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少年は真相にたどり着けるか
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「なあ、アウラ、お前、こんな話知ってるか?」
(なんじゃ、藪から棒に。高貴なるわらわが俗世の他愛もなき噂話なぞ知るはずなかろうに)
「人の心臓に突き刺さっといて高貴なるとか何言っちゃってんの? つーか、お前が噂話なんて知らないのはそれもそうなんだけどよ、戦った相手が全員再起不能になってるらしいんだけど、……知らない?」
(あはは、そんなのは気のせいじゃ、誰も彼らのクソまずい不純物だらけで油まみれの生気なんて吸いっこないじゃない、いひひ)
アウラに表情なんてない。この魔剣が何を考えているか、なんて初めて顕現させてから一度だって計り知れたことはない。
だけど。
「ハチャメチャに怪しいじゃねえか」
こいつは嗤ってる。そう確信できる。
きっと心臓から突き出ている柄に顔がへばりついていたら、満面の邪悪な笑みをこちらに向けているだろう。
確かに人を殺すな、と約束はした。
人を殺さなければ何をしてもいい、と約束した覚えはない。
こいつがどんな聖遺物なのか何もわからないんだ。
もしかしたら、オレの命ではなく他者の命を削るのかもしれない。
オレ自身を代償にできるならそれでもいい。どうせ、こいつはヴァーチャルだ、リアルじゃない。
だけど、このイカれた幻想が関係ない他人に影響を及ぼすなら、オレはそれを止めなきゃいけない。オレのせいで誰かが傷つくのはさすがに気分が悪い。
どうせなら爽快な勝利の方がいいに決まってる。
(友情・努力・勝利、いひひ、主には一つも当て嵌まらぬなあ)
「うるせえ、そんなバグだらけの概念なんて知ったこっちゃねえよ」
ぬるい友情も、無駄な努力も、小狡い勝利も必要ない。
オレの目的は世界を変える幻想を手に入れることだ。
そして、それはもう叶ったと思っていた。
それすら幻想だったなんて信じたくない。
だから、そのためにはもう一度あそこに行く必要がある。
(それにしても、この街は嫌いじゃ。道行く民の笑顔が作り物のようで気味が悪い)
「お、はじめて意見が合ったな。オレもあの笑顔は嫌いだ、何にも考えてないみたいにへらへらしてて、生きてる! って力強さがねえ」
(いひひ、主なぞにそう言われるとはな)
結局のところ。
どんなに技術が発展しても人々は歩くのだ。
理路整然としすぎて逆にごちゃごちゃとしてしまった、上下左右、限りある空間の最効率のみを追求して作られたオレとアウラを取り巻く幾何学的灰色都市のレイライン高架下。
それを忌々しく見上げるオレはそこにいる。
夜にはあんなにもけばけばしく輝いていたネオンではなく。
空やビル群に映し出されるのは広告やヴァーチャルアイドルの宣伝に、そう、今も世界のどこかで繰り広げられている【イマジンコード】の実況や対戦結果を知らせるホログラムだ。
今の季節は、春に設定されている。だから、この気温は暖かくて心地よい。
太古の昔に形成された脆い成層圏なんて何千年も前に消滅した。
だから、今この地球を取り巻くのは、天候管理や有害物質の正常化も可能にした人工成層圏、天殻(アトモスフィール)だ。
つまり、この心地よさすら誰かの気まぐれな手の内で。
それを何とも思わず甘受してしまう。
行き交う人々はみんな和やかで、何の悩みもないように見える。
仕事はもはや生きるためじゃなくて自分のしたいこと、つまり趣味の延長だし。
気に入らないやつなんて即ブロックすればいいだけだから人間関係も良好。
食べる必要もないから、おなかも空いてないだろうし。
全ての行動にアーカイブが残るから時間を気にしなくてもいい。
日頃のほんの小さな鬱憤を晴らすために、ライブやショッピング、身体拡張へと繰り出す。
休日昼下がりの街並みなんてこんなもんだろう。
そこに至って、黒いパーカーのフードを目深に被り、陰鬱に俯くオレの姿は。
(あまりにも不相応な気しかしない、か。うむ、激しく同意じゃな)
「そんなところでオレの考えを先読みするんじゃあない」
とにかく、オレの居場所はここじゃない。
ずっとそう思ってる。
間違いだらけの舞台設定の上で、場違いな役割を演じている。
なんかそう思うのすら、ちょっとした気の迷いか厨二病だと片付けられてしまうのだろうけど。
「ま、ファンタジーよりはマシか」
元々学園モノなんてガラじゃねえし、そんなことやるつもりもねえ。キャラ文芸でもなけりゃ、ラブコメなんかじゃ断じてない。(まあ! そうなの!?)
それでも、オレのクソつまらねえ物語の舞台は、この街だ。
(わらわを従えてファンタジーじゃないと言い張るとは)
「お前なんかただの聖遺物だろうが」
あ、そういえば。
なんとなく気付いたけど。
太陽が出ている時間にここに来るのは初めてだ。
どんなに足掻いたって光があれば影もある。
そして、どんな眩しい光も届かない闇だって。
誰も誰かのことなんて気にしていない。
オレは人目を気にすることもなく、誰も足を踏み入れようとすら考えもしない暗闇にぬるりと融けていく。
だけど。
その異変は唐突に。
「………………あ、あれ……?」
(おやおや、おほほ、これはこれはどうしたものかのぉ)
「…………ない?」
そう。
あの薄汚れたジャンク屋の姿が影も形もなくなっている。はじめからそんなものなど存在していなかったかのように、ぽっかりと何もない空間が静かに佇んでいるだけだった。
空き地にすらなっていない。そこだけが路地裏の落書きだらけの塀の一部となっている。本当に一切の痕跡すら感じられない。
訳がわからない。
ただのケチでボロいだけのジャンク屋に一体何があった?
裏通りなんかをウロウロしているガラの悪そうなやつらですらも、その異変にすら気付いていないようだった。
いくら無関係で無関心だったとしても、
いつからだ? 魔剣の欠片を拝借してからそんなに経ってはいない。それが跡形もなくなるなんてあり得るか?
廃業? 夜逃げ?
それにしても、こんなにきれいさっぱり無くなるか?
そして、もし、そうじゃないのなら。
オレが追い求めているものが、オレの知らないもっとおぞましいもののような気がして、そして、その片鱗を垣間見たような気がして、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
オレなんかが触れてはいけなかったのではないか。
「……それでも、手掛かりはここしかない。とにかく何かないか探すか」
(うふふ、わらわのためにそこまでしてくれるとは健気よのぉ)
「お前が何も教えてくれねえからだろうがよ!」
(なんじゃ、藪から棒に。高貴なるわらわが俗世の他愛もなき噂話なぞ知るはずなかろうに)
「人の心臓に突き刺さっといて高貴なるとか何言っちゃってんの? つーか、お前が噂話なんて知らないのはそれもそうなんだけどよ、戦った相手が全員再起不能になってるらしいんだけど、……知らない?」
(あはは、そんなのは気のせいじゃ、誰も彼らのクソまずい不純物だらけで油まみれの生気なんて吸いっこないじゃない、いひひ)
アウラに表情なんてない。この魔剣が何を考えているか、なんて初めて顕現させてから一度だって計り知れたことはない。
だけど。
「ハチャメチャに怪しいじゃねえか」
こいつは嗤ってる。そう確信できる。
きっと心臓から突き出ている柄に顔がへばりついていたら、満面の邪悪な笑みをこちらに向けているだろう。
確かに人を殺すな、と約束はした。
人を殺さなければ何をしてもいい、と約束した覚えはない。
こいつがどんな聖遺物なのか何もわからないんだ。
もしかしたら、オレの命ではなく他者の命を削るのかもしれない。
オレ自身を代償にできるならそれでもいい。どうせ、こいつはヴァーチャルだ、リアルじゃない。
だけど、このイカれた幻想が関係ない他人に影響を及ぼすなら、オレはそれを止めなきゃいけない。オレのせいで誰かが傷つくのはさすがに気分が悪い。
どうせなら爽快な勝利の方がいいに決まってる。
(友情・努力・勝利、いひひ、主には一つも当て嵌まらぬなあ)
「うるせえ、そんなバグだらけの概念なんて知ったこっちゃねえよ」
ぬるい友情も、無駄な努力も、小狡い勝利も必要ない。
オレの目的は世界を変える幻想を手に入れることだ。
そして、それはもう叶ったと思っていた。
それすら幻想だったなんて信じたくない。
だから、そのためにはもう一度あそこに行く必要がある。
(それにしても、この街は嫌いじゃ。道行く民の笑顔が作り物のようで気味が悪い)
「お、はじめて意見が合ったな。オレもあの笑顔は嫌いだ、何にも考えてないみたいにへらへらしてて、生きてる! って力強さがねえ」
(いひひ、主なぞにそう言われるとはな)
結局のところ。
どんなに技術が発展しても人々は歩くのだ。
理路整然としすぎて逆にごちゃごちゃとしてしまった、上下左右、限りある空間の最効率のみを追求して作られたオレとアウラを取り巻く幾何学的灰色都市のレイライン高架下。
それを忌々しく見上げるオレはそこにいる。
夜にはあんなにもけばけばしく輝いていたネオンではなく。
空やビル群に映し出されるのは広告やヴァーチャルアイドルの宣伝に、そう、今も世界のどこかで繰り広げられている【イマジンコード】の実況や対戦結果を知らせるホログラムだ。
今の季節は、春に設定されている。だから、この気温は暖かくて心地よい。
太古の昔に形成された脆い成層圏なんて何千年も前に消滅した。
だから、今この地球を取り巻くのは、天候管理や有害物質の正常化も可能にした人工成層圏、天殻(アトモスフィール)だ。
つまり、この心地よさすら誰かの気まぐれな手の内で。
それを何とも思わず甘受してしまう。
行き交う人々はみんな和やかで、何の悩みもないように見える。
仕事はもはや生きるためじゃなくて自分のしたいこと、つまり趣味の延長だし。
気に入らないやつなんて即ブロックすればいいだけだから人間関係も良好。
食べる必要もないから、おなかも空いてないだろうし。
全ての行動にアーカイブが残るから時間を気にしなくてもいい。
日頃のほんの小さな鬱憤を晴らすために、ライブやショッピング、身体拡張へと繰り出す。
休日昼下がりの街並みなんてこんなもんだろう。
そこに至って、黒いパーカーのフードを目深に被り、陰鬱に俯くオレの姿は。
(あまりにも不相応な気しかしない、か。うむ、激しく同意じゃな)
「そんなところでオレの考えを先読みするんじゃあない」
とにかく、オレの居場所はここじゃない。
ずっとそう思ってる。
間違いだらけの舞台設定の上で、場違いな役割を演じている。
なんかそう思うのすら、ちょっとした気の迷いか厨二病だと片付けられてしまうのだろうけど。
「ま、ファンタジーよりはマシか」
元々学園モノなんてガラじゃねえし、そんなことやるつもりもねえ。キャラ文芸でもなけりゃ、ラブコメなんかじゃ断じてない。(まあ! そうなの!?)
それでも、オレのクソつまらねえ物語の舞台は、この街だ。
(わらわを従えてファンタジーじゃないと言い張るとは)
「お前なんかただの聖遺物だろうが」
あ、そういえば。
なんとなく気付いたけど。
太陽が出ている時間にここに来るのは初めてだ。
どんなに足掻いたって光があれば影もある。
そして、どんな眩しい光も届かない闇だって。
誰も誰かのことなんて気にしていない。
オレは人目を気にすることもなく、誰も足を踏み入れようとすら考えもしない暗闇にぬるりと融けていく。
だけど。
その異変は唐突に。
「………………あ、あれ……?」
(おやおや、おほほ、これはこれはどうしたものかのぉ)
「…………ない?」
そう。
あの薄汚れたジャンク屋の姿が影も形もなくなっている。はじめからそんなものなど存在していなかったかのように、ぽっかりと何もない空間が静かに佇んでいるだけだった。
空き地にすらなっていない。そこだけが路地裏の落書きだらけの塀の一部となっている。本当に一切の痕跡すら感じられない。
訳がわからない。
ただのケチでボロいだけのジャンク屋に一体何があった?
裏通りなんかをウロウロしているガラの悪そうなやつらですらも、その異変にすら気付いていないようだった。
いくら無関係で無関心だったとしても、
いつからだ? 魔剣の欠片を拝借してからそんなに経ってはいない。それが跡形もなくなるなんてあり得るか?
廃業? 夜逃げ?
それにしても、こんなにきれいさっぱり無くなるか?
そして、もし、そうじゃないのなら。
オレが追い求めているものが、オレの知らないもっとおぞましいもののような気がして、そして、その片鱗を垣間見たような気がして、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
オレなんかが触れてはいけなかったのではないか。
「……それでも、手掛かりはここしかない。とにかく何かないか探すか」
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