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5.商人ギルド

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 門を抜けると、そこに広がるのはファンタジーな街でした――。

 もうさ、ゲームでの街の中はもちろん知ってたけど、やっぱリアルさが違うよね。
 色が豊かで、人の熱量もある。
 この街を行き交う人々の賑わいや露天から流れてくる匂い、ファンタジー感溢れる街並み、ゲームとは違う本当のAOLの街だ。
 ハイドニアは初心者の頃、何度も訪れた街だけど、やっぱいいなぁこの感じ。
 冒険が「これから始まるぞ!」っていう空気感。
 活気があるとっても懐かしい思い出の中にいるんだ、僕は。

「よし! さっそく、まずは錬金術師ギルドの建物がある場所へ行ってみよう」

「はい、ソーコ様」

 AOLでは、プレイヤー全員が錬金術師ギルドに登録して活動するので、ギルド周辺はお店も多く建ち並んでいる。
 この道も、ゲームの中ではよく歩いた道だ。
 この街で初めて錬金術師として登録し、駆け回っていた初心者時代。
 最近はもう来てなかったけど、右も左も分からない中、夢中になったあの頃を思い出すなぁ。
 そんな思い出に浸りながら歩いていると、周りの建物より一際大きい錬金術ギルドの建物が見えてくる。
 こんな歴史を感じる立派な建物なんて、現代日本じゃ見れない気がする。
 入口の上に書かれたという看板を、「本当になくなっちゃんたんだね」と、少し寂しい気持ちで眺めた。
 ここに来るまでにアンジェから聞いていたので驚きはない。
 ただ、目の当たりにして少し残念なだけだ。
 余談だけど、AOLの中では普通に日本語が使われ、英語なんかもあった。
 それはこの世界も同じらしい。

「錬金術師ギルドがないのはちょっと残念だけど、まずはここで僕の登録しちゃうよ」

「はい!」

 立派な扉を開けて中に入る。
 建物の中は、錬金術ギルドの時とまったく変わってない気がする。
 業務内容だけが商人ギルドに変わった感じなのかな。

「人、結構多いなあ」

「街に入る人も多かったですから、ハイドニアは栄えていますね」

「だね」

 僕達が中に入ると、何人か横目で確認してるような視線を感じた。
 それに入った瞬間に、ガヤガヤしていた話し声が少し収まったようにも思えた。
 女2人っていうのは珍しいのかも。
 いや、それとも――、

 ……僕がからか?

 今の僕は筋骨隆々イケメンのミストとは違い、ソーコは15歳くらいに見える黒髪ボブの女の子。
 少し赤く見える瞳、身長は少し低く胸も小さめ。
 でも、決してガリガリなわけではなく、未来に期待を抱かせるスタイルの黄金比率を持つ完璧美少女なのだ。
 なんたって、このキャラメイクに2日も掛けたのだ。
 見栄えのいい課金装備もしてるし、注目を浴びてもしかたがないだろう。
 うんうん。
 ま、そんな外野はほっといて、さっさと受付で登録しちゃおう。

「すみません、登録をお願いしたいんですけど」

「……」

 ガーン! 
 まさかの無視だった。
 やばい、ちょっと泣きそう……満面の笑顔で話し掛けたのに。
 き、聞こえなかったかな?
 きっとそうだ、うん。
 ……目はバッチリ合ってるけど。

「あのぉ……?」

「――っあ! すみません! ようこそ、商人ギルドへ。登録ですね。後ろの方のご登録でしょうか?」

 あー良かった、無視されてたわけじゃないみたいだね。
 受付嬢は目をパチクリさせて、捲し立てるように喋り出した。

「えっと、従者も一緒に登録できますか?」

「申し訳ございません。商人ギルドへの登録は、商人となるご本人様のみとなります」

「そうですか。じゃあ登録は僕でお願いします」

「え?」

「え?」

「あ、いえ、まだお若いのでてっきり後ろの方かと……大変失礼いたしました」

 受付嬢は慌てて深々と頭を下げた。

「ああ、なるほど。もしかして、年齢制限とかってあります?」

 確かに、僕の見た目の年齢を考えれば、アンジェより僕の方が従者っぽいのかも。

「いえ、特にありません。ただ、どういった事業内容で登録されますか? その内容によっては審査があります」

 どういった内容――お店を開くのか、製作したものを納入するのか、扱うものはなんなのかとかってことかな? 
 それだったらお店を開くとかは今のところ考えてないし、手軽に製作して納入するのがいいな。

「自分で製作したものをこちらに売る、ということは可能ですか?」

「はい、もちろんです。どういったものを納品される予定でしょうか?」

「えっと、メインはポーション系でいいかなあ? あとは武器だったり防具だったり、装備品とかもかな。錬金術師だし、基本的にはなんでも納品できると思います!」

 このサブキャラは戦闘系のスキルはほとんどレベル上げしてないけど、生産系はすべてカンストしている。
 素材の加工には、メインとサブの両方ともできる方が効率がいいからだ。

「はい? 錬金術師?」

「あっ」

 しまった。
 錬金術師はこの世界にいないんだった――!

「あ、いえ、その……錬金術師みたいに色々できたらなぁ……って! 主にポーション納品だと思うんですけど、ツテがあるんで装備品なんかも出せるかなって! あははっ!」

 テンパってしまった。
 受付嬢の訝しむ視線が痛くて、目がキョロキョロしてしまう。
 きっと、今の僕はさぞ挙動不審なことだろう。

「ポーション……ですか? つまり、薬師様ということですか?」

「あ、はい、そうですそうです。それです。薬師です」

 うっ、またも受付のお姉さんにジトッとした目で見られて、反射的に目を逸らしてしまった。
 ちょっと返事が適当過ぎたか。
 ポーション類は、薬師スキルを使用して作成する。
 もちろん僕は全部作れるし、ポーションメインだから薬師でいいだろう。
 いや、薬師で登録させてください、お願いします。

「あの……薬師って、生まれ持った才能とたゆまぬ努力によって、一握りの方がなれると言われています。ポーションの需要は高いのに、数が少ないですし薬師の方も少ないです。偽物も裏では多く出回っています」

 うんうん。
 わかってるさ、ポーションの重要性はね。
 だからこそ、僕はポーション作りをメインに据えたのだ。
 AOLには、特殊回復魔法を除いて普通のゲームのような回復魔法が存在しないため、ポーションは絶対なのだ。
 どうやらこの世界でもそこは同じなようで、ポーションの需要が高そうだぞ。
 ふふっ、狙い通りだね。

「ですから……失礼ですが、作成されたポーションを見せていただくことはできますか?」

 まぁそりゃ疑われるよね。
 こんな若くてかわいい女の子に、ポーションやらなんやら納品するだなんて言われれば、誰でもそう思うよ。
 しかたない、ここは無難なポーションでも出して、受付嬢の信頼を勝ち取るべきだろう。

 ――さて、どのポーションを出そうか?
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