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もしかして:寄り道:査察……?
得難い物を得られる場所、それこそが、ダンジョン
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「あ」
なんだかサクリエルのキモさに既視感があると思っていたが、ようやく思い出したぞ。
こやつはいつだか、グロリアが勇者と出会ったときにフォカヌポッたときのあの気持ち悪い話し方と似ているのだ。キモオタが極まるとこやつのようなキモい話し方に収束していくのか? 本当に気持ち悪い。
「それにしても、このダンジョンは貴様のキモさとは裏腹によくできておる」
「ありがたきお言葉でござる、うっひひ」
深々と頭を下げるサクリエル。褒められることに慣れていない、というより、そもそも他人との会話が久しぶりであるようだ。距離感が掴めなくてさっきから物理的にも心理的にもずっと遠くに感じる。いつまで部屋の隅にいる気だ、こやつは。
「幸いにも、この砂漠のど真ん中のダンジョンなんて誰も入りたがらないでござるからな、ちょうど良かったのでござるよ。小生、働きたくないでござる」
こやつのことだ、誰もクリアできないダンジョンならば誰も挑戦しないから働かなくてもすむ、そう考えたのだろう。頭いい系バカって本当にいるんだな。
「働きたくなさすぎて、入るたびに毎回構造が変わるダンジョン自動生成魔法を独学で編み出したのか」
「は、はい、相談できる友達いないし百年くらいかかりましたでござる」
「アホなのか天才なのかわからぬな」
「ちなみに魔法の名は、〝風来の」
「やめろ、馬鹿」
まあ、そりゃあ簡単には攻略されない方がいいに越したことはないが、あまりにもハードでルナティックなモードでは誰も挑まぬではないか。誰の悲鳴も死体もないダンジョンなど、そんなのはつまらぬ。阿鼻叫喚、大量虐殺、絶望招来、そういうエンターテイメンツがなければ、そこにダンジョンが存在する意味がないのだ。
もしかしたらクリアできる? そして、クリアできたら物凄いお宝が手に入る? それとも美少女にモテまくるスキル? ラストに待ち構えているのは凶悪な魔物? いや、絶世の美女? ダンジョンというのはそう思わせてナンボやろがい。バカな男子の冒険心を煽らずして何がダンジョンじゃい。
それをこやつはまあ、なんとも自堕落なものに改悪しやがって。
働きもせず、部屋もくせえ、女子力も皆無、そして、ステラと共謀していたこの堕天使もとい駄天使を、最低評価で追い出すことはいとも容易いが、こやつのよくわからぬ謎の才能を摘んでしまうのはいささか惜しい気もする。
どうすべきか。
あ、そうだ。
「貴様は魔界でマッドサイエンティストどもと暗黒魔法の研究開発に勤しむがよい!」
「働きたくないでござる。働いたら負けだと古の武士も申しておりまする」
「貴様は間違っても武士ではない。労働こそ喜びだ、貴様の意見は聞かぬ」
「そ、そんなぁ~。あ、そ、それじゃあこのダンジョンはどうするでござるかぁ~」
必死の抵抗を試みるサクリエルだが、久方ぶりの発声でもうすでに喉がガラガラしている。たまにはちゃんと会話しなきゃダメだな、こやつみたいにキモくなってしまう。
しかし、こやつの言い分にも一理あるような気がしないでもない。
このダンジョンは、砂漠地帯を支配するためにも絶対に放棄してはならぬ要衝だ。いずれはここからさらに領地を拡大することも可能だろうし。
「そうだな、あ、ここはこやつに任せる!」
「あ、あえ? わたしですか?」
「完全に、あ、って言ってたでござるな。思い付きで小生のサンクチュアリを渡してなるものか!」
血の涙でも流さんとばかりにギンッと目を見開いてサクリエルが我に詰め寄ろうとするが、「ぷげッ」ビンタ一発、理不尽だろうがなんだろうがとりあえず黙らす。「え? ……え?」頬を抑えながら、何が起きたかわかっていない眼差しでこちらをじっと見つめるサクリエルだが、こやつのことは面倒だし一旦置いておこう。
「名無し、貴様はもはやリッチとなったのだ、ここを治めるのには十分な力を持っている」
「激しく同意でござる、名無し氏はクソつよ激カワリッチでござる」
うんうん、となんか後方腕組み彼氏面の完全に無関係なこやつに太鼓判を押されても嬉しくもなんともない。名無しもキョトンとしている。ただの人間のファイターだと思っていたのに、いつの間にか強力なリッチになっていた、なんて理解が追い付かないのも無理はないか。
「貴様はもう思い出したのだろう? 仲間に騙され裏切られてここで独り野垂れ死んだのだと」
「ッ……!」
その表情から察するに図星だろう。
始めからそんなことだろうとは思っていた。仲間もいない、まともな装備もない、アイテムを使った形跡もない。名無しは、そんな丸腰でダンジョンに挑むようには愚か者にはとても見えない。
一歩足を踏み入れれば構造が変わって決して出られぬダンジョンだ、どうせ、先陣を切ってくれ、俺達は後から行く、とかなんとか言われたのだろう。そうして、仲間だと思っていたやつはこやつを残して帰ってしまった。まあ、大体そんな感じだろう。
「そ、そんなこと……」
「ならば、どうしてあんな序盤の階層で死んでいたのだ? 貴様は律儀に仲間を待っていたのではないか?」
追放系の実に胸糞悪い方のヤツだ。面白がって騙した方は悠々と生き延び、名無しのような正直者だけが哀れで愚かな犠牲者となって救われない。だから、追放系は嫌いなのだ、見る目のないヤツも、あっさり追放されたヤツも、そして、ざまあと見返す性根の腐ったようなヤツも、どいつもこいつも救いようがないクズばかりで大嫌いだ。
そして、こやつのような、最低最悪な腐れ外道を、仲間だと信じてしまうような大馬鹿者も、だ。
「幸いここはダンジョンマスターの好きなように改造することが出来る」
そう、このダンジョン全体に掛かっているサクリエルの魔法は、このダンジョンを自由に改造できる、というとんでもないものだ。それはつまり、この砂漠一帯をダンジョンにしてしまうことすら可能だということだ。
「我が見つけたとき貴様はすでに白骨化していた。もうかつての仲間も寿命で死んだだろう」
クソみたいなヤツはのうのうと生き、名無しのような誠実な者が誰にも看取られることなく野垂れ死ぬ。そんな理不尽この上ない世界が我は嫌だったのだ。だからこそ我は……
「だが、貴様の恨みは、未練は、悔しさはこの程度で和らぐようなものでもなかろう」
「で、でも、わたし……」
「貴様を裏切ったやつらと同類の冒険者どもをこのダンジョンで殺し、貴様の復讐を晴らすこともできるのだ。どうだ、やってみぬか?」
名無しは俯いてしばらく考えているようだった。無理もない、裏切られて、野垂れ死に、いきなり生き返ったと思ったらダンジョンマスターになれとか、なろうでも中々お目に掛かれない急展開だろう。掲載されてたらそっとブラウザバックレベルのトンデモ設定だ。
だが、名無しはゆっくりと顔を上げる。その表情は決意に固く結ばれていて、そう、答えを聞くまでもなかった。
「や、やります。わたしは」
名無しの一度死んだその目はすでに光を失っていたが、その復讐に燃える意思こそは強く光り輝いていた。そう、リッチを強くするのは怨念だ、生前の強い恨みこそ彼女の原動力となる。
我は大きく頷く。
彼女は強い。リッチだからとか魔力が高いとか格闘術が優れているとかそういうことじゃない。違う、そうじゃない。
死すらも超越したその崇高なる精神こそ、名無しの真髄だ。
それこそが、彼女の強さに他ならないのだ。
「そうだ、キミの名前を我に教えてはくれぬか」
記憶を取り戻した、ということは、こやつの名前もすでに思い出しているはずだ。
だが、名無しは何かを言いかけて、それから、少し躊躇ってぱたりと口を噤んでしまった。
「……あの時のわたしはもう死んだんです。ヘラ様がわたしの名前を付けてください、わたしは今日生まれたんですから」
「いや、なんかエモい! やだ、ちょ、ちょっと待って、これがいわゆるてぇてぇ……ってこと!?」
「貴様は黙っとれ、サクリエル」
この薄汚れた狭い部屋で、名無しに新たな名を授けるとは思ってもみなかった。なんとなく場違いなような気がして、我はふっと少しだけ笑んでしまう。
「――そうだな、君の名は」
なんだかサクリエルのキモさに既視感があると思っていたが、ようやく思い出したぞ。
こやつはいつだか、グロリアが勇者と出会ったときにフォカヌポッたときのあの気持ち悪い話し方と似ているのだ。キモオタが極まるとこやつのようなキモい話し方に収束していくのか? 本当に気持ち悪い。
「それにしても、このダンジョンは貴様のキモさとは裏腹によくできておる」
「ありがたきお言葉でござる、うっひひ」
深々と頭を下げるサクリエル。褒められることに慣れていない、というより、そもそも他人との会話が久しぶりであるようだ。距離感が掴めなくてさっきから物理的にも心理的にもずっと遠くに感じる。いつまで部屋の隅にいる気だ、こやつは。
「幸いにも、この砂漠のど真ん中のダンジョンなんて誰も入りたがらないでござるからな、ちょうど良かったのでござるよ。小生、働きたくないでござる」
こやつのことだ、誰もクリアできないダンジョンならば誰も挑戦しないから働かなくてもすむ、そう考えたのだろう。頭いい系バカって本当にいるんだな。
「働きたくなさすぎて、入るたびに毎回構造が変わるダンジョン自動生成魔法を独学で編み出したのか」
「は、はい、相談できる友達いないし百年くらいかかりましたでござる」
「アホなのか天才なのかわからぬな」
「ちなみに魔法の名は、〝風来の」
「やめろ、馬鹿」
まあ、そりゃあ簡単には攻略されない方がいいに越したことはないが、あまりにもハードでルナティックなモードでは誰も挑まぬではないか。誰の悲鳴も死体もないダンジョンなど、そんなのはつまらぬ。阿鼻叫喚、大量虐殺、絶望招来、そういうエンターテイメンツがなければ、そこにダンジョンが存在する意味がないのだ。
もしかしたらクリアできる? そして、クリアできたら物凄いお宝が手に入る? それとも美少女にモテまくるスキル? ラストに待ち構えているのは凶悪な魔物? いや、絶世の美女? ダンジョンというのはそう思わせてナンボやろがい。バカな男子の冒険心を煽らずして何がダンジョンじゃい。
それをこやつはまあ、なんとも自堕落なものに改悪しやがって。
働きもせず、部屋もくせえ、女子力も皆無、そして、ステラと共謀していたこの堕天使もとい駄天使を、最低評価で追い出すことはいとも容易いが、こやつのよくわからぬ謎の才能を摘んでしまうのはいささか惜しい気もする。
どうすべきか。
あ、そうだ。
「貴様は魔界でマッドサイエンティストどもと暗黒魔法の研究開発に勤しむがよい!」
「働きたくないでござる。働いたら負けだと古の武士も申しておりまする」
「貴様は間違っても武士ではない。労働こそ喜びだ、貴様の意見は聞かぬ」
「そ、そんなぁ~。あ、そ、それじゃあこのダンジョンはどうするでござるかぁ~」
必死の抵抗を試みるサクリエルだが、久方ぶりの発声でもうすでに喉がガラガラしている。たまにはちゃんと会話しなきゃダメだな、こやつみたいにキモくなってしまう。
しかし、こやつの言い分にも一理あるような気がしないでもない。
このダンジョンは、砂漠地帯を支配するためにも絶対に放棄してはならぬ要衝だ。いずれはここからさらに領地を拡大することも可能だろうし。
「そうだな、あ、ここはこやつに任せる!」
「あ、あえ? わたしですか?」
「完全に、あ、って言ってたでござるな。思い付きで小生のサンクチュアリを渡してなるものか!」
血の涙でも流さんとばかりにギンッと目を見開いてサクリエルが我に詰め寄ろうとするが、「ぷげッ」ビンタ一発、理不尽だろうがなんだろうがとりあえず黙らす。「え? ……え?」頬を抑えながら、何が起きたかわかっていない眼差しでこちらをじっと見つめるサクリエルだが、こやつのことは面倒だし一旦置いておこう。
「名無し、貴様はもはやリッチとなったのだ、ここを治めるのには十分な力を持っている」
「激しく同意でござる、名無し氏はクソつよ激カワリッチでござる」
うんうん、となんか後方腕組み彼氏面の完全に無関係なこやつに太鼓判を押されても嬉しくもなんともない。名無しもキョトンとしている。ただの人間のファイターだと思っていたのに、いつの間にか強力なリッチになっていた、なんて理解が追い付かないのも無理はないか。
「貴様はもう思い出したのだろう? 仲間に騙され裏切られてここで独り野垂れ死んだのだと」
「ッ……!」
その表情から察するに図星だろう。
始めからそんなことだろうとは思っていた。仲間もいない、まともな装備もない、アイテムを使った形跡もない。名無しは、そんな丸腰でダンジョンに挑むようには愚か者にはとても見えない。
一歩足を踏み入れれば構造が変わって決して出られぬダンジョンだ、どうせ、先陣を切ってくれ、俺達は後から行く、とかなんとか言われたのだろう。そうして、仲間だと思っていたやつはこやつを残して帰ってしまった。まあ、大体そんな感じだろう。
「そ、そんなこと……」
「ならば、どうしてあんな序盤の階層で死んでいたのだ? 貴様は律儀に仲間を待っていたのではないか?」
追放系の実に胸糞悪い方のヤツだ。面白がって騙した方は悠々と生き延び、名無しのような正直者だけが哀れで愚かな犠牲者となって救われない。だから、追放系は嫌いなのだ、見る目のないヤツも、あっさり追放されたヤツも、そして、ざまあと見返す性根の腐ったようなヤツも、どいつもこいつも救いようがないクズばかりで大嫌いだ。
そして、こやつのような、最低最悪な腐れ外道を、仲間だと信じてしまうような大馬鹿者も、だ。
「幸いここはダンジョンマスターの好きなように改造することが出来る」
そう、このダンジョン全体に掛かっているサクリエルの魔法は、このダンジョンを自由に改造できる、というとんでもないものだ。それはつまり、この砂漠一帯をダンジョンにしてしまうことすら可能だということだ。
「我が見つけたとき貴様はすでに白骨化していた。もうかつての仲間も寿命で死んだだろう」
クソみたいなヤツはのうのうと生き、名無しのような誠実な者が誰にも看取られることなく野垂れ死ぬ。そんな理不尽この上ない世界が我は嫌だったのだ。だからこそ我は……
「だが、貴様の恨みは、未練は、悔しさはこの程度で和らぐようなものでもなかろう」
「で、でも、わたし……」
「貴様を裏切ったやつらと同類の冒険者どもをこのダンジョンで殺し、貴様の復讐を晴らすこともできるのだ。どうだ、やってみぬか?」
名無しは俯いてしばらく考えているようだった。無理もない、裏切られて、野垂れ死に、いきなり生き返ったと思ったらダンジョンマスターになれとか、なろうでも中々お目に掛かれない急展開だろう。掲載されてたらそっとブラウザバックレベルのトンデモ設定だ。
だが、名無しはゆっくりと顔を上げる。その表情は決意に固く結ばれていて、そう、答えを聞くまでもなかった。
「や、やります。わたしは」
名無しの一度死んだその目はすでに光を失っていたが、その復讐に燃える意思こそは強く光り輝いていた。そう、リッチを強くするのは怨念だ、生前の強い恨みこそ彼女の原動力となる。
我は大きく頷く。
彼女は強い。リッチだからとか魔力が高いとか格闘術が優れているとかそういうことじゃない。違う、そうじゃない。
死すらも超越したその崇高なる精神こそ、名無しの真髄だ。
それこそが、彼女の強さに他ならないのだ。
「そうだ、キミの名前を我に教えてはくれぬか」
記憶を取り戻した、ということは、こやつの名前もすでに思い出しているはずだ。
だが、名無しは何かを言いかけて、それから、少し躊躇ってぱたりと口を噤んでしまった。
「……あの時のわたしはもう死んだんです。ヘラ様がわたしの名前を付けてください、わたしは今日生まれたんですから」
「いや、なんかエモい! やだ、ちょ、ちょっと待って、これがいわゆるてぇてぇ……ってこと!?」
「貴様は黙っとれ、サクリエル」
この薄汚れた狭い部屋で、名無しに新たな名を授けるとは思ってもみなかった。なんとなく場違いなような気がして、我はふっと少しだけ笑んでしまう。
「――そうだな、君の名は」
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