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22.階級

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「やれやれ。ここに来てからというもの、君達のような輩をもう何度排除したか。他所様の家にずかずかと入るだなんて、失礼な話だと思わないのかい?」

 吸血鬼と思われる少年は、心底面倒くさいという態度を全面に出して僕達を出迎えた。
 まあ出迎えたというか、彼の言う通り彼からすると僕達は望まれていない侵入者なんだけど。

「フッ、我々は冒険者ギルドから正式に依頼を受けて来ているのだ。君にどうこう言われる筋合いはない」

「それなら勝手に人の家に侵入してもいいと? まるで犯罪者と話してるようだ」

「なっ……この『流星』に向かって犯罪者だと!!」

 セシールが鬼のような形相で少年を睨んだ。
 対する少年は、そんなこと何処吹く風と涼しい顔をしている。
 正直、理屈で言えば、少年が正しいのかなと僕も思ってしまう。
 だって、住んでる家に勝手に入って来られたら、僕達だって怒るだろうし。
 普通の魔物なら喋ることなんてないから気にもしないけど、相手が理知的で害がないなら、無理に倒す必要なんてないかもしれない。

「だってそうだろう? 我々がこの城の外で何か君達にしたか? してないだろう? 君達だって同じことをされたら、私と同じ気持ちになると思うがね」

「セシール様になんてことを! アンタなんかと一緒にしないで!」

「そうですわ。例えあなた達の存在に害はなかったとしても、私達はギルドの依頼で調査しているの。文句があるならギルドに言ってくれるかしら」

「2人の言う通りだ。それに君は人間ではないだろう? 隠しても無駄だ」

「別に隠してるつもりはないんだがね。確かに私は吸血鬼だけど、それが何か問題か?」

 少年は肩を竦めた。

「フッ……ではいずれ、君は我々人間にとって害をなす存在となるだろう。そうなる前に、今ここでその芽を摘んでおかなければな」

 そう言って、セシールは剣を抜いた。

「いやいや、待ってくださいよ。彼の言うことも間違ってないと思います。僕達の依頼は『古城の調査』であって、ここを攻略することじゃないはずです。まずは、この事をギルドに報告しませんか?」

「いや、この吸血鬼は既に害がある存在だ。僕達よりも先に来た冒険者がいただろう。お前はそれを排除したと言ったな? 『流星』の名に懸けて、僕がお前を倒そう」

 セシールはまったく僕の意見を聞かず、剣先を少年に向けて突き付けた。
 何でコイツはこんなに自己中なんだ。
 僕も彼には聞かなきゃいけないことがあるのに。
 これじゃあ話が進まないじゃないか。

「だから待ってくださいって。相手は吸血鬼ですよ? 純血ではないにしても、貴族種や混血種でも十分に強い敵ですよ」

 セシール達にとっては、だけどね。
 僕?
 僕はまあ、レベル的にはキツイかもしれないけど、知識と経験と、いざというときのアンジェがいるからね。

「混血種!? 混血種だと!? この私を混血種なんかと一緒にするな!! リリス様より伯爵位を賜っているのだぞ! 命令があったからこれまで殺さずにいたが、本来なら貴様らなどコウモリ共の餌にしてくれるわ!」

 あ、しまった、なんか怒らせてしまった。
 でもお陰で、やっぱりここがリリスの城ってことがわかったぞ。
 あー、よかったよかった……いや、良くないか。
 めっちゃキレてるし。
 吸血鬼には階級があって上から順に、真祖、純血種、貴族種、一般種、そしてダンピールとも呼ばれる混血種だ。
 純血種はリリスの眷属13人しかいないけど、一応全員の顔と名前はわかる。
 でも、目の前の少年吸血鬼は見たことがない。
 だから、純血種以下の貴族種、またはそれ以下の一般種や混血種かと思ったのだ。
 なので、世間話程度のつもりで軽く聞いただけだったんだけど、彼のプライドが許さなかったらしい。
 これからは、吸血鬼と階級の話をするときには気をつけよう。

「あ、いや、別に馬鹿にしてるわけじゃなくてですね――というか、リリスがいるなら連れてきてもらってもいいですか?」

「き、貴様っ! リリス様を呼び捨てだと? しかも、よりによって我が主を連れてこいだと!? 何様のつもりだ!! ふざけた奴らめ……貴様らは血を抜き取り、臓物を畜生の餌にしてくれる!」

「あぅ……」

 僕はただ、リリスがこの場に来れば丸く収まるかなって思っただけだったのに……。
 丁寧に言ったつもりだったけど、言葉選びがまずかったようだ。

「フッ、もういい。下がっていたまえ。あの吸血鬼は宣戦布告をしたんだ。で、あるならば、この『流星』のセシールが相手をしてやろうじゃないか」

 だから『流星』って何!?
 ていうか、セシールがに勝てるわけがない。
 鑑定スキルの《分析アナライズ》を使って、2人のステータスをこっそり拝見した。
 名前までバッチリなんだけど……この2人、お相手にならないレベル差だ。
 当然、レノの方がレベルが高い。
 レノは伯爵級を名乗るだけあって、ステータスでいえば、冒険者ギルドのマスターであるウォーカーよりも強い。
 一方、セシールはダンよりは強いけど、ウォーカーには勝てないレベルだ。
 なんでセシールがここまで余裕振ってるか、本当に謎なんだけど。

「いや、無理しない方が――」

「もうアンタは黙ってな。邪魔だから、下がってなよ」

「そうよ。それに、私達は吸血鬼と戦ったことがあるの。最後は逃げられたけど、あのまま戦ってれば倒せてたわ」

 え、そうなの?
 意外にパーティーで戦うと、連携とかで何倍もの実力が出る感じ?

「……ちなみに相手の階級は?」

「一般種だったかしら?」

 全然違うじゃん!
 相手は貴族種なんですけど!
 貴族種と一般種なんて兵士と一般人くらいに違うぞ。
 いや、もっと差があるかもしれない。
 それに、そもそも強さで言ったら一般種よりも混血種の方が強いくらいだし。
 ……というか一般種は、それもうただの平民みたいなもんだったはずじゃない?

「き、貴様らぁ……ッ!」

 レノが下を向いてわなわなと震えている。
 あ……アカンヤツだ、これ。
 今の会話聞かれてたみたいだ。

「非力な者を虐げるとは、何たる愚行……絶対に生きて返さんぞ貴様らぁ――!!」

「ぬおぉッ!?」

「ぅげっ!」

「キャアッ!」

 レノが叫んだ瞬間、部屋が揺れるほどの衝撃波でセシール達が後ろに吹っ飛んで転がった。
 僕とアンジェ、その後ろにいたフェルは大丈夫だったけど。

「はぁ……」

 僕は3人仲良くひっくり返る姿を見て、思わずため息をついたのだった。
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