香水のせいにすればいい

弓葉

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金木犀前線

香水の道しるべ

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「はぁ、はぁっ……香水斗、待ってよ……」

 香水斗が歩くスピードは速い。身長差もあるだろうが、僕は小走りで香水斗の背中を追いかけた。

 横断歩道を歩くだけでも僕は後ろに押し戻されてしまう。人混みでさえ、僕はうまく紛れることができない。時折、ヘンゼルとグレーテルのように香水斗の香水が道標のように漂ってくる。

 香水斗の匂いを追いかけて、僕は香水斗について行った。

「ここは……」

 香水斗は高級マンションの前で立ち止まる。誰の家だ?

「ちゃんと、ついてきたようだな」

 いつの間に香水斗は機嫌を取り戻したのだろうか、満足げな顔をしている。

「当たり前だろ……つか、歩くのはえーよ」

  僕は文句の一つや二つ吐き捨て、香水斗の隣に並んだ。

「ここは、俺の家だ」

「はい?」

 僕は固まってしまう。なんで香水斗の家に連れてこられたんだ?

 香水斗は僕に肩を組んできた。
 
「別に普通だろ、津幡さんの家にも行ったんだし、俺の家にある香水を見るのも勉強だ」

 香水斗は僕に文句を言わせない、と言わんばかりに僕の肩を引き寄せる。シャワー室での一件もあるし、僕は警戒していた。今はそんな気分じゃない。

 連日、金木犀前線を作るのに残業していて疲れていた。正直なところ、僕は自宅アパートに帰って今すぐにでも布団ダイブしたい気分だ。
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