縁は縁でも腐ってる

長澤直流

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◆漆

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「極国に――」

 宵の口、伊織の報告に宗近は目を見開いて憤りをあらわにした。

「よりによって早菜姫として……奥方候補として登城させてしまうとは……!」

 偶然その場に居合わせた長谷川は、宗近の顔を恐ろしくて見ることが出来なかった。目が合ったら最後、容赦なく冗談抜きで斬られてしまうかもしれない。この男は美慶のこととなると冷静さを失い、普段では考えられない短慮さにでてしまうのだ。
 早菜姫本人が登城したのであれば見向きもされずに突き返されるだろうと思われた。たとえ反感を買われようが処罰されておしまいだ。
 しかし美慶の場合はそれでは済まされない。
 宗近は美慶を何もせずに見捨てることなど出来ないのだ。どうにかして救出すべく動き出してしまうことは目に見えてわかっていた。それ程美慶に対する執着がこの男は強かった。
 しかも今回は意図せず人質としてではなく奥方候補として登城してしまった。ことが公になってしまっては不敬罪、あるいは反逆の意有りと疑われかねない。
 その行動如何では豊稔国の存続すら危うい。

「――っ!」

 宗近は苛立ちを抑え切れずに頭を幾度か壁に打ち付けた。長谷川が体を張ってそれを止めると、宗近はふと何か思い出したように長谷川を振り払い、足音を立てずに部屋を後にした。
「……詰んだな」
 長谷川は小さくそう呟いた。

 間もなくして女の悲鳴といななきが聞こえた長谷川は宗近に随伴すべく、足早に現場へと向かった。
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