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陰陽寮の存在
古びた蔵の匂い
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「センチネルに殺されるかもしれない、ということですか」
藤は口にするだけで、身震いをした。センチネルは五感にまつわる特殊能力を持っている。暴走すれば何が起こるか分からない。
「センチネルは感情が分かりやすいから、可愛いい方だ」
深浦は閉めていたカーテンを開けた。月明かりが部屋の中を照らす。深浦は藤に背を向けたまま話し出す。
「明治から大正へと時代が移り変わり、月明かりと提灯の火を頼りにしていた夜も街灯が闇を払うようになった。闇を恐れなくなった今、陰陽師を見下したり、暴力を振るうものが後をたたない」
藤は陰陽師と名乗る者が家を訪ねるまで、存在を知らなかった。陰陽寮がある街では、陰陽師は一人で行動していない。最低でも二人組だった。何かを警戒しているように。
「政府に潜りこんだセンチネルは自らの欲を満たすためだけに陰陽師を狙う」
深浦は悲しそうに振り返り藤を指さした。藤は冷たい水に打たれたように身を引き締める。
深浦は過去にセンチネルにまつわる事件に巻き込まれたのかもしれない。古びた蔵の匂いを察知した。深浦が発した過去の匂いだ。
藤は陰陽寮で数日生活をしたが、一部のセンチネルが陰陽師を襲って無理やり契約を結ぶ事件があったことを教わった。端的に言うと強姦だが、センチネルは陰陽師よりも社会的に優れた地位にあるので問題になることはないらしい。
「……覚えときます」
藤はそれしか言えなかった。まだ陰陽寮を味方と判断するには難しかった。
「じゃあね、さようなら」
深浦は藤に手を振った。
「深浦さん、お世話になりました」
藤が鬼を目覚めさせる日が来た。藤の背後には見張りの陰陽寮の人間が数人控えている。藤と深浦の別れは素っ気なかった。一言言葉を交わして、陰陽寮を去る藤。
それぐらいあっさりしているほうが、変な気持ちも執着も湧かず後腐れがなくて楽だった。
藤は口にするだけで、身震いをした。センチネルは五感にまつわる特殊能力を持っている。暴走すれば何が起こるか分からない。
「センチネルは感情が分かりやすいから、可愛いい方だ」
深浦は閉めていたカーテンを開けた。月明かりが部屋の中を照らす。深浦は藤に背を向けたまま話し出す。
「明治から大正へと時代が移り変わり、月明かりと提灯の火を頼りにしていた夜も街灯が闇を払うようになった。闇を恐れなくなった今、陰陽師を見下したり、暴力を振るうものが後をたたない」
藤は陰陽師と名乗る者が家を訪ねるまで、存在を知らなかった。陰陽寮がある街では、陰陽師は一人で行動していない。最低でも二人組だった。何かを警戒しているように。
「政府に潜りこんだセンチネルは自らの欲を満たすためだけに陰陽師を狙う」
深浦は悲しそうに振り返り藤を指さした。藤は冷たい水に打たれたように身を引き締める。
深浦は過去にセンチネルにまつわる事件に巻き込まれたのかもしれない。古びた蔵の匂いを察知した。深浦が発した過去の匂いだ。
藤は陰陽寮で数日生活をしたが、一部のセンチネルが陰陽師を襲って無理やり契約を結ぶ事件があったことを教わった。端的に言うと強姦だが、センチネルは陰陽師よりも社会的に優れた地位にあるので問題になることはないらしい。
「……覚えときます」
藤はそれしか言えなかった。まだ陰陽寮を味方と判断するには難しかった。
「じゃあね、さようなら」
深浦は藤に手を振った。
「深浦さん、お世話になりました」
藤が鬼を目覚めさせる日が来た。藤の背後には見張りの陰陽寮の人間が数人控えている。藤と深浦の別れは素っ気なかった。一言言葉を交わして、陰陽寮を去る藤。
それぐらいあっさりしているほうが、変な気持ちも執着も湧かず後腐れがなくて楽だった。
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