香水のせいにすればいい

弓葉

文字の大きさ
上 下
12 / 111
ラベンダーの君

香水斗の熱心的なファン

しおりを挟む
「ねぇ、どうして志野くんから香水斗くんの匂いがするの?」

「え?」

 アロマティックへ部門正式に所属され挨拶を終えた後、案内するということでパッケージデザイン担当の峰岡さんと一緒に行動をしていた。峰岡さんは細身で小柄な体躯に長いまつげに縁取られた瞳、白くふっくらした頬で、すごくかわいらしい女性だ。

 てっきり僕は同級生のよしみで香水斗に案内してもらえるのかと思っていたのだが、どうやら調香師は午前中が命らしい。

「まだ、匂いますかね……すみません、自分じゃ分からなくて」

 香水をかけられた後のスーツはそのままだったので、まだ匂いが残っていることに驚いた。というかわかるんだ、この匂いが香水斗の匂いだって。

「うっわ~そういう惚気しちゃうタイプなんだ。意外」

 目をまん丸にし手を当てて驚く峰岡さん。来たばかりだというのに変な方向へ勘違いされるのは困る。

「の、惚気なんて、違います!」

「あーはいはい自覚なしっと。じゃあ調香場には行かない方がいいかな。仕事の邪魔するわけにはいかないし」

「す、すみません……」

「いいよー私は気にしないから。あ、でもふじくんには気をつけた方がいいよ」

「藤さん?」

 誰だろう? 初めて聞く名前だ。

「自己紹介の時に志野くんを睨んでた子だよ。気づかなかった?」

「すみません……緊張していたもので……」

「あははっ! そうなんだ~鈍感っ子なんだね」

「でも、どうして気をつけなくちゃいけないんですか?」

「香水斗くんの熱心的ファンだから。今朝、志野くんの匂いに気づいた藤くんが……「俺がなんですか?」

「!」

 後ろから声を掛けられて振り返ると、白衣を着た僕よりも大きい黒髪の人が立っていた。上から見下される目線は鋭く、長く伸びた前髪から覗いた目の下には隈が濃く浮かび上がっている。天パだろうか、ボサボサに見える髪の毛は香水斗と真逆の存在だった。

「おい、お前。香水斗さんの知り合いかなんだか知らねぇが、明日も仕事中にその匂いさせやがったらこっから追い出すからな」

 低く威嚇するような声、明らかに歓迎されてない。

「すみません、クリーニングに出しておきます」

 僕は大人しく従うことにした。今の僕じゃなにも説得力がない。

「峰岡さん、案内してるんっすよね。俺、代わりますよ」

 謝ればその場をしのげると思ったのに、そうじゃなかった。藤さんは僕に用があるみたいだ。

「え?! で、でも……藤くん仕事があるんじゃないの?」

 峰岡さんは僕を助けようとしてくれているのか、助け船を出してくれる。

「朝から気分が悪いんでいつもの調子が出ないんっすよ。このまま無理に調香したって時間の無駄だし代わります」

 峰岡さんが出してくれた助け船を藤さんは容赦なく沈めた。
  
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...