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2.BADSCHOOL
魔剣士は鬼退治を成せるのか
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「ルールは一対一、勝敗はどちらかの再起不能、それ以外はなんでも使用可能だ、そう、てめえの得意な小狡いペテンも使い放題だ」
「真正面から向き合ってるやつにペテンなんて意味ないだろ」
律儀に学校の上空に仮想フィールドを設置する辺り、普段の粗暴な態度からは想像できないけど、やはり育ちの良さが滲み出てしまうらしい。さすが、いいところのお坊ちゃんやで。知らんけど。
ここが、仮想フィールドか。
ナノマシンが集積して上空に作り出す【イマジンコード】専用のフィールド。
立つつもりなんてなかった場所なのに。
オレはオレの現実を変えられればそれで良かったのに。
それなのに。
「ファンタズム・セットアップ! 三明之剣、大通連、小通連、顕明連!」
アハルギの周囲に浮かぶ、巨大な三振りの大太刀。
アハルギの巨体よりさらに大きく。
それはまるで塔だ。
なんでこんなことになってんだろうな。
オレを断罪する、どう足掻いても災厄でしかない塔。
そんな聖遺物を見上げながら、ふとフィールドの周囲の観戦席に人が、いや、アバターがぞくぞくと増えているのに気付く。
そうか、上位ランカーの対戦だもんな。どこから聞き付けたのかギャラリーもたくさんいる。というか、授業はどうした、授業は!
その歓声がオレを見ていないことなんてはじめから知っている。完全にアウェーだ。
「おい、覚悟はできてんだろうな、ルジネ。今さら逃げるなんて無しだぜ?」
「お前こそこんな小物を叩き潰す情け容赦ない姿を世界中に中継する覚悟はできてるんだろうな」
「何言ってんだァ? 俺の二つ名は大餓、容赦しないのが俺の戦闘スタイルだ!」
「……あっそ」
うんざり吐息。ダメか。
広大なフィールドの両端での応酬はオレの完敗。
世界は変えられるかもしれないけど、それが自分に都合が良いようにはならないらしい。
“幻想籠手”にメグリにも協力してもらってありったけの魔力は貯蔵した。メグリ、いつになく必死だったな。
「ねえ、どうする? ワタシが代わろうか? それともおっぱいもむ?」
「なんでだよ、それだったら壁でも触ってる方がまだマシだ」
「何の癒しにもならないこの身体が恨めしい!」
「それに、オレが売られた決闘だ、そういうのはルール違反だろ」
「で、でも……」
がちゃり、今さらやる気出したのか“幻想籠手”が軽々しく鳴る。はは、お前がどう頑張ったってあれには勝てる気がしねえよ。
オレにはこの魔剣の魔力もある。けど。
(いひひ、さあさあ、主よ、わらわを存分に振るうてくりゃれ)
「……まあ、な」
これだけ高揚していて、それでもオレ自身の心臓の高鳴りは聞こえない。魔剣が刺さってる、当たり前だ。少しでも動いたら傷口が広がっちまう。
そうして。
『ランク7位、アハルギvsランク外、ルジネ、ゲームスタート!』
メグリの命運を賭けたタルいゲームが大歓声と共に始まる。
「攪乱魔法起動」
小物のオレにできるのは。
そう、不意打ちだ。それしかないだろ。真っ向勝負なんて無謀を通り越して自殺だ。
ナノマシンがアハルギの視界をジャミングする。よし、どんなやつだって身体換装しているならこの魔法は有効
「おいおいおいおい、小細工なんて通用しないって言ってたのはテメエじゃねえのかァ!」
眼球の制御を失い、不規則に揺れる視界の中でそれでもやつは不敵に哄笑する。
「物量バカが」悪態など簡単に掻き消され。
視界を一時的に奪ったことなんて関係なかった。
「大通連!」
右腕を振るい、宙に浮かぶあのバカみたいな大太刀をフィールドに叩き付ける、ただそれだけで十分だった。
攻撃範囲はフィールド全て。
大太刀の一本がフィールドに叩き付けられると、氷塊が爆ぜて瞬時に凍結する。
「ッ、防御魔法起動!」
籠手からオレの周囲にバリアが張られるがそんなのは一時しのぎにもならない。その衝撃に一瞬で砕け散る。
ギリギリでオレの周りだけが凍らなかっただけ。
急激に気温が下がる。突然の寒さで動きが鈍る。こんなとこまでリアルかよ。
(あはは! 三明之剣じゃと!? 妖刀とは久方ぶりじゃのう! あんな物まで召喚されるとは、ここは真にイカれた世界じゃ!)
「知らん知らん! そんなことよりこの状況を何とかしろ! ここは現代日本だぞ? 妖刀なんてそんなファンタジーあってたまるか!」
(ニホン? 日本! まあ、ここはあの忌々しい島国なのかしら! なあなあ、ムラマサはまだ健在で、トツカノツルギは神に至ったのかしら!?)
「……何言ってんだ!?」
(うふふ、何でもない、何でもないわ。ただな、ここがわらわの知ってる世界だったのが嬉しかったのじゃ)
軽やかで楽しげな笑みがナイフの剣身を伝ってオレの心臓を震わせる。身体の内側を直接揺さぶるそれが不快で仕方ない。
(それにしたって、この世界はずいぶんと変わってしまったのじゃな。幾千年も経つとまるで異世界に転生したような気分になるわ)
「異世界転生なんて今時流行らねえよ」
撹乱魔法はすぐに打ち消され、大太刀を従えたアハルギが突っ込んでくる。
「俺はずっと待ってたんだぞ、早くその聖遺物を使えよ!」
こんなに立て続けに無駄に魔力を消費するなんて。
やっぱり上位ランカーは伊達じゃない。
つーか、普通に殴り込んでくるだけで大分脅威的なんだが!
撹乱魔法を使いながら後退。
ほとんど反射的なバックステップが思った以上の跳躍で「うおッ」自分でも驚く。
この魔剣が心臓に刺さってる故の効果なのか、身体能力自体が上がっている気がする。
じくじくと傷口が膿んで鈍い痛みが全身に広がっていくような不快感。これが魔力が身体を駆け巡る、という感覚なのか。しゅ、しゅごい。
「ウオオオ! すごい力がみなぎってくる!」
なんだかこれだけで勝てる気がするぞ。すごい体術で攻撃をかわしながらアハルギの隙を突く!
「アウラ! これは一体……」
(知らん……何それ……。怖……)
「何なんだよ!」
「なあ、まだまだこんなもんじゃねぇだろ、無改造! 焼け死ぬんじゃねぇぞ、おら、小通連!」
大太刀の一振が無数に分身する。
ぐるりとフィールドを埋め尽くすそれらを絶望的に見上げる。「マジか……」
その一つ一つの刀身が真っ赤な雷と炎を纏いながら一斉に振り下ろされる。身体能力がどうこうの問題じゃない、どこに跳んだって躱せるわけがない。
(あんな図体のくせに魔法を使うとは魔術師みたいじゃな)
「お前が何言ってるかわからんが、ここには魔術師じゃないやつなんてほとんどいねえよ!」
魔剣の戯れ言に構っている余裕はない。こんなのがゲームだと? あんなの喰らったら普通に死ぬんじゃねぇの!?
(わらわを使ってはくれぬのか? このままでは主の好い人が慰みものになってしまうぞ?)
「う、うるせえ、ちょっと待ってろ」
バリアを全面に展開、なんとか丸焦げにはならなかったけど、それも時間の問題だ。全方位を炎熱と雷を帯びた大太刀が取り囲んでいる。丸焼きじゃなくてじっくりローストか?
(いひひ、わらわはあまり辛抱強くないぞ? 愛想が尽きたならその時は……おほほ)
コイツはただの魔剣だ、表情なんてあるはずもない。けど、もしコイツに表情があるとするなら、まるでヴァーチャルトラップに掛かったバグネズミを弄ぶようなゲスい笑顔をしてるに違いない。
あからさまな扇動だってわかってる。結局のところオレは小心者で、だからこそその挑発は実に有効的だった。
「小通連、あいつを焼き尽くせ!」
全方位、迫り狂う炎雷の大太刀。考えろ考えろ考えろ考えろ!
「ああ、クソッ! ファンタズム・セットアップ!」
無理だ! どう考えてもこの状況を打開できる気がしない。
こいつを引き抜くしかない。
死すら覚悟して胸の柄を握ると、冷たく高鳴る心臓の鼓動が直接右手に伝わる。それは悪寒に等しく。
オレの神経回路をずるずると侵食して、得体の知れない不気味な何かが身体中の血管をどろりと満たしていく。
そんな感覚。
気味が悪い。吐き気がする。
オレが一体何を解き放つのかわからない。
だけど。
それでも、オレはその忌々しい魔剣の名を叫ぶ。
「真正面から向き合ってるやつにペテンなんて意味ないだろ」
律儀に学校の上空に仮想フィールドを設置する辺り、普段の粗暴な態度からは想像できないけど、やはり育ちの良さが滲み出てしまうらしい。さすが、いいところのお坊ちゃんやで。知らんけど。
ここが、仮想フィールドか。
ナノマシンが集積して上空に作り出す【イマジンコード】専用のフィールド。
立つつもりなんてなかった場所なのに。
オレはオレの現実を変えられればそれで良かったのに。
それなのに。
「ファンタズム・セットアップ! 三明之剣、大通連、小通連、顕明連!」
アハルギの周囲に浮かぶ、巨大な三振りの大太刀。
アハルギの巨体よりさらに大きく。
それはまるで塔だ。
なんでこんなことになってんだろうな。
オレを断罪する、どう足掻いても災厄でしかない塔。
そんな聖遺物を見上げながら、ふとフィールドの周囲の観戦席に人が、いや、アバターがぞくぞくと増えているのに気付く。
そうか、上位ランカーの対戦だもんな。どこから聞き付けたのかギャラリーもたくさんいる。というか、授業はどうした、授業は!
その歓声がオレを見ていないことなんてはじめから知っている。完全にアウェーだ。
「おい、覚悟はできてんだろうな、ルジネ。今さら逃げるなんて無しだぜ?」
「お前こそこんな小物を叩き潰す情け容赦ない姿を世界中に中継する覚悟はできてるんだろうな」
「何言ってんだァ? 俺の二つ名は大餓、容赦しないのが俺の戦闘スタイルだ!」
「……あっそ」
うんざり吐息。ダメか。
広大なフィールドの両端での応酬はオレの完敗。
世界は変えられるかもしれないけど、それが自分に都合が良いようにはならないらしい。
“幻想籠手”にメグリにも協力してもらってありったけの魔力は貯蔵した。メグリ、いつになく必死だったな。
「ねえ、どうする? ワタシが代わろうか? それともおっぱいもむ?」
「なんでだよ、それだったら壁でも触ってる方がまだマシだ」
「何の癒しにもならないこの身体が恨めしい!」
「それに、オレが売られた決闘だ、そういうのはルール違反だろ」
「で、でも……」
がちゃり、今さらやる気出したのか“幻想籠手”が軽々しく鳴る。はは、お前がどう頑張ったってあれには勝てる気がしねえよ。
オレにはこの魔剣の魔力もある。けど。
(いひひ、さあさあ、主よ、わらわを存分に振るうてくりゃれ)
「……まあ、な」
これだけ高揚していて、それでもオレ自身の心臓の高鳴りは聞こえない。魔剣が刺さってる、当たり前だ。少しでも動いたら傷口が広がっちまう。
そうして。
『ランク7位、アハルギvsランク外、ルジネ、ゲームスタート!』
メグリの命運を賭けたタルいゲームが大歓声と共に始まる。
「攪乱魔法起動」
小物のオレにできるのは。
そう、不意打ちだ。それしかないだろ。真っ向勝負なんて無謀を通り越して自殺だ。
ナノマシンがアハルギの視界をジャミングする。よし、どんなやつだって身体換装しているならこの魔法は有効
「おいおいおいおい、小細工なんて通用しないって言ってたのはテメエじゃねえのかァ!」
眼球の制御を失い、不規則に揺れる視界の中でそれでもやつは不敵に哄笑する。
「物量バカが」悪態など簡単に掻き消され。
視界を一時的に奪ったことなんて関係なかった。
「大通連!」
右腕を振るい、宙に浮かぶあのバカみたいな大太刀をフィールドに叩き付ける、ただそれだけで十分だった。
攻撃範囲はフィールド全て。
大太刀の一本がフィールドに叩き付けられると、氷塊が爆ぜて瞬時に凍結する。
「ッ、防御魔法起動!」
籠手からオレの周囲にバリアが張られるがそんなのは一時しのぎにもならない。その衝撃に一瞬で砕け散る。
ギリギリでオレの周りだけが凍らなかっただけ。
急激に気温が下がる。突然の寒さで動きが鈍る。こんなとこまでリアルかよ。
(あはは! 三明之剣じゃと!? 妖刀とは久方ぶりじゃのう! あんな物まで召喚されるとは、ここは真にイカれた世界じゃ!)
「知らん知らん! そんなことよりこの状況を何とかしろ! ここは現代日本だぞ? 妖刀なんてそんなファンタジーあってたまるか!」
(ニホン? 日本! まあ、ここはあの忌々しい島国なのかしら! なあなあ、ムラマサはまだ健在で、トツカノツルギは神に至ったのかしら!?)
「……何言ってんだ!?」
(うふふ、何でもない、何でもないわ。ただな、ここがわらわの知ってる世界だったのが嬉しかったのじゃ)
軽やかで楽しげな笑みがナイフの剣身を伝ってオレの心臓を震わせる。身体の内側を直接揺さぶるそれが不快で仕方ない。
(それにしたって、この世界はずいぶんと変わってしまったのじゃな。幾千年も経つとまるで異世界に転生したような気分になるわ)
「異世界転生なんて今時流行らねえよ」
撹乱魔法はすぐに打ち消され、大太刀を従えたアハルギが突っ込んでくる。
「俺はずっと待ってたんだぞ、早くその聖遺物を使えよ!」
こんなに立て続けに無駄に魔力を消費するなんて。
やっぱり上位ランカーは伊達じゃない。
つーか、普通に殴り込んでくるだけで大分脅威的なんだが!
撹乱魔法を使いながら後退。
ほとんど反射的なバックステップが思った以上の跳躍で「うおッ」自分でも驚く。
この魔剣が心臓に刺さってる故の効果なのか、身体能力自体が上がっている気がする。
じくじくと傷口が膿んで鈍い痛みが全身に広がっていくような不快感。これが魔力が身体を駆け巡る、という感覚なのか。しゅ、しゅごい。
「ウオオオ! すごい力がみなぎってくる!」
なんだかこれだけで勝てる気がするぞ。すごい体術で攻撃をかわしながらアハルギの隙を突く!
「アウラ! これは一体……」
(知らん……何それ……。怖……)
「何なんだよ!」
「なあ、まだまだこんなもんじゃねぇだろ、無改造! 焼け死ぬんじゃねぇぞ、おら、小通連!」
大太刀の一振が無数に分身する。
ぐるりとフィールドを埋め尽くすそれらを絶望的に見上げる。「マジか……」
その一つ一つの刀身が真っ赤な雷と炎を纏いながら一斉に振り下ろされる。身体能力がどうこうの問題じゃない、どこに跳んだって躱せるわけがない。
(あんな図体のくせに魔法を使うとは魔術師みたいじゃな)
「お前が何言ってるかわからんが、ここには魔術師じゃないやつなんてほとんどいねえよ!」
魔剣の戯れ言に構っている余裕はない。こんなのがゲームだと? あんなの喰らったら普通に死ぬんじゃねぇの!?
(わらわを使ってはくれぬのか? このままでは主の好い人が慰みものになってしまうぞ?)
「う、うるせえ、ちょっと待ってろ」
バリアを全面に展開、なんとか丸焦げにはならなかったけど、それも時間の問題だ。全方位を炎熱と雷を帯びた大太刀が取り囲んでいる。丸焼きじゃなくてじっくりローストか?
(いひひ、わらわはあまり辛抱強くないぞ? 愛想が尽きたならその時は……おほほ)
コイツはただの魔剣だ、表情なんてあるはずもない。けど、もしコイツに表情があるとするなら、まるでヴァーチャルトラップに掛かったバグネズミを弄ぶようなゲスい笑顔をしてるに違いない。
あからさまな扇動だってわかってる。結局のところオレは小心者で、だからこそその挑発は実に有効的だった。
「小通連、あいつを焼き尽くせ!」
全方位、迫り狂う炎雷の大太刀。考えろ考えろ考えろ考えろ!
「ああ、クソッ! ファンタズム・セットアップ!」
無理だ! どう考えてもこの状況を打開できる気がしない。
こいつを引き抜くしかない。
死すら覚悟して胸の柄を握ると、冷たく高鳴る心臓の鼓動が直接右手に伝わる。それは悪寒に等しく。
オレの神経回路をずるずると侵食して、得体の知れない不気味な何かが身体中の血管をどろりと満たしていく。
そんな感覚。
気味が悪い。吐き気がする。
オレが一体何を解き放つのかわからない。
だけど。
それでも、オレはその忌々しい魔剣の名を叫ぶ。
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