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勘違いの好意でも

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 血は苦手だ。僕の両親は幼い頃、交通事故で亡くなった。事故当時、両親の血でできた水溜まりに僕はいた。僕を守るようにして両親が覆い被さったらしく、僕はほぼ無傷だった。痛いという感情はなくて、ただ目に映るものが全て赤かったことだけは覚えている。目に赤い血が入って、ゴシゴシと手で拭いても赤かった。小さい頃の記憶はほぼうろ覚えなのに、僕を苦しめるかのように交通事故の思い出は鮮明だった。

「うっ……」

 僕は頭を抱えながら起きた。ズキズキと輪っかに締め付けられているような感覚。ぼんやりとした視界の中、黒い人影が見えた。

「おい、大丈夫か」

 黒い人影が近づくと、少しずつピントが合ってくる。僕の視界いっぱいに美しいネオ様が映った。

「あ、ひぃ……!」

 僕は情けない声を出してまた寝転がる。ボフン、と背中が跳ねたからベッドだろう。

「おいおい、人の顔を見て悲鳴上げるとか……さすがに傷つく、いや違うな。バイト先にまで押しかけて、ケガさせて、ごめん」

 ネオ様は堂々としていたが、だんだん声が小さくなっていく。膨らんだ風船がしぼんだかのようだった。

「ケガ……」

 ケガと聞いて、僕は太ももを見る。

「イッ……!」

 足を少し動かしただけで激痛が走った。ズキズキと鋭い痛みが広がっていく。

「3針縫ったからあまり動かさない方がいい」

 ネオ様は僕を落ち着かせるために抱きしめてきた。ただ、そんなことをされたらネオ様ファンの僕は全身が沸騰するぐらいに血の巡りがよくなってしまう。痛みが熱へと変わり、緊張からか変な汗が噴き出してきた。じんわりとネオ様の身体を僕の汗で濡らしている気がして、僕は離れようとする。

「苦しかったか……?」

 心配そうにネオ様は僕を見た。僕の行動で一喜一憂するネオ様を見て、嬉しくて笑ってしまう。勘違いでも好意を向けられていれば悪い気はしない。

「いいえ、ただ僕の汗でネオ様を汚してしまいそうな気がして」

 僕は俯きながらくねくねと手遊びをする。既読無視していた僕はまだネオ様の顔を見ることができなかった。
 
       
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