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70.良き隣人

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「ふぁ……おはようございます、フランさん」

「おはようございますわ」

 朝、目が覚めると、フランさんはすでに起きて支度していた。
 こっちの世界の人は朝早いのに慣れているのかみんな早起きだけど、僕はいまだに慣れていないんだよなぁ。
 でも、そんな僕よりもお寝坊さんが隣に……。

「んん……」

「おはよう、チヨメ」

「お館様……おはようございます……」

 寝ぼけ眼を擦りながら、チヨメはもそもそと起きた。
 どうやら彼女も僕と同じで、あまり朝が得意じゃないみたいだ。

「おはようございますわ、チヨメさん」

「フラン殿、おはようございます」

 最近すっかりお馴染みとなった光景だ。
 フランさんの護衛をチヨメと2人で担当するようになってから、こうして3人で寝起きすることが多くなったからね。

「お2人とも、準備ができましたら食堂に行きますわよ。その後は、夜まで時間がありますし、予定通りギルドに行ってみますわ」

「わかりました。すぐに支度します。さっ、チヨメも早く早くっ」

「はい、お館様」

 僕はフランさんの言葉に一気に目が覚醒し、逸る気持ちで準備するのだった。


 ◆◇◆


「それじゃあ、まずは商人ギルドから行きますわ」

 僕たちは朝食を終えると、フランさん、アリシアさん、アメリシアさん、チヨメ、セラフィ、それと僕といった面子で商人ギルドへ向かった。
 リリスにはこの街でも情報収集をお願いした。
 少し寂しそうにしてたけど、そこは我慢してもらうことにしよう。

「商人とか冒険者って、国が変わっても資格は通用するんですか?」

「もちろんですわ。その2つは、ある意味1つの国のようにどこも属さないようなものですもの。どこかの国が手を出そうものなら、他の国すべてが敵になるといっても過言ではありませんわ」

「ギルドにそこまでの影響力があったんですね……」

 AOLでは特に気にしたこともなかったけど、錬金術師ギルドにもそれだけの影響力があったのかもしれないな。
 この世界には、まだまだ僕の知らないことがたくさんありそうだ。

「着きましたわ。ここが商人ギルドですの」

「おぉ、これは大きいですね。帝都でもない街のギルドでもこの大きさって……帝国の経済力は相当なもんなんですかね?」

「アルゴン帝国はたしかに強い力がありますけれど、このギルドが大きい理由は別にありますわ」

「なんなのですー?」

 セラフィがニコニコと無邪気に問いかけた。

「ここポタシクルの街は、ボロン王国と帝都を繋ぐ要所ですの。どちらからも商人が必ず通る街なので、帝国内でも、帝都と争うほどのお金の動きがあるはずですわ」

「すごいのですー! お金いっぱいいっぱいなのですー!」

「ふふっ、フランったら少し見ない間にすっかり1人前の商人になったのね」

「と、当然ですわ! 幼い頃からお父様と旅をして、商人の基本を教わりましたもの。昔の私とは違いましてよ?」

 柔らかな微笑みを浮かべるアリシアさんに、フランさんは誇らしげに胸を反らした。
 商人としては、僕よりも大先輩だからね。
 せっかくのこの機会に、学べることはしっかり学ばせてもらおう。

「おお~、広いのです!」

「ほんとね。このホールも天井が高くて、まるで聖堂にいるみたいね」

「アリシアの言う通りなのです!」

 セラフィとアリシアさんの2人は、国の教会を思い出してるみたいだ。
 あのセラフィが教会に……天使族の彼女がもっとも合う場所のはずなんだけど、普段の言動からなんだかちぐはぐさを少し感じてしまうな。

「おや、お久しぶりですね、フランさん。今日はお父様のテッドさんはいらっしゃらないのですか?」

「あら、ルークさんではありませんの。お久しぶりですわ。今回の行商は、私が商隊長を務めてますの」

「なんと! そうでしたか、それはおめでとうございます。よろしかったら、個室にて少々お話いたしませんか?」

「ええ、それではお願いいたしますわ」

「承知しました。では、こちらへどうぞ」

 僕たちはルークさんに促され、個室へと案内された。
 フランさんに紹介され、お互い簡単な挨拶を済ませてソファに座った。

「今回はどのような目的で来られたのですか?」

 ルークさんはにこやかな表情で尋ねてきた。

「あら? アルゴン帝国に行商来るときはいつも同じ目的ですわ。自国で必要なものを買い付けに来ただけですわ」

「いえ、それにしてはいつもより人数が少なく、商隊の規模が小さいなと……」

「私は特に人数も規模もお教えしてないはずですのに、どうしてそう思うのかしら? まるで最初から知っていたみたいですわねぇ……」

 惚けたように言うフランさんだったけど、その鋭い指摘にルークさんの表情が固まった。

「いえ、その……正直に白状しますと、モーリブ商会がアルゴン帝国に入国した時点でこちらまで情報が入っていたのです。ただ、決して嘘偽りなく、よき取引相手でもあるみなさんのことが心配だっただけなのです。回りくどいことをしてしまい、申し訳ありませんでした」

 ルークさんはその場に立ち上がり、深く頭を下げた。

「いいですわ。お互いこんな状況ですもの、いろいろ腹の探り合いをするというのも商人としては当然のことですわ」

「……ご理解いただき、ありがとうございます。もう1つ隠すことなくお話しするのなら、聖女様のことも当然我々には情報が入っておりました。これは想像ですが、領主様より歓待を受けることになっておりませんか?」

「ええ、そうですわ。隠すことでもありませんし、今夜その予定ですの」

「やはりそうでしたか」

「なにかあるんですか?」

 何かマズイ思惑があるのかと、僕はたまらず割って入った。

「いえ、決してそんなことはありません。むしろ、先ほど私がお伝えした意味がよくわかるかと思います」

「意味、ですか?」

 ルークさんは軽く頷き、話を続ける。

「この街がボロン王国にとって、『良き隣人』という意味です」
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