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ラベンダーの君
香水斗の熱心的なファン
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「ねぇ、どうして志野くんから香水斗くんの匂いがするの?」
「え?」
アロマティックへ部門正式に所属され挨拶を終えた後、案内するということでパッケージデザイン担当の峰岡さんと一緒に行動をしていた。峰岡さんは細身で小柄な体躯に長いまつげに縁取られた瞳、白くふっくらした頬で、すごくかわいらしい女性だ。
てっきり僕は同級生のよしみで香水斗に案内してもらえるのかと思っていたのだが、どうやら調香師は午前中が命らしい。
「まだ、匂いますかね……すみません、自分じゃ分からなくて」
香水をかけられた後のスーツはそのままだったので、まだ匂いが残っていることに驚いた。というかわかるんだ、この匂いが香水斗の匂いだって。
「うっわ~そういう惚気しちゃうタイプなんだ。意外」
目をまん丸にし手を当てて驚く峰岡さん。来たばかりだというのに変な方向へ勘違いされるのは困る。
「の、惚気なんて、違います!」
「あーはいはい自覚なしっと。じゃあ調香場には行かない方がいいかな。仕事の邪魔するわけにはいかないし」
「す、すみません……」
「いいよー私は気にしないから。あ、でも藤くんには気をつけた方がいいよ」
「藤さん?」
誰だろう? 初めて聞く名前だ。
「自己紹介の時に志野くんを睨んでた子だよ。気づかなかった?」
「すみません……緊張していたもので……」
「あははっ! そうなんだ~鈍感っ子なんだね」
「でも、どうして気をつけなくちゃいけないんですか?」
「香水斗くんの熱心的ファンだから。今朝、志野くんの匂いに気づいた藤くんが……「俺がなんですか?」
「!」
後ろから声を掛けられて振り返ると、白衣を着た僕よりも大きい黒髪の人が立っていた。上から見下される目線は鋭く、長く伸びた前髪から覗いた目の下には隈が濃く浮かび上がっている。天パだろうか、ボサボサに見える髪の毛は香水斗と真逆の存在だった。
「おい、お前。香水斗さんの知り合いかなんだか知らねぇが、明日も仕事中にその匂いさせやがったらこっから追い出すからな」
低く威嚇するような声、明らかに歓迎されてない。
「すみません、クリーニングに出しておきます」
僕は大人しく従うことにした。今の僕じゃなにも説得力がない。
「峰岡さん、案内してるんっすよね。俺、代わりますよ」
謝ればその場をしのげると思ったのに、そうじゃなかった。藤さんは僕に用があるみたいだ。
「え?! で、でも……藤くん仕事があるんじゃないの?」
峰岡さんは僕を助けようとしてくれているのか、助け船を出してくれる。
「朝から気分が悪いんでいつもの調子が出ないんっすよ。このまま無理に調香したって時間の無駄だし代わります」
峰岡さんが出してくれた助け船を藤さんは容赦なく沈めた。
「え?」
アロマティックへ部門正式に所属され挨拶を終えた後、案内するということでパッケージデザイン担当の峰岡さんと一緒に行動をしていた。峰岡さんは細身で小柄な体躯に長いまつげに縁取られた瞳、白くふっくらした頬で、すごくかわいらしい女性だ。
てっきり僕は同級生のよしみで香水斗に案内してもらえるのかと思っていたのだが、どうやら調香師は午前中が命らしい。
「まだ、匂いますかね……すみません、自分じゃ分からなくて」
香水をかけられた後のスーツはそのままだったので、まだ匂いが残っていることに驚いた。というかわかるんだ、この匂いが香水斗の匂いだって。
「うっわ~そういう惚気しちゃうタイプなんだ。意外」
目をまん丸にし手を当てて驚く峰岡さん。来たばかりだというのに変な方向へ勘違いされるのは困る。
「の、惚気なんて、違います!」
「あーはいはい自覚なしっと。じゃあ調香場には行かない方がいいかな。仕事の邪魔するわけにはいかないし」
「す、すみません……」
「いいよー私は気にしないから。あ、でも藤くんには気をつけた方がいいよ」
「藤さん?」
誰だろう? 初めて聞く名前だ。
「自己紹介の時に志野くんを睨んでた子だよ。気づかなかった?」
「すみません……緊張していたもので……」
「あははっ! そうなんだ~鈍感っ子なんだね」
「でも、どうして気をつけなくちゃいけないんですか?」
「香水斗くんの熱心的ファンだから。今朝、志野くんの匂いに気づいた藤くんが……「俺がなんですか?」
「!」
後ろから声を掛けられて振り返ると、白衣を着た僕よりも大きい黒髪の人が立っていた。上から見下される目線は鋭く、長く伸びた前髪から覗いた目の下には隈が濃く浮かび上がっている。天パだろうか、ボサボサに見える髪の毛は香水斗と真逆の存在だった。
「おい、お前。香水斗さんの知り合いかなんだか知らねぇが、明日も仕事中にその匂いさせやがったらこっから追い出すからな」
低く威嚇するような声、明らかに歓迎されてない。
「すみません、クリーニングに出しておきます」
僕は大人しく従うことにした。今の僕じゃなにも説得力がない。
「峰岡さん、案内してるんっすよね。俺、代わりますよ」
謝ればその場をしのげると思ったのに、そうじゃなかった。藤さんは僕に用があるみたいだ。
「え?! で、でも……藤くん仕事があるんじゃないの?」
峰岡さんは僕を助けようとしてくれているのか、助け船を出してくれる。
「朝から気分が悪いんでいつもの調子が出ないんっすよ。このまま無理に調香したって時間の無駄だし代わります」
峰岡さんが出してくれた助け船を藤さんは容赦なく沈めた。
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