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起《承》転結

ーー異世界仲直りーー⑤

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「気味が悪いわ、やっぱりキティちゃん、あなた……」

 リイサは蔑んだ眼差しと曲がりくねった大きな杖をわたしに向ける。

 彼らの冒険の旅で一体何があったのか、わたしには絶対に計り知れない。それでも、あの優しかったリイサが癒しの魔法ではなく、明らかに攻撃のための魔法をわたしに向けて放とうとしていることが辛かった。

 かつては仲良くお喋りしていたのにこの明らかな敵意は相当堪える、あまりにも苦しい。

 もう誤解を解くこともできないのだろう。ケヴィン達のパーティの目的は、明確な敵である魔王と、そして、目の前にいる自分達を騙した魔物の少女の討伐だけに向けられている。話し合いの余地もない。

「わたしが何を司っているかまだわからなくて、この世界がどんな物語なのかもわからない。だから、わたしには何が正しくて何が悪いか、そんなこともまだ知らないの」

 わたしは、ちらりと後ろにいるエルルカとおじいちゃんを見る。ふたりとも、不安げにわたしを見守っている。

「でも、アナタ達がわたしの物語の登場人物に剣を向ける、というなら。じゃあ、アナタは敵ね」

 この魔剣を向けてしまえば、もう完璧にわたしは彼らと決別してしまう。彼らと仲間になることはもう叶わない。

 確かにひどい別れ方をしたけれど、それでも、わたしを助けてくれた命の恩人だ、躊躇いがないって言ったら嘘にな……

「オレ達は神様の加護を受けた。伝説の勇者になれと言われたんだ。だから、貴様らなんかに負けるわけにはいかない!」

 あ、わたしの中の何が音を立てて崩れたような気がした。

「来い! お前が

 ケヴィンの勇壮な鬨の声を、漆黒、真横一閃。

 魔剣が世界を切り裂いた。

 真横に切り裂かれた魔王城は、ズズズ……とゆっくりとずれていき、そして、いとも容易く崩れ去り、しかし、そのあまりにも巨大な魔剣に遮られて夜空は見えず。

 ケヴィンご自慢の聖剣は、まるで包丁でさっくり切った野菜みたいに綺麗に真っ二つに。

 軽やかに飛んでいった剣身が未練がましく魔王城の床に金属音を鳴らしながら無様に転がる。その音だけが虚しく響く。

 黄金の柄を情けなく握ったまま立ち尽くすケヴィン達の頭のすぐ真上を、彼らと夜空を分断するように地平の彼方まで虚空が覆う。

「出力調整は今後の課題であるな」

 どこか緊張感のないそんなくぐもった声が、わたしにとっては今は慰めみたいで優しかった。

 わたしの物語で、わたしが誰かを傷つけることはない、……ないはず。それでも、ぎしりと胸が苦しいのはわたし自身の傷なのだろうか。

「……ねえ、あの時はいなくなってしまってごめんなさい、そして、さようなら、ケヴィン。それでも、わたしはアナタ達と出会えて良かったって思っているの」

 超巨大な魔剣を見上げながら、呆然自失、その場にへたり込むケヴィン達。

 そんな彼らにわたしの声が聞こえているかどうかは知らないけど。もしかしたら、ただの独り善がりの自己満足かもしれないけど。

 それでも、わたしはようやく彼らに謝罪することができた。

 だから、ケヴィン達とわたしの物語はもうおしまい。ここから新たにはじまることはもうない。

 なんとなく、もう吹っ切れたと思っていたはずの胸のもやもやがようやく晴れたような気がして。だから、きっとわたしはさっきまで、まだ未練たらしくケヴィン達を想っていたんだ。そんなことにすら、わたし自身が気付かなかっただけ。

 これでようやく、めでたしめでたし。
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