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2章:査察へ行きたい

純情、あゝ無情

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「なんだ、このガキは? ガリガリで不味そうだな!」もちろん性的な意味で、だ。

 オークの一体がその戦斧を振り回しながら少年へと迫る。いけ、やったれ、そいつを殺したらおぬしには領地をくれてやろうぞ!

 だが、我の淡い期待はいとも容易く砕け散る。

 この幼き少年には不相応だと思っていた大仰な両手剣が、きらり、一閃と煌めく。

「な、に……?」

 あの巨体が一撃のもとに崩れ落ちる。戦闘経験も少なく、魔法効果もない粗雑な初期装備でオークを倒すことなど、この少年の力だけでは到底不可能だ。ならば、あの剣、もしや本当に聖剣か。

「う、こ、こんなところに勇者だと!?」

 オーク達は相手が本物の勇者だとわかるとすごすごと森の奥へと逃げて行ってしまった。なんと情けない! い、いや、しかし、こやつが真に神の加護を受けた勇者だとすればいくら幼いとはいえオーク達では到底太刀打ちできぬか。いのちだいじにだな。

「良かった、みんな無事か」

「「はい!」」

 さっきまであんなに怯えきっていた人間共が勇者の活躍によって、生気を取り戻したように笑顔になる。

「キミ達も平気か、何もされてないかい」

「ええ。せっかくのお楽しみを邪魔してくれやがって本当にありがとうございます、勇者様」

「……ねえ、なんか不満そうじゃない?」

 珍しくその無表情に怒りが現れているグロリア。一応助けてもらった形になった命の恩人に対してそんなことある? どんだけヤる気だったのよ。

「と、とりあえずキミ達は服を着てくれないか!?」

「いやんッ」

 その恥じらうような悲鳴とは裏腹、少年勇者の初心な反応に嬉しそうなオフィーリアと、その一方で、未練がましくのろのろと服を着ながら依然としてじとりと勇者を睨んでいるグロリア。

「……ッ」

 少年勇者はそんな彼女達の眩いほどの裸体に赤面しながら、それでも俯き目を逸らすことでなんとかその威厳を保とうとする。オフィーリア、その生温かい眼差しはやめてあげて。

「怪我はないかい、あ、えっと」

「我はヘラという、貴様は何者ぞ?」

「き、貴様? あ、え、えっと、僕……じゃない、俺の名前はエラン、灰色が丘村の勇者、エランだ」

 我へと手を伸ばした少年は我が偉大なる口調に戸惑っているようだったが、素直に名前は教えてくれた。

 エランと名乗る少年は、しかし、勇者と名乗るにはまだ幼い。女の裸も見慣れていない、ずいぶんと純朴な少年といった風情。虚勢を張ってはいるがまだまだ垢抜けてはいない。どうやら、まだ村を出たばかりで仲間もいないようだ。

「襲われていた我が護衛らを助けてくれて感謝するぞ、勇者、エランよ」

 我はその小さな手を不承不承取ると、ゆっくりと立ち上がる。こやつら、どこからどうみてもノリノリで服脱いでいたけど、どう考えても不自然なのでそれっぽい状況にしておこう。

「いやいや、俺は勇者として当然のことをしただけだ」

「ぬ、む、くぅ……」

 勇者が無意識に放つキラキラした爽やかなオーラは我の精神にギリッとくる。いや、わかっている、勇者とはこういうギリッとする輩ばかりなのは。し、しかし。

 グロリアがそんな我の方にぽむっと手を置いてうんうんと頷く……けど、え、何? なんだ、その全てを悟りきったような表情は。その憐みの眼差しをやめろ!

 ま、いいさ。ここで我らに出会ってしまったのが、こやつの命運の尽き。

 こやつほどうせ――
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