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20. 箱の中の虫

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「では、まず肩の方から揉みほぐしていきますねー。力加減とかあったら言ってください」

そう言うと彼女は僕の背後に回り、僕の肩に手を乗せ、親指に力を込めて押してくる。彼女の手の平からはじんわりとした温かさを感じる。その優しい力に、なんだか安心するような心地良さを感じた。彼女はゆっくりとしたリズムで僕の身体を解してくれる……
やがて全身の血行が良くなり、凝り固まっていた肩が柔らかくなるのが感じられた。彼女の指先は僕に触れるたびに不思議な感覚を呼び起こす……その度に僕の心の中に温かい感情が流れ込んでくるのだ。それはまるで母性のような……慈愛に満ちた優しさだった…………
彼女の手が僕の首筋に触れると、ついビクッと反応してしまう。

「んっ……あぅ……あっ……はぁ」

と声が出てしまう。彼女は何も言わずに手を離すと、今度は背中に触れた。背骨の周りの筋肉に沿って彼女の親指が這っていく……その快感ともこそばゆさともつかない奇妙な刺激に身を震わせる。彼女はしばらく背中の筋肉を撫でるように揉みしだく。服の上から優しく……でも確実に僕の身体に快楽の波を送り込むように……

「ん……ふぅ……う……」

と吐息を漏らしている内に、僕の身体の奥底に眠っていた欲望が頭を覗かせる。……彼女にもっと触れて欲しい……。彼女の手つきはだんだんと大胆になっていく。そして……僕の肩甲骨の下をグッと押した。その瞬間、僕の脳裏を電気のようなものが駆け抜けていく。

「ひゃん……あ……そこはダメ……」

僕は堪らず情けない声を出してしまった。彼女は僕の声を聞くとクスっと笑って、もう一度同じ場所を軽く押す。僕はまた変な声が出るのを必死に抑える。その後も僕はされるがままになっていた。……どれぐらい経った頃だろうか、ようやく僕は我に帰った。気がつくと目の前には彼女の笑顔があった。彼女の瞳は澄んでいて綺麗だと思った。……彼女との時間は幸せだった。この時間がずっと続けばいいと僕は思った。でも、そんな願いは叶わないんだ……。

彼女は僕から離れようとする。その時……僕は彼女の手を掴んでいた。……彼女をこのまま放したくない。

「……もう少しだけ……」

僕は消え入りそうな声で言った。
彼女は困ったような表情を浮かべる。やがて意を決したように僕の目を見て答えた。

「わかりました。じゃあ三十分延長ですよ」
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