香水のせいにすればいい

弓葉

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香りの設計図

手紙

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 古賀先生から本社宛てに手紙が届いた。周りに回って僕たちの元に来た。机の上には香水斗と僕が作り上げた入浴剤。パッケージには湯布院さんの顔と温泉ソムリエの肩書きがついている。

 上層部では販売戦略でもあったのか、湯布院さんはメディア露出することが増えていた。適当につけたテレビには高確率で湯布院さんと遭遇する。その効果もあってか、入浴剤の売れ行きは好調だった。

「まさか、お世辞でもなく本当に手紙が届くとはな。先生と言う職種は大変だ」

 香水斗は古賀先生から送られてきた手紙の内容を見ている。僕も見ようとのぞき込もうとすれば、香水斗は恥ずかしそうに手紙を伏せた。

「なんで隠すんだよ、僕にも見せろよ」

 香水斗から手紙を奪い取ろうとすれば、香水斗は僕が届かないように腕を上げる。

「普通にお礼が書いてあるだけだ」

「だったら、もったいぶってないで見せろよ」

 僕が香水斗に飛びつけば、珍しく香水斗はそのまま後ろに倒れ込んだ。でもきっとわざとだ。香水斗はジムに行くほど身体を鍛え上げているし、倒れ込んだ先は来客用のソファーだ。ご丁寧にクッションまでついている。

「いってぇ~」

 目を閉じて開けると、目の前に誰かがいた。
 
「なに、いちゃついてんすか」

 藤さんが僕を汚いものを見るかのように見てくる。

「ちょ、香水斗! またタイミング謀ったろ!!」

 こんなタイミングよく、藤さんが現れるはずがない。きっと、僕が見えないところで藤さんの姿を発見して倒れ込んだに違いない。

「いいや、偶然。で、藤なんか用?」

 香水斗はとくに気にもとめない様子で藤さんの顔を見た。

「あの、今回香水斗さんが作り上げた入浴剤とてもよかったです。心の芯から温まって匂いも不快なことなく落ち着くような柑橘系で、何回でもリピーターしたくなりました。さすがです香水斗さん」

 藤さんは捲し立てるように香水斗へ感想を伝えた。当たり前のように僕のことは一切触れられていない。

「そう、ありがとう」

 香水斗も当然のように藤さんの褒め言葉を受け取った。

「だけどまぁ、今回は志野に助けられたかもな……」

 香水斗は僕の髪の毛を撫でた。

「え?」

 僕は香水斗の上から飛び降りる。心と身体が追いついていなかったのか、ソファーの下で尻餅をついた。

「入浴剤の完成には半年かかると思っていた。だが、一ヶ月もかからなかったのは初めてだ」

 商品が好調な売れ行きなのは、あまり数が世の中に出回っていないからだ。それも相まってSNSで話題になり、さらに入浴剤の価値が上がっている。

「まぁ、商品名は君を思い出すようで嫌いですが」

 藤さんは思い出したかのように僕を睨みつけた。

「あはは、そうですよね~……」

 僕は机の上に置かれた商品を見る。

『恋人と入る入浴剤』

 あまり表では言えないが、裏情報がSNSで流れている。セックスをしてもバレない湯船。入浴剤の成分が湯船に浮かんだ精子を分解して生臭いにおいも解消してくれる。そんな画期的な入浴剤。

 ハラリ、と香水斗の手から手紙が落ちる。僕はチャンスだと思って拾い上げた。香水斗にまた取られる前に手紙の内容に目を通す。

『志野くんと再会できてよかったですね。これもまた香水斗くんの作戦かしら?』

 つらつらと入浴剤の感想を読む前に最後の一文が気になった。



 



 

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