9 / 59
第1章 残酷な伝統薬
箱庭的な人工国家
しおりを挟む
「最初に言っておくが、この国に自由はない。表向きは自由や寛容をうたっているが、カーストが根強く残っている。オメガなんて格好の餌食だ。さっさとこの国から去った方がいい」
ライオン獣人は優しく十月に話しかけた。脅しには聞こえず、十月は動揺してしまう。
「か、帰りたくても帰れないんだ……」
誰でもいいから相談したかった。誰かに自分の進むべき道を示してほしかった。そうでもしなければ、今立っている場所も揺らいで地下よりも深い闇に引きずり込まれそうだった。
「それはどういうことだ?」
ライオン獣人の耳がピクリと動く。十月の言葉を聞き漏らさないように意識をしていた。ライオン獣人の聞く意思が目に見えて伝わり、十月は聞き流されないと安心する。
「帰ればきっとここよりも酷い扱いを受けるんだ。家族に頼りたくても両親が逮捕されて。おばあちゃんとはしばらく帰ってくるな、と言われてから連絡が取れないし。他に頼る身内もいない。だからと言って友達は頼れない。両親が逮捕されたってことはニュースで知っているだろうし……うっ、俺は、俺はどうしたらいいんだ……」
十月の視界は歪み、クラリとめまいがした。膝をつけば、ボロボロと我慢していた涙があふれてくる。
両親が何で逮捕されたのかは知らない。きっと何かの間違いであってほしいと思う。義父に関してはどうでもいいが、母は巻き込まれた側だ。すぐに釈放されるはず……それなのに何一つ連絡が来ないのはなぜだ。
考えることをやめたはず。それなのに口にしただけで、頭は勝手に思考を巡らせてしまう。余計なことを考えてしまう。考えないようにしていたはずなのに。
「止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれえええ!!」
勝手に頭を使う脳に命令したって、ちっとも改善されない。むしろ、頭痛が起きるまで能力を使い切ろうとする。身体の疲弊もあり、十日の精神も限界だった。
「おい!」
ライオン獣人の声が聞こえた。
フッ、と目の前が真っ白になり意識が遠くなる。身体が大きく傾くのを感じながら、十月は目を閉じた。
ライオン獣人は優しく十月に話しかけた。脅しには聞こえず、十月は動揺してしまう。
「か、帰りたくても帰れないんだ……」
誰でもいいから相談したかった。誰かに自分の進むべき道を示してほしかった。そうでもしなければ、今立っている場所も揺らいで地下よりも深い闇に引きずり込まれそうだった。
「それはどういうことだ?」
ライオン獣人の耳がピクリと動く。十月の言葉を聞き漏らさないように意識をしていた。ライオン獣人の聞く意思が目に見えて伝わり、十月は聞き流されないと安心する。
「帰ればきっとここよりも酷い扱いを受けるんだ。家族に頼りたくても両親が逮捕されて。おばあちゃんとはしばらく帰ってくるな、と言われてから連絡が取れないし。他に頼る身内もいない。だからと言って友達は頼れない。両親が逮捕されたってことはニュースで知っているだろうし……うっ、俺は、俺はどうしたらいいんだ……」
十月の視界は歪み、クラリとめまいがした。膝をつけば、ボロボロと我慢していた涙があふれてくる。
両親が何で逮捕されたのかは知らない。きっと何かの間違いであってほしいと思う。義父に関してはどうでもいいが、母は巻き込まれた側だ。すぐに釈放されるはず……それなのに何一つ連絡が来ないのはなぜだ。
考えることをやめたはず。それなのに口にしただけで、頭は勝手に思考を巡らせてしまう。余計なことを考えてしまう。考えないようにしていたはずなのに。
「止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれえええ!!」
勝手に頭を使う脳に命令したって、ちっとも改善されない。むしろ、頭痛が起きるまで能力を使い切ろうとする。身体の疲弊もあり、十日の精神も限界だった。
「おい!」
ライオン獣人の声が聞こえた。
フッ、と目の前が真っ白になり意識が遠くなる。身体が大きく傾くのを感じながら、十月は目を閉じた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる