上 下
17 / 71
3章:「査察へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」

ディスりは心の中で

しおりを挟む
 あまりにもひどすぎる爆発オチから一転。

 誰しもが憧れていた、我らのめくるめくキャッキャウフフな温泉回もなくなり。

 意気消沈でボロボロになりながらも様々な冒険、そして、出会いと別れを経て、かろうじて合流できた我々は、ひとまず近くの村で休息を取ることにした。

 この寂れた村には温泉がないらしいのが残念極まるが贅沢も言ってられぬ。

 あくまで我らは査察に来ているのからな。温泉はまたの機会にしよう。他の温泉地を急いでピックアップだ。ガカイシなどはどうだろうか?

 それにしても、あれだけの爆発に巻き込まれても次の話では、服が破けて髪型がアフロになるだけでピンピンしている辺り、やはり不条理なまでにギャグ次元というわけだ。

 我はこの世界観に断じて異を唱えたい。我がやりたいのは、硬派な本格ファンタジーだ! ……ところで本格ファンタジーとは何ぞや?

「ひどい目にあった」

「結局温泉も入れませんでしたね」

「アタシ、マジ欲求不満なんですけどおおおお」

「もはや素を隠そうともしなくなってきたな、オフィーリア」

 これも打ち解けてきたってことでいいのだろうか?

 一緒に旅している以上仲良くなるのは悪いことではない。だが、我と彼女らはいわば、主人と護衛、メインとサブ、主食とおかずの関係。あんまり仲が良すぎる、というのも考えなくてはいけない気がする。

 我は長い間、仲間というものを得たことがない。魔王となって魔界に君臨してからは、ますます仲間という存在に無頓着になってしまった。

 魔界を統べる魔王となり、配下は多いが、いつ下剋上が起きるかわからぬ微妙な関係性の中で、いつしか他者を信頼するということをすっかり忘れてしまったのかもしれぬな。

 いやいや、別にそれが悪いってわけじゃないもん。い、陰キャではない、用心深いだけだ。

 それに、なんかこやつらの視線から感じるのは友達というよりは、どちらかというと獲物を狙うかのような、艶っぽいギラギラなんだよな。

「というか、なぜか聖剣に認められたんだが?」

 我は右手の聖剣を無造作にふりふり振ってみる。

 完全に錆び付いていたと思われていたボロい剣が、今はなぜか鏡のように我が美しい顔を映せるほどに見事な輝きを放っていて、柄や装飾も黄金と無数の宝石に彩られていた。

 どうやらあのボロいなまくらは選定のための仮初めの姿だったらしい。どいつもこいつも目が節穴すぎる。

 しかしまあ、光なぞと長年食わず嫌いしていたが、こうなってくると色々試してみるのも悪くはないな。もしかしたら克服しているかもしれないし。

「ステラ様の件もあります、もしかしたら、ヘラ様はそういう素質があったのかもしれません」

「光と闇が合わさって最強に見える、か。こんな小ネタを天丼するとは思わなんだ」

 先代魔王である我が光の象徴であるこの聖剣と親和性があるとか、マジ最強すぎる。ステラが生まれたことが完全に伏線になっていたとはな。我ながら天晴れだ。

「わはは、これならあのクソ雑魚女神が来ても簡単に倒せるな!」

「流石です、ヘラ様。親子丼が捗り……いえ、親子で揃って光と闇の属性持ちとは魔界も安泰ですね」

「口の滑り方がえげつないな」

 もうほぼ言っちゃってるぞ、グロリア。こやつらと仲良くなるのはやっぱりマズいのかもしれぬな。夜の警戒は怠らぬように気を付けねば。

 しかし、こんなボロクソになった我らを心暖かく迎えてくれた宿屋の老夫婦には感謝せねばなるまい。気を遣ってか、我が後ろに控えていた護衛ふたりの圧に負けてか、我らを相部屋にしたのだけは解せぬが。

「うむ、たまには安宿のしょーもない飯も悪くないな!」

「あ、それ、本当にダメっすよ、ヘラ様」

「いや、褒めてる、褒めてるって。寒い地でこうやって暖炉を囲みながら食べるジャンクで空腹を満たすだけのハイカロリー飯はやはり美味しいなって」

「謝ってください、ヘラ様、全裸土下座で」

「なんでだよ! 正直すまんかった!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...