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Prologue
異世界情緒ーー⑤
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良くわからないまま、それでもこの埃っぽい部屋だけはお掃除しなきゃダメだ、という謎の使命感に駆られて、エルルカをお手伝い。
「……ふう、定期的に掃除に来ないとダメね」
「わしはそんなこと頼んじゃおらぬ」
そして、長年に渡り蓄えられた埃は全て拭き払われて、本棚に全く収まる気配のない大量の蔵書達は、必要な物以外は(おじいちゃんは「全部必要じゃ!」って抗議してたけど)、しつこく部屋の外に残っていたエルルカ親衛隊に頼んで図書館へと持って行ってもらった。
ピカピカの部屋は気分がいい! そして、意外と広くて立派だったのね、この部屋!
一仕事やり終えた達成感でいっぱいのわたしとエルルカは、ついつい紅茶なんか淹れちゃって、あははうふふと和やかに談笑し……
「……それで、用があるのはそっちの嬢ちゃんじゃろ? こんなところまでエルルカの掃除の手伝いに来たわけじゃなかろうに」
「はっ!」そうだった!
半ば諦めのような大きなため息を吐き出すおじいちゃん。部屋を勝手に掃除され、大事な本を持っていかれたことに納得していないのか、おじいちゃんはこの部屋の一番奥にある自分の椅子にちんまり腰かけて、どうやら読みかけだったらしい分厚い本に目を通し始めた。その椅子、わたしが本の山の中から発見したのよ?
「ねえ、おじい……ワインドワークさん、わたし、“始源拾弐機関”というお話を知りたいの、わたしはきっとこの物語を探さないといけないの」
「ほほう、まだちびっこのくせに“始源拾弐機関”に興味を持つとは感心だの」
不機嫌なしかめ面は相変わらず。それでも、とりあえずわたしの話は聞いてくれるみたいで、今まで少しも目を合わせてくれなかったのに、ちらりとだけどわたしの方を見てくれた。
「……それで、どこまで知りたいんじゃ? おとぎ話なら図書館でも十分じゃろ」
「その在処を、その名前を、その意味を。わたしはそれらに会ってお話を聞きたいの」
すると、わたしの声がようやく届いたのか、おじいちゃんはようやく顔を上げる。
そもそもお話ができるような存在なのかわからない、今も存在しているかどうかもわからない。何もわからないことだらけで、それがホントにわたしにとって大切なものなのかすらもわからないんだ。
「わしも知っていることは少ない。若いときに少し調査しただけじゃ。忘れ去られた神話と現実世界を突き合わせるのは途方もない作業なんじゃよ、」
おじいちゃんは、ぱたりと読みかけの本を閉じてしまった。興味はすっかり、その本からわたしに移ったみたいだ。
「ま、暇潰しにはもってこいだがね」
おじいちゃんはニヤリと笑う。
「唯一わかっとるのは、“始源拾弐機関”という存在は、わしら人間を含めたほとんどの種族の歴史にまるで介入していない、ということだけじゃな」
「どういうこと?」
「たとえばじゃ、【天変界位】という物語は、天地をひっくり返して大きな街を破壊してしまった巨人がいたという言い伝えじゃが、その巨人を探そうにも、その街がどこにあったのか定かではないのじゃ。どこの国の歴史書を辿ってみても、どこにも街が壊れたなどという記述は見つからぬ」
ケヴィンも【天変界位】という物語のことを話していた。この物語は“始源拾弐機関”の中ではわりとポピュラーなのかな。確かケヴィンが言っていたのはもっと壮大で、世界を変えてしまう、なんて言っていた気がするけど。
「もしかしたら、それはただの誇張なのかもしれぬし、【天変界位】なぞおらず、大昔に起きたただの大災害を擬人化したのかもしれん。これは今となっては誰にもわからぬのじゃ」
あ、そうか、元のお話が自分たちを襲った大災害だとするなら、その恐怖の伝承は人々の間でずっと語り継がれる。それが人から人へ伝え聞くうちに、いつの間にか大災害の物語から巨人の話へ、そして、世界を変えてしまう、なんて突拍子もない話になってしまうこともあるんだろうな。
それなら、やっぱり“始源拾弐機関”というのは、そうやって形作られたおとぎ話でしかないのかしら。わたしの名前は“始源拾弐機関”に似ているってだけで、それに意味なんてないのかしら。
「今を生きるわしらができるのは、忘れられた歴史の残された小さな断片を片っ端から集めて繋ぎ合わせることだけなのじゃ」
しかも、それは、そこにぴったりと当て嵌まる、という確かな確証を持っていなきゃいけない。適当なロジックや後出しの叙述トリックは読者を混乱させるし物語をつまらなくさせてしまう。だからこそ、“始源拾弐機関”という神話の完全な復元は難しいのだろう。
「……ふう、定期的に掃除に来ないとダメね」
「わしはそんなこと頼んじゃおらぬ」
そして、長年に渡り蓄えられた埃は全て拭き払われて、本棚に全く収まる気配のない大量の蔵書達は、必要な物以外は(おじいちゃんは「全部必要じゃ!」って抗議してたけど)、しつこく部屋の外に残っていたエルルカ親衛隊に頼んで図書館へと持って行ってもらった。
ピカピカの部屋は気分がいい! そして、意外と広くて立派だったのね、この部屋!
一仕事やり終えた達成感でいっぱいのわたしとエルルカは、ついつい紅茶なんか淹れちゃって、あははうふふと和やかに談笑し……
「……それで、用があるのはそっちの嬢ちゃんじゃろ? こんなところまでエルルカの掃除の手伝いに来たわけじゃなかろうに」
「はっ!」そうだった!
半ば諦めのような大きなため息を吐き出すおじいちゃん。部屋を勝手に掃除され、大事な本を持っていかれたことに納得していないのか、おじいちゃんはこの部屋の一番奥にある自分の椅子にちんまり腰かけて、どうやら読みかけだったらしい分厚い本に目を通し始めた。その椅子、わたしが本の山の中から発見したのよ?
「ねえ、おじい……ワインドワークさん、わたし、“始源拾弐機関”というお話を知りたいの、わたしはきっとこの物語を探さないといけないの」
「ほほう、まだちびっこのくせに“始源拾弐機関”に興味を持つとは感心だの」
不機嫌なしかめ面は相変わらず。それでも、とりあえずわたしの話は聞いてくれるみたいで、今まで少しも目を合わせてくれなかったのに、ちらりとだけどわたしの方を見てくれた。
「……それで、どこまで知りたいんじゃ? おとぎ話なら図書館でも十分じゃろ」
「その在処を、その名前を、その意味を。わたしはそれらに会ってお話を聞きたいの」
すると、わたしの声がようやく届いたのか、おじいちゃんはようやく顔を上げる。
そもそもお話ができるような存在なのかわからない、今も存在しているかどうかもわからない。何もわからないことだらけで、それがホントにわたしにとって大切なものなのかすらもわからないんだ。
「わしも知っていることは少ない。若いときに少し調査しただけじゃ。忘れ去られた神話と現実世界を突き合わせるのは途方もない作業なんじゃよ、」
おじいちゃんは、ぱたりと読みかけの本を閉じてしまった。興味はすっかり、その本からわたしに移ったみたいだ。
「ま、暇潰しにはもってこいだがね」
おじいちゃんはニヤリと笑う。
「唯一わかっとるのは、“始源拾弐機関”という存在は、わしら人間を含めたほとんどの種族の歴史にまるで介入していない、ということだけじゃな」
「どういうこと?」
「たとえばじゃ、【天変界位】という物語は、天地をひっくり返して大きな街を破壊してしまった巨人がいたという言い伝えじゃが、その巨人を探そうにも、その街がどこにあったのか定かではないのじゃ。どこの国の歴史書を辿ってみても、どこにも街が壊れたなどという記述は見つからぬ」
ケヴィンも【天変界位】という物語のことを話していた。この物語は“始源拾弐機関”の中ではわりとポピュラーなのかな。確かケヴィンが言っていたのはもっと壮大で、世界を変えてしまう、なんて言っていた気がするけど。
「もしかしたら、それはただの誇張なのかもしれぬし、【天変界位】なぞおらず、大昔に起きたただの大災害を擬人化したのかもしれん。これは今となっては誰にもわからぬのじゃ」
あ、そうか、元のお話が自分たちを襲った大災害だとするなら、その恐怖の伝承は人々の間でずっと語り継がれる。それが人から人へ伝え聞くうちに、いつの間にか大災害の物語から巨人の話へ、そして、世界を変えてしまう、なんて突拍子もない話になってしまうこともあるんだろうな。
それなら、やっぱり“始源拾弐機関”というのは、そうやって形作られたおとぎ話でしかないのかしら。わたしの名前は“始源拾弐機関”に似ているってだけで、それに意味なんてないのかしら。
「今を生きるわしらができるのは、忘れられた歴史の残された小さな断片を片っ端から集めて繋ぎ合わせることだけなのじゃ」
しかも、それは、そこにぴったりと当て嵌まる、という確かな確証を持っていなきゃいけない。適当なロジックや後出しの叙述トリックは読者を混乱させるし物語をつまらなくさせてしまう。だからこそ、“始源拾弐機関”という神話の完全な復元は難しいのだろう。
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