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番外編:聖都壊滅大作戦
娘、錯綜中。
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「お父様!」
「んぁえ?」
その興奮気味で甲高い声の主は我の姿を見つけるや否や、まるで飛び掛かるかのような熱烈な抱擁。振り向きざまの奇襲にその身体を支えきれずに共に倒れ込んでしまう。
「お会いしたかったですわ、お父様!」
「ステラ!? どうしてこんなところにうおッ!?」
倒れたまま見上げたステラは、ほとんど下着みたいな黒革の衣装、それに有角の頭骨や牙を組み合わせた大仰な黒いマントを羽織っている。え、何それかっこいい。
黒髪をくるりんッと巻いたツインテールには、金髪の差し色が入っていてシャーリイの光の力が強くなっているのを示していた。うむ、やはり、ステラは最強の魔王だ。超至近距離にあるステラの紅蓮の瞳が爛々と輝いているのがいささか不穏ではあるが。
「ね、ねえ、そろそろ離れない? ねえ、なんで我の両手抑えてるの?」
「あら、お父様、これは久しぶりに再会した親子の触れ合いですわ。もう少しくんずほぐれず乳繰り合いましょうよ?」
「後半が大分アウトだ、それはもう親子の関係性ではないんだよなあ」
不満げなステラを無理やり引きはがして少し距離を取る。オフィーリアとグロリアの生温かい眼差しがなんか腹立つ。ねえ、なんで助けてくれないのかな?「猫みたいに警戒している、そんなお父様もカワイイですわ」「もう何やってもダメだ、早くなんとかしないと」
じりじりとにじり寄ってくるステラから、ずりずりと距離を取りながら、互いに何かの構えをしたまま睨み合う。これがいわゆる達人同士の距離感というやつである。何の達人なのかはご想像にお任せする。
「ステラ、魔王としての責務はどうした。キミには勇者を待ち構える、というクソつまr……重要な仕事があるはずだ」
「そんなことより、お父様、大変なことが起きているのですわ!」
「今まさに大変なことが起きそうになっていたぞ」
……あれ、今、そんなことより、って言ってなかった? 魔王としての職務を放り出してまでやって来るほど大事なこととは?
何千年も頑張ってきたことをこんなにもあっさり放り投げられて、我がちょっとしゅんとしているのなんてステラは全く気にしちゃいない。それよりも負けられない戦いがステラにはあるらしかった。
「サブカルの聖都、アーキハ・バ」
「それ以上はいい、そこがどうした?」
「は、はい、そこが神の軍勢によって滅ぼされそうになっているのですわ! あそこはワタシの心の聖地、絶対に死守しなければなりませんわ!」
あの享楽と堕落にまみれたヒョロガリメガネとキモデブがコスプレ性悪痴女に搾取され続ける狂乱の街か。ステラ、あんな所を聖地だと崇めるのはやめといた方がいい、ロクな場所じゃなかったぞ。
ちょっと前に女神が言ってたやつだ、いよいよあの街を滅ぼすことにしたのだな。
しかしまあ、あのおとぼけ女神をこんなにも怒らせるとは、一体転生者は何をやらかしたのだ? マジで転生者とは何なのだ?
「我が魔王軍の総力を聖都に結集させ、神による邪智暴虐をなんとしても止めなければいけませんわ」
ちょ、そんな大事にするの!? あと、どの口がそれ言う? 自分で言うのもなんとなく釈然とはせぬが、どちらかというとこの世界を司る神の意思に逆らい続ける我ら魔族の方こそが、この世全ての悪なんだよなあ。
我としてはあの街は滅んでもいいと思うのだが。あの神にもそう言ったし。
ん? 待てよ?
この場合、我はどちらの味方になればいい?
我はサブカルを滅ぼしたい。そのためにはあの憎き神に与する方がいい。
だが、魔王として君臨しているステラは我が娘で、我は先代魔王だ。我が神に手を貸す、というのはどう考えても到底許されない。誰があのお調子者に手なぞ貸すものか。
「ふむ、如何とすべきか」
「どうしたのですか、お父様? もしかして、ワタシに身を委ねる気になったのですか?」
「そんなわけなかろう」
「ふふ、そうですわよね、ワタシはあっさり陥落するようなNTRはちょっと違うと思いますもの」
「なんの話?」
錯綜するステラのことは一旦置いといて。
つまり、我は両陣営とも上手いこと立ち回らなければならない、ということだ。しかも、どちらにも我の意図を掴ませず、そして、あわよくばサブカルもこの世界から滅ぼす。
魔王軍を勝たせつつ聖都を破壊する。ついでに神や転生者も倒す。
これができるのはやはり天才的なずのーを持つ我だけか。
二つの強大な勢力、いや、もしかしたら聖都を作ったイカれた転生者共も参戦するかもしれぬから、これはつまり、三國志なのでは? だから、そんなタイトルの小ネタをこんなふうに壮大に天丼しないでくれるかな?
ということは。
いわゆる、二重スパイ、ということか。なるほど、なんとなく、その響きは心にきゅんッとくるものがあるな。我、がんばるます!
「お父様のNTRは置いておいて、」
「この先ずっと置いといてもろて」
「魔王であるワタシが直接軍勢を指揮し、確実な勝利をこの手で掴み取ってやりますわ。そして、あわよくば聖都を観光しよげふんげふん、とにかく、これは魔王軍にとってとても重要な戦いなのですわ!」
「ほとんど言ってたぞ」
やはり、サブカルは悪い文明、滅ぼさねばならぬ。このままステラが転生者と親交を深めてしまったら、下衆な転生者の毒牙に掛かってしまう。転生モノ、ダメ、絶対!
「というわけで、この戦いは総力戦。査察を楽しんでおられるところ大変申し訳ありませんが、お父様には一時的に魔王直属独立遊撃部隊としてワタシの指揮下に入ってくださいませ」
「うむ、まあ、ここまで巻き込まれてしまったのなら致し方なかろう」
我はすでに引退した身、本来であればこのような大規模作戦に出しゃばるような身分でもないのだがな。思わず苦笑、それもこれもステラのため、ひいては魔界のためだということならば喜んで我が力を使おうぞ。さて、黄金銃はどこにしまったかな?
「部隊のメンバーは我とこやつらで良いのか?」
「ええ、お父様達は、少数精鋭として独自に動いて敵を攪乱しながら各個撃破してください」
「わかった!」
「返事が元気ですわね、幼女みたいで可愛いですわ」
つまり、我は結構自由に動ける。オフィーリアとグロリアの目があるために表立っての行動は取れないが、ステラに怪しまれないように何かすることはできそうだ。父としてカッコよくスパイ活動に勤しまなければならぬな。
かなり予想外の事態だが、これは楽しくなりそうだ。
「んぁえ?」
その興奮気味で甲高い声の主は我の姿を見つけるや否や、まるで飛び掛かるかのような熱烈な抱擁。振り向きざまの奇襲にその身体を支えきれずに共に倒れ込んでしまう。
「お会いしたかったですわ、お父様!」
「ステラ!? どうしてこんなところにうおッ!?」
倒れたまま見上げたステラは、ほとんど下着みたいな黒革の衣装、それに有角の頭骨や牙を組み合わせた大仰な黒いマントを羽織っている。え、何それかっこいい。
黒髪をくるりんッと巻いたツインテールには、金髪の差し色が入っていてシャーリイの光の力が強くなっているのを示していた。うむ、やはり、ステラは最強の魔王だ。超至近距離にあるステラの紅蓮の瞳が爛々と輝いているのがいささか不穏ではあるが。
「ね、ねえ、そろそろ離れない? ねえ、なんで我の両手抑えてるの?」
「あら、お父様、これは久しぶりに再会した親子の触れ合いですわ。もう少しくんずほぐれず乳繰り合いましょうよ?」
「後半が大分アウトだ、それはもう親子の関係性ではないんだよなあ」
不満げなステラを無理やり引きはがして少し距離を取る。オフィーリアとグロリアの生温かい眼差しがなんか腹立つ。ねえ、なんで助けてくれないのかな?「猫みたいに警戒している、そんなお父様もカワイイですわ」「もう何やってもダメだ、早くなんとかしないと」
じりじりとにじり寄ってくるステラから、ずりずりと距離を取りながら、互いに何かの構えをしたまま睨み合う。これがいわゆる達人同士の距離感というやつである。何の達人なのかはご想像にお任せする。
「ステラ、魔王としての責務はどうした。キミには勇者を待ち構える、というクソつまr……重要な仕事があるはずだ」
「そんなことより、お父様、大変なことが起きているのですわ!」
「今まさに大変なことが起きそうになっていたぞ」
……あれ、今、そんなことより、って言ってなかった? 魔王としての職務を放り出してまでやって来るほど大事なこととは?
何千年も頑張ってきたことをこんなにもあっさり放り投げられて、我がちょっとしゅんとしているのなんてステラは全く気にしちゃいない。それよりも負けられない戦いがステラにはあるらしかった。
「サブカルの聖都、アーキハ・バ」
「それ以上はいい、そこがどうした?」
「は、はい、そこが神の軍勢によって滅ぼされそうになっているのですわ! あそこはワタシの心の聖地、絶対に死守しなければなりませんわ!」
あの享楽と堕落にまみれたヒョロガリメガネとキモデブがコスプレ性悪痴女に搾取され続ける狂乱の街か。ステラ、あんな所を聖地だと崇めるのはやめといた方がいい、ロクな場所じゃなかったぞ。
ちょっと前に女神が言ってたやつだ、いよいよあの街を滅ぼすことにしたのだな。
しかしまあ、あのおとぼけ女神をこんなにも怒らせるとは、一体転生者は何をやらかしたのだ? マジで転生者とは何なのだ?
「我が魔王軍の総力を聖都に結集させ、神による邪智暴虐をなんとしても止めなければいけませんわ」
ちょ、そんな大事にするの!? あと、どの口がそれ言う? 自分で言うのもなんとなく釈然とはせぬが、どちらかというとこの世界を司る神の意思に逆らい続ける我ら魔族の方こそが、この世全ての悪なんだよなあ。
我としてはあの街は滅んでもいいと思うのだが。あの神にもそう言ったし。
ん? 待てよ?
この場合、我はどちらの味方になればいい?
我はサブカルを滅ぼしたい。そのためにはあの憎き神に与する方がいい。
だが、魔王として君臨しているステラは我が娘で、我は先代魔王だ。我が神に手を貸す、というのはどう考えても到底許されない。誰があのお調子者に手なぞ貸すものか。
「ふむ、如何とすべきか」
「どうしたのですか、お父様? もしかして、ワタシに身を委ねる気になったのですか?」
「そんなわけなかろう」
「ふふ、そうですわよね、ワタシはあっさり陥落するようなNTRはちょっと違うと思いますもの」
「なんの話?」
錯綜するステラのことは一旦置いといて。
つまり、我は両陣営とも上手いこと立ち回らなければならない、ということだ。しかも、どちらにも我の意図を掴ませず、そして、あわよくばサブカルもこの世界から滅ぼす。
魔王軍を勝たせつつ聖都を破壊する。ついでに神や転生者も倒す。
これができるのはやはり天才的なずのーを持つ我だけか。
二つの強大な勢力、いや、もしかしたら聖都を作ったイカれた転生者共も参戦するかもしれぬから、これはつまり、三國志なのでは? だから、そんなタイトルの小ネタをこんなふうに壮大に天丼しないでくれるかな?
ということは。
いわゆる、二重スパイ、ということか。なるほど、なんとなく、その響きは心にきゅんッとくるものがあるな。我、がんばるます!
「お父様のNTRは置いておいて、」
「この先ずっと置いといてもろて」
「魔王であるワタシが直接軍勢を指揮し、確実な勝利をこの手で掴み取ってやりますわ。そして、あわよくば聖都を観光しよげふんげふん、とにかく、これは魔王軍にとってとても重要な戦いなのですわ!」
「ほとんど言ってたぞ」
やはり、サブカルは悪い文明、滅ぼさねばならぬ。このままステラが転生者と親交を深めてしまったら、下衆な転生者の毒牙に掛かってしまう。転生モノ、ダメ、絶対!
「というわけで、この戦いは総力戦。査察を楽しんでおられるところ大変申し訳ありませんが、お父様には一時的に魔王直属独立遊撃部隊としてワタシの指揮下に入ってくださいませ」
「うむ、まあ、ここまで巻き込まれてしまったのなら致し方なかろう」
我はすでに引退した身、本来であればこのような大規模作戦に出しゃばるような身分でもないのだがな。思わず苦笑、それもこれもステラのため、ひいては魔界のためだということならば喜んで我が力を使おうぞ。さて、黄金銃はどこにしまったかな?
「部隊のメンバーは我とこやつらで良いのか?」
「ええ、お父様達は、少数精鋭として独自に動いて敵を攪乱しながら各個撃破してください」
「わかった!」
「返事が元気ですわね、幼女みたいで可愛いですわ」
つまり、我は結構自由に動ける。オフィーリアとグロリアの目があるために表立っての行動は取れないが、ステラに怪しまれないように何かすることはできそうだ。父としてカッコよくスパイ活動に勤しまなければならぬな。
かなり予想外の事態だが、これは楽しくなりそうだ。
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