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32. 地球滅亡管理局

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しばらくして勝負所に差し掛かり、ダケサンは口元に手を当てて何かを考えるような仕草をしている。今、彼には二つの選択肢がある。一つは、彼の大模様に侵入した僕の黒石を攻め立てて、その周囲で優位性を築くという選択だ。もしそうなればヨセ勝負になる。先ほどのダケサンとミレイユの対局を見て、彼のヨセの腕前は相当なものだと理解できた。彼はヨセに自信を持っているはずだから少し地合で負けていてもヨセ勝負を選ぶ可能性は高い……。そして、もう一つの選択肢は、侵入した黒石を殺してしまうというものだ。その場合、ダケサンも僕も引き返せない戦いを強いられることになり、どちらもリスクを伴う。ダケサンが僕を殺すつもりで攻めてくる場合、僕はそれを凌ぎきれるだろうか……。

僕は顔を上げて、正面に座っている男の顔を見た。すると、彼もまた、顔を上げており、僕の方を見てニヤリと笑っていた。

「どうやら、お前は予想以上にやるようだな」

「それは、ありがとう」

「だが、残念だったな。俺はこの100階層の支配者であり、最強のプレイヤーだ」

「……100階層の支配者?」

「そうだ。ここは俺たち『鬼神』が支配する場所。つまり、ここで最強の碁打ちが100階層の支配者となるわけさ」

(そうか……、ということは……、もしかして)

僕は心の中で呟くと、ある考えに至った。

「なるほど、じゃあ、その『鬼神』が爆破テロを起こしたのか?」

「そういうことだ」

「そうか」

思いがけず、当初の目的である爆破テロの犯人に出会うことができた。まさか、彼がテロリストのリーダーだとは思わなかった……。彼は僕が驚く姿を見て満足げな表情を浮かべている。

「お前、随分と余裕だな」

「いや、そんなことはないよ……、ただ、その、なぜ爆破テロを起こしたのか、その理由は知りたいと思っただけなんだ……」

「ほう、理由を知りたいか……。まぁ、いいだろう。教えてやる。爆破テロを起こしたのは、俺がこの世界を支配するためだ」

「……支配? どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。俺はこの世界を支配し、タイタンだけでなく、全ての惑星を支配するつもりなんだよ」

「なんのために?」

「決まってんだろ。復讐だよ」

「復讐だと……。一体誰に対してだ」

「地球滅亡管理局だ」

「えっ!?」

「そうだ……、奴らは地球に近づく小惑星の軌道を知っていながらそれに対処せず、人類を絶滅させた……」

(なん……、だと……?地球滅亡管理局が人類を絶滅させた……?)

僕はダケサンの言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。彼は今、確かに言った。地球に近づいてくる小惑星を事前に察知しながら、それを防ぐことをしなかったと。ダケサンは僕の様子をじっと見つめていた。彼は僕の反応を待っているようであった。僕はゆっくりと口を開く。

「まさか……、そんな馬鹿な」

「本当さ。だから、俺は決めた。必ず、あいつらに報いを受けさせてみせると」

「……それで、そのために何をするつもりなんだ?」

「まずは、このタイタン全土を手中にする。そして、太陽系や全ての植民惑星を我が物とし、最終的には地球滅亡管理局を征服する。それが、『鬼神』の計画の全てだ」

ダケサンは淡々とした口調で言った。僕は動揺していた。なぜなら、ダケサンの言うことが真実ならば、地球滅亡管理局はとんでもない組織ということになる。鬼神という組織も恐ろしい存在だが、地球滅亡管理局はさらにその上を行っているのだ。僕は何も言わずにダケサンの顔を見つめた。すると、彼は不敵な笑みを浮かべた後に言葉を続ける。

「どうやら、お前は俺のことを勘違いしているようだ。俺はただのテロリストではない。この世界に新たな秩序をもたらす救世主となる男だ」

「……」

「おっと、話し過ぎてしまったな、対局を続けようぜ」

ダケサンはそう言って再び碁盤に視線を落とした。

「難しい局面だが……、ここだな!」
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