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誰も助けてくれない……

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「……おいしそうな匂い」

 背後から知らないアルファの手が伸びてくる。

「ち、違います……! オメガじゃないです! 人違いです!!」

 僕は必死になって抵抗した。だけど、声が大きかったのか僕とアルファ以外の観客に気づかれてしまう。無数の目が僕に向かっているような気がした。

「やめなよ、こんなところで」
「なんだ?」
「え、なにケンカ……?」

 少しずつ、観客のざわめきが大きくなってきた。ネオ様がステージ上でまだ歌っているのに、僕のせいで台無しになっている。

「すみません、通して、通して下さい……!」

 僕は泣きながら人混みをかき分けた。もっと早く会場から出るべきだった。自分勝手な行動でネオ様のステージをめちゃくちゃにしてしまった。最悪だ。初めての遠征だったのに、僕はもう出禁になってしまうだろう。

「おい、待てよ。オメガ」

 男が僕の肩をつかむ。とても強い力だった。

「お願いだから、邪魔したくないから通して!」

 僕はなりふり構わず、出口を目指そうとした。周りは関わりたくないのか、冷めた目で僕たちを見ている。誰も僕を助けようとしなかった。

「え」

 とても強い殺気を感じた。

 ステージを見ると、歌っていたはずのネオ様がいない。だけど、歌は続いていた。

「ネオ様はどこに……」

 僕は立ち止まってネオ様を探す。騒動に巻き込まれてしまったんじゃないかと、パニックになってしまう。

「どうしよう僕のせいで……」

 僕はその場に崩れ落ちる。自分のことなんてどうでもよかった。

「見つけた」

 目の前にネオ様がいた。

「え」

 そして、ネオ様の後ろには花道ができている。

「な、なんで……」

 なぜ、ネオ様が自分の目の前にいるのかわからなかった。

「なんでって、発情させた責任取りに来たんだけど」

 ネオ様はマイク越しに言った。会場に黄色い悲鳴が巻き起こる。

「ほら、立って」

 ネオ様に手を差し伸べられて、僕はおそるおそるその手を握りしめる。ネオ様の指は細くて骨張っていて、本当に僕なんかが触れてもいいのか悩んでしまった。

「わっ……」

 僕が強く握れずにいれば、ネオ様は僕の手を強く握りしめて引っ張られる。その力の強さで僕はよろけてしまった。ポン、と頭が何かに当たった。すぐそこにはネオ様の胸板。顔を上げれば、ネオ様のお顔……。

 ネオ様は美しく綺麗な人だった――。
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