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72.いい人? 悪い人?
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夕方までは宿屋で待機だ。
冒険者ギルドに行った後は、帰りに少しだけ市場を回ってきた。
フランさん曰く、平時ならもっと人が多くて活気があるらしいけど、十分多くの人が行き交っていた。
いつか平和になったら、もっとゆっくり見て回りたいものだ。
「んん~、美味しいのですー! ――あっ、チヨメ取っちゃダメなのです! あぁっ、リリスも!」
「別にあなただけのものじゃない。みんなで食べるもの……」
「そうよ。それに、あんたたちは主様と一緒に楽しんでたんでしょうけど、私はずっっと外を飛び回ってたんだから。これくらい譲りなさいよ」
そう言って、リリスはセラフィの持つお菓子に手を伸ばした。
「ぎゃー! リリスがセラフィのおやつを取ったのです!」
「なにがセラフィ『の』よ。まったく、あんたって子は……」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるセラフィに、リリスは呆れた顔で嘆息した。
まぁ、リリスは僕たちが楽しんでいる間に本当によく働いてくれたからね。
「それで話を戻すけど、リリスの報告を聞く限り、ここの領主――クリプトン伯爵は『いい人』っぽいんだよね?」
「ええ、そうですわ。市民の評判がいいのもありますけれど、いわゆる『裏の顔』というものが存在しなさそうですわ。この手の人間にはどこか粗がありそうな気はするけれど、今のところはまったくありそうにないですわ」
リリスはお菓子を奪い返そうとするセラフィの顔面を手で押さえながら説明してくれた。
うーむ、リリスの言う通りこの手の領主って裏で悪いことしてそうなのがテンプレだけど、意外にもまともな人なのかな?
いやいや、これで完全に信用するのはまだやめておこう。
何が起こるかわからないしね。
「私も以前よりこの街には来てますけど、1度もそういった話は聞いたことないですわ。もちろん、表立ってやることはないのが当たり前ですけど……それにしたって、商人であるうちになんの情報も入らないということを考えると、安心材料にはなりそうですわね」
「そうですね、とりあえずは普通に会ってもよさそうですね。まぁ、もしなにかあっても僕たちがいるので、そこは安心してください」
「うふふ、頼りにしてますわ」
そうしてるうちに扉がノックされ、
「――失礼します。お嬢様、領主様のお迎えが参りました」
アメリシアさんが迎えの到着を教えてくれた。
「来ましたわね。では、行きますわよ」
「はい、わかりました」
僕たちは部屋を出て、迎えの待つ1階へ向かうのだった。
◆◇◆
僕、フランさん、チヨメ、アメリシアさん、アリシアさん、セラフィ、リリスが、2台の馬車にそれぞれ乗り込んで領主の館に向かった。
クリプトン伯爵の館までは、そう時間はかからずに到着した。
「おー、やっぱ伯爵邸なだけあって大きいですねぇ」
周りにある貴族の屋敷よりも、明らかにサイズが大きい。
なんなら、フランさんの家よりも大きく、僕が以前AOLで所有していた屋敷よりも大きいかもしれない。
さすが伯爵なだけはあるね。
「伯爵様ですから当然ですわ。むしろ、控えめなほうな気さえしますわ」
「え、そうなんですか?」
「お嬢様の言う通り、貴族の伯爵ともなればこの倍ほどの家を所有している方もおられます。クリプトン伯爵は倹約家なのかもしれませんね」
「倹約家……」
これで倹約家だなんて、参っちゃうね……明らかに一般人とはかけ離れた常識だ。
僕らを乗せた馬車が近づくと、門扉の前に立つ兵士が開けてくれて、スムーズに通してくれた。
馬車はそのまま進んで、中庭を抜けたところで停止した。
「ようこそおいでくださいました。ご主人様が中でお待ちしております。どうぞこちらへ」
馬車から降りると、宿に使いとしてやってきたアンドレさんが出迎えてくれた。
僕たちは彼の後ろについていき、大きな館の扉が開かれた。
「ようこそおいでくださいました、聖女様。私、ポタシクルの領主をしております、伯爵のニック・クリプトンでございます。本日は、我が館にまでご足労いただき恐縮です」
クリプトン伯爵は、アリシアさんに向かって深く頭を下げた。
「エイスフル教国の聖女をしています、アリシアと申します。本日はご招待いただきありがとうございます。こちらは私の友人でもあるモーリブ商会のフランです」
「フランと申しますわ、伯爵様。我がモーリブ商会はポタシクルの商人ギルドとも懇意にさせていただいております。こうして伯爵様にお目通りさせていただき光栄ですわ」
「うむ、話には聞いている。ボロン王国一の商会だとな。そうか、フラン殿は聖女様のご友人であったか。先日は突然押しかけてしまったすまなかった。できれば早いほうがいいと思ってな」
「早いほうが、ですか?」
なにか含みを持たせるクリプトン伯爵に、フランさんは聞き返した。
「ああ……おっと、すまない。客人をこのままこんな所で立たせるわけにはいかないな。続きは宴のときにでもしよう。聖女様、今夜は音楽などの催しや、様々な料理を取り揃えてあります。部屋ももちろん用意してありますので、お時間気にすることなく楽しんでいただければと思います」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
アリシアさんがそう返すと、クリプトン伯爵は嬉しそうに、
「では、ご案内いたします。どうぞ――」
自らが案内人となって僕たちを広間へと連れて行くのだった。
冒険者ギルドに行った後は、帰りに少しだけ市場を回ってきた。
フランさん曰く、平時ならもっと人が多くて活気があるらしいけど、十分多くの人が行き交っていた。
いつか平和になったら、もっとゆっくり見て回りたいものだ。
「んん~、美味しいのですー! ――あっ、チヨメ取っちゃダメなのです! あぁっ、リリスも!」
「別にあなただけのものじゃない。みんなで食べるもの……」
「そうよ。それに、あんたたちは主様と一緒に楽しんでたんでしょうけど、私はずっっと外を飛び回ってたんだから。これくらい譲りなさいよ」
そう言って、リリスはセラフィの持つお菓子に手を伸ばした。
「ぎゃー! リリスがセラフィのおやつを取ったのです!」
「なにがセラフィ『の』よ。まったく、あんたって子は……」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるセラフィに、リリスは呆れた顔で嘆息した。
まぁ、リリスは僕たちが楽しんでいる間に本当によく働いてくれたからね。
「それで話を戻すけど、リリスの報告を聞く限り、ここの領主――クリプトン伯爵は『いい人』っぽいんだよね?」
「ええ、そうですわ。市民の評判がいいのもありますけれど、いわゆる『裏の顔』というものが存在しなさそうですわ。この手の人間にはどこか粗がありそうな気はするけれど、今のところはまったくありそうにないですわ」
リリスはお菓子を奪い返そうとするセラフィの顔面を手で押さえながら説明してくれた。
うーむ、リリスの言う通りこの手の領主って裏で悪いことしてそうなのがテンプレだけど、意外にもまともな人なのかな?
いやいや、これで完全に信用するのはまだやめておこう。
何が起こるかわからないしね。
「私も以前よりこの街には来てますけど、1度もそういった話は聞いたことないですわ。もちろん、表立ってやることはないのが当たり前ですけど……それにしたって、商人であるうちになんの情報も入らないということを考えると、安心材料にはなりそうですわね」
「そうですね、とりあえずは普通に会ってもよさそうですね。まぁ、もしなにかあっても僕たちがいるので、そこは安心してください」
「うふふ、頼りにしてますわ」
そうしてるうちに扉がノックされ、
「――失礼します。お嬢様、領主様のお迎えが参りました」
アメリシアさんが迎えの到着を教えてくれた。
「来ましたわね。では、行きますわよ」
「はい、わかりました」
僕たちは部屋を出て、迎えの待つ1階へ向かうのだった。
◆◇◆
僕、フランさん、チヨメ、アメリシアさん、アリシアさん、セラフィ、リリスが、2台の馬車にそれぞれ乗り込んで領主の館に向かった。
クリプトン伯爵の館までは、そう時間はかからずに到着した。
「おー、やっぱ伯爵邸なだけあって大きいですねぇ」
周りにある貴族の屋敷よりも、明らかにサイズが大きい。
なんなら、フランさんの家よりも大きく、僕が以前AOLで所有していた屋敷よりも大きいかもしれない。
さすが伯爵なだけはあるね。
「伯爵様ですから当然ですわ。むしろ、控えめなほうな気さえしますわ」
「え、そうなんですか?」
「お嬢様の言う通り、貴族の伯爵ともなればこの倍ほどの家を所有している方もおられます。クリプトン伯爵は倹約家なのかもしれませんね」
「倹約家……」
これで倹約家だなんて、参っちゃうね……明らかに一般人とはかけ離れた常識だ。
僕らを乗せた馬車が近づくと、門扉の前に立つ兵士が開けてくれて、スムーズに通してくれた。
馬車はそのまま進んで、中庭を抜けたところで停止した。
「ようこそおいでくださいました。ご主人様が中でお待ちしております。どうぞこちらへ」
馬車から降りると、宿に使いとしてやってきたアンドレさんが出迎えてくれた。
僕たちは彼の後ろについていき、大きな館の扉が開かれた。
「ようこそおいでくださいました、聖女様。私、ポタシクルの領主をしております、伯爵のニック・クリプトンでございます。本日は、我が館にまでご足労いただき恐縮です」
クリプトン伯爵は、アリシアさんに向かって深く頭を下げた。
「エイスフル教国の聖女をしています、アリシアと申します。本日はご招待いただきありがとうございます。こちらは私の友人でもあるモーリブ商会のフランです」
「フランと申しますわ、伯爵様。我がモーリブ商会はポタシクルの商人ギルドとも懇意にさせていただいております。こうして伯爵様にお目通りさせていただき光栄ですわ」
「うむ、話には聞いている。ボロン王国一の商会だとな。そうか、フラン殿は聖女様のご友人であったか。先日は突然押しかけてしまったすまなかった。できれば早いほうがいいと思ってな」
「早いほうが、ですか?」
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「ああ……おっと、すまない。客人をこのままこんな所で立たせるわけにはいかないな。続きは宴のときにでもしよう。聖女様、今夜は音楽などの催しや、様々な料理を取り揃えてあります。部屋ももちろん用意してありますので、お時間気にすることなく楽しんでいただければと思います」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
アリシアさんがそう返すと、クリプトン伯爵は嬉しそうに、
「では、ご案内いたします。どうぞ――」
自らが案内人となって僕たちを広間へと連れて行くのだった。
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