47 / 48
7.REALEFFECT
幻想魔剣は真の聖剣に打ち克てるのか
しおりを挟む
オレの手には、魔剣の欠片。
あの時の悪夢がフラッシュバックする――
「――契約破棄だ、全部元通りにしろ」
「いひひ、そんなことをわらわが許すと思うかや?」
「やるんだよ、そうしたらお前に新しい世界を見せてやる」
ウォアムリタクーシャはオレの言葉に大層驚いたようで大きく目を見開いた。
「……あっは、あははいひひおほほ、そんなことを言ってくれる者がおるとはなあ!」
ウォアムリタクーシャは無邪気な子どもみたいに闇の中を涙が出るほど笑い転げている。
つとその可憐な指で拭った涙が楽しくて流れたものなのか、嬉し涙なのか、それとも悲しみの涙なのか、オレにはよくわからなかったけど。
それがハッとするほど美しく思えたのは気のせい……じゃないな。
「あー、こんなに笑ったのは初めてじゃ。えへへ、良かろう、主が見せてくれるという世界をこの目で確かめてやろうぞ」
上気した嘲笑、にやりと邪悪に笑む。うん、さっきまでの悪魔みてえなウォアムリタクーシャだ、そっちの方がいい。その姿でいちいちあんな少女みてえな笑顔を見せられたらこっちの心臓が保たねえんだわ。
「ただし、つまらぬ世界なら承知せぬぞ?」
――そして、今この瞬間、クソッタレでサイコーな現実へと引き戻される。
契約破棄、その契約内容をリセットすることで肉体を契約前の元の状態に戻す。現実が嫌いなオレが取る唯一の、そして、喜んで享受する最後の選択肢。ははッ、魔力がすっからかんなんて、なんて清々しい! アタマ空っぽの方が夢詰め込めるだろ!
(あはははは、サイコーじゃない、そのイカれた幻想に手を貸してあげる!)
強く握りしめた手。この左手には血まみれの魔剣のかけら。
流れる血が電子の光となってナノマシンへと変換される。この魔剣はオレが望んだカタチになる。そういう契約だ。
つまり、魔力の源であるナノマシンへと変容することも可能。
無尽蔵の魔力炉。
それを幻想籠手に突き刺す。
その瞬間、ノイズが奔り、血のようにどす黒い魔力が溢れ出す。今までの血飛沫じみた不気味な魔力じゃない。実にシステマティック、人類の最先端の叡智を組み込まれた幻想。
これがナノマシンが作り出す現代の魔法。
本物の魔力がナノマシンへと変換、現在の魔力となって幻想籠手に流れ込む。
オレはその様を見て、ようやくそのプロンプトを唱える。
「ファンタズム・セットアップ、」
そう、この最上級にイカれた幻想の名は――
「――魔剣、アウラ」
(いひひ、わらわをそう呼ぶとは、主もずいぶんと酔狂よな)
「黙れ、オレは誰しもが想像した魔剣の聖遺物を具現化しただけだ、■■■■■■■■なんて知らん」
心臓から引き抜かれる漆黒の魔剣。血飛沫のエフェクトともに形成される身の丈ほどもある幅広の剣身。死の恐怖はない、あれは紛れもない失血死だった。これはそう、ただのエフェクトだ。
「こうあるべきだという願いの集束、【イマジンコード】で発現したリアルタイムの伝説、人々のイメージが創造した新たなる聖遺物」
それは聖剣の在り方とよく似ていた。
違うのは、人々が魔剣に対してイメージするのがずいぶんとネガティブな感情だということだったけど。
そう、人々はかつて見た。数多の聖遺物を屠る不気味な魔剣、アウラの伝説を。
オレが具現化したのは、魔剣だ。誰も名前を知らない契約の聖遺物なんてゲームじゃ使いものにならねえ。
「今さらゲームのアイテムなんて呼び出して何をしようっていうんだい?」
心底呆れ果てた、というつまらなさそうなため息。バチバチと迸る赤黒い呪縛を纏ってなお、ゆっくりと立ち上がる。
「キミも見ただろう、幻想じゃボクには勝てないよ」
「ハッ、現実なんてどうでもいい、オレはこの世界が想像した究極の幻想で世界を変えたいんだ!」
「幻想は幻想だ、それは決して叶わぬ」
かちゃり、勝利の光が白熱する切っ先をオレに向けるアーサー。その言葉こそがアーサーが否定したかったこと。
かつて、理想だけで世界を統治しようとした者がいた。
だけど、それは叶わなかった。
何千年もの時を越えて蘇りし怨霊が吐く無念の言葉。
たった数言しかないその言葉が、ずしりと重く感じるのはなぜだろうか。
「太古の昔より人々は願い続けたのだ、この聖剣は不朽不滅なのだと」
本物の聖剣を手にしたランカー1位と、幻想の魔剣を手にしたオレ。どう見ても勝ち目なんてない。
けど、それでも、過去の栄光に囚われた古臭い亡霊に負ける気はまるでしなかった。
「今この世界を生きる人々が具現化した聖遺物だぞ、最先端の伝説が負けるわけねえだろ」
オレはもう一人じゃない。
勝手にそう思ってるだけかもしれないけど、オレには仲間がいて、(アンチだけど)観客がいて、そして……
(うふふ、わらわをそんなふうに見ておるとは、主もずいぶんおませさんじゃな、童貞のクセに)
「最後のは余計だろうが」
そう、何故かオレの脳内にガンガン話しかけてきやがるコイツもいる。
勝手に一人きりだと思っていた世界は、雨に濡れた路地裏みたいに汚くて真っ暗でネオンの明りだけがギラギラしていた。
今は違う。
オレを取り巻く灰色都市は、この(計算され尽くされているだろうけど)眩しい青空のように晴れ渡っている。
「オレは誰も守れなかったクソッタレな現実を今、この幻想で越えてやる!」
ぬるり、不定形に蠢く魔剣の切っ先をアーサーに向ける。オレの言葉は何も重苦しくはねえだろうけど、オレの信念だけは、オレの大切なモンだけは決して曲げねえ。
「ボクはカムランの丘をやり直す、この世界はそのための舞台で、そのための転生だ!」
「この世界はオレ達のモンだ、古い人間が口出しも手出しもすんじゃねえ!」
どちらからともなくゆっくりと駆け出す。
次第に速度を上げる。互いの表情さえ見えるところまで迫る。そう、これは純粋な思いのぶつかり合いだ。
「アウラ! 聖剣に勝て、そういう契約だ!」
(あはは、契約は絶対じゃ、良かろう、主が見せてくれる世界のためじゃ!)
全身全霊を以って振り下ろされる二振りの剣。
魔剣と聖剣。
最新と最強。
未来と過去。
幻想と現実。
相反する思惑と願いの全てが仮想フィールドの中心で激突する。
あの時の悪夢がフラッシュバックする――
「――契約破棄だ、全部元通りにしろ」
「いひひ、そんなことをわらわが許すと思うかや?」
「やるんだよ、そうしたらお前に新しい世界を見せてやる」
ウォアムリタクーシャはオレの言葉に大層驚いたようで大きく目を見開いた。
「……あっは、あははいひひおほほ、そんなことを言ってくれる者がおるとはなあ!」
ウォアムリタクーシャは無邪気な子どもみたいに闇の中を涙が出るほど笑い転げている。
つとその可憐な指で拭った涙が楽しくて流れたものなのか、嬉し涙なのか、それとも悲しみの涙なのか、オレにはよくわからなかったけど。
それがハッとするほど美しく思えたのは気のせい……じゃないな。
「あー、こんなに笑ったのは初めてじゃ。えへへ、良かろう、主が見せてくれるという世界をこの目で確かめてやろうぞ」
上気した嘲笑、にやりと邪悪に笑む。うん、さっきまでの悪魔みてえなウォアムリタクーシャだ、そっちの方がいい。その姿でいちいちあんな少女みてえな笑顔を見せられたらこっちの心臓が保たねえんだわ。
「ただし、つまらぬ世界なら承知せぬぞ?」
――そして、今この瞬間、クソッタレでサイコーな現実へと引き戻される。
契約破棄、その契約内容をリセットすることで肉体を契約前の元の状態に戻す。現実が嫌いなオレが取る唯一の、そして、喜んで享受する最後の選択肢。ははッ、魔力がすっからかんなんて、なんて清々しい! アタマ空っぽの方が夢詰め込めるだろ!
(あはははは、サイコーじゃない、そのイカれた幻想に手を貸してあげる!)
強く握りしめた手。この左手には血まみれの魔剣のかけら。
流れる血が電子の光となってナノマシンへと変換される。この魔剣はオレが望んだカタチになる。そういう契約だ。
つまり、魔力の源であるナノマシンへと変容することも可能。
無尽蔵の魔力炉。
それを幻想籠手に突き刺す。
その瞬間、ノイズが奔り、血のようにどす黒い魔力が溢れ出す。今までの血飛沫じみた不気味な魔力じゃない。実にシステマティック、人類の最先端の叡智を組み込まれた幻想。
これがナノマシンが作り出す現代の魔法。
本物の魔力がナノマシンへと変換、現在の魔力となって幻想籠手に流れ込む。
オレはその様を見て、ようやくそのプロンプトを唱える。
「ファンタズム・セットアップ、」
そう、この最上級にイカれた幻想の名は――
「――魔剣、アウラ」
(いひひ、わらわをそう呼ぶとは、主もずいぶんと酔狂よな)
「黙れ、オレは誰しもが想像した魔剣の聖遺物を具現化しただけだ、■■■■■■■■なんて知らん」
心臓から引き抜かれる漆黒の魔剣。血飛沫のエフェクトともに形成される身の丈ほどもある幅広の剣身。死の恐怖はない、あれは紛れもない失血死だった。これはそう、ただのエフェクトだ。
「こうあるべきだという願いの集束、【イマジンコード】で発現したリアルタイムの伝説、人々のイメージが創造した新たなる聖遺物」
それは聖剣の在り方とよく似ていた。
違うのは、人々が魔剣に対してイメージするのがずいぶんとネガティブな感情だということだったけど。
そう、人々はかつて見た。数多の聖遺物を屠る不気味な魔剣、アウラの伝説を。
オレが具現化したのは、魔剣だ。誰も名前を知らない契約の聖遺物なんてゲームじゃ使いものにならねえ。
「今さらゲームのアイテムなんて呼び出して何をしようっていうんだい?」
心底呆れ果てた、というつまらなさそうなため息。バチバチと迸る赤黒い呪縛を纏ってなお、ゆっくりと立ち上がる。
「キミも見ただろう、幻想じゃボクには勝てないよ」
「ハッ、現実なんてどうでもいい、オレはこの世界が想像した究極の幻想で世界を変えたいんだ!」
「幻想は幻想だ、それは決して叶わぬ」
かちゃり、勝利の光が白熱する切っ先をオレに向けるアーサー。その言葉こそがアーサーが否定したかったこと。
かつて、理想だけで世界を統治しようとした者がいた。
だけど、それは叶わなかった。
何千年もの時を越えて蘇りし怨霊が吐く無念の言葉。
たった数言しかないその言葉が、ずしりと重く感じるのはなぜだろうか。
「太古の昔より人々は願い続けたのだ、この聖剣は不朽不滅なのだと」
本物の聖剣を手にしたランカー1位と、幻想の魔剣を手にしたオレ。どう見ても勝ち目なんてない。
けど、それでも、過去の栄光に囚われた古臭い亡霊に負ける気はまるでしなかった。
「今この世界を生きる人々が具現化した聖遺物だぞ、最先端の伝説が負けるわけねえだろ」
オレはもう一人じゃない。
勝手にそう思ってるだけかもしれないけど、オレには仲間がいて、(アンチだけど)観客がいて、そして……
(うふふ、わらわをそんなふうに見ておるとは、主もずいぶんおませさんじゃな、童貞のクセに)
「最後のは余計だろうが」
そう、何故かオレの脳内にガンガン話しかけてきやがるコイツもいる。
勝手に一人きりだと思っていた世界は、雨に濡れた路地裏みたいに汚くて真っ暗でネオンの明りだけがギラギラしていた。
今は違う。
オレを取り巻く灰色都市は、この(計算され尽くされているだろうけど)眩しい青空のように晴れ渡っている。
「オレは誰も守れなかったクソッタレな現実を今、この幻想で越えてやる!」
ぬるり、不定形に蠢く魔剣の切っ先をアーサーに向ける。オレの言葉は何も重苦しくはねえだろうけど、オレの信念だけは、オレの大切なモンだけは決して曲げねえ。
「ボクはカムランの丘をやり直す、この世界はそのための舞台で、そのための転生だ!」
「この世界はオレ達のモンだ、古い人間が口出しも手出しもすんじゃねえ!」
どちらからともなくゆっくりと駆け出す。
次第に速度を上げる。互いの表情さえ見えるところまで迫る。そう、これは純粋な思いのぶつかり合いだ。
「アウラ! 聖剣に勝て、そういう契約だ!」
(あはは、契約は絶対じゃ、良かろう、主が見せてくれる世界のためじゃ!)
全身全霊を以って振り下ろされる二振りの剣。
魔剣と聖剣。
最新と最強。
未来と過去。
幻想と現実。
相反する思惑と願いの全てが仮想フィールドの中心で激突する。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる