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4.異世界転職勇者
就活において魔法は有利にはならないらしいよ
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「身分証がないと定職は厳しいな」
オレから言っといて、調べた結果はあまりにも不甲斐なく。
五日香は、なんとなくフィリアスのさっきの言葉に触発されたのか、子ども達を引き連れて近所の公園に繰り出していった。いつもの三日坊主にならなきゃいいけど。
「わたしはなんでもやる、やる気はあるんだが」
なんか意気込みだけはすごく立派。
近所のスーパーのレジ打ちなら何とかなるのか? いや、それでも身分証がないのは厳しいだろう。特に、彼女がいくら大人びていたとしてもまだ16歳、学生証もなければそのへんのバイトすら雇ってもらえない。
身分証、それがいかに大切なものなのか改めて思い知る。
もしもどうしても身分証が必要になった場合は、病院でお世話になった遥場さんを頼ってみよう。十分に恩は果たしているからな、無理難題でも公務員パワーでなんとかしてくれるんじゃないかな。
今はオレ達だけでできることを考えてみよう。
「そうだな、フィリアスは得意なこととかなんかできることとかある?」
「わたしは魔王を倒す勇者として見出されてからは武芸の鍛錬ばかりに明け暮れていた。館のメイドとして働くからには一般的な教養はあると自負しているが得意なことと言われると……」
今度彼女の身の上話も聞いてみよう。彼女の世界のことももっと聞いてみたい。
彼女が異世界でどんな人生を歩んできたのか。
何を考え、どうやって生きてきて、どうしてここに転生したのか。
オレ達はお互いのことを何も知らない。
お互いのことを知り合えたらきっともっと楽しいはずだ。
「そっか、それじゃあさ、相変わらずそっちの世界の魔法とかはまだ使えないの?」
それができたらこの世界でマジシャンとして大活躍すること間違いなしだ。だって、完全にタネも仕掛けもないんだから。
だけど。
「ダメかも。どうやらこの世界では自然から発生するマナを使った魔法は使用できないみたいだ」
なるほど、魔法については某魔法学校モノとかアニメの設定しかわからんけど、フィリアスのいた世界でもそういうのがあって、それはこの世界じゃ使えないのか。
「仕方がない、わたし自身の魔力、オドを使ってみるか」
そういうと、フィリアスは自分のマグカップに向かって両手を前にかざす。小さく何か詠唱を呟いているけど、それはどこか機械的な響きと何か異国の歌が混じった不思議な感じがした。
これはオレ達がいつも通り何も気にしないで話しているただの声帯の震えじゃない。
魂とか根源とかそういうところからの音を越えた振動、そんな気がした。そのマグカップ、五日香のお気に入りだけど大丈夫かなあ。
だけど、オレの懸念とは裏腹に、半分ほど残っていた紅茶がほんの少しカタカタ揺れただけでマグカップには何も変化はなかった。
「今はこれが精いっぱいだ、わたしの魔力はあまり回復していないみたいだ」
「ちなみに何したの?」
自身の魔力も使えない。そのことをフィリアスがさほど気にしている様子は感じられなかった。なにせ、この世界じゃあ魔法なんてなくても十分生きていけるからな。ちょっと不便、くらいの感覚なのだろうか。
「ふう、ちょっと甘くなったかな」
「ガムシロップでいいところを贅沢に魔法使いやがって!」
オレから言っといて、調べた結果はあまりにも不甲斐なく。
五日香は、なんとなくフィリアスのさっきの言葉に触発されたのか、子ども達を引き連れて近所の公園に繰り出していった。いつもの三日坊主にならなきゃいいけど。
「わたしはなんでもやる、やる気はあるんだが」
なんか意気込みだけはすごく立派。
近所のスーパーのレジ打ちなら何とかなるのか? いや、それでも身分証がないのは厳しいだろう。特に、彼女がいくら大人びていたとしてもまだ16歳、学生証もなければそのへんのバイトすら雇ってもらえない。
身分証、それがいかに大切なものなのか改めて思い知る。
もしもどうしても身分証が必要になった場合は、病院でお世話になった遥場さんを頼ってみよう。十分に恩は果たしているからな、無理難題でも公務員パワーでなんとかしてくれるんじゃないかな。
今はオレ達だけでできることを考えてみよう。
「そうだな、フィリアスは得意なこととかなんかできることとかある?」
「わたしは魔王を倒す勇者として見出されてからは武芸の鍛錬ばかりに明け暮れていた。館のメイドとして働くからには一般的な教養はあると自負しているが得意なことと言われると……」
今度彼女の身の上話も聞いてみよう。彼女の世界のことももっと聞いてみたい。
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何を考え、どうやって生きてきて、どうしてここに転生したのか。
オレ達はお互いのことを何も知らない。
お互いのことを知り合えたらきっともっと楽しいはずだ。
「そっか、それじゃあさ、相変わらずそっちの世界の魔法とかはまだ使えないの?」
それができたらこの世界でマジシャンとして大活躍すること間違いなしだ。だって、完全にタネも仕掛けもないんだから。
だけど。
「ダメかも。どうやらこの世界では自然から発生するマナを使った魔法は使用できないみたいだ」
なるほど、魔法については某魔法学校モノとかアニメの設定しかわからんけど、フィリアスのいた世界でもそういうのがあって、それはこの世界じゃ使えないのか。
「仕方がない、わたし自身の魔力、オドを使ってみるか」
そういうと、フィリアスは自分のマグカップに向かって両手を前にかざす。小さく何か詠唱を呟いているけど、それはどこか機械的な響きと何か異国の歌が混じった不思議な感じがした。
これはオレ達がいつも通り何も気にしないで話しているただの声帯の震えじゃない。
魂とか根源とかそういうところからの音を越えた振動、そんな気がした。そのマグカップ、五日香のお気に入りだけど大丈夫かなあ。
だけど、オレの懸念とは裏腹に、半分ほど残っていた紅茶がほんの少しカタカタ揺れただけでマグカップには何も変化はなかった。
「今はこれが精いっぱいだ、わたしの魔力はあまり回復していないみたいだ」
「ちなみに何したの?」
自身の魔力も使えない。そのことをフィリアスがさほど気にしている様子は感じられなかった。なにせ、この世界じゃあ魔法なんてなくても十分生きていけるからな。ちょっと不便、くらいの感覚なのだろうか。
「ふう、ちょっと甘くなったかな」
「ガムシロップでいいところを贅沢に魔法使いやがって!」
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