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Prologue
異世界情緒ーーPrologue《Prologue》ーー
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「ねえ、キティさん、私は司書をしているからこんなことを言うけどね、この世界には、誰かのための物語、なんてないと思ってるの。この世界に生きているみんなが、わたしのための物語、を持っていて、その人がきっとその物語の主人公なの。世界には図書館の本みたいにいくつもの物語が溢れてる。私はそういう風に思ってるわ。それに、その方がたくさんの物語を読めるものね」
色々お話する中で、エルルカはそんなことも言っていた。わたしのための物語、を探しているわたしにはいまいちピンと来なかったけど、
「うーん、そっか、わたしの知らないところで世界観が共有されているようなそんな感じなのかしらね」
と、一応納得してみた。だって、確かにわたしがいなくたってこの世界は、わたしの知らないところでしっかりと息づいているんだもん。そう、この物語の主人公が誰か、なんてどうでもよくなってしまうほどに。
「ふふ、ちょっと違うんですけどね」エルルカが小さく苦笑。
あ、ところで、まあ、何だかんだでわたしの呼び方はキティに落ち着いた。ねえ、とっさに絞り出したにしてはいいネーミングセンスだと思わない?
おじいちゃんは相変わらず、嬢ちゃん、って呼ぶけど、それはそれで親しみを込めてくれているらしかったから良しとする。ちょっと子ども扱いっぽいけどね。
「というか、魔王ってこの世界を支配していた怖いヤツなんでしょ? へ、平気なの? 食べられたり殺されたりしない?」
「別に倒しに行こうだなんて思っとらんわい。話を聞くだけだ、」
馬車を手繰りながらでもわたし達の会話はしっかり聞こえていたみたいで、おじいちゃんは背中越しでも聞こえてくるくらい大きくため息を吐き出す。わたし、何かおかしなことでも言っちゃったのかしら。
でも、良かった、この最弱パーティでラスボスに挑むなんてあまりにも無謀すぎる。わたし達はどちらかというと冒険者というよりは村人の方が合っていると思われるもん。
「わしら人間側から見た世界、という側面だけでは文献が足りぬ。人間は短命でしかも忘れやすく、主観的で自分勝手じゃからの」
……自分達ヒト族のことボロクソ言うじゃん。おじいちゃんだって偏屈で頑固で意地っ張りだし、顔もしわくちゃで髪も角みたいになってるし……あ、もしかして、おじいちゃんって……
「キティさん、これ以上はいけないわ。おじいちゃんはゴブリンじゃなくてちゃんとした人間種よ」
「ねえ、エルルカ、わたしそこまでは言ってなくない?」
「安心せい、魔王はその昔に勇者との戦いで大半の力を失っておると聞いておる。魔物が未だに暴れているのもそのせいじゃと言われとるな」
あ、良かった、なんとなく無意識にコソコソ小声で会話しているせいか、おじいちゃんの耳にわたし達の声は届いていないみたいだった。い、いやいや、わたしは何も言ってないもん!
「今はもう冒険者にすらも相手にされない忘れられた過去の遺失物じゃ」
なんだかそれはそれで寂しいな。どうせなら、胸躍るような大冒険を繰り広げるのも悪くないと思ったのに。ま、わたし達は戦闘描写すら必要ないほどのクソ雑魚パーティなんですけどね。
「わしは人間側の全てを調べ尽くしてしまったがな、“始源拾弐機関”という物語群は結局ただのおとぎ話の域を出ないんじゃよ」
なんかさらっとすごいこと言ってない? それってつまり、あの図書館に収められている本達を全部読んでしまった……ってコト!? 「ま、それが面白いんじゃがな」
「というか、そんなピクニック気分で気軽に行けるようなところなの?」
「いや、わしらだけじゃ無理じゃな」
「ベテランの冒険者がようやくたどり着くような場所なのよ、魔界、って」
「知り合いのドラゴン使いに頼む」
「まあ、おじいちゃんにそんなすごい知り合いなんていたの?」
「60年も会うておらんがまあ大丈夫じゃろ、」
馬車のペースは依然としてゆっくりで。わたし達の旅はまだまだはじまったばかり、物語はというとほとんど進んでいない。
そう、今はまだプロローグ。
それでも、わたしはいいと思うんだ、不穏なタイトルも、息詰まるような急展開も、危険な冒険も、考えさせられるようなメリーバッドエンドもない、そんな物語でも。
「ふむ、そやつの名前は、」
ーーhe lay down under the tree to have a breakーー
色々お話する中で、エルルカはそんなことも言っていた。わたしのための物語、を探しているわたしにはいまいちピンと来なかったけど、
「うーん、そっか、わたしの知らないところで世界観が共有されているようなそんな感じなのかしらね」
と、一応納得してみた。だって、確かにわたしがいなくたってこの世界は、わたしの知らないところでしっかりと息づいているんだもん。そう、この物語の主人公が誰か、なんてどうでもよくなってしまうほどに。
「ふふ、ちょっと違うんですけどね」エルルカが小さく苦笑。
あ、ところで、まあ、何だかんだでわたしの呼び方はキティに落ち着いた。ねえ、とっさに絞り出したにしてはいいネーミングセンスだと思わない?
おじいちゃんは相変わらず、嬢ちゃん、って呼ぶけど、それはそれで親しみを込めてくれているらしかったから良しとする。ちょっと子ども扱いっぽいけどね。
「というか、魔王ってこの世界を支配していた怖いヤツなんでしょ? へ、平気なの? 食べられたり殺されたりしない?」
「別に倒しに行こうだなんて思っとらんわい。話を聞くだけだ、」
馬車を手繰りながらでもわたし達の会話はしっかり聞こえていたみたいで、おじいちゃんは背中越しでも聞こえてくるくらい大きくため息を吐き出す。わたし、何かおかしなことでも言っちゃったのかしら。
でも、良かった、この最弱パーティでラスボスに挑むなんてあまりにも無謀すぎる。わたし達はどちらかというと冒険者というよりは村人の方が合っていると思われるもん。
「わしら人間側から見た世界、という側面だけでは文献が足りぬ。人間は短命でしかも忘れやすく、主観的で自分勝手じゃからの」
……自分達ヒト族のことボロクソ言うじゃん。おじいちゃんだって偏屈で頑固で意地っ張りだし、顔もしわくちゃで髪も角みたいになってるし……あ、もしかして、おじいちゃんって……
「キティさん、これ以上はいけないわ。おじいちゃんはゴブリンじゃなくてちゃんとした人間種よ」
「ねえ、エルルカ、わたしそこまでは言ってなくない?」
「安心せい、魔王はその昔に勇者との戦いで大半の力を失っておると聞いておる。魔物が未だに暴れているのもそのせいじゃと言われとるな」
あ、良かった、なんとなく無意識にコソコソ小声で会話しているせいか、おじいちゃんの耳にわたし達の声は届いていないみたいだった。い、いやいや、わたしは何も言ってないもん!
「今はもう冒険者にすらも相手にされない忘れられた過去の遺失物じゃ」
なんだかそれはそれで寂しいな。どうせなら、胸躍るような大冒険を繰り広げるのも悪くないと思ったのに。ま、わたし達は戦闘描写すら必要ないほどのクソ雑魚パーティなんですけどね。
「わしは人間側の全てを調べ尽くしてしまったがな、“始源拾弐機関”という物語群は結局ただのおとぎ話の域を出ないんじゃよ」
なんかさらっとすごいこと言ってない? それってつまり、あの図書館に収められている本達を全部読んでしまった……ってコト!? 「ま、それが面白いんじゃがな」
「というか、そんなピクニック気分で気軽に行けるようなところなの?」
「いや、わしらだけじゃ無理じゃな」
「ベテランの冒険者がようやくたどり着くような場所なのよ、魔界、って」
「知り合いのドラゴン使いに頼む」
「まあ、おじいちゃんにそんなすごい知り合いなんていたの?」
「60年も会うておらんがまあ大丈夫じゃろ、」
馬車のペースは依然としてゆっくりで。わたし達の旅はまだまだはじまったばかり、物語はというとほとんど進んでいない。
そう、今はまだプロローグ。
それでも、わたしはいいと思うんだ、不穏なタイトルも、息詰まるような急展開も、危険な冒険も、考えさせられるようなメリーバッドエンドもない、そんな物語でも。
「ふむ、そやつの名前は、」
ーーhe lay down under the tree to have a breakーー
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