上 下
10 / 43

10 乙女ゲーの世界?

しおりを挟む

 ベッドに横たわっても、頭がやけに冴えていた。
 もう少しで思い出せそうな気がする。ここがどのゲームの世界の中なのか。
 天蓋を見つめながら、頭の中を整理する。

 大神官ルシアン。
 聖騎士団長アルバート。
 副団長ヴィンセント。
 そして聖騎士レン。

 すべて覚えのある名前。聖女……神殿……。
 彼らが攻略対象の、乙女ゲーム……。
 ああ、そうだ!
 入院中にやっていたスマホのアプリゲーム、『あなたに捧ぐ聖なる祈り』、略して『アナイノ』!
 よしよしよし思い出した!
 えーっと、元孤児の女の子に聖女の力が発現して神殿に引き取られて、そこにはイケメン神官やイケメン聖騎士がいて……ってやつ。

 でも二次元と三次元の違いか、容姿はそんなに似ていない気がする。目の色や髪の色はたぶん同じだけど。だから思い出すのに時間がかかったんだよね。
 攻略対象もまだいた気がするけど、思い出せない。
 このゲーム、えーと……クリアした? なんか飽きて途中で放り出した気がする。
 リリースと同時にダウンロード数が異常に伸びた『アナイノ』だけど、プレイした人の評価は可もなく不可もなくみたいなのが多かったんじゃなかったかな。

 それにしても。
 内容はあんまり覚えてないけど、もしかしてこれから恋愛イベントが起きたりするんだろうか。
 ……って、あの人たち相手に? 無理じゃない? お互いに。
 そもそも嫌われスタートの乙女ゲームなんてある?
 いやそれ以前に攻略対象が一人、追放されてていないんですけど。
 何かおかしい。何か……。
 まず聖女に、オリヴィアという名前はなかった気がする。名前を自由に入れられる方式だった。
 それはいいとして。「十六歳だから私と同じか~」って思いながらやってなかった!?

 ベッドから飛び出て、鏡を見る。

 名前:桜井織江/オリヴィア
 職業:聖女
 年齢:十九歳
 性格:小心者 泣き虫

 性格の部分に悪口みたいなのが増えてるのはひとまず置いておくとして。
 やっぱり、十九歳になってる。
 ってことは、アナイノの三年後の世界……?
 そういえば、主人公は新米聖女という設定だった。
 オリヴィアが自殺したのが八か月前、聖女としての務めを果たしていた期間が三年弱という話だから、新米聖女だったのなんて三年半くらい前の話じゃん……。
 だとしても、なんで主人公である聖女がこんなに嫌われてるの? もしかして全員攻略失敗したバッドエンド後の世界とか!?

 全然楽しくない。

 イケメンにチヤホヤされないのはまだいいとしても、嫌われた主人公に憑依ってどうなのよ。
 聖女オリエという名前でゲームをプレイした罰か何かなの。

 つん、と鏡をつつく。
 鏡に映るこの金髪美女が、今の私。スタイルもいいなあ。
 体を動かす際の違和感はなくなってきたけど、鏡を見ても相変わらず自分っていう感じはしない。
 こんなに美人で周囲はイケメンだらけという環境なのに、楽しい恋愛イベントも起きやしないなんて。

 でもまあ……いっか。攻略対象はイケメンとはいえ怖い人ばかりだし、関わらずに元気に楽しく生きていけば、それで。
 いつまでオリヴィアでいられるかすらわからないんだから、健康な体を楽しもう。

 そう納得して寝ようとしたところで、チェストの引き出しから青い光が漏れていることに気づいた。
 なんだろう?
 引き出しを開けると、分厚い本のようなものがあった。
 本には鍵がかかっている。
 鍵なんて持ってないし……と鍵穴に触れたとき、カチンと音がして鍵が外れた。
 無意識にそれを開こうとして、手を止める。
 もしかしてオリヴィアの日記とか? 見ていいものなんだろうか。
 でも、運が良ければオリヴィアとして生きていくのに必要な情報が書いてあるかもしれない。
 読んではいけなさそうな内容だったらすぐ閉じよう、と思いながらその本を開く。
 そこに書いてあるのは……日本語だった。

『初めまして、日本からのお客様。
 私は、聖女オリヴィア。その体の持ち主よ』
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

勇者の幼馴染は領主の息子に嫁ぎました

お好み焼き
恋愛
結局自分好みの男に嫁いだ女の話。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

公爵令嬢の狼

三国つかさ
恋愛
公爵令嬢ベアトリスは、家柄・魔力・外見と全てが完璧なお嬢様であるがゆえに、学園内では他の生徒たちから敬遠されていた。その上、権力者の祖父が獣人差別主義者であるために、獣人生徒たちからは恐れられて嫌われている。――だからバレてはいけない。そんなベアトリスが、学園内の森で狼と密会しているなんて。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...