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6. 狭間

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(……ここは……どこだ……)

目を開くといつものオフィスにいた。周囲を確認すると、マキノ、レナ、七海、シルバーは床の上でまだ眠っている。隣にはアイがいる。彼女の術式が無事成功したようだ。

「ふう……」

安堵のため息をつく。

「うまくいったみたいね」

「ああ、助かったよ」

彼女のお陰でとりあえずは難を逃れた。アイはめったに術式を使わない。因果律を歪めるほどの強力な力は代償を伴う。彼女は疲れ切っていた。こんなにも消耗する彼女を見ることはめったにない。

「大丈夫か?」

「ええ、少し休めば平気」

「すまない、無理させたな」

「いいの、私がしたくてしたことだから」

彼女の青い瞳を見つめると吸い込まれそうになる。綺麗な青い瞳だった。彼女とは離れ離れになっていた歳月が長すぎる。しかしこうしてまた出会うことができて一緒に働けることは本当に嬉しいことだ。

そんなことを考えていると、突然、彼女は糸が切れたように倒れ込んだ。僕は慌てて抱きかかえる。

「おい、大丈夫か?」

「ちょっと頑張りすぎちゃったかな……」

スーツを着ている割には体つきが柔らかい。女性特有の丸みが感じられた。

(やばい、意識すると変な気分になる……)

自分の中の煩悩を振り払う。彼女は僕の首に腕を回して体を預けてきた。その重みが心地よい。甘い香りが鼻腔をくすぐる。密着した部分が熱を帯びてくる。ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなった。彼女の柔らかな膨らみの感触が布越しに伝わってくる。このまま抱きしめたい衝動に駆られるがなんとか理性を保った。彼女を大切に想うからこそ安易に触れてはいけない。そんな気がしていた。僕とアイの距離は遠い昔に別れてしまった恋人同士のようだった。お互いに求め合いながらも手を伸ばすことはできない。それが今の僕たちの関係なのかもしれない。
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