが頬をぷくっと膨らませて、不満そうな顔をしていた。
 なにか怒らせることしたかと考えていると、

「えっと、《追い剥ぎ》というスキルは聞いたことありませんね。アルゼ様の仰るように、確かに言葉的には山賊が使ってそうな雰囲気はありますけど……アルゼ様に限って、きっとそんなことはありません!」

「はは、ありがとう。新しいスキルは嬉しいけど、どうやって使うかわからないのが難点なんだよなぁ」

「そればっかりは確かに困ってしまいますね。『派生スキル』というのも聞いたことはないですね。言葉的にはアルゼ様の《特殊スキル:大喰らい》から『新たなスキルが生まれた』ってことでしょうか。……やっぱりアルゼ様はすごいです!!」

 キラキラと空色の瞳を輝かせるメル。
 使い方はわからないけど、《大喰らい》も相当チートなスキルだったし、《追い剥ぎ》も期待できるかもしれない。

「はは、俺がってより《大喰らい》がすごいだけだけどな。よし、腹も膨れたし暗くなる前にそろそろ出発しようか!」

「はい!」

 俺たちは食事の後始末をし、再び歩き出した。


 ◆◇◆


「ようこそ、『オール村』へ! 旅人は歓迎するよ」

 俺たちは新しい街に向かう途中に通りがかった村で1泊することにした。

 ――ん、なんだ?

 村の入口には門番が立っていたが、その表情がどこか強張っていたように俺には見えた。
 ただそれは一瞬のことで、

 ――気のせいか?

 俺は気を取り直して、宿屋について門番に尋ねることにした。

「こんにちは。この村には宿屋ってあります?」

「ああ、あるよ。1軒しかないからすぐわかると思うけど、そこを真っ直ぐ行って右手にあるぞ」

「ありがとうございます」

 門番に礼を言い、俺たちは教えられた宿屋へ向かった。
 村の宿屋にしては綺麗な外観で、中に入ると女将が出迎えてくれた。

「こんにちは。1泊したいんですけど、部屋は空いてます?」

「ええ、空いてますよ。1部屋でいいです?」

 女将はちらりとメルを見てそう提案してきたが、

「部屋、どうする? お、俺は別々でも……」

 のない俺は、日和ってメルに答えを託してしまった。

「もちろん、同じ部屋でお願いします! 奴隷が1人で部屋を使うなんてありえないです。あ、それか私だけ馬小屋とか倉庫とかでも構いませんが……」

「おや、奴隷でしたか。一応、奴隷用の部屋があってそっちのほうが安いですけど……」

「いや、それはダメだ。彼女も同じ部屋でいいので、1部屋でお願いします」

「わかりました。それでは朝食付きで1万スレイになります。部屋は2階の奥の部屋へどうぞ」

 俺は金貨を1枚支払って、部屋に向かった。
 メルを購入した代金は15万スレイだったので、まだ手持ちに余裕はあるけど、今後のことを考えるとしっかりと稼がないといけない。

「あ――」

 部屋に入ると、ベッドは1つだけだった。

 ――しまった、女将にされてしまった。

 多分、女将はもあるだろうからこの部屋にしたんだろうけど、俺としては気まずくなってしまうだけだった。

「アルゼ様? どうかされましたか?」

「あ、いや、ベッドが1つだけだなと……」

「あ、そうですね。私は床で寝るので気になさらないでください」

「えっ、いやさすがにそれは……メルが、い、嫌じゃなければ――一緒に寝るか?」

 俺は心臓が張り裂けそうになりながらメルに聞いた。

「嫌だなんてとんでもないです! えと、アルゼ様がよろしいのでしたら是非一緒に……!」

「そ、そうか。よかった……」

 俺は達成感と安堵で倒れそうになりながらも、

「そ、それじゃ桶をもらって、身体でも拭こうか。もし嫌だったら部屋を出とくけど……」

 新たなミッションにまた心臓の鼓動が早くなる。

「アルゼ様、私に気を使わないでください。メルのすべてはアルゼ様のものです。お見苦しいかもしれませんが、アルゼ様が嫌でないのなら一緒にいさせてください」

「あ、ああ、わかった。一緒にいてくれ」

 俺は女将に湯桶をもらい、

「……」

「……」

 ベッドの両脇に腰掛け、お互い背中を向けた状態で身体を拭いた。
 最初はメルが俺の身体を拭くと言ってたけど、俺は固辞した。

 ――さすがにいきなり全裸を見せる勇気は俺にはないからな。

 室内には、俺とメルが身体を拭く音だけが響く。
 お互い無言で拭き終えると、

「そ、そろそろ寝ようか」

「は、はい……」

 俺たちはベッドに入った。

 ――これって、もうそういうことだよな? メルも望んでるってことで、い、いいんだよな? いやでも……。

 俺が緊張したまま頭を悩ませていると、

「アルゼ様……あの……初めてなので、優しくしてくれると嬉しいです……」

 メルが勇気を振り絞ってくれた。

「あ、でも、アルゼ様が強引なほうがよければメルは別に――きゃっ!」

 俺の理性はもうとっくに限界だった。
 メルに覆いかぶさり、

「ごめん、メル。優しくしたいけど……俺も初めてだから――!?」

 キスをされた。
 メルの手が俺の頬に触れている。少し震えているのがわかる。

「――アルゼ様、愛してます。メルのすべてを受け取ってください」

「メル……」

 俺はメルの言葉に覚悟を決め、強く抱き締めてもう1度キスをするのだった。
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