鬼のセンチネル

弓葉

文字の大きさ
上 下
7 / 57
鬼のセンチネル

センチネルの能力

しおりを挟む
 ガタンゴトンと列車が動く音がする。

 藤が目を開けると、宍色の髪の男と列車に乗っていた。藤は座席から立ち上がり、辺りを見渡す。ここには藤と宍色の髪の男以外誰も乗車していない。

「座れ。ここは俺様と藤以外誰もいない」

 宍色の髪の男は落ち着いた様子で、藤に座るよう促した。

「ここは……」

 藤は背もたれに持たれながら座席に戻る。

「ここは俺様の部屋。誰にも聞かれたくないからな」

 青年は両手を広げた。部屋と言うよりも車両の中だ。どこに行くのかわからないが、列車は動き続けている。

「これがセンチネルの能力……」

 藤は列車の窓を見た。外は太陽の光が差して明るく、野原を走っている。どこか故郷に似ていて懐かしい。

「さて、本題に入ろうか」

 宍色の髪の男の声色が低く変わった。藤は身を引き締める。

「はい、お願いします」

 藤は頭を下げた。

「俺様のような人間のセンチネルなら構わんが、鬼の異形は能力が強すぎる」

 ふう、と青年は話し出す。

「十分、あなたの能力もすごいと思いますけど……。玖賀は毎日頭を抱えて苦しんでいるだけですし、何の害もありません」

 実際のところそうだった。藤は玖賀が能力を使ったところを見たことがない。今、宍色の髪の男が見せた能力が初めてだった。

「それは目覚めたばかりだからだ。今は耳だけ特化しているが、何回も身体を重ねていくうちに五感が解放される。そうなると、お前は制御できなくなり、鬼は暴走するだろう」

 藤は息を飲みこんだ。『玖賀の耳がいい』とは一言も男に漏らしていない。

「なんのために、あのもみじ神社で鬼が眠っていたと思う?」

 宍色の髪の男に聞かれ、藤は困惑した。理由を聞かされていないし、知ろうともしなかった。

「陰陽師と刻印できず、鬼夜叉となり討伐されたから?」

 宍色の髪の男はフン、と鼻息を鳴らした。

「前の陰陽師が逃げたからだよ」

「え?」

「鬼の能力に恐れを成して逃げたんだ」

 宍色の髪の男は嘘をついているようには見えなかった。

 その瞬間、列車が暗くなる。外の景色が野原からトンネルへ変わった。ゴーと空気がこもる音がする。

「おっと、陰陽寮に勘付かれたようだ。あいつらを信用するなよ。都合のいいことしか言わねぇ」

 宍色の髪の男の目が赤く光った。また空間がねじ曲がる。ぐにゃりと身体も同じように曲がり、目の前が真っ暗になった。

 藤が最後に見た宍色の髪の男は手を振っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...