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4.GAME 0.ver.

外殻はその兎を信用できるのか

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「うわ、やっぱり目立ちすぎたか」

 案の定、というか、それはそうだよね、という感じで。

 騒ぎを聞きつけてぞろぞろと集まってくる獣人達。その凶悪な目つきと持っている銃に思わずひるんでしまう。

「ファンタズム・セットアップ、魔剣、アウラ!」ほとんど反射的に。

(えへへおほほ、ゲーム外なら殺してもいいのかや?)

「ダメに決まってんだろ、……できるだけな」

 オレが持つ魔剣やノルベルトのレーヴァテインのような完全に武器にしかならない聖遺物をゲームの外で使用することはほとんどない。そりゃそうだろ、だって、街中で武器なんて振り回してら危険この上ない。そんなやつはすぐに当局の治安維持部隊に拘束された上に、ゲームのアカウントを永久に剥奪される。

 だから、仮想フィールドでもないのに魔剣を引き抜いているのが不思議な感じがする。まるで安物の違法パッチでラリってるダセェ酔っ払いにでもなったような罪悪感。

「すまないね、こんな派手な攻撃になるとはね」

 メルベルトの攻撃は、レーヴァテインを振るうたびに全く同じ形状の剣を無数に作り出し、それを斬撃の軌跡に射出していた。さっきからむちゃくちゃド派手やな。ゲーム映えはしそうだけど、今は完全に余計だ。

 一方のオレはというと。

 もはやなりふり構わなくなったのかライオン頭の獣人が乱射する銃弾を魔剣でどろりと受け止めながら突貫。弾丸はその真っ黒な剣身がまるで沼底であるかのようにぬるりと沈んで消えていく。(不味いんじゃが!?)

「クソクソクソッ! 機械仕掛けのハリボテ共があッ!!」

 オレあるいは魔剣がそんなにも恐ろしいものにでも見えているのか、半狂乱で銃を乱射するライオン頭。……なんだ?

 構わずそいつの目の前で魔剣を地面に振り下ろすと、ぐちゃりと腐敗した肉片でも叩き付けたような不快な音を立てて魔剣の剣身が弾ける。汚らしくはね散らす血飛沫。ひとつひとつが刃となって周囲の敵を切り刻む。

 突然の範囲攻撃に咄嗟にガードできたやつもそうじゃないのも、もちろんライオン頭もまとめて白い床に沈む。

「……ルジネ君、なんか、その攻撃キモいな」

「自分でも思ってるんでそっと言うのやめてください、ナチュラルに傷つきます」

 彼らが立ち上がらないことを確認しながら、床に飛び散った魔剣をずるずると元に戻す。動きと音がいちいち不快感を催す。なんとかならんのか。(うふふ、もっと主を罵ってくりゃれ、いひひ)……キ、キモい。

「よし、増援が来る前にすぐにここから脱出しよう」

 足早にその場を離れて、オレには全くわからないけどどうやらこのモノリスからの出口があるのだろう場所までやって来たみたいだった。

 道中、何人かのテロリストと遭遇したけど、ぬるりと魔剣が触れれば全員昏倒した。

「メルベルトさんはあんまりその聖遺物使わないでください、敵に見つかります」

「うん、ルジネ君に任せたよ」

(害なす枝なんてクソじゃ! そんなもの何の役にも立たぬ!)

 もちろんオレの手の内でギャーギャー喚き散らしているアウラの声なんて聞こえているはずもないメルベルトさんは視線を上にして何かを操作しているみたいだけど。

「クソ、動かないな」

 その白い床には何も変化はなく。何も起きないことがこんなにも不安になるとは思ってもみなかった。

「仕方ない。まずは移動装置を起動しよう。おそらくあいつらが壊したかもしれない」

 さっきから何も状況が好転しない。オレは未だに銃を持ったテロリストが歩き回るここに閉じ込められっぱなしだ。うんざり吐息。

 けど、そんなことを嘆いていても仕方ない、今はメルベルトさんとここを脱出できるように動かないと。

「ところで、何でノルベルトさんみたいなランカーがここで働いてるんですか?」

「上位ランカーは当局の治安維持活動のために管理局のスカウトされることがあるんだ。あ、もちろんゲームにも参加できる」

 へえ、そうなのか、知らなかった。それじゃあ、オレが戦ってきた中にも当局の職員がいたかもしれないのか。今後気をつけないといけないな。

(主もこやつらのような機械頭になるのかや? わらわの主としてこれはちょっとわらわの趣味とは合わぬな)

「どう? 君もやってみない?」

「ちょっと考えていいですか、魔剣がわがまま言って聞かないんで」

 冗談でそうは言ってみたけど、というよりも、こんな状況で自分の将来なんて決めたくない。それに、色んなところから“借り物”をしているオレには絶対に無理だ。

「彼らの中に義装でも外装起因機関でもない身体拡張者がいた。あれはたぶん内殻のやつらだ」

 なんかしきりに機械仕掛けとか外殻ガーとか騒いでたしな。それじゃあ、あの鱗や体毛はやっぱり彼らの遺伝子由来なのか。

 内殻の倫理観はどうなってるんだ? 

 遺伝子の操作は完全に違法だ。それを行った者も、そうして作られた者も全て死罪になるほどの重罪だぞ。

 だけど、そんなのがたくさんいる。その中にはウサギ耳のほのかもいるのかもしれない。

「幸い、【イマジンコード】のシステムには侵入されていないみたいだ、内殻の原始人相手には物理でぶん殴ろう」

 爽やかに言ってるけどめっちゃ物騒だな。

 メルベルトさんの謎の血気盛んさに少し引きながら歩いていると。

「あ、そこにもいるぞ、いけるかい、ルジネ君?」

「あ、待ってください、あいつは……」

 その見覚えありまくる後ろ姿を見つけたオレは魔剣を構えて気付かれないようにゆっくりと近づくと。

「おい、ほのか! なんじゃこりゃあ!」

「うひゃあ!? ル、ルル、ルルジネ殿!?」

 そこにいたのはバニーガール姿の褐色ウサギ耳、ほのかだった。耳元で叫ぶついでに、腹いせにそのもふもふの耳をわさわさしとく。

 あまりにもびっくりしすぎたのか、飛び上がってこちらを見つめるその緋い瞳は涙目だし、大事な得物であるつらぬき丸も落っことして霧散してるし。

 つーか、あの目的地にはたどり着けないことで有名なイカロスの翼でよくここまで来れたな。

「ルジネくん、彼女と知り合いなのか?」その声に滲むは、不信。

「え、ええ、こいつはほのか、オレのチームのメンバーです」

「そうか、あのバニーガールは本当にウサギ耳だったのか」

 オレ達がほのかを見つけたとき小刀の聖遺物、つらぬき丸を逆手に持った彼女がこのテロリストを倒したのは一目瞭然だった。仲間割れか。

「おい、ほのか、こんなことして許されると思ってんのか? さすがにオレも庇いきれんぞ」

「い、いやいや、我ではない!」

「ああ? もっとうまく言い訳しろよ。お前がこいつらを手引きしたのは明らかだろうが」

「それが我にもさっぱりわからんのだ。こやつらはもしかして……」

 ほのかは考え込むようにその無駄に形の良い唇に右手を添えるが、こいつには全く似合わない。

 こいつは、なんていうか、ただの能天気で鬱陶しい、人懐っこいウサギでいいんだ。

 そう。

 テロリストとか刺客とか内殻人とかそんなのはどうでもよくて。

「というか、何をしているんだ、ルジネ殿、早くここから逃げなくては」

「ほのかちゃん、かな? 僕はノルベルト、この管理局で職員兼治安維持部隊として勤務している。この施設の扉や移動装置は全てテロリストにジャックされてしまっていてね、ここから出ようにもまずは管理中枢区画へと行ってそこを奪還しなくちゃいけないんだ」

「な、なるほどなー、大体わかった」

「……ぜってえわかってねえだろ」

「君がルジネ君の仲間だというなら信用しよう、僕達と協力してくれるかな?」

「いや、こいつ、全然信用できねえっすよ」

「ルジネ殿がそれ言っちゃったらダメでしょうが!」
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