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3.【速報】美少女が居候することになりました

月曜日は魔物、魔物なんや……

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 出張でもないのに会社にスーツケースを持ってくるやつがいたらさすがに目立つ。それがまさか自分になろうとは思いもしなかった。

「今日はすごい大荷物だね」

「ええ、重要書類を片っ端から持ってきたんで絶対に触らないでくださいね、部長」

「夜逃げでもするの?」

「いつでも準備オッケーです」

「変なやる気にあふれている……」

 月曜日は魔物だ。

 何が起こるかわからない。

 そう、それはオレ達みたいな大人はもとより、休日を全力で遊び尽くす小さな子どもの方が予測不能な事態に陥りやすい。

 だからこそ、月曜日には魔物が潜んでいて、それはオレが空腹を感じ始める午前11時に突如として牙を剥く。

 つまり、オレのスマホが突然けたたましく鳴り響いた。うおッ、ウッソだろ、普段はちゃんとマナーモードにしてるのに!? これも魔物の仕業か!

「は、はい、こちら春嘉木です」

 周囲の視線をそこはかとなく感じながら慌てて電話を取ると、そこには現在と永々遠が通う保育園の名前が表示されている。う、これはもしかして。

 オレは電話を取ってこそこそと廊下に出る。

「もしもし。わたし、保育園で永々遠ちゃんの担任をしています、佐倉です」

「あ、いつもお世話になっています、えっと」

「お母さんが出られなかったのでお父さんにお電話しました。永々遠ちゃんのお熱が少し高くて元気もないようなので、大変申し訳ないんですけどお迎えに来ていただきたくて」

「あー、はい、わかりました。できるだけ早く迎えに行けるようにします」

「申し訳ありません、ありがとうございます」

 なんとなく慣れてしまったこのやり取り。

 そう、数年前から流行っている新型のウィルスのせいで保育園でも少しでも熱があるとすぐに連絡が来てしまうようになってしまった。まあ、元々永々遠は体温が高めなうえに結構風邪をひきやすいから、保育園からの迅速な連絡はもうすっかり慣れっこになってしまった。

 五日香からの連絡はない。きっとすさまじく忙しいのだろう。彼女の仕事は中々現場から離れられないって言ってたし。

 かといって、オレも在宅ワーク続きでデスクに山積みになった仕事を何とかしなきゃいけない。できればもう少しキリのいいところまではやっておきたい。

 あ、そうだ。

 家には、お手伝いの機会を今か今かと待ちわびている居候がいるじゃないか。

 背に腹は代えられない。

 フィリアスに行ってもらおう。

 彼女には実地でこの世界における交通マナーを学んでもらおうじゃないか。なんか行き当たりばったりで正直すまん。

「よし……!」

 持っててよかった伝令水晶。うんうん、異世界転生者との通信手段にはやっぱこれっしょ。

 誰にも見られないようにこそこそと前屈みの中腰の姿勢でトイレの個室に駆け込みながら、オレは全く隠し切れないポケットの怪しすぎるふくらみからぼろんっと水晶を取り出す。

 さっきから断じて卑猥な行為はしていない。

 えっと、どうするんだっけ、話したい人のことを思い浮かべながら水晶を軽くこすればいいんだっけ。

 すると。

「どうした、カナタ、何かあったか?」

「うわ、本当に出来た! つーか、水晶の中に映るんじゃなくて、その上に映し出されるホログラム的な感じなのね! それじゃあこの水晶の中のもやもやは何のために?」

「ん? 何の話だ?」

 色んなツッコミどころがあるけど、そんなん要点がブレブレになるし、それはあとできっちり問いただすとして。

 今はとりあえず。

「あ、いや、す、すまん。今保育園から連絡が来てな、永々遠が熱出して迎えに行かなきゃいけない! 保育園には連絡しとくから代わりに二人を迎えに行ってくれ! オレもすぐ行く!」

「ふぇッ!? わ、わかった! その、ほいくえん、とやらはどこにあるのだ?」

「水晶を通して道案内する! とりあえずフィリアスはベビーカーを用意してくれ」

「わかった! あの玄関にある永々遠の乗り物だな!」

 自分でも意外なほど水晶をうまく扱えてびっくりしてる。そして、意外にもフィリアスと連携が取れている。なるほどな、魔法のテレビ電話みたいなもんか。

 さてと。

 なんか苦し紛れにフィリアスに初めてのおつかいをお願いしちゃったけど、はたしてうまくいくだろうか。

「早く帰ってください、春嘉木さんのやり残しはワタシ達がやっとくんで」

「ありがとう、キリ良くなったらあとはお願いします」

 子育てに理解のある職場で本当に助かる。

 だけど、なんとかキリのいいところ、と思ってたら意外とてこずったり、やらなきゃいけない緊急の仕事が襲い掛かったりで会社を出るのが遅くなってしまった。

 そして、仕事をしながらも仕切りで区切られたデスクの上の水晶玉に向かってこそこそと話しかけているおじさんは、周囲には完全に怪しい宗教にのめり込んでいるように見えることだろう。

「ねえ、春嘉木さん、もしかしてその大荷物……」

「え? 家の重要書類があらかた入ってるんですよ」

「まさか家を売ろうとか……」

「よっしゃ、終わった! あとはお任せします! オレはこれで失礼します!」

「は、はひッ、何か困ったことがあったら悩まず絶対に話してください! 相談に乗りますし、ワタシ、いい弁護士も知ってます!」

「そんな至れり尽くせり!?」

 なんか変な心配させたみたいなのか? さすがに水晶とスーツケース、そして、子どものこととはいえ急な早退。いくらなんでも怪しすぎか?

 だけど、そんなことに構っていられる余裕もなく。

 会社のエレベーターを待ちながらオレは保育園に連絡を入れる。

「すいません、ちょっと遅くなりそうなので今から家に遊びに来ている親戚の子が迎えに行きますんで」

「あ、は、はい、えっとどんな方でしょうか」

「16歳の女の子で見た目は完全に外国人なんですけど日本語話せるんで大丈夫です。たぶんとても目立つんですぐわかると思います。それに子ども達もなついているんで」

「はい、わかりました。お待ちしております」

「お手数おかけして申し訳ありません」

「いえいえ、小さい子はそんなもんですよ」

 保育のプロである向こうからしたら、子どもの突然の発熱なんて慣れっこなんだろう。子どもの体温って結構高いしな。

 それが頼もしくもあり、それでも申し訳ない気持ちもある。

 今はフィリアスに頼んで、オレは急いで家に戻ろう。
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