香水のせいにすればいい

弓葉

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金木犀前線

10月1日は香水の日

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 今日は朝から慌ただしかった。十月一日はフランスで新しい香水が発売される特別な日。季節が変わればファッションも変わる。時代に合わせて香水の匂いも変わっていく。

 シーズンごとに出す商品は全て称賛されるわけではない。酷評も少なからず存在する。何かを生み出すことは自分の全てをさらけ出すことであり、いろんな人の反応を覚悟も受け入れなければならない。

 他人の評価は常にある。それが仕事として業績へと表現が変わる。業績が悪ければ、自分も同じ様に存在を否定されたような気持ちに陥った。

「香水斗は怖くないのか?」

 僕は怖かった。香水斗と作りあげた最新作の『金木犀前線』。津幡さんの一件もあり、かなり苦労させられたが何とか形にすることができた。津幡さんには喜んでもらえたが、他の人はどうだろうと考えこんでしまう。

 商品として売り出すと聞いた時は自信に満ちあふれていたが、いざ発売日になると不安の波が押し寄せてきた。

「この金木犀前線に関してはかなり苦労させられた。毎年、津幡さんから課題を与えられてきたが、商品として出すのは初めてだ。怖くない、と言えば嘘になる」

 やっぱり、香水斗も人の子だ。怖いものは怖いんだ。

「だが、俺や津幡さん、志野は一切妥協はしなかった。そうだろ」

 香水斗の力強い言葉に僕は頷いた。

「自分が全力を尽くした。後悔はしない。やるべきことは全てやったんだ。どんな批判も受け入れる」

 渋谷のスクランブル交差点にある広告塔。僕と香水斗は広告が始まるのを今か、今かと待っていた。

 広告塔から流れる音が一瞬、止まる。そして画面は真っ黒になった。故障かと思わせる間ができた数分後に、広告が始まった。

 画面に映るのは、香水斗の姿。香水を手に持ち、頬に近づける。まっすぐ見据えてきた。力強い視線にスクランブル交差点で信号待ちをしていた人達は、顔を上げた。

 ふわり、と漂う金木犀前線の香り。

「え、ここに金木犀ってあったけ?」
「金木犀の匂いって、こんな匂いだったんだ。知らなかったなぁ……」
「ねぇ、あの小瓶かわいくない? 早く予約しないと売り切れちゃいそう!」

――服が変われば香水も変えて、新しい自分を着飾ろう。秋の訪れを教えてくれる金木犀前線はすぐそこに。金木犀前線、本日解禁。






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